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公開:2018-04/02
更新:2022-08/20 タイトル変更、一部加筆・修正
関連:スピーキング - アクティブ語彙 - 「聞く」時間を増やす
英会話の上達には、スピーキングとリスニングの両方が大事なのは間違いないです。
ですが、5年で2081回(約867時間)以上、オンライン英会話をやってきた結果、「英語を流暢に”話せる”ようになりたい」のであれば、リスニングに多めに時間を割いたほうがいいと考えるようになってきました。
この記事では、リスニングを重視したほうがいい理由を、自分の経験と第二言語習得や英語講師の方々の本から学んだことを踏まえて、まとめてみました。
リスニング重視がお勧めな4つの理由
【理由1】インプット量でアウトプットが決まる
もともとのインプット量が少なければ、アウトプットできる量はそれよりもはるかに少なくなる。(和泉, 2009)
という調査があるのですが、これは感覚的にも何となく分かると思うんです。Your input determines your output.
実際、「英語「超」上級者は例外なく多読していた件」でもお伝えしたように、英語上級者の方々は、数千万語の多聴多読をされています。
ちなみに、2000万語だと仮定して、すべてをTOEICの公開テストであえて賄うとすると、TOEICのテスト1回分は1万語弱なので、2000回以上受ける必要があります(笑)
そもそも、なぜインプットが重要なのか?
第二言語習得研究の結果わかってきた重要なことは、外国語のメッセージを理解する、すなわちインプットが、言語習得をすすめる上での必須条件だということです。
……インプットによって第二言語の音声、語彙、文法の自然な習得がすすむのです。(P.134~135)
十分なインプットなしにアウトプットばかりに重点を置いても言語習得はすすまない(P.150)
これは自分の経験でも感じています。僕はTOEIC 900点を取ってから英会話メインの学習にスイッチしました。
ご存知のように、TOEIC L&Rはリスニングとリーディングの試験です。つまり、インプット中心なんですね。
僕が2012年にオンライン英会話を開始した頃、挫折せずに続けられた理由の1つは、このTOEICによるインプットがあったからというのは大きいなと。
英会話ではまず、相手の英語を聞き取れないといけないですよね。
ですが、リスニング力が低いと、充実した会話、深いトピックで話すことができないんです。聞き取れないし、言えないんです。また、正確に聞き取れないと、トンチンカンな返答をしてしまいます。僕は今でもあります(笑)
簡単な会話はブロークンイングリッシュでも可能ですが、深い話やディスカッションを充実させたいのであれば、まずリスニング力を上げる必要があると痛感しています。
【参考】オンライン英会話を1000回受けたので効果と注意点をまとめてみた
【理由2】いきなり「話す」重視は危険かも
……学習者の外国語能力がまだ不十分なうちに無理に話をさせると、結局学習者は母語(日本語)に頼って、その母語の文法に適当に第二言語の語彙をくっつけて、変な外国語をしゃべる、という危険性があります。
それをどんどん続けていくと、それが固まってしまうということがある。
外国語の知識があまりないうちから、積極的に話すと、変な外国語が身についてしまう可能性があるのです。
……もちろん、ブロークンでも話せないよりは話せたほうがいいので、このことを心配して話す練習をやめる必要はないですが、インプット(聞くこと、読むこと)とアウトプット(話すこと、書くこと)のバランスを考える必要があります。(P. 16~17)
第二言語を学ぶと、必ず母語(われわれにとっては日本語)の影響を受けます。これは「言語転移」と呼ばれます。
言語転移は避けて通れないので、大人になってから英語を学んだ場合、最初は変な英語をしゃべるのは仕方ないと思っておくといいです。
なので、いたずらに怖れる必要はないです。
ただ、より正確で自然な英語を話せるようになるためには、正確で自然な英語を大量にインプットする必要があります。
これについては次へ。
【理由3】大量に聞くからこそ話せる
上述した白井恭弘教授は別の著書でもリスニングの重要性を説いておられます。
「第二言語習得(SLA)」の分野では、聞くこと(インプット)が不可欠である、ということに異論をはさむ研究者はいません。
子供の母語の習得でも、まず、聞くことから始まります。そしてしばらく聞くことによって頭の中に言語の知識を蓄積していって、徐々に話すようになるのが普通です。
子供は、話し始める前から、すでにたくさんの言語知識がある、ということもわかっています。……聞くことによって、話すために必要な言語知識が身につく、ということです。(P. 18~19)
教育学博士の青谷正妥教授が紹介されていた研究によると、「英語圏の幼児は5歳児になるころまでに母語を聞く時間数は17,520時間(Morley, 1991)」だそうです。
つまり、5歳児は4技能の中でリスニングに一番時間を費やしていると考えられます。
ジャパンタイムズの元編集長で、NHKの「ニュースで英会話」の講師もされていた伊藤サムさんも、著書でリスニングの重要性について語っておられました。
やさしいレベルのままで大量に聞くという経験をしたことがあるかないかが、英語力を左右すると私は考えています。(P. 135)
英語ネイティブの幼児も同じで、やさしいことを大量に聞いて、音と概念を結び付け、この理解の蓄積がベースになって「英語で考える」ことができるようになります。(P. 136)
僕がリスニングが超苦手だった頃は、英語を聞く時間は実質毎日30分くらいでした。ですが、上述した「リスニング3000時間の感想」を読んでから、毎日1時間「聴く」ようにしています。
その頃から、リスニング力が大幅に上がってきて、 2017年に入ってからTOEICでもリスニングパートは満点が取れるようになってきました。
続いて、英検界の重鎮、植田一三先生のお言葉。
できるだけ生の英語にチャレンジし、1日に最低1~2時間はリスニングする必要があります。
……英語圏へ行けば、1日に最低6時間ぐらいは英語を聞くのに対して、日本で英語を勉強している人はリスニングの絶対量が少な過ぎるのです。……どんなに少なくても1日に1時間は生の英語を聞くように心がけましょう。(P.129)
植田一三先生のこのアドバイスに従って、2018年から北米ネイティブ2人による生の会話のポッドキャスト「Speak UP Radio」を毎日1エピソード聞くようにしています。
また、半年くらい悩んだのですが、2017年の秋に伊藤サムさんの次のアドバイスを読んで、英検1級の勉強を先送りすることにしました。
学生時代に単語暗記や、英語についてのうんちく本を読んだりして、高度な単語や新語を知っている人は多いものです。すると、当然、上級教材を選んで勉強します。
この結果、難解な語句(の訳語)は多数知っているのに、やさしいことをすらすら言うことはできないバラバラ英語状態になりやすくなります。(P. 22)
…上級教材に出てくる単語は使用頻度が落ちますから、せっかく覚えても使う機会がなかなかありません。また訳さないと理解ができず、表面的な理解しかできません。教材においては大は小を兼ねません。自分のメンツと戦ってレベルをいったん落とすことをおすすめします。(P.23)
英検1級を取れば箔が付きますし、具体的な目標を作りにくい英会話重視型の勉強と違い、英検は「合格」という明確で具体的な目標を作れるので、英会話よりも先に英検1級をめざすのもアリだと思います。
ただ、僕は早急に英検1級が欲しいわけではないなと気づいてきたんですよね。
そんなわけで、生の会話が多く、比較的易しい語彙で構成されている「NHK WORLD TV」を毎日視聴しています。
Speak UP RadioやNHK WORLDは、初級者の方には厳しいと思いますが、TOEIC 900点&英検準1級がそろうと、そこそこ聞き取れるようになってきます。洋画やドラマよりもやさしいので、中級者の多聴に最適です。
【参考】「NHK WORLD TV」が中級者の多聴に最適な5つの理由
【理由4】リスニングは残りの3技能に転移する
僕が最初に、リスニングの重要性について教わったのは、多聴多読学習者のyukoさんのブログ記事「リスニング3000時間の感想」です。また、yukoさんがリスニングで1655時間に到達したときに、次のような記事を残されていました。
今までオーディオブックやEnglish Journalなどのキレイな英語を聞いてきたので、ドラマのカジュアルな会話についていき難いことがあります。
ただ、今までドラマではなくオーディオブックを中心にしていて良かったなと思えるのは、自分が話す時に説明的文章が良く話せること。ドラマだと一言一言が短いのですがオーディオブックだと説明的なので、その影響で一言会話ではなく、自分が話したいことを詳しく説明できるようになったと感じています。
【出展】リスニング2000時間へ
その後、第二言語習得という「学習者が母語の次に言語を学ぶ過程を科学的に解明する学問(Wikipedia)」を知り、いろんな本を読んできたことで、リスニングはより重要だと思うようになってきました。
(カリフォルニア・サンノゼ州立大学、1960年代)当時のスペイン語学習に関する例をあげれば、授業の70パーセントは聞く活動、20パーセントは話す活動、読み書きは10%にすぎなかったにもかかわらず、聞く、読む能力は口頭練習を中心としてオーディオリンガル教授法で学習した学生の三倍のスピードで習得され、話す力、書く力も劣らない、という結果が出ています。
つまり、リスニング能力が他の三技能(話す、読む、書く)にも転移する、ということが示されたわけです。(P. 97)
アメリカ国防総省外国語学校では、バレリアン・ポストフスキーがロシア語学習の実験を行い、インプットが他の技能に転移することを示しています。
……話すことを遅らせ聴解(リスニング)優先の学習をしたグループが、最初から話す練習をしていたグループに総合力で勝り、話す能力もより優れていたのです。(P.98)
僕が「NHK WORLD TV」を視聴するを日課にしている理由の1つは、映像と英語音声を結びつけるためなんです。
「なぜ2歳児は過去形が使えるのか?英語学習は「視覚」が大事」でもお伝えしたように、映像と音声を結びつけることで、英会話でその状況になったときに、英語が出てきやすくなるんですね。
上述したように、オンライン英会話を2000回以上受けてきたのですが、「オンライン英会話のレッスン"だけ"をひたすら受ける」というのは思ったほど効果は高くないと感じています。
もちろん、カランメソッドのように、受けるだけでスピーキングを伸ばせるレッスンもありますが、フリートークや記事レッスンで受け身的にやってるだけだと、スピーキング力は伸びにくいというのが実感です。
5年間やってきた中で、オンライン英会話しかやっていなかった時期は伸び悩みました。何度かその苦渋を味わってます(笑)
結局、【 瞬間英作文 】や【 暗唱 】や【 シャドウイング 】を個人練習だとすると、オンライン英会話は「練習試合」みたいなものです。
テニスをされている方はよくご存知だと思いますが、ストロークやサーブやボレーなどの個々の練習をせずに、ゲーム(練習試合)ばっかりやっても、あんまり上達しないですよね。
オンライン英会話はこれと似てるなと。
というわけで、基本的にオンライン英会話はアウトプットの場と考えたほうがいいです。
リスニング重視の他のメリット
ここからは、科学的根拠があるわけではないけど、個人的に感じている「リスニング重視」の他のメリットについて書いて置きたいと思います。
インプット時間が増える
リスニングで多聴できるレベルになると、(1) 通勤通学などの移動中・散歩中
(2) 料理中・洗濯物干し中
などの本が開けない状況でも、音声でインプットができるようになります。
以前は、「料理をする時間は勉強時間が減る、モッタイナイ」と考えていて、ごく簡単なものしか作らなかったのですが、健康なものを食べようと思うと自分の自炊スキルを上げないといけないなと。
そこで、ラジカセ(死語)のライン入力を利用して「Hololive EN」などを流しながら料理をするようになりました。
僕は1日2食ですが、料理する時間ってバカにならないんですよね。なので料理する時間に英語が聞けるとインプット量がけっこう増えるなと。
また、「切る」「皮を剥く」などの慣れた作業に関しては手続き記憶でできる(頭を使わなくても体が自動的に動く)ので、歩きながらよりも聞き取りやすい≒多聴がやりやすいことに気づきました。
リーディング重視のデメリット
読むことも、他の3技能への効果があります。
また、ネイティブレベルの語彙力2万語に到達するためには、遅かれ早かれ「多読」は必須になると考えています。
ですが、英語学習初期にリーディングに多めに時間を割くと、3つのデメリットがあると考えています。
(1)リーディングでは、発音と音変化のストックは増えないので、自分の我流の発音が脳内でも再生されることになります。
さらに、(2)リーディングは得意だけどリスニングが苦手な人によくあるパターン「読めば理解できるけど聞き取れない」という問題が残ります。
(3)2017年の秋から、英語ニュース&読み物サイトで毎日3000語以上読むのを日課にし、1年かけて100万語読みました。
ですが、リーディングは基本的に文章体で、日常会話では使えない単語も多いので、多読はいったんストップすることにしました。
これら3つの詳しい内容は次の記事で説明しています。
【関連】英会話重視ならリーディングは減らしたほうがいいかもしれない説
というわけで、会話力を伸ばしたい方はリスニングに時間を多めに割り振ったほうがいいと考えています。
リスニング重視の注意点とコツ
英語初心者🔰は「精聴」メインで
「大量のインプット」と聞くと、多聴多読をイメージしますが、初心者の方が多聴多読をメインにしても効果は薄いと考えられます。僕が初心者の頃、アメリカやイギリスのドラマを数百エピソードは視聴しましたが、リスニング力は驚くほど伸びなかったんですよね(笑)。
第二言語習得的には「リスニングは7~9割分かるものをやらないと効果は薄い」と考えられていますが、自分の失敗の経験からも間違いないなと。
しかも、初心者が多聴で7~9割も聞き取れるマテリアルってほとんどないと思うんですよ。せいぜい幼児向けのものぐらいかと。
「多聴多読を100万語やったので注意点をまとめてみた」でもお伝えしたように、多聴多読の効果は英語力に比例します。
なので、初心者の方はディクテーションで聞き取れない原因を解明し、シャドウイングとリピーティングで聞き取れない音を減らして反復練習して定着させていったほうが時間対効果は高いと考えています。
スピーキングはTOEIC 900点後でもいい
TOEICはよく「900点持ってても話せないと意味ない」みたいなツッコミがありますが、仕事でスピーキングが必要とかでない限りは、全然問題ないと考えています。英語圏の子供はいきなりスピーキングをやらないですよね。まず英語を聞くことから入ります。そして上述したように、5歳になる頃には、17,520時間聞いているわけです。
そして、900点を取ろうと思うと、だいたい2000~3000時間くらいかかります。
だったら、900点超えてから(=2000~3000時間インプットしてから)、英会話にスイッチしても全然問題ないのではないかと思うようになってきました。
【関連】オンライン英会話はTOEICに効果があるか?
【関連】TOEICに特化して取った900点は「初級」だった件
スピーキングを急ぐ人は「シャドウイング&暗唱」
とはいえ、「早急に話せるようになりたい」という方もおられると思います。
そういう方は、会話系の素材でシャドウイングと暗唱をやることをお勧めします。
【参考】シャドウイングとオーバーラッピングの違い、効果的な学習方法と注意点
【参考】TOEIC Part 3・4が聞き取れない→「暗唱」で道は開ける!
おすすめしたいのは、例文の暗記です。
よく使う表現を暗記して、それをすぐに言えるようにしておく。これによって、使える言語項目、表現のベースが広がります。
その際に、単文を覚えるよりは、「対話形式のもの」を覚えるとよいでしょう。単文で覚えてしまうと、まとまった会話を作っていく能力や、相手と対話する能力にはあまり貢献しないからです。(p. 122)
他の記事でもお伝えしてきましたが、シャドウイングをやると、聞き取れる「音」が増えます。
その素材で暗唱もやることで、リスニング時の「意味」をつかむ力が向上し、なおかつスピーキングも伸ばすことができるからです。
音声通りにスラスラ言えるまでトレーニングする
→ 自分で正確に再現できる発音・音の変化のデータベースが増える
→ 聞き取れる「音」の割合が増える
【 暗唱 】
暗唱したセットが増える
→ 会話でよくある展開パターンを覚えてくる
→ 聞き取った音から意味がつかめる&会話の展開を予測できるようになる
TOEICや英検をやっていて、リスニング力と同時にスピーキング力も伸ばしたい人は、TOEICのPart 3と英検のPart 1は、比較的カジュアルな会話がなされるのでお勧めです。
また、【 オンライン英会話 】をされている方は、解説が丁寧な「NHK英語講座」のダイアローグ(会話)系のものを選ぶといいです。
解説よりもコスパ重視の方は「英単語・熟語ダイアローグ」がお勧めです。
1冊にCDが3枚ついているのですが、170本もの会話が入っていてコスパがいいのと、ディスカッションや雑談がメインなので、オンライン英会話のフリートークや記事レッスンに近いと感じています。
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