英検1級取得を先送りすることにした5つの理由

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対象:英検1級を取るか悩んでいる/英会話を重視している
推奨:英検準1級以上
読了:約11分(6868字)
公開:2022-08/27
更新:2022-07/28 部分的に加筆・修正

2015年に英検の勉強を始める前、「英検1級を持っている人は上級者」だと思っていました。

当時の僕のツイッターのまわりでは、「TOEIC 900点→英検1級」みたいなレールがあり、900点を超えた人の多くは1級をめざしていたイメージがありました。

なので、僕もTOEIC 900点を取った後、英会話に慣れてから、準1級の勉強を始めました。

お陰様で2016年に準1級に合格できたので、2017年の春頃から1級の勉強を開始しました。

ですが、1級の勉強をしている間、僕はずっと違和感を感じていたんですよね。

悩んだ末、2017年の秋に1級の受験を保留することにしました。この記事では、その理由についてお話ししたいと思います。
 

英検1級取得を保留した5つの理由

【理由1】1級 ≠ 英語ペラペラ

以前、英検1級の勉強会に参加したことがあるのですが、僕以外全員、普段から英会話をされていなかったんですね。

基本的に会話をするのを日課にしている自分はなんか浮いている感じがしました。

また、1級に合格した"ばかり"の方々に話を聞いてまわったのですが、「英語はまだ満足に話せない」という方が意外と多かったんです。

当時、オンライン英会話で長年受けていた「EnglishTalk」のとある先生が次のように仰ってました。


英検1級を持っている生徒が6人いるけど、1人を除いてみんなあまり話せないのよね。唯一話せるその人はアメリカ在住で普段から英語を話す機会があるのよ。


結局、本当のスピーキングを身につけるためには、英検1級を取るかどうかよりも、普段から英語を話す機会を作っているかどうかのほうが重要だと思うようになりました。


● 十分に話せない1級ホルダーが生まれる理由

準1級もそうなのですが、1級においても、二次試験にスピーキングはあるものの、英会話をやらなくても受かるんですよね。

準1級同様、「英会話をやらなくても、トピック別に想定問答集を作って丸暗記すれば合格する」的なノウハウをよく見聞きしました。

実際、合格することを最優先に考えた場合、会話をするよりも時間対効果はそっちのほうが高いと思います。

結果、英語を十分話せない1級ホルダーが生まれてしまうわけです。

これは英語を十分話せない1級ホルダーが悪いのではなく、試験対策だけでも受かってしまうスピーキング試験のシステムの問題です。

また、この問題は英検だけではなく、「TOEFL高得点でもあまり話せない」という話も聞くので、スピーキング試験自体、鵜呑みにしないほうがいいと思うようになってきました。


人それぞれ目標や状況は違いますし、「会話をせずに英検1級合格を最短距離でめざす」という戦略もアリだと思います。

ですが、僕の場合、英語が満足に話せないまま、1級に合格しても素直に喜べそうにないなと。

というのも、2012年にTOEIC 900点を取ったとき、当時はあまり話せなかったのに、めちゃくちゃ英語ができる人みたいにすごくチヤホヤされてなんか居心地悪かったんです。

今のスピーキングレベルのままで英検1級を取ったら、周囲の評価と自分の会話力とのギャップにまた悩むことになるだろうなと。


【理由2】1級 ≠ ネイティブの英語が聞き取れる

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以前は「英検1級=上級者」だと思っていました。

ですが実際、1級に合格しても「洋画やドラマを字幕なしで観られるレベル」「ネイティブの英語を十分聞き取れるレベル」には到達しないんですよね。

リスニングパートに出てくる語彙やイディオムなんかは悪くないと思うんです。

問題はスピードなんですよね。

実際にネイティブが話すスピードと比べると遅すぎるなと。時間のある方は、英検の公式サイトの1級のリスニングを聞いてみて下さい。

英検1級の過去問集の最初のほうのページには次のように書いてあります。


1級では、「広く社会生活で求められる英語を十分理解し、また使用できる」ことが求められます。……目安としては「大学上級程度」です。


英検1級に合格すると「大学上級」レベルになるということは、少なくとも英語圏の大学生とも十分会話できないとおかしいですよね。

次の動画では大学生がクイズで競い合っていますが、英検1級が本当に大学上級レベルなのであれば、彼らの英語を十分聞き取ってやりとりできることになるはずです。




社会問題系のディスカッションであれば、1級のライティングや二次試験でやるのでまだ何とかなるかもしれないですが、カジュアルな会話は普段からネイティブと会話をしていないと厳しいと思うんですよね。

1級を持っている方々にお話を伺っていると、やはり1級を取っても「洋画やドラマを字幕なしで観られるレベル」に到達するわけではないなと感じます。

自分の周りで到達されていると感じたのは、多聴多読学習者のYukoさんくらいでした。


リスニング4000時間経過の感想、その2。英語学習の目標の1つ、映画や海外ドラマを字幕なしで観ること。達成した、というと恐れ多いものの、字幕なしで観ることのできる映画がかなり増えてきた印象。

【出典】リスニング4000時間雑感:映画を字幕なしで


でも、Yukoさんは英検1級を取ったからではなく、多聴多読を続けてきた結果、このレベルに到達されたわけです。

この頃から、僕の考えは変わり始めたんだと思います。

特に2017年にMeetupに参加したときに、ネイティブのグループ会話についていけず撃沈してから、ネイティブの速い英語を聞き取れるように試行錯誤してきました。

2022年現在、「洋画やドラマを字幕なしで観る」「ネイティブのグループ会話についていく」のはまだまだ厳しいものの、ネイティブと1対1で会話するのは少しずつできるようになってきつつあります。

自分がやってきたことは次の記事に書いてあるので興味のある方はぜひ。

【関連】オンライン英会話3000回に到達したので効果と現在の課題をまとめてみた


【理由3】ネイティブですら難しい試験

「英検1級の語彙は不要」みたいな意見があったりますが、個人的には、準ネイティブレベルをめざすのであれば、1級レベルの語彙は通過点だと考えています。

語学教育の専門家Paul Nation博士が紹介されていた研究。


十分に教育を受けたネイティブスピーカーはおよそ2万の語族(固有名詞と明らかな派生形を除く)を知っていると推定される。

最近行われた未発表の研究では、英語を媒介として高度な学位取得を目指す高学歴のノンネイティブの語彙サイズを測定したところ、彼らの受容英語の語彙サイズは約8千から9千語族であることがわかった。

【出典】How Large a Vocabulary Is Needed For Reading and Listening?(PDF)


英検1級2022年第1回の語彙・読解パートに出てくる語彙4736語を「VOCABPROFILE COMPLEAT - INPUT」で「BNC-COCA 1-25k Paul Nation」にチェックを入れて測定してみたら、2万語(K-20)レベル以上の語彙は「foraminifer」のみでした。
※カウントされなかった語彙は「geologic」「healthful」「man­made」「neoliberalism」「neoliberal」「norovirus」「shriveling」「unfavorably」でした。

つまり、教養のあるネイティブであれば、英検1級の語彙はほぼすべて知っている可能性が高そうです。

例えばこの動画のネイティブの方々は満点。






でも実は、ネイティブでも間違えている方はわりとおられます。

AMERICAN TRIES THE HARDEST ENGLISH TEST IN JAPAN
NATIVE TRIES ENGLISH PROFICIENCY TEST IN JAPAN
This is what will happen if you let British people solve the first grade English Test

ネイティブでVTuberの桐生ココさんは英検1級を受けた落ちてそうです。同じくネイティブのIRySさんも「3年くらい勉強しないと無理」と。




上述したように、英検1級は、満足に会話ができなかったり、ネイティブの英語が十分に聞き取れなかったりする非ネイティブでもガリ勉すれば合格できちゃうわけですよ。

一方で、肝心の英語ペラペラのネイティブが合格できなかったり、高得点が取れなかったりするわけですよ。

これは「実用英語技能検定」(英検の正式名称)としてどうなのか、と思ってしまうんですよね。


【理由4】日常会話で使えない語彙が多い

先ほどの1つのめの動画のネイティブの方は次のように仰ってます。


This(英検1級) doesn't necessarily represent your English level in real life.
(これは必ずしも実生活でのあなたの英語レベルを表しているわけではない)

【出典】ENGLISH TEACHER TAKES ENGLISH TEST FOR JAPANESE.


英検1級の「語彙」に出てくるようなマイナーな単語を、ネイティブと話しているときに意図せずに使ってしまうと「Sounds too formal(堅苦し過ぎる)/highfalutin(仰々しい).」とか言われてしまう可能性があります。

NHK語学番組の講師である伊藤サムさんの著書である一節を読んでハッとしたんですよね。


学生時代に単語暗記や、英語についてのうんちく本を読んだりして、高度な単語や新語を知っている人は多いものです。すると、当然、上級教材を選んで勉強します。

この結果、難解な語句(の訳語)は多数知っているのに、やさしいことをすらすら言うことはできないバラバラ英語状態になりやすくなります。(P. 22)

上級教材に出てくる単語は使用頻度が落ちますから、せっかく覚えても使う機会がなかなかありません

また訳さないと理解ができず、表面的な理解しかできません。教材においては大は小を兼ねません。自分のメンツと戦ってレベルをいったん落とすことをおすすめします。(P.23)




今すでにこの状態になりかけているんですよね。

オンライン英会話でフィリピン人に頻出度の低い単語(austerityとか)を使ってしまうと「何それ?」って聞き返されるケースが増えてきたんです。

でも、彼らは基本的に僕よりも全然英語を流暢に話せますし、聞き取れるんですよ。

そんなわけで、現在の僕にとっては、「英検1級に出てくるような格式高い語彙を使って話せる・書ける」よりも、「その会話の流れに相応しい、ネイティブに自然に聞こえる英語を使って話せる」ほうが優先順位が高いなと。

そんなわけで、ネイティブの英語が聞き取れる割合がもう少し増えるまでは、「書き言葉」よりも「話し言葉」に触れる割合を多くしておきたいんですよね。

【関連】英会話重視ならリーディングは減らしたほうがいいかもしれない話


【理由5】真の語彙力は多聴多読でしか身につかない

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● 単語帳では語彙力は維持できない

1級に合格して、しばらく経ってから「語彙力が下がった」という話をよく聞くんですよね。

なぜだと思います?

例えば、「でる順パス単」とか使って単語を覚えますよね。合格しますよね。合格したらパス単で勉強はしなくなりますよね。

でも、パス単で語彙力を維持していたわけですから、パス単での勉強を止めてしまうと、エンカウント率の低い単語から順に忘却していくことになります。


実はTOEICでも似たようなことが起こります。TOEICに特化して勉強して900点が取れても、英会話などのためにTOEICからしばらく離れると、スコアが下がってしまうんですね。

結局、英検1級に特化して勉強して合格し、1万語レベル前後の語彙を覚えても、多聴多読の習慣がないと語彙力は下がってしまうんですよね。


● 英検1級で身につく語彙力は1万語前後

英検界のボス?である植田 一三先生によると、英検1級ホルダーは8千語~1万語くらいのパッシブ(聞き取れる&読めるけど使えない)語彙力があるでそうです。


……8千語水準で、英検1級合格に必要な最低の語彙レベルで、英字新聞はかなり楽に読め、TIMEやニューズウィーク、エコノミストといった高度な英字誌は、未知の単語を推測しながら大体理解できるようになります。(P. 191)

【 英語道初段・上級者 】
CEFR C1:英検1級、TOEIC 945点、TOEFL iBT 96点
認識(パッシブ)語彙:約1万語/運用(アクティブ)語彙:約5000語(P. 279)




パス単のカバー範囲はせいぜい1万語レベル強です。なので、パス単をやり続けたところで、ネイティブレベルの2万語にはたどり着けません

準ネイティブレベルに到達しようと思うと、遅かれ早かれ多聴多読を日常化しないといけないわけです。


英検に特化して取れた合格は仮免許

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ネイティブの知っている・使える英語力と比較すると、TOEICは非常に狭い範囲の英語力を測る試験だと考えています。

ナレーターの話すスピードは実際のネイティブよりも遅いですし、英検のように夫婦や親子の会話は出てきません。科学・歴史・宗教・戦争の話も出てきません。

そういう意味で、TOEICに特化して勉強して取れた900点は仮免許だと感じています。

英検はTOEICよりは広いと感じていますが、それでも実際の英語の範囲に比べると狭いなと。

なので、普段から英会話をせず、多聴多読をせずに、英検に特化して勉強して取れた1級も仮免許と考えておいたほうがいいかもしれません。

そういう意味で、僕のTOEIC 950点も準1級も仮免許だと感じています。



英検1級をめざすべき人


1級について否定的な意見を述べてきましたが、1級を取ること自体が間違いだとは考えていません。

英語講師をめざす人

英語講師をめざす方は、1級を取って箔を付けておいたほうがいいと考えています。

僕の記憶が間違っていなければ、塾講師でYouTuberの猛牛先生が昔「英検1級とTOEIC 990点持っていると、父兄の方に信頼してもらえる」的なことを仰っていたんですよね。

実際、それよりも低い僕のTOEIC 950点と準1級ですら、一般の人に話すと「めっちゃ英語できる人」扱いされるので(笑)、英検1級という「紋所」の威力は絶大だろうなと。

特に、小中高の学生さんに教える場合、小中高では英検のほうがポピュラーなので、TOEIC満点よりも英検1級のほうが信頼されるかもしれません。


1級が武器になる人

先日Meetupで出会った日本人の方が、TOEIC 800点と英検1級を取ったことで、翻訳系の会社の転職できたそうです。

「先方には英検1級が評価されたようだ」と仰ってました。

個人的には、就職転職においてはTOEICのほうが評価されやすいイメージがありましたが、英検1級が評価される業種・職種もあるようです。


他に目的が見つかっていない人

英語を勉強する明確な理由やテーマが見つかっていないのであれば、「とりえあえず英検1級を取る」というのもアリだと思います。

僕もそうなのですが、ストレングス・ファインダーで「目標志向」がトップ5に入る、特に高い目標をあったほうが頑張れるタイプの方は一定数いるんですよね。


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なので、該当する方は「目標を作る→達成する」というサイクルを大事にしたほうがいいです。

僕はTOEIC 900点を超えてから見える世界が変わりました。準1級を取ってさらに変わりました。

僕はその後、英会話力向上にスイッチしましたが、英検1級を取ることで見えてくる世界があるはずです。
 
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