一流と二流の違い
バイオリンと英語学習の違い
心理学者のアンダー・エリクソン教授の研究によると、バイオリンは500年くらいの歴史があり、練習法がそれなりに確立されているそうです。結果、「練習の質」では差がつきにくくなるため、バイオリンはトッププレイヤーほど練習時間が多かったそうです。
一方、英語学習ではどうか?
素人目には、英語力の高い人ほど英語に費やしてきた合計時間、1日当たりの英語に浸る時間が多いと感じています。
ですが、第二言語習得に関する本や記事を読んでいると、バイオリンの練習法と違い、外国語の学習法は歴史がまだ浅く、研究でも分かっていないことが非常に多いと感じました。
つまり、英語学習の場合、学習法がそんなに確立されていないので、練習の質はかなり上下する可能性があるわけです。
実際、「TOEICリスニング満点の僕が2年勉強しても10点しか上がらなかった頃の話」でもお伝えしたように、練習のやり方が悪いと2年間経ってもリスニングがほぼ伸びないという残酷な悲劇が起こってしまいます(笑)。
英語学習においては「練習の質」も大事
2022年08月現在、英語に1万5千時間費やしてきました。僕はかなり質の低いシャドウイングに数百時間以上費やしてきた可能性があります。
もし初期の頃に、正しいシャドウイングのやり方を教わり、適切なフィードバックを受けられていたら、もっと早く今のリスニング力に到達していただろうなと。
そう考えると、数百時間はムダにしているんじゃないかと思っています。
そんなわけで、英語学習においては「練習の量」も大事ですが、「練習の質」も非常に大事だと痛感しています。
では「練習の質」を高めるにはどうしたらいいか?
上級者は「できないこと」に多くの時間を割く
エリクソン氏は練習の量だけではなく、練習の質にも言及しており、むしろこちらのほうが大事であると述べている。レベルを上げる練習は、単なる練習ではなく、「熟考された鍛練(deliberate practice)」である。
バイオリニストの場合、マスターしなければならない練習に特化した、一人での練習である。できないところをできるようになるという、最も苦痛な練習である。
二流はできることを繰り返して練習するが、一流はできないことをできるようになるための練習をする。
【出典】「一流」と「二流」を分かつものは何か? | リクルートマネジメントソリューションズ
荒川静香の二万回の尻もち
……荒川静香は、金メダルを獲得する技をすべてマスターするのに十九年かかった。
(フィギュア)スケート選手を対象とした研究で、一流選手ではない人たちは自分がすでに「できる」ジャンプに多くの時間をつぎ込んでいることがわかった。
一方、トップレベルの選手は自分が「できない」ジャンプにより多くの時間を費やしていた。(P. 260~261)
耳が痛い(笑)。
「できること」をやっていると楽しいので、ついついそちらに時間を割いてしまうんですよね。でも、すでに「できること」ばかりやっていても、「できないこと」ができるようにはならないわけです。
例えば、TOEIC 800点を超えて900点をめざそうと思うと、苦手パートを克服する必要があります。
英検準1級に合格しようと思うと、読む・書く・聞く・話すの4技能どれもそれなりにできるレベルにしないといけません。
また、オンライン英会話でも、自分の得意なトピックでばかり話し続けていると、自動化が進む(流暢に話せるようになる)ので、さも上級者になったかのように錯覚してしまうんですよね。
ですが、上級者をめざすのであれば、少なくとも「日本語で話せるトピックは、英語でも話せる」をめざしたほうがいいと考えています。
練習の目的は「できない→できる」にすること
目的のある練習あるいは限界的練習の最大の特徴は、できないこと、すなわちコンフォート・ゾーンの外側で努力することであり、
しかも自分が具体的にどうやっているか、どこが弱点なのか、どうすれば上達できるかに意識を集中しながら何度も何度も練習を繰り返すことだ。(P. 211)
やみくもに同じことを何度も繰り返すのではまったく意味がない。反復練習の目的は、自らの弱い部分を見つけ、それを集中的に強くしていくこと…… (P.213)
上述したように、僕は学習初期の頃は、シャドウイングを闇雲に繰り返していました。
ですが、ここ数年で「リスニングで聞き取れない音 ≒ 正確に発音できていない音」と確信したので、聞き取れなかった(≒苦手な)発音と音変化を中心に何度も聞き、リピーティングで反復練習しています。
また、リピーティングの際は5回連続チャレンジして、間違えたら1回目からやり直すようにしています。特に苦手なもの≒発音し慣れていないものなので、5回チャレンジを2セットやります。
また、音声が速いと感じたらICレコーダーで0.5~0.7倍速に落として、ゆっくりスピードで練習します。
練習においては、「早くできる」ようになることよりも、まずは「正確にできる」ようになることのほうが大事だからです。
こういったトレーニングを森田勝之先生の映画・ドラマCD本などで数年続けてきたことで、最近はエイゴックスの早口なネイティブ講師の英語でも聞き取れる割合が増えてきました。
練習の質(≒スキルレベル)を高めていこう
この研究(初心者から大学レベルの音楽学校に入ろうという上級者まで3000人以上の生徒を対象としたイギリスの研究)では、優れた生徒ほどミスを犯したときに気づくことができ、特に努力が必要な難しい部分を見きわめる能力も高いことなどが確認された。
これは彼らが演奏している曲や自分自身の演奏についてより高度に発達した心的イメージを持っており、そのおかげで自分の練習をモニタリングし、失敗を認識できることを示唆している。
さらに上級者ほど有効性の高い練習方法を身につけていることも明らかになった。(P. 121)
傑出したプレーヤーの顕著な特徴の一つは、その道のトップクラスになってもさらに練習方法を改良し、上を目指そうと努力し続けることだ。(P. 244-245)
【出典】超一流になるのは才能か努力か?
最近、精読も暗唱もシャドウイングも瞬間英作文も「スキル」だなと感じています。
スキルなので、ゲーム同様に「スキルレベル」が存在するわけです。もちろん、どのスキルもレベル1から始まります。
ゲームと違って厄介なのは、英語系のスキルは、練習時間を費やしたからといって必ずしも「スキルレベル」が上がるとは限らないという点です。
「練習の質」を改善していかないと、英語系のスキルレベルは上がっていかない。
でないと、僕みたいに2年間でリスニング10点しか上がらないみたいなことになってしまいます(笑)。この失敗は、「練習の質」を改善せず、スキルレベル1のまま闇雲に練習し続けた結果と言えます。
練習の質を高めるアイデア
英会話(スピーキング)
2013年に、本格的にオンライン英会話を始めた頃、● 自分が苦手だと感じるもの
● アクティブ語彙化していない(≒聞き取れる&読めるけど使えていない)もの
をフラッシュカード瞬間英作文でつぶしていく
というのをテーマにしました。つまり、「できないこと」をつぶしていこうと。
僕は「我ながらアホなことばかりしてきたな」と思うことが多々あるのですが(笑)、この戦略だけは賢かったなと。
最近よく引用していますが、複数の研究で「英会話の約7割は決まり文句で構成されている」ことが分かっています。
つまり、聞き取れる&言える決まり文句(文法・構文・フレーズ)を増やしていけば、英会話で聞き取れる&言える割合を効率的に増やしていけることになります。
実際、自分が使えない決まり文句が減るほど、英会話でよくある「英語で何と言えばいいか分からない」「今言いたいことは、どの時制・文型・文法・構文を使えばいいのだろうか?」が減ってきました。
必ずしもフラッシュカード瞬間英作文でなくてもいいです。「自分が使えないものを使えるようにする」ことができる練習であれば、何でもOK。
ただ、検索練習と分散学習の仕組みを利用して、自分の苦手なものを効率的につぶしていけるという点で、フラッシュカード瞬間英作文はお勧めです。
【参考】瞬間英作文を超効率化するフラッシュカードアプリ「Anki/AnkiDroid」
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