推奨:TOEIC 900点~/英検準1級~
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公開:2022-06/12
関連:多聴多読 / ”見る”よりも”聞く” / 7~9割聞き取れるものを聞く / 聞き取れない音 ≒ 発音し慣れてない音
多聴に関して調べようと思い、手持ちのSLA(第二言語習得)の本10冊をあらためて読み返してみたのですが、ほとんど情報がないんですよね。
それもそのはずで、教育学博士でTOEFL・TOEICともに満点の青谷正妥教授が著書「英語学習論」で、「リスニングの研究そのものが、リーディングほどには進んでいません。(P. 65)」と仰っています。
なので、主に多聴にも役立ちそうな精聴や多読に関する研究やアドバイスと、リスニングに関して分かっている範囲の情報をまとめてみました。
多聴の注意点・ヒント
(1) 字幕なしでの理解度半分以下→効果薄い
字幕なしで視聴したときに、理解できる割合が半分以下だとしたら、決してムダではないものの、多聴の効果は薄いと感じています。
僕は2017年から「MJ and Adam Show」を視聴してきましたが、最初の頃は平均して半分くらいしか理解できてなかったと思います。まぁ何とか楽しめるので視聴していた感じです。
MJ and Adam Showのお陰で、ネイティブの自然で比較的速い英語を聴く機会が増えましたし、リスニング力も向上したので、決してムダにはなっていないです。
ただ、当時のリスニング力と投資時間対効果を鑑みると、多聴よりも精聴にもっと時間を割いたほうが良かったなと反省しています。
1日中ネイティブの生の英語を聴ける環境だったら、精聴しなくてもリスニング力は伸びていくと思うんですよ。
ですが、2022年06月現在、700時間を多聴に費やしてきた経験では、国内で多聴のみの場合(スクリプトなどで確認せず反復練習もしない場合)、聞き取れない音の多くは、ほぼ聞き取れないままだなと。
「多読」について研究しておられる古川 昭夫さんが、著書で興味深い知見をシェアされてました。
読書語数が、ほかの生徒に比べてそれほど多くないのに、英語力が伸びている生徒と、語数的にはたくさん読んでいても、その割には英語テストの成績があまり伸びていない生徒がいるのも事実です。
英語力の伸びには、「英文を読んだ量」だけでなく、「英文を読む際の理解度」も大きく関係してくるからです。
つまり、成績が順調に伸びる生徒は、未知語が少ない本を選び、高い理解度で読んでいるのに対し、成績があまり伸びない生徒は、未知語の多い本を選び、低い理解度で、飛ばし読みをして大筋だけを追っているのです。(P.83~84)
「これ僕やん!」って感じだったんですよね。I'm guilty of this...(;´∀`)
多読だけでなく、多聴にも当てはまるなと。つまり、リスニング力の伸びには、「英語音声を聴いた時間」だけでなく、「英語音声を聴く際の理解度」も大きく関係してくる。
英語力を伸ばすためには
①読書語数を増やす → 一定時間内の読書速度を上げる
②理解度を上げる → 最低でも70パーセントの理解で読む
……未知語が20語中1語程度の本を使って70パーセント程度をキープしながら、できるだけ多くの語数を読むようにするのが、最適な戦略なのです。(P. 96)
【出典】英語多読法
応用言語学者の白井恭弘教授も、教育学博士の青谷正妥教授も、「精聴」の際のマテリアル選びに関して、同じようなアドバイスをされています。
理解できないものを何度聞いても、言語習得にはつながりません。感覚として、少なくとも6割、できれば7割から8割くらい理解できると感じられるものを聞くとよいでしょう。(P. 118)
リスニングは聴いても20%しかわからないような教材を聞くより、80%以上わかる教材を何度も聞いたほうが効果があります。インプットを理解することが言語習得のカギですから、わからないものを聞いても効果は低いのです。
同じものを何度も聞くと飽きてしまうかもしれませんが、すでにある程度内容がわかっていたほうが、理解につながるので、言語習得を促進することは言うまでもありません。(P. 165)
(リスニングは)単語の95から98%が分かり、聞いたときに内容が7、8割分かるものを処理練習に使う。(P. 70)
反復練習することが前提の精聴で7割以上なら、多聴ならもっと高い理解度で視聴できるものを選んだほうがいいかもしれません。
【参考】科学研究「リスニングで聞き取れない音 ≒ 自分が発音し慣れていない音」
(2) 未知語が5%以上→効果薄い
一方、音が全部聞き取れたとしても、単語やフレーズの意味がつかめない割合が多いと、当然ながら理解できないんですよね。2021年から、オンライン英会話スクール「エイゴックス」でネイティブ講師のレッスンを受けるようにしてきたのですが、基本的に皆さん、TOEICや英検のナレーターのように聞き取りやすい標準的な発音・アクセントなんですね。
この1年「リスニング難度A+」「森田勝之本」などのネイティブの生に近い英会話が収録されたCD本で精聴してきました。
お陰で、ネイティブの先生の話す英語を、音的に聞き取れる割合はけっこう増えてきたものの、意味的に理解できないときが多々あります。ええ、多々あります。
おそらく、未知語や知らない句動詞やイディオムだったりするんだろうなと。
NHK WORLD TVも、音的にはかなりの割合で聞き取れるようになってきたのですが、「Science View」「Medical Frontiers」などの科学や医療系の語彙レベルが高め、専門用語が多い場面では理解度はかなり下がるんですよね。
リスニングに関して、日本語の英語学習者の特性に詳しいノートルダム清心女子大学の Rob Waring は、
(1) 内容が90%分かること
(2) 95%の単語が分かること
(3) 途中で音を止めなくても聞けること
(4) 内容が興味を引くこと
を教材の条件としています。(Waring, n.d.-a, n.d.-b)(P. 34)
【出典】英語学習論
語学教育の権威である、Paul Nation博士は、多読を通じて新しい語彙を身につけるには、未知語が全体の5パーセント以下の本でなければいけない、と論じています。
つまり、未知語が20語に1語以下であれば、辞書を引かなくても、前後関係からその言葉の意味を高い確率で類推できるというのです。これは実際に、多読指導を行っている私たちの実感ともぴったり当てはまります。(P. 65)
【出典】英語多読法
なので、自分にとって知らない単語がたくさん含まれるマテリアルで多聴をしたとしても、効果は薄いなと。可能であればそのマテリアルで精聴して反復練習したほうがいいですね。
(3) 速度を落とすと理解度が上がるかも
TOEIC 900点と英検準1級を持っているレベルだと、スピードを落とすことで理解度が上がると感じています。出先で英語音声を聴くときはICレコーダーを、自宅でPC版ChromeでYouTubeやNetflixを見るときは拡張機能「Video Speed Controller」を使って、速いと感じたものはスピードを0.7~0.9倍速にしています。
95から98%の単語が理解できて初めて意味処理の練習になります。スピードが速すぎたり、内容が難しすぎたりしてはいけないのです。(P. 52)
学習者がリーディングに比してリスニングに困難を覚える最大の理由は、往々にして単にそのスピードです(Zeng, 2007; Zhang, 2005)。リーディングのように、自分のペースで進めませんからね。(P. 55)
【出典】英語学習論
多聴用マテリアル
洋画や海外ドラマを字幕なしで観られる上級者ならまだしも、TOEIC 900点や英検準1級を持っている中級者レベルの人が、”字幕なしで”7~9割理解できる、多聴できるくらい大量にある無料のマテリアルってあんまりない気がしています。
「◯◯があるよ!」という方は、コメント欄で教えて下さい(=゚ω゚)ノ
NHK WORLD
個人的には、一番多聴しやすいのが「NHK WORLD TV」だと感じています。
リスニング力が低くても、映像があると理解しやすくなるんですよね。また、洋画やドラマに比べると、語彙の難易度が低い番組が多く、発音も日本のテキストでよく聴くナレーターさんが多いのでクリアでゆっくりで聞き取りやすいです。
加えて、日本の文化、食、科学技術、ビジネス、医療と幅広く学べるのも大きなメリットかと。
最近はオンデマンドで視聴できる動画が増えてきましたし、YouTubeじゃないのでついつい関連ビデオ観てしまって時間を浪費する心配もない(笑)。
【参考】「NHK WORLD TV」が中級者の多聴に最適な5つの理由
VOA Learning English
自分自身はあまり使ってこなかったですが、「Voice of America」で多聴されている方は多いですね。
Intermediate Levelで聴ける音声はダウンロードもできますし、大量のスクリプト付き音声があるので、ネタ切れがありません。
ただ、ニュースの読み上げがメインなので、会話リスニングスキルを伸ばしたい自分はあんまり使ってきませんでした。
BBC Learning English
イギリス英語重視なら、やはり「BBC Learning English」ですよね。
少し易しめの「The English We Speak」と、少し難しめの「6 Minute English」があります。VOA同様スクリプトがあります。スクリプトと音声ともダウンロードできるのは男前やで。
VOAと違って会話がメインなのはいいのですが、個人的にはアメリカ英語に集中したかったので、あまりやってきませんでした。
YouTube
子供向けの科学チャンネル「SciShow Kids」、科学と歴史チャンネルの「Learn Bright」は、語彙が易しめで多聴にいいと感じています。
話すスピードはVOAやBBCより速いですが、映像がある分、理解しやすいと思います。
速いと感じる場合、上述しましたが、PC版Google拡張機能「Video Speed Controller」を入れると、0.1倍速単位でスピードを遅くできますし、好みの秒数で早送り・巻き戻しができるので便利です。
リスニング力がもっと上ってきたら、「SciShow」「BRIGHT SIDE」「National Geographic」でも多聴していきたいなと。
中級者は「精聴」なくして「成長」なし
英検1級リスニングで満点近く取れない→精聴必須
僕は英検1級は未習得ですが、2016年に準1級に合格した後、1級のリスニングで少し勉強していました。その経験では、英検1級のリスニングの過去問を解いてみて、満点かそれに近い正答率が取れないのであれば、精聴は続けたほうがいいと考えています。
つまり、シャドウイングとリピーティングによる反復練習トレーニングです。
英検1級のリスニングは、ネイティブの生の英語に比べたらゆっくりですし、発音も標準的で聞き取りやすく、語彙もそんなに難しくはないなと。
例えば、1級の2022年度第1回のリスニングパートに出てくる語彙は全部で4233語ですが、そのうち1万語レベルを超えるのはたったの12語でした。全体的には易しめの語彙で構成されているなと。
なので、英検1級リスニングで満点近い正答率に届いていない = 未習得の音の連結・消失や、意味が理解できない1万語レベル以下の基本語彙やフレーズが大量に残っている、ということになります。
エラソーに言ってますが、僕は準1級のリスニングですら満点が取れないレベルです(笑)。
直近で解いたものだと、2016年第2回22/29点、2016年第3回は24/29点。
英検準1級の過去問のリスニングを解いていると、知らない単語はほとんどないのですが、「簡単な英語が聞き取れていない」「読めるけど聞き取れない」というものがまだまだ大量に残ってるなーと痛感します。
なのでとりあえず、まだ未着手の準1級の過去問15回分で精聴してから1級の過去問に入ろうと考えています。
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