フリートーク |
先日買った本。
市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず。』
(シンコーミュージック 2018年初版)
ここ数年、私にとってヴィジュアル系(以下V系)は密かなブームとなっている。すでに30年以上の歴史を持ち、その中で複雑に枝分かれし現在ではさまざまなカルチャーと結びついたV系の世界は、これまで表面的にしか触れてこなかった私にとって大変刺激的で興味深く、知的探求心をそそるものだ。
TBS系『マツコの知らない世界』にて4月6日にオンエアされた「ヴィジュアル系バンドの世界」もかなり興味深く、楽しめる内容だった。番組では90年代V系シーンを中心に振り返りつつ、かつて一大ムーヴメントとなったシーンのその後──偏見や差別といった受難の時代を経て、アンダーグラウンド中心に進化を続け、現在ますますカオスで面白いことになっている──といったV系30年史的な内容だったが、番組視聴後にもっとV系についていろいろ知りたいと思いネット検索する中で出会ったのが、番組にも登場しV系の魅力や歴史について語っていた元自衛官のライター・藤谷千明さんと、音楽評論家の市川哲史さんによる対談形式のこの本である。
本の中では、V系30年史をその勃興からヤンキー文化→オタク文化への変遷、ビジネス・マネジメント面、プロデューサー、コミュニティツールの変遷(文通→チャット→SNS)、再結成ブームなどさまざまな角度からディープに分析・考察した超濃密な内容になっており、帯に書いてある通りまさに「ヴィジュアル系の教科書」だ。とは言ってもお固い内容ではなく、むしろ軽妙(市川さんに至っては「度が過ぎた悪フザケ」といった方が近い)なトークを交えた、非常に読みやすいテキストになっている。
私はV系に対し、これまで特に深い思い入れがあったわけではない。藤谷さんと同世代である私はV系が一大ブームとなった90年代中盤~後半に中高生時代を過ごしたので、ラジオやカラオケで必然的にV系の音楽に触れてきたが、あくまで小室系やビーイング系などと並んで「好きな音楽カテゴリのひとつ」でしかなかった。やがて嗜好の変化やブーム終焉も相俟って永らくV系とは距離を置いてきた(後述)が、20年以上の時を経てV系にハマるというのは何とも不思議な因果だ。
『マツコの知らない世界』を観たり、『すべての道はV系に通ず。』を読む中で「あの頃は確かにそうだったな」「いや、自分はこうじゃなかった」などいろんな「V系体験」を思い出したのだが、そのうちこんな疑問が浮かんだ。
自分はいつから「V系」をカテゴリとして意識し始めたのだろう?
自分はいつ、どういう理由でV系から距離を置くようになったのだろう?
今回の記事ではそんな疑問について、実体験を振り返りつつ考えていきたいと思う。
■いつから「V系」を意識し始めたか
現在V系の文脈で語られている楽曲で、最初に接したのはおそらくBUCK-TICKの1990年のシングル「惡の華」だと思う。しかしまだ世間に「ヴィジュアル系」という言葉は浸透しておらず、当然ながら当時まだ小学生の私がそんなワードを知っている訳がない。それに以前BUCK-TICKの記事でも書いたように、BUCK-TICKがヴィジュアル系のレジェンド的な見方をされていると知ったのはつい数年前のことなのだ。もっと言えば、本の中で書かれているように厳密にはBUCK-TICKはV系バンドではない。いやその前にZIGGYの1988/89年のシングル「GLORIA」があったかな?とも思ったのだけど、ZIGGYの名前はこの本に登場しなかったのでおそらくV系と直接は繋がっていないと思われる。
【過去記事】BUCK-TICKにどハマりしたのでそのきっかけや魅力などいろいろ語ってみた<前編>
BUCK-TICK - "惡の華"
「ヴィジュアル系」という名前はX(現X JAPAN)のアルバム『Blue Blood』(1989年)のジャケに書かれた「PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK」が発祥というのはマツコの番組でも藤谷さんが説明していたが、私がこのアルバムを聴いたのは後追いで92年頃だったと思う。その前に「WEEK END」「ENDLESS RAIN」といったシングルは聴いたことがあったけど、この時もまだV系という認識はなかった。というかXって自分の中では「ヘビメタ」でしかなかったな。「天才・たけしの元気が出るTV!!」のヘビメタコーナーだったり、当時流行していたSDガンダムにヘビメタガンダムというキャラがいたりと、当時「ヘビメタ」は音楽ジャンルというよりは完全にイロモノ的なギミック扱いだった。そもそもヘビメタが何の略かもわかっていなかったし、派手な格好をして赤や黄色の髪の毛を逆立て、金具のたくさんついた革ジャンを着ているのがヘビメタという程度の認識だ。このコーナーにYOSHIKIがゲイリー・ヨシキとして出演していたのだけど、それを知ったのは後からで、コーナー内で特にXというバンドとして紹介されていた記憶はないし、YOSHIKIよりもバーバラアキタダという人の方がキャラが濃く、印象に残っている。
▲ヘビメタガンダムとそのバンド。もともとSDガンダムとは子供ウケするように二頭身化する「スーパーディフォルメ」がコンセプトだが、そのネタとしてヘビメタが「派手な髪色、立てた長髪、アイメイク、鋲やチェーンによる装飾」というステレオタイプでデフォルメされている。この時代、「ヘビメタ」は音楽ジャンルとしてではなく、子供ウケするギミックとして認知されていたことがわかる
1990年にはTVアニメ「つる姫じゃ~っ!」を観ていたが、このOP曲・ED曲はいずれもかまいたちだった。確かED「へのへのもへじ」ではかまいたちが演奏している姿がアニメ絵で描かれていたと思う。その見た目から典型的な「ヘビメタ」と認識していて(音楽的にはToy Dollsみたいなパンク寄りだが)、歌詞もユーモラスな感じだったのでこれまでV系と関連付けたことはなかったが、2016年に行われたV系フェス「VISUAL JAPAN SUMMIT」に出演していたと知って、かまいたちもV系に入るのか!と驚かされた。
▲かまいたち
あと当時、バラエティ番組でBY-SEXUALはよく見かけたな。当時はアイドルっぽい要素も強かった印象だけど、カラフルな髪色やビート・ロックの流れを汲んだ曲調は、V系のプロトタイプといって差し支えないだろう。
▲BY-SEXUAL
V系という言葉を知らずとも、最初にV系特有の音楽的な特徴──疾走感のあるギターロック・サウンド、ダークで妖艶な歌詞、艶めかしい歌唱など──を意識したのはLUNA SEAだった。93年のメジャーデビューシングル「BELIEVE」をラジオで聴いてかっこいい!と思いシングルをTSUTAYAでレンタルした。2ndシングル「IN MY DREAM (WITH SHIVER)」は、運動会で流れていた記憶があるから、すでに中学生の間でも結構な人気になっていたと思う。
▲LUNA SEA
LUNA SEA - "BELIEVE"
当時はまだCDアルバムを買うことはほとんどなくて、ラジオを録音するかシングルをレンタルする程度だった。借りてきたCDシングルはVarious Artistsによるコンピレーションのようにカセットテープにダビングして曲を追加していたのだけど、この頃は2つのカセットを同時進行で作成していた。一つはWANDSやT-BOLAN、大黒摩季などビーイング系を中心とした所謂J-POPだったが、もう一つはLUNA SEA「BELIEVE」のほかはX JAPAN、hide、L'Arc〜en〜Ciel、BODY(D'ERLANGERの元メンバーらによるバンド)、ZNX(ZIGGYの元メンバーによるバンド)などを集めたものだった。おそらく93年~94年にかけて作られたものだったと思う。ちなみにカセットには「ROCK 1」(当時流行っていた洋楽コンピ「NOW 1」を意識している)というタイトルが付けられていた。つまりこれらは従来のJ-POPとは一線を画す音楽であり、そしてこれが「ロック」であると当時の私が捉えていたということがわかる。
私が最初に「V系(当時は「ヴィジュアル系」というワードとしてだが)」という言葉を知ったのは、新聞の特集記事だったと思う。毎日新聞の金曜日夕刊(だったかな?)は音楽・エンタメ情報面があって、翌日発売になるコンサートのチケット情報が掲載され、その上部に音楽ネタのコラムがあった。そこで紹介されていた黒夢のアー写のカッコよさに衝撃を受けたのを覚えている。
▲TV番組のキャプチャしか見つからなかったが、その時の新聞に掲載されていたのと同じアー写がこれ。新聞ではモノクロだったため、当時は清春がピストルを自分の顔に当てているのだと思っていた(そこに惹かれた)
新聞記事にはGLAYが5人組だった時代の写真が掲載されていて、YOSHIKIが設立したエクスタシーレコードからデビューという内容の記事だったので94年頃と思われる。記憶はしていないが、当然X JAPANやLUNA SEAも紹介されていたはずだ。
音楽の探求心が日々強くなっていたこの頃から、放課後に地元の小さなCDショップに立ち寄るようになる。CDを買うお金はないので、ただ店のフリーペーパー(と呼べるたいそうなものではなく、単なるリリース情報が載っている小冊子)を持ち帰り、そこに載っているアーティスト写真を眺めて「このバンドかっこいいな、どんな音楽なんだろう」などと妄想して楽しんでいた(笑)。
小冊子の中でもV系に特化した枠が設けられていて、そこにL'Arc〜en〜CielやROUAGE、ZI:KILL、Eins:Vierなどが載っていたのを覚えている(なぜか聖飢魔Ⅱもそこに載っていた)。なぜ覚えているかというと、そのアー写部分を切り抜いて後々まで保管していたからだ。きっと今も自宅のどこかにあるんじゃないだろうか。
▲ドラムがSAKURA時代のL'Arc〜en〜Ciel。フリーペーパーに掲載されていたのと同じアー写
▲ROUAGE。当時から名前やアー写は知っていたけど、曲を聴いたのはごく最近になってから
これらを踏まえると、V系を一つのカテゴリとして捉え興味を抱くようになったのは93年から94年頃だったと言える。「疾走感のあるロック」「髪が長く逆立っていて見た目がかっこいい」といった漠然としたイメージながら、いずれも浮世離れしているというか、中世の西洋的で神秘的な雰囲気が中二心をくすぐった。
95年にはバンドを組んで文化祭でLUNA SEAとL'Arc〜en〜Cielをコピーしているから、この頃はV系は私の中で確実に「好きなジャンル」のひとつだった。初めて手に入れたV系アルバムはLUNA SEA『MOTHER』(1994年)、バンド練習目的だったが結構気に入ってよく聴いていた。
■いつから、どういう理由でV系から距離を置くようになったのか
先ほど、「V系とは距離を置いてきた」と書いた。『マツコの知らない世界』でも『すべての道はV系に通ず。』でも藤谷さんが言及している通り、90年代末頃からV系はメイクや髪形について揶揄されたり、音楽評論家からは軽薄さを批判されたりと差別的な扱いを受けるようになっていた。そして、私はまさに「差別する側」だったことをここに自白する。
藤谷さんの指摘と同じように、かつては私もV系の音楽はユニコーンやBLANKEY JET CITYやジュディマリと同じように「ロック」「バンド音楽」と同じ括りで考えていた(その中で、「ROCK 1」のカセットテープが示す通り「異形感」を見出してはいたが)。しかしいつからか「こいつらはロックではない」と思うようになっていったのだ。多分、NUMBER GIRLやSUPERCAR、くるりが出てきた97年~98年あたりからだと思う。これらのバンドは洋楽のオルタナティヴ/インディー・ロックからの影響が色濃く、メディアからも椎名林檎と合わせ「新しい邦楽ロックの夜明け」的な扱われ方をした。「これが邦楽ロックの新たなスタンダードである」というようなムードで。
一方でV系シーンはどうだったか。97年、SHAZNAがデビューしたが、私はSHAZNAが全く好きにはなれなかった。「女の子みたいで綺麗」という評判に対しては個人的に疑問符だらけだったし、ダークさとは無縁で、これまでのV系を表面的になぞっているだけのような印象を受けた(実際は、Culture Clubなどからの影響ということを見過ごしたことによる誤解なのだが)。また、年齢サバ読みやスピード離婚などのゴシップも相俟ってますます軽薄さを感じてしまった。
▲SHAZNA。2017年に女性メンバー3人を加えた6人組として再々始動ということでなかなか興味深い
それ以降、GLAY好きの友人を冗談で揶揄もしていたし、PIERRROTがデビュー・アルバムなのに『FINALE』というタイトルを付けたことを友人と笑いのネタにしていたこともある(ちなみについ先日この『FINALE』を買ったが、めちゃくちゃカッコよかった。ピエラーの皆さんごめんなさい)。V系好きはV系の音楽にしか興味がないとか、音楽そのものよりも見た目に惹かれているといったイメージを抱いていた。やがて98年頃にブレイクしたMALICE MIZERに対してはすべてがトゥーマッチに思えたし(去年購入した『merveilles』はお気に入りだし、つい先日『Voyage Sans retour』も購入。トゥーマッチこそがこのバンドの魅力だと気付いた)、2000年頃に登場したPsycho le Cemuが決定打となり私の中でV系は完全に「終わった」。ただ目立ちたいだけのイロモノとしか思えなくなってしまったのだ。その一方で、V系イメージをいち早く脱しストリート系ファッション誌にも頻繁に登場していた清春率いる黒夢(の、新宿LOFTのライブ盤)だけはその頃からよく聴いていた。
▲個人的に「V系は終わった」と思う決定打となったPsycho le Cemu
そんな中でも、V系のファン(バンギャ)やコミュニティの凄さに感心したこともある。2000年頃、私は地元の小さなCDショップでバイトをしていたんだけど、バンギャの先輩がいて、勝手にV系コーナーを作ったことで地元のV系好き女子中高生が集まるスポットとなっていた。バンギャ先輩はバンギャのための「交換ノート」を店内に置き、中高生がそれぞれの贔屓のバンドや推しメンに対する熱い想いを綴ったり、友達募集したり。もちろんバンギャ先輩自身もそれらのメッセージに親身になってコメントを返したり、最新情報を教えてあげたりしていて、ちょっとしたコミュニティが形成されていた。今でこそファン同士の情報交換はSNSが中心だが、当時はPCがようやく家庭に一台普及し始めたばかりの頃だったので、そういったコミュニケーションの場は貴重だったのだ。お陰であの店は、小規模な店舗だったにもかかわらずV系の注文は頻繁に入っていた(cali≠gariのコンドーム付きのCDを中学生くらいの女の子が取り寄せ注文で購入した時は苦笑してしまったが)。私もバンギャ先輩のことはとても尊敬していたし、V系ファンの熱量の高さやファン同士の結束力の高さにとても感心した。
■FINALE ~V系の未来に向かって~
94年頃に興味を持ち始めたV系も97年頃から心が離れ始め、2000年には蔑視すらしていたV系。「V系」は厳密には音楽ジャンルではない反面、奇を衒った見た目やサウンドを奏でるようになることで初期のシーンが持っていた美学が別のものにすり替わってしまったのは否めないし、枠からはみ出ないようにしようとしていたバンドはすべてLUNA SEAや黒夢の二番煎じの域を出なかった。しかし音楽的な定型を持たないからこそとんでもなくオリジナリティのある面白い音楽が生まれるし、狙いすぎてスベりさえしなければ(この匙加減は非常に難しい)とてもクールなシーンだと思う。リアルタイムではスルーしていた作品を今あらためて聴くと素晴らしいものが多いのも事実だし、ZI:KILLやDER ZIBETといった草創期のバンド、私がV系スルーしていた時期に登場したMUCCなど、『すべての道はV系に通ず。』を通して興味を持ったバンドも多い。
加えて、2010年代以降のV系シーンもアツい。中でもLa'veil MizeriA、MEJIBRAY、CHOKE、DEZERT、摩天楼オペラ、キズ、色々な十字架などが気になっている。DIR EN GREY以降、メタル寄りのV系が増えたことも距離を置く理由のひとつだったが、そのDIR EN GREYの『UROBOROS』を昨年購入して気に入ったり、BABYMETALやBring Me the Horizonにハマったりした今となってはメタル寄りのV系に対する抵抗もなくなった。これからのいろんな出会いに期待。
La'veil MizeriA - "INSOMNIA"
CHOKE - "Hack to the basic"
DEZERT - "Your Song"
色々な十字架 - "大きな大きなハンバーグ"
市川哲史×藤谷千明『すべての道はV系に通ず。』
(シンコーミュージック 2018年初版)
ここ数年、私にとってヴィジュアル系(以下V系)は密かなブームとなっている。すでに30年以上の歴史を持ち、その中で複雑に枝分かれし現在ではさまざまなカルチャーと結びついたV系の世界は、これまで表面的にしか触れてこなかった私にとって大変刺激的で興味深く、知的探求心をそそるものだ。
TBS系『マツコの知らない世界』にて4月6日にオンエアされた「ヴィジュアル系バンドの世界」もかなり興味深く、楽しめる内容だった。番組では90年代V系シーンを中心に振り返りつつ、かつて一大ムーヴメントとなったシーンのその後──偏見や差別といった受難の時代を経て、アンダーグラウンド中心に進化を続け、現在ますますカオスで面白いことになっている──といったV系30年史的な内容だったが、番組視聴後にもっとV系についていろいろ知りたいと思いネット検索する中で出会ったのが、番組にも登場しV系の魅力や歴史について語っていた元自衛官のライター・藤谷千明さんと、音楽評論家の市川哲史さんによる対談形式のこの本である。
本の中では、V系30年史をその勃興からヤンキー文化→オタク文化への変遷、ビジネス・マネジメント面、プロデューサー、コミュニティツールの変遷(文通→チャット→SNS)、再結成ブームなどさまざまな角度からディープに分析・考察した超濃密な内容になっており、帯に書いてある通りまさに「ヴィジュアル系の教科書」だ。とは言ってもお固い内容ではなく、むしろ軽妙(市川さんに至っては「度が過ぎた悪フザケ」といった方が近い)なトークを交えた、非常に読みやすいテキストになっている。
私はV系に対し、これまで特に深い思い入れがあったわけではない。藤谷さんと同世代である私はV系が一大ブームとなった90年代中盤~後半に中高生時代を過ごしたので、ラジオやカラオケで必然的にV系の音楽に触れてきたが、あくまで小室系やビーイング系などと並んで「好きな音楽カテゴリのひとつ」でしかなかった。やがて嗜好の変化やブーム終焉も相俟って永らくV系とは距離を置いてきた(後述)が、20年以上の時を経てV系にハマるというのは何とも不思議な因果だ。
『マツコの知らない世界』を観たり、『すべての道はV系に通ず。』を読む中で「あの頃は確かにそうだったな」「いや、自分はこうじゃなかった」などいろんな「V系体験」を思い出したのだが、そのうちこんな疑問が浮かんだ。
自分はいつから「V系」をカテゴリとして意識し始めたのだろう?
自分はいつ、どういう理由でV系から距離を置くようになったのだろう?
今回の記事ではそんな疑問について、実体験を振り返りつつ考えていきたいと思う。
■いつから「V系」を意識し始めたか
現在V系の文脈で語られている楽曲で、最初に接したのはおそらくBUCK-TICKの1990年のシングル「惡の華」だと思う。しかしまだ世間に「ヴィジュアル系」という言葉は浸透しておらず、当然ながら当時まだ小学生の私がそんなワードを知っている訳がない。それに以前BUCK-TICKの記事でも書いたように、BUCK-TICKがヴィジュアル系のレジェンド的な見方をされていると知ったのはつい数年前のことなのだ。もっと言えば、本の中で書かれているように厳密にはBUCK-TICKはV系バンドではない。いやその前にZIGGYの1988/89年のシングル「GLORIA」があったかな?とも思ったのだけど、ZIGGYの名前はこの本に登場しなかったのでおそらくV系と直接は繋がっていないと思われる。
【過去記事】BUCK-TICKにどハマりしたのでそのきっかけや魅力などいろいろ語ってみた<前編>
BUCK-TICK - "惡の華"
「ヴィジュアル系」という名前はX(現X JAPAN)のアルバム『Blue Blood』(1989年)のジャケに書かれた「PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK」が発祥というのはマツコの番組でも藤谷さんが説明していたが、私がこのアルバムを聴いたのは後追いで92年頃だったと思う。その前に「WEEK END」「ENDLESS RAIN」といったシングルは聴いたことがあったけど、この時もまだV系という認識はなかった。というかXって自分の中では「ヘビメタ」でしかなかったな。「天才・たけしの元気が出るTV!!」のヘビメタコーナーだったり、当時流行していたSDガンダムにヘビメタガンダムというキャラがいたりと、当時「ヘビメタ」は音楽ジャンルというよりは完全にイロモノ的なギミック扱いだった。そもそもヘビメタが何の略かもわかっていなかったし、派手な格好をして赤や黄色の髪の毛を逆立て、金具のたくさんついた革ジャンを着ているのがヘビメタという程度の認識だ。このコーナーにYOSHIKIがゲイリー・ヨシキとして出演していたのだけど、それを知ったのは後からで、コーナー内で特にXというバンドとして紹介されていた記憶はないし、YOSHIKIよりもバーバラアキタダという人の方がキャラが濃く、印象に残っている。
▲ヘビメタガンダムとそのバンド。もともとSDガンダムとは子供ウケするように二頭身化する「スーパーディフォルメ」がコンセプトだが、そのネタとしてヘビメタが「派手な髪色、立てた長髪、アイメイク、鋲やチェーンによる装飾」というステレオタイプでデフォルメされている。この時代、「ヘビメタ」は音楽ジャンルとしてではなく、子供ウケするギミックとして認知されていたことがわかる
1990年にはTVアニメ「つる姫じゃ~っ!」を観ていたが、このOP曲・ED曲はいずれもかまいたちだった。確かED「へのへのもへじ」ではかまいたちが演奏している姿がアニメ絵で描かれていたと思う。その見た目から典型的な「ヘビメタ」と認識していて(音楽的にはToy Dollsみたいなパンク寄りだが)、歌詞もユーモラスな感じだったのでこれまでV系と関連付けたことはなかったが、2016年に行われたV系フェス「VISUAL JAPAN SUMMIT」に出演していたと知って、かまいたちもV系に入るのか!と驚かされた。
▲かまいたち
あと当時、バラエティ番組でBY-SEXUALはよく見かけたな。当時はアイドルっぽい要素も強かった印象だけど、カラフルな髪色やビート・ロックの流れを汲んだ曲調は、V系のプロトタイプといって差し支えないだろう。
▲BY-SEXUAL
V系という言葉を知らずとも、最初にV系特有の音楽的な特徴──疾走感のあるギターロック・サウンド、ダークで妖艶な歌詞、艶めかしい歌唱など──を意識したのはLUNA SEAだった。93年のメジャーデビューシングル「BELIEVE」をラジオで聴いてかっこいい!と思いシングルをTSUTAYAでレンタルした。2ndシングル「IN MY DREAM (WITH SHIVER)」は、運動会で流れていた記憶があるから、すでに中学生の間でも結構な人気になっていたと思う。
▲LUNA SEA
LUNA SEA - "BELIEVE"
当時はまだCDアルバムを買うことはほとんどなくて、ラジオを録音するかシングルをレンタルする程度だった。借りてきたCDシングルはVarious Artistsによるコンピレーションのようにカセットテープにダビングして曲を追加していたのだけど、この頃は2つのカセットを同時進行で作成していた。一つはWANDSやT-BOLAN、大黒摩季などビーイング系を中心とした所謂J-POPだったが、もう一つはLUNA SEA「BELIEVE」のほかはX JAPAN、hide、L'Arc〜en〜Ciel、BODY(D'ERLANGERの元メンバーらによるバンド)、ZNX(ZIGGYの元メンバーによるバンド)などを集めたものだった。おそらく93年~94年にかけて作られたものだったと思う。ちなみにカセットには「ROCK 1」(当時流行っていた洋楽コンピ「NOW 1」を意識している)というタイトルが付けられていた。つまりこれらは従来のJ-POPとは一線を画す音楽であり、そしてこれが「ロック」であると当時の私が捉えていたということがわかる。
私が最初に「V系(当時は「ヴィジュアル系」というワードとしてだが)」という言葉を知ったのは、新聞の特集記事だったと思う。毎日新聞の金曜日夕刊(だったかな?)は音楽・エンタメ情報面があって、翌日発売になるコンサートのチケット情報が掲載され、その上部に音楽ネタのコラムがあった。そこで紹介されていた黒夢のアー写のカッコよさに衝撃を受けたのを覚えている。
▲TV番組のキャプチャしか見つからなかったが、その時の新聞に掲載されていたのと同じアー写がこれ。新聞ではモノクロだったため、当時は清春がピストルを自分の顔に当てているのだと思っていた(そこに惹かれた)
新聞記事にはGLAYが5人組だった時代の写真が掲載されていて、YOSHIKIが設立したエクスタシーレコードからデビューという内容の記事だったので94年頃と思われる。記憶はしていないが、当然X JAPANやLUNA SEAも紹介されていたはずだ。
音楽の探求心が日々強くなっていたこの頃から、放課後に地元の小さなCDショップに立ち寄るようになる。CDを買うお金はないので、ただ店のフリーペーパー(と呼べるたいそうなものではなく、単なるリリース情報が載っている小冊子)を持ち帰り、そこに載っているアーティスト写真を眺めて「このバンドかっこいいな、どんな音楽なんだろう」などと妄想して楽しんでいた(笑)。
小冊子の中でもV系に特化した枠が設けられていて、そこにL'Arc〜en〜CielやROUAGE、ZI:KILL、Eins:Vierなどが載っていたのを覚えている(なぜか聖飢魔Ⅱもそこに載っていた)。なぜ覚えているかというと、そのアー写部分を切り抜いて後々まで保管していたからだ。きっと今も自宅のどこかにあるんじゃないだろうか。
▲ドラムがSAKURA時代のL'Arc〜en〜Ciel。フリーペーパーに掲載されていたのと同じアー写
▲ROUAGE。当時から名前やアー写は知っていたけど、曲を聴いたのはごく最近になってから
これらを踏まえると、V系を一つのカテゴリとして捉え興味を抱くようになったのは93年から94年頃だったと言える。「疾走感のあるロック」「髪が長く逆立っていて見た目がかっこいい」といった漠然としたイメージながら、いずれも浮世離れしているというか、中世の西洋的で神秘的な雰囲気が中二心をくすぐった。
95年にはバンドを組んで文化祭でLUNA SEAとL'Arc〜en〜Cielをコピーしているから、この頃はV系は私の中で確実に「好きなジャンル」のひとつだった。初めて手に入れたV系アルバムはLUNA SEA『MOTHER』(1994年)、バンド練習目的だったが結構気に入ってよく聴いていた。
■いつから、どういう理由でV系から距離を置くようになったのか
先ほど、「V系とは距離を置いてきた」と書いた。『マツコの知らない世界』でも『すべての道はV系に通ず。』でも藤谷さんが言及している通り、90年代末頃からV系はメイクや髪形について揶揄されたり、音楽評論家からは軽薄さを批判されたりと差別的な扱いを受けるようになっていた。そして、私はまさに「差別する側」だったことをここに自白する。
藤谷さんの指摘と同じように、かつては私もV系の音楽はユニコーンやBLANKEY JET CITYやジュディマリと同じように「ロック」「バンド音楽」と同じ括りで考えていた(その中で、「ROCK 1」のカセットテープが示す通り「異形感」を見出してはいたが)。しかしいつからか「こいつらはロックではない」と思うようになっていったのだ。多分、NUMBER GIRLやSUPERCAR、くるりが出てきた97年~98年あたりからだと思う。これらのバンドは洋楽のオルタナティヴ/インディー・ロックからの影響が色濃く、メディアからも椎名林檎と合わせ「新しい邦楽ロックの夜明け」的な扱われ方をした。「これが邦楽ロックの新たなスタンダードである」というようなムードで。
一方でV系シーンはどうだったか。97年、SHAZNAがデビューしたが、私はSHAZNAが全く好きにはなれなかった。「女の子みたいで綺麗」という評判に対しては個人的に疑問符だらけだったし、ダークさとは無縁で、これまでのV系を表面的になぞっているだけのような印象を受けた(実際は、Culture Clubなどからの影響ということを見過ごしたことによる誤解なのだが)。また、年齢サバ読みやスピード離婚などのゴシップも相俟ってますます軽薄さを感じてしまった。
▲SHAZNA。2017年に女性メンバー3人を加えた6人組として再々始動ということでなかなか興味深い
それ以降、GLAY好きの友人を冗談で揶揄もしていたし、PIERRROTがデビュー・アルバムなのに『FINALE』というタイトルを付けたことを友人と笑いのネタにしていたこともある(ちなみについ先日この『FINALE』を買ったが、めちゃくちゃカッコよかった。ピエラーの皆さんごめんなさい)。V系好きはV系の音楽にしか興味がないとか、音楽そのものよりも見た目に惹かれているといったイメージを抱いていた。やがて98年頃にブレイクしたMALICE MIZERに対してはすべてがトゥーマッチに思えたし(去年購入した『merveilles』はお気に入りだし、つい先日『Voyage Sans retour』も購入。トゥーマッチこそがこのバンドの魅力だと気付いた)、2000年頃に登場したPsycho le Cemuが決定打となり私の中でV系は完全に「終わった」。ただ目立ちたいだけのイロモノとしか思えなくなってしまったのだ。その一方で、V系イメージをいち早く脱しストリート系ファッション誌にも頻繁に登場していた清春率いる黒夢(の、新宿LOFTのライブ盤)だけはその頃からよく聴いていた。
▲個人的に「V系は終わった」と思う決定打となったPsycho le Cemu
そんな中でも、V系のファン(バンギャ)やコミュニティの凄さに感心したこともある。2000年頃、私は地元の小さなCDショップでバイトをしていたんだけど、バンギャの先輩がいて、勝手にV系コーナーを作ったことで地元のV系好き女子中高生が集まるスポットとなっていた。バンギャ先輩はバンギャのための「交換ノート」を店内に置き、中高生がそれぞれの贔屓のバンドや推しメンに対する熱い想いを綴ったり、友達募集したり。もちろんバンギャ先輩自身もそれらのメッセージに親身になってコメントを返したり、最新情報を教えてあげたりしていて、ちょっとしたコミュニティが形成されていた。今でこそファン同士の情報交換はSNSが中心だが、当時はPCがようやく家庭に一台普及し始めたばかりの頃だったので、そういったコミュニケーションの場は貴重だったのだ。お陰であの店は、小規模な店舗だったにもかかわらずV系の注文は頻繁に入っていた(cali≠gariのコンドーム付きのCDを中学生くらいの女の子が取り寄せ注文で購入した時は苦笑してしまったが)。私もバンギャ先輩のことはとても尊敬していたし、V系ファンの熱量の高さやファン同士の結束力の高さにとても感心した。
■FINALE ~V系の未来に向かって~
94年頃に興味を持ち始めたV系も97年頃から心が離れ始め、2000年には蔑視すらしていたV系。「V系」は厳密には音楽ジャンルではない反面、奇を衒った見た目やサウンドを奏でるようになることで初期のシーンが持っていた美学が別のものにすり替わってしまったのは否めないし、枠からはみ出ないようにしようとしていたバンドはすべてLUNA SEAや黒夢の二番煎じの域を出なかった。しかし音楽的な定型を持たないからこそとんでもなくオリジナリティのある面白い音楽が生まれるし、狙いすぎてスベりさえしなければ(この匙加減は非常に難しい)とてもクールなシーンだと思う。リアルタイムではスルーしていた作品を今あらためて聴くと素晴らしいものが多いのも事実だし、ZI:KILLやDER ZIBETといった草創期のバンド、私がV系スルーしていた時期に登場したMUCCなど、『すべての道はV系に通ず。』を通して興味を持ったバンドも多い。
加えて、2010年代以降のV系シーンもアツい。中でもLa'veil MizeriA、MEJIBRAY、CHOKE、DEZERT、摩天楼オペラ、キズ、色々な十字架などが気になっている。DIR EN GREY以降、メタル寄りのV系が増えたことも距離を置く理由のひとつだったが、そのDIR EN GREYの『UROBOROS』を昨年購入して気に入ったり、BABYMETALやBring Me the Horizonにハマったりした今となってはメタル寄りのV系に対する抵抗もなくなった。これからのいろんな出会いに期待。
La'veil MizeriA - "INSOMNIA"
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