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スマパンの来る新作『Cyr』がBUCK-TICK『ABRACADABRA』と共通項ありそうで期待大な件

THE-SMASHING-PUMPKINS-Cyr.png
三瓶です

The Smashing Pumpkins(以下スマパン)の2年ぶりのニューアルバム『Cyr』が11月27日にリリースされる予定だ。この新作に収録予定の楽曲がすでに6曲ほどYouTube上に公開されているのだが、それらを聴く限り「もしかしたら(少なくとも2000年代以降の彼らの作品の中では)ベストを更新するレベルの出来なのでは?」と期待せずにはいられない。リリース前の作品について当ブログで単独の記事を書くことは非常に稀なのだけど、何かを書かずにはいられないほどにワクワクしている。というわけで、何がそこまで期待感を煽るのかということについて書いていきたいと思う。





まず初めに書いておくが、僕はスマパンというバンドが大好きだ。スマパンの楽曲を聴いたことがない人でも、洋楽ロック好きであればビリー・コーガンというスキンヘッドの大男がいるバンドという認識くらいは持っていると思うが、僕はこのビリー・コーガンの人間性というかキャラ自体が大好きなのである。その風体に似合わず、幼少期のトラウマなどから極度のネガティヴ思考であり、ウジウジしたひねくれ屋であり、自己中心的な完璧主義者であり、自虐的・自嘲的なキャラクターではあるが、自分もそうした傾向が少なからずあるので惹かれてしまうのかもしれない。自己中がゆえに他のメンバーと折り合いが悪くなることも多々あり、メンバーチェンジが激しいバンドではあるけど、ビリーがいる限りはそれはスマパンなのだ。

もちろん、ビリーのキャラクターだけでなく彼のソングライティングや歌声、つまりは楽曲自体も好きである。彼らの98年作『Adore』は、本国アメリカではウケなかったものの日本では結構売れたのだが、僕の洋楽フェイバリット・アルバムのTOP3には間違いなく入る。

そんな彼らは2000年に一度解散したものの2006年に新メンバーを加えて再結成し、その後も幾度かのメンバーチェンジなど紆余曲折を経て今日まで活動を続けてきた。しかし再結成後のアルバムはいずれも悪い出来ではなかったが、解散前の"完璧な"作品群に比べると見劣りするものではあった。そんな中、2018年にはジェイムズ・イハが復帰してオリジナルメンバーの3/4が揃い『Shiny and Oh So Bright, Vol.1/LP:No Past. No Future. No Sun.』をリリース。イハの復帰に僕は「いよいよ今回のアルバムは全盛期のようなサウンドを期待していいのか?」と非常にテンションが上がったが、結果的には自分の理想とするスマパン像にはほど遠い、中途半端なものに終わった(毎年ブログでやっている「PUBLIC IMAGE REPUBLIC AWARDS」という企画で、堂々の年間ワーストにも選ばれている)。しかしながら僕自身も、90年代の彼らのサウンド・イメージにとらわれ過ぎていたところはあったと思う。

【過去記事】PUBLIC IMAGE REPUBLIC AWARDS 2018

さて、そこで今回の『Cyr』である。前作と似た雰囲気のアートワークを持つこのアルバムは、前作で「Vol.1」と銘打っておきながら今回はVol.2じゃないんかいと思わずツッコミを入れてしまったが、YouTube上にある楽曲を聴く限り、前作の延長線上にあるようなサウンドだと感じた。つまり、ここで鳴らされているのは『Gish』~『Mellon Collie and the Infinite Sadness』期のような──前作の時に僕がスマパンに求めていたような──サウンドではない。

The Smashing Pumpkins - "The Colour Of Love"


The Smashing Pumpkins - "Birch Grove"


それなのに、なぜ『Cyr』に対して傑作の予感を抱いたのか?その理由を述べていこうと思う。


■曲数
いきなり、サウンドそのものに関係のない「曲数」という理由で拍子抜けされたかもしれない。『Cyr』は全20曲入り、72分超の大作であることが発表されているが、スマパンにとって「大作」「長尺」というのは非常に重要な要素なのだ。グラミーにもノミネートされた3作目『Mellon Collie and the Infinite Sadness』は2枚組全28曲。しかしハードロックからアコースティックバラード、ニューウェイヴ風味の打ち込み曲などバラエティ豊かなこの作品は、その幅の広さとヴォリューム感がもたらすカタルシスや、起承転結の効いたファンタジー・スペクタクル映画でも観ているかのような充足感が一つの魅力であると言える。続く『Adore』も全16曲73分、次の『Machina/The Machines of God』は10分近い長尺曲を含む全15曲73分であった。

僕は基本的にはコンパクトで統一感のあるアルバムが好きなのだけど、スマパンだけは例外で、彼らの多面性を物語る静と動の振り幅、そして大作志向なところに惹かれている。彼らが牧歌的なバラードを奏でようと、ゴリゴリヘヴィなハードロックをやろうと、無機質なエレクトロをやろうと、それらは彼らの紡ぎ出すメランコリックなメロディや歌声によって不思議と「スマパン以外の何者でもない音楽」になってしまうのだ。

再結成後のアルバムでは、2014年の『Monuments to an Elegy』は全9曲32分、前作『Shiny and Oh So Bright~』に至っては全8曲31分とコンパクトなものも多く、非常に物足りなさを感じていた。今回はヴォリューム的に「大作」となることは間違いなく、いやが上にも期待値が上がる。


■アートワークやMVから想起される「ゴシック&ダーク」
ビリーはもともとThe CureやBauhaus、Curveなどのファンで、ニューウェイヴやインダストリアルも好んでおり、これまでも数々のミュージックビデオやアートワークなどにおいてゴシック&ダークな要素を強く押し出してきた。『Cyr』の中から公開されている楽曲「Cyr」のMVは“ディストピアな愚行”をテーマにしているらしく、見事なまでにゴシック&ダークで覆われている。さすがにビリーも太ましい体型になり、解散前のようにピタピタの黒い長袖を着たりする妖艶さはないのだけど、フィルム・ノワールな世界観が無機質な楽曲イメージにもマッチしている。

The Smashing Pumpkins - "Cyr"



参考までに、2000年にリリースされた楽曲の大好きなMVも。細くて白くて妖艶なビリーが最高にかっこいい。

The Smashing Pumpkins - "The Everlasting Gaze"



そういったゴシック要素だったりニューウェイヴ寄りの音で思い出されるのが、かの名盤『Adore』だ。しかしアコギやピアノといったアコースティックな音とエレクトロニックなビートを融合させ、当時隆盛していたポスト・ロック/シカゴ音響派の音楽ともどことなくリンクしていた『Adore』と『Cyr』収録曲で決定的に異なるのは、叙情的になり過ぎず、ロック・バンドとしてのダイナミズムも持ち合わせていることだ。


■ヘヴィなギターリフやドラムロールはなし…?
これまで公開された楽曲を聴く限り、90年代のスマパン(あと復活作『Zeitgeist』)に象徴されるヘヴィなギターや、ゴロゴロしたドラムは控えめなのではと思われる。どちらかというと抑揚の少ないリズムが淡々と刻まれる、ニューウェイヴ寄りの音という印象だ。実は、前作『Shiny and Oh So Bright~』で不満だったのはヴォリューム感だけではなく、ヘヴィさが足りない点も非常に大きかった(「Solara」など何曲かはヘヴィではあったが)。イハが復帰したので、どうしても「Jellybelly」や「Quiet」、「The Everlasting Gaze」のようなエネルギッシュで重厚なギター・サウンドを期待してしまったのだ(もっともイハは、ソロ作に象徴されるようにアコースティックでポップな音作りに定評のあるギタリストなのだけど)。

The Smashing Pumpkins - "Wrath"


James Iha - "Be Strong Now"



そのあたりの「ヘヴィさの欠如」も今回の新曲群からは感じられるが、ではなぜイマイチだった前作に近いと感じながらも新作に大いに期待してしまうのか。それは…


■『ABRACADABRA』との関連性
実は最初に『Cyr』収録曲を聴いたとき、正直ガッカリ感の方が大きかった。また前作と同じ路線か、大人しすぎる──しかし2曲、3曲、4曲と次々公開される楽曲を聴くうちに、一つの流れのようなものが見えてきて、それが何かに似ているようにも感じられた。

「あ、これって、BUCK-TICKの最新作『ABRACADABRA』にめちゃくちゃ近い音なのでは?」
※『ABRACADABRA』感想については過去記事にて

【過去記事】Albums of the Month (2020年9月)

ダークでゴシックな音像を奏でながらも、決して「凄み=ヘヴィネス」を押し出すのではなく、あくまでポップに、バンド・サウンドと電子音を緻密に融合させたサウンドにより、軽やかな印象さえ与えるような。ドラムにおいてはキックの低音域やシンバル系の高音域は抑え、ヴォーカルを中心に据えた中音域を邪魔しないようなミキシングになっている。そんなところはまさに『ABRACADABRA』との共通項を感じるし、B-Tが『アトム 未来派 No.9』や『No.0』で突き詰めた重厚感をあっさりと放棄したように、スマパンも全盛期のパブリックイメージである「音圧によるヘヴィネス」を放棄することによって、無機質な電子音と均整の取れたバンド・アンサンブルの中で浮き彫りとなった歌の気迫と、随所に挟み込まれる"逸脱した"音色をさらに際立たせることに成功しているのではないだろうか。何というか、音圧によるヘヴィネスを「肉体的/物理的」と定義するなら、現在のスマパンやBUCK-TICKが持っているヘヴィネスとは「心理的/精神的」という、全く性質の異なるものになるのでは。スマパンの「Confessions Of A Dopamine Addict」という曲とBUCK-TICKの「凍える」を聴き比べても、その辺の共通項が感じられる。

The Smashing Pumpkins - "Confessions Of A Dopamine Addict"


BUCK-TICK - "凍える"



感じ方は人それぞれだと思うが、少なくとも自分は最初「ふーん、スマパンの新曲またおとなしいなあ」と思っていたのが、BUCK-TICKとの共通点を発見した途端、「うわ、これはとんでもなく素晴らしいアルバムになるのでは?」と思えるようになった。ちなみにスマパンは『IN ASHES』という5部作のショート・アニメと連動した楽曲公開も行っていて、これらの曲もすべて新作に収められるようだ。これらの楽曲も良い。

The Smashing Pumpkins - "IN ASHES, EP. 3 (Anno Satana Official Video)"


みんな大好きハンマー・ビート!これはBUCK-TICKというよりEditorsっぽいかも。

Editors - "Like Treasure"



スマパンももうデビューして30年近く経つ。全盛期と言える90年代の彼らと同じようなサウンドをやってほしい思いと、それだけではただの焼き直しなのでつまらないというジレンマ。それは僕だけでなく、ビリー自身も感じていたことだと思う。ここで「過去の自分たち」と「新しい自分たち」を折衷しどっちつかずになる道ではなく、極めて2020年代的なサウンド・アプローチを取り、あらたな道を切り拓いたスマパン。そんな彼らの新作『Cyr』、大いに期待したい。


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