初聴きディスクレポート |
2015年12月に初聴きした音源の感想まとめです。年間ベストに向けた追い込み購入により、先月に続きまたも5つ星多数となりました。
★★★★★ 年間ベスト20位以内クラス*
★★★★☆ すばらしい
★★★☆☆ 標準レベルの良作
★★☆☆☆ 若干気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆ 期待ハズレ
☆☆☆☆☆ 全然ダメでした
*今年リリースでない場合、旧譜のみの年間ベスト20位以内クラス
12月のALBUM OF THE MONTHは、今年の紅白歌合戦にも出場するこのグループ。
■ALBUM OF THE MONTH■
乃木坂46 / 透明な色 [TYPE-B] (2015)
★★★★★
AKB48の公式ライバルであり、今年の紅白歌合戦にも初出場が決定している乃木坂46。本作は彼女たちの1stアルバムであり、2012年のデビューから2014年末までにリリースされたシングル表題曲10曲に加え、投票で選ばれた人気カップリング曲と新曲をプラスした2枚組全29曲という、この3年間の活動の集大成とも言える内容。
先月購入したAKB48のベスト盤が思いのほか良くて、かねてから「AKBグループの中では乃木坂が一番曲が良い」と聞いていたので購入。そしてその評判通り、とにかく曲がどれも素晴らしかった。多数の優れたソングライターが楽曲を提供しているため、単純にメロディが良いのはある意味当然とも言えるのだけど、それに加え歌詞・歌声・アレンジどれをとってもポップ・ミュージックとして非常にクオリティが高い。
AKB48と比べて最も大きく異なるのは、乃木坂46はコンセプト重視・雰囲気重視のグループであるという点だろう。フレンチ・ポップスや昭和歌謡をモチーフにしたような、ストリングスやチェンバロ、タンバリンといった楽器がフィーチャーされており、そのせいかノスタルジックな曲調が多いところも琴線に触れた。また歌詞も、学校を舞台に思春期の男女特有の甘酸っぱい感情や心の葛藤などをテーマにした情緒豊かなものが多く、サウンドと声、歌詞が一体となってコンセプト性やシアトリカルなムードを高めている。だいたい、"君のことを考えた 僕が死んだ日のことを…"(「僕がいる場所」)で始まるアイドルソングがこれまでにあっただろうか。この一節こそが乃木坂46の楽曲群からにじみ出る「思春期の刹那に存在する君と僕」という一貫したテーマ(※あくまで私見です)を象徴していると思う。
デビュー曲「ぐるぐるカーテン」に、本作を聴く前から知っていた唯一の曲「おいでシャンプー」(間奏のストリングスはシルヴィ・バルタン「La Plus Belle Pour Aller Danser (アイドルを探せ)」のオマージュか)、「制服のマネキン」(メンバーの恋愛禁止を謳っている秋元康自身がこの詞を書いたというのがすごい)、キャッチーに弾ける「ガールズルール」と「夏のFree & Easy」に、哀愁漂う「バレッタ」と「気付いたら片思い」etc、とにかくよくもこんなにいい曲ばかり揃えたなと思う。そしてその頂点と言えるのが5枚目のシングル「君の名は希望」。紅白でも歌われる予定のこの曲は、もしもシングルリリースが今年だったら間違いなく年間ベストトラック1位に挙げていたであろう超絶名曲。
Disc1は基本的にシングル表題曲が時系列に並んでいるだけだけど、ライブのオープニングに使われているインスト「Overture」で始まり生田絵梨花のソロによるピアノバラード「あなたのために弾きたい」でしっとり締める構成は、本作をコンセプチュアルな作品として纏め上げている大きな要因となっている。
Disc2に収められたカップリング曲群も、人気投票上位とあっていい曲揃いなのだけど、アルバム用に作られた新曲までもが全くの手加減なしというのもすごい。ストリングスを全面的に押し出し、大空を飛んでいくようなイメージの「誰かは味方」、そして先述の「僕がいる場所」「あなたのために弾きたい」など、いずれもシングル曲に劣らぬクオリティの楽曲ばかりだった。
乃木坂46 - "君の名は希望"
Editors / In Dream (2015)
★★★★★
UKの5人組バンドの5作目。初期2作こそポストパンク然としたギターロックだったものの、3rd『In This Light and on This Evening』(傑作!)ではニューウェーヴ色を強め、デカダンなムードに満ちたダーク・エレクトロを展開。スタジアム・ロックに舵を切った4thをはさみ、本作では再び『In This Light~』の進化形とも言えるゴシックなニューウェーヴ路線に回帰してくれてとにかく嬉しい。
『In This Light~』と比べ、こちらはよりダークで、より無機質で、より美しく、より静謐。特にM4「Salvation」は、ピアノとストリングスが描くモノクロームの耽美な世界観の中でトム・スミスのバリトン・ヴォーカルがとても映える。またM2、6、9でバッキング・ヴォーカルを添えているSlowdiveのレイチェルの幽玄な歌声も印象的だった。
Editors - "Life Is A Fear"
Coldplay / A Head Full of Dreams (2015)
★★★★★
2014年の前作『Ghost Stories』に続く7作目。前作リリース時は数ヶ所のみのツアーに留め、すぐに本作の制作に入ったという彼らだが、内省的だった前作とは180度異なるカラフルで開放的な作風となっている。おそらく前作の制作前からすでにこの二作を対比させる構想はあったのだろう。
先行シングル「Adventure of A Lifetime」を初めて聴いた時はそのダンサブルな四つ打ちサウンドに驚きつつ、 アルバムの全体像には若干の不安感も抱いていた。しかしフタを開けてみれば、さすがのColdplay節ともいえる美メロの応酬。5作目『Mylo Xyloto』に収録されていたRihannaをフィーチャーした「Princess of China」は少々話題作り感が強い印象もあったのだけど、本作のBeyoncéをフィーチャーした「Hymn for the Weekend」は狙った感もなく、ごく自然なコラボになっていてアルバムにもすんなり馴染んでいる。「ポップ・バンド」としての役割を自覚し「キャッチーな良い曲を書くこと」を守りつつも、常に新たなサウンドを求めて進化を続ける姿勢は実に彼ららしい。
Coldplay - "Adventure of A Lifetime"
Archy Marshall / A New Place 2 Drown (2015)
★★★★★
Zoo KidやKing Krule名義で活動していたArchy Marshallが本人名義で突如発表した新作は、兄ジャックとの共作による208ページに及ぶアート・ブック、12曲収録のサウンドトラック、10分のドキュメンタリー映像などのメディア・ミックス作品。今回は音源のみをデジタルで購入した。
元々ヒップホップの要素が強いアーティストだったけど、ブルースやジャズなども多分に含まれていた過去作に比べ、本作はドープでイルでトリッピーなヒップホップを突き詰めた感じに。Tylor, the CreatorやEarl Sweatshirtを彷彿させる尖りまくりのビートとミニマルでアンビエントな音がゆらゆらと霞のように浮遊するトラック上で、アーチーはときにつぶやくように、ときに吐き捨てるようにルースなラップ&ヴォーカルを紡いでいる。
トラックはアーチーが作っていると思うけど(そうであってほしい)、サンプラーやシーケンサーを初めて使う5歳児のような(でもリズム感だけは正確な)、プリミティヴで無邪気さに溢れたトラックメイク・センスは本当に天才的。
Archy Marshall - "A New Place 2 Drown (Trailer)"
Bat for Lashes / Two Suns (2009)
★★★★★
デビューアルバムに続いて再びマーキュリー・プライズにノミネートされた2nd。
彼女のアルバムは3rd⇒1st⇒2ndの順で聴いたのだけど、当ブログの「2010年代前半ベストトラック」でも10位にランクインした「Laura」を収録した3rd『The Haunted Man』を余裕で越えるレベルだった。こだわり抜いた緻密なビートと各エレメントの構成、音の配置はヘッドホンで注意深く聴けば聴くほど新しい発見があり、魅力が増していく。ともすればアヴァンギャルにもなりがちなサウンドを、絶妙なラインでポップにまとめあげるセンスも素晴らしい。
ナターシャ・カーンの静謐かつエモーショナルな歌声と、Pearlと名乗る自らのオルター・エゴを主人公とするストーリーとが溶け合い、独特のお伽絵巻のような世界観を生み出しているところも興味深い。
Bat for Lashes - "Daniel"
Oneohtrix Point Never / Garden of Delete (2015)
★★★★★
Ford & Lopatinでの活動でも知られるDaniel Lopatinの7作目。2013年の前作『R Plus Seven』に続いてのWarpからのリリース。僕は本作と前作しか聴いていない(しかも聴いたのは今年に入ってから)のだけど、この2作はかなり質感が異なっている。
前作は古いMIDI音源のような音色を用い(そのせいかニューエイジっぽいムードがあった)、アンビエント~ドローンを基調としたサウンドだった。集中して聴かないと聴き流してしまいそうな、心地良くも奇妙なゲームBGMのようでもあった。しかし本作はいかにもWarpからのリリースらしく、先鋭的なビートが強調されたアグレッシヴな電子音楽となっている。アグレッシヴではあるけど、その「かっこよさ」が要所要所でわかりやすく提示されていて、非常にポップな作品と言える。
Oneohtrix Point Never - "Mutant Standard"
Danny Brown / Old (2013)
★★★★★
デトロイト出身のラッパーの3作目。音楽メディア・個人ブログともに2013年の年間ベストの上位でよく見かけた作品で、当時から気になっていた。
トラックも声もラップのフロウも好きというラッパーはあまりいないのだけど、彼はその全てが好みだった。André 3000(Outkast)を少し早送りしたような声質の高速ラップはとてもかっこいいし、RustieやA-Trakがプロデュースを手掛けるトラックもTrapやグライムを内包していて先鋭的。でも何より曲がキャッチーだと思う。そのキャッチーさはPurity RingやCharli XCXらをフィーチャーしていることとも無関係ではないはず。
Danny Brown - "25 Bucks feat. Purity Ring"
Ellie Goulding / Delirium (2015)
★★★★★
いまや本国UK以上にUSでも大人気の女性SSWによる3rd。映画『Fifty Shades of Grey』のために書き下ろされたシングル「Love Me like You Do」を聴いた限りでは安直過ぎるメロディーやありきたりなサウンドが全く好きではなかった。元々彼女のフォーク・ミーツ・エレクトロな哀愁サウンドが好きだったので、今回のアルバムはTaylor SwiftやCarly Rae Jepsenの近作のようにポップに弾けた作品になってしまうのではないかという懸念すらあった。
しかしそんな心配は無用。確かに過去作と比べてメインストリーム化はさらに進み、完全にエレクトロ・ポップな作風にはなっているけど、これまでの彼女らしい繊細さと荘厳さ、そして「陰」の部分はしっかりと残されている。何より今回も曲がよく書けている(Greg Kurstin、One RepublicのRyan Tedder、Max Martinらが参加)し、アルバムを通して聴いてみるとあの「Love Me like You Do」もだんだんと好きに思えてくるから不思議。
Ellie Goulding - "On My Mind"
Awesome City Club / Awesome City Tracks 2 (2015)
★★★★☆
今年4月に『Awesome City Tracks』でメジャーデビューを果たした5人組が早くも9月にリリースした2nd作。ともに全7曲とヴォリュームは少なめながら、「コンパクトな内容でも出来た曲から短いスパンでリリースしていく」という姿勢は今の時代には合っていると思うし、その辺はかなり意図的にやっているのだろう。
1stも楽曲クオリティは相当な高さだったけど、本作は「スタイリッシュ、アーバン、ダンサブル」という彼らの魅力がよりブラッシュアップされたように思う。前作ではファンクやソウル的なグルーヴをJ-POP流解釈で軽快に鳴らしていたのに対し、本作はエレクトロ・ポップ的な要素がさらに増し、ビートに対するこだわりも随所に覗かせている。おそらくまた早い段階で3作目もリリースされると思うけど、さらなる進化が期待できそうなバンドのひとつ。
Justin Bieber / Purpose (2015)
★★★★☆
カナダ出身のSSWによる4作目。デビュー当初こそティーン・ポップらしさに溢れていたけど、前作『Believe』から本格的なR&Bやダンス・ポップ路線に振り切れ、遂にその進化系とも言える洗練された、色気に満ちた作品が完成したと思う。
先日のミュージック・ステーションでも披露された名曲「What Do You Mean?」、そしてDiploとSkrillexによるユニットJack Üとの「Where Are Ü Now」が収録され、がっつりダンス寄りのアッパーなアルバムになるのか?と思いきや、しっとりと落ち着いたシンプルなバラードやミディアム・テンポな曲が目立ち、最初だけ少し肩透かしを食らった。でも「Love Yourself」(Ed Sheeranとの共作)や「Life Is Worth Living」をはじめ、これらのスロー~ミディアム曲も聴けば聴くほど染みてくるし、むしろ本作のカラーとしてはこちらの方が重要な要素となっている。
Grimes / Art Angels (2015)
★★★★☆
カナダ出身のClaire Boucherによるプロジェクトの4作目(4ADからは2作目)。世間的にも高い評価を得たブレイクスルー作『Visions』の頃はピンと来ず今までスルーしていたけど、今回先行公開された「Fresh without Blood」がかなり良かったので初めて彼女のアルバムを購入した。
オープニングこそゴシックでメルヘンチックながら、以降は基本的に「Fresh without Blood」同様めちゃくちゃキャッチーでドリーミーなエレクトロ・ポップ。同じ曲の中にも小悪魔やダミ声、正統派ポップス系シンガーなど多様な声のペルソナを混在させる歌唱も良い。「Kill V. Maim」と「Venus Fly」のような、パンキッシュだったり不穏だったりするトラックが特にお気に入り。
Muse / Drones (2015)
★★★★☆
当代最高のライブバンドである(と個人的に思う)UK出身3人組の7作目。
ダブステップなどエレクトロニックな要素を強めた前作『The 2nd Law』から一転、これまでで最もハードロック色の強い作品だ。ミックスが丁寧でとても良い音質で録られているものの、これまでの彼らの中ではやや無難な作品かもしれない。シンセは控えめでギターを主軸に置いているけど奇天烈なギタープレイ&エフェクトはそれほど目立っておらず、クリスによる印象的なベース・リフも特にない。耳あたりが良いせいか、各パートのアレンジ面で彼らの魅力の一つであった変態性が物足りないように感じた。よって本作で初めて彼らの音に触れる人や、今まで彼らの過剰さや変態性が苦手だった人にはすんなり聴ける作品かもしれない。
また、明るくメロディアスな楽曲がかつてないほど多いのもその「耳あたりの良さ」の要因の一つだろう。個人的にはそういった曲よりも、本作で言えば「The Handler」のようなダーク&ヘヴィな曲の方が好きなのだけど。
The Who / Quadrophenia (邦題:四重人格) (1973)
★★★★☆
The Beatles、The Rolling Stonesと並びUK三大ロック・バンドの一つ、The Whoの6作目。4作目『Tommy』同様、ロック・オペラ的手法が採られた80分超の大作である。
コンセプト作ということとジャケのかっこよさに惹かれたのだけど、内容も素晴らしかった。シンセやホーン、ピアノなど多彩な楽器を使用し(3曲のピアノ以外は全てメンバーによる演奏)、波音のサンプリングやインスト曲も交えた楽曲は情景豊かで、ブックレットに記載されたショート・ストーリーを読みながら聴くとさらに想像力が掻き立てられる。これが73年の作品だという事実にただただ驚愕。
AKB48 / 0と1の間 [COMPLETE EDITION] (2015)
★★★★☆
劇場オープンとグループ発足10周年を記念してリリースされたベスト盤。先月購入した同タイトルは予備知識なかったがゆえに収録曲数の少ない[THEATER EDITION]だったため、これまでの全シングルを収録した[COMPLETE EDITON]の方をレンタル。
初期はほとんど初めて聴く曲ばかりだったけど、モロにビーイング系だったり(デビュー曲「桜の花びらたち」や「僕の太陽」なんて完全にそれ)SPEEDっぽかったり(「軽蔑していた愛情」、「夕陽を見ているか?」)SMAPっぽかったり(「Baby! Baby! Baby!」)と90年代感の強い作風には懐かしさを覚えた。
この頃はドラムの打ち込みがチープだったり各ヴォーカルのミックスバランスがおかしかったりと、楽曲のクオリティは正直あまり高くはない。でも「大声ダイヤモンド」あたりから現在のAKBへと繋がる(そして現行の「アイドル・ポップ」なサウンドの雛型となる)ベクトルが定まり始めたように思う。この頃から楽曲のクオリティも格段に上がっていき、「ポニーテールとシュシュ」と「ヘビーローテーション」でそのアイデンティティを確立するまでの過程がよくわかり、付属していたDVD「DECADE〜AKB48 10年の軌跡〜」と併せて彼女たちの成長ぶりが非常に興味深かった。
にしても、[THEATER EDITION]に未収録だった「桜の栞」という2010年のシングルを今回初めて聴いたのだけど、こんなにも美しい合唱曲をAKBが歌っていたとは。このシングルは初動で30万枚も売れた有名な曲だそうで、自分が今までどれだけAKBに興味がなかったのかということを痛感させられた。
The Kinks / Arthur (Or the Decline and Fall of the
British Empire)
(邦題:アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡)
(1969)
★★★☆☆
1964年結成、イギリスを代表するバンドの7作目でありコンセプト作(Queen、The Who、ELOと、最近とにかくコンセプト・アルバムにハマっているのです)。
ベスト盤以外で彼らのアルバムを聴くのは今回が初めてだけど、初期の「You Really Got Me」の頃とはだいぶ趣の異なるサウンド。中後期のThe Beatlesっぽい「Victoria」は名曲だと思うし、中盤に配置された長尺曲「Australia」もサイケデリックなプログレ・サウンドでかっこいいし、「She Bought A Hat Like Princess Marina」のディキシーランド風なアレンジも好き。全体的にキャッチーなメロディーに貫かれ、レイドバックしたユルさがありつつもしっかりロックしている感じはBlur(「Yes Sir, No Sir」なんてまんま94~95年頃のBlurにメロディー運びがソックリ!)や奥田民生っぽさも感じさせる。
ROTH BART BARON / Atom (2015)
★★★☆☆
今年のサマソニで観たライブも良かった2人組バンドの2nd。カナダはモントリオールにあるHotel2Tango(Godspeed You! Black Emperorのマウロが所有するスタジオ)で大半がレコーディングされたそうで、音作りもどこかカナダのポストロック~アート・ロックの臭いが感じられる。
ライブではオーガニックで牧歌的なポストロックという印象を抱いたのだけど、音源では幽玄だったりラフだったりと多様性に富んでいる。ときおり聞こえてくる荒削りなギターの音がローファイ感すら漂わせ、サックスの甘美な音色を響かせるクリスマス情緒に満ちたその名も「X-Mas」などはAORまでをも内包している。
サウンドも良いけど、最も魅力を感じたのは歌詞。まるで洋楽の歌詞の対訳のような(といっても漠然とし過ぎているけど、それ以外に的確な表現が思い浮かばない)シニカルな暗喩、そして短いワンセンテンスを並べることでストーリーよりも想像力を掻き立てるタイプの歌詞は非常に奥ゆかしい。
その言葉を紡ぐヴォーカルはほぼ全編にわたってファルセットで歌われているけど、これはもっと多重コーラスで重厚にしたり、リヴァーヴで奥行きを出したりした方がより楽曲の雰囲気にマッチするのではと思った。
きのこ帝国 / 猫とアレルギー (2015)
★★☆☆☆
4人組ロック・バンドによる、EMIからとなるメジャーデビュー・アルバム(ミニアルバム含めて通算4作目)。
前作『フェイクワールドワンダーランド』も、メジャーデビュー・シングル「桜が咲く前に」もとても良かったので期待していたけど、残念ながら次第点。『フェイクワールド~』ではギターもベースもドラムもいわゆる「Nirvana、Radiohead以降の邦楽オルタナティヴ・ロック」の概念から離れ自由奔放に奏でられていたイメージがあり、僕にとってはそこが最大の魅力に感じられたのだけど、本作ではまた『渦になる』や『eureka』の頃に戻ったような感じがある。
確かに佐藤の歌い方も歌詞も、そしてピアノを大幅に導入したサウンドも、初期の重苦しさとは異なり前向きで明るい感じもある。でも、各楽器の音作りやフレーズがとてもクリシェに感じられた。「あーまた邦楽オルタナ系バンド特有の感じが出てしまってるな」みたいな。「YOUTHFUL ANGER」のざらついたミックスなんて、1997年ならともかく今それをやってしまうか。
歌詞にしてもCanとかThe Smithsの名を出しているのがあざとすぎてちょっとサムい。佐藤のヴォーカルは以前よりも透明度が増しながらも力強くエモーショナルでとても良くなっただけに他の部分のアラが目立ち、それがとてももったいなく思う。
Adele / 25 (2015)
★★☆☆☆
前作『21』が3,200万枚という驚異的なセールスを打ち立てたイギリスの女性SSWによる3作目。今回もとてつもない勢いで売れ、発売から1ヶ月ほどですでに1,000万枚(アメリカだけで600万枚)を突破したらしい。
先行シングルとなった1曲目「Hello」をはじめとする、彼女の持ち味を生かした哀愁たっぷりの失恋ソングはどれもドラマティックなアレンジが施され、もはや「感動の涙の押し売り」状態。でも、そのエモーショナル過剰な楽曲を歌声の魅力でねじ伏せ、「確かにこのアレンジが必要だよな」と納得させてしまうところはさすが。Greg Kurstinとの共作による「Million Years Ago」におけるボサノヴァ風のシンプルなアレンジも新鮮でとても良かった。
しかし、だ。「Send My Love (To Your New Lover)」だけはダメ。ていうか何この曲?Katy Perryが歌うのならともかく、なぜAdeleにこんな軽い曲をやらせるのか?この曲はMax MartinとShellbackとの共作だけど、二人とも僕の大好きなプロデューサだ。Greg Kurstinと合わせ、彼らはLily Allen、Katy Perry、Charli XCXといった女性ポップシンガーとの相性が抜群なプロデューサーだと思う。そんな中でもGregは「Million Years Ago」で、彼らしさも残しつつAdeleの魅力を最大限に引き立てているのに、「Send My~」におけるMaxとShellbackの自己満っぷりは何なんだろう。こんな浮きまくった曲を2曲目に、しかも「Hello」の荘厳なムードの後に配置して余韻もぶち壊しているし、アルバム全体のイメージも大きく損なってしまっている。この曲がなければ(せめて後半に配置されていれば)もっと評価は上だっただろうし、2015年の年間ワースト・トラックの座を与えたいくらい。
L'Arc~en~Ciel / The Best of L'Arc~en~Ciel c/w
(2003)
★★☆☆☆
初期(時期的には95年から2000年まで)のシングルのB面曲集。特にsakura在籍時の曲はどれもB面にはもったいないぐらいに佳曲揃いで、ファン人気の高い曲がこの中に多いのも頷ける。「a swell in the sun」や「花葬 -1014 mix-」などyukihiroによる作曲(またはリミックス)のインダストリアル色の強いダークな曲が続く後半も良い。
ただ、同時発売されたベスト盤『1994-1998』と『1998-2000』同様に企画に関してはメンバーは関与しておらず、そのせいか曲順は単なるリリース順。おそらくメンバーが企画に関わっていたらこの曲順にはしないだろう。いきなりサビから始まる「Brilliant Years」がアルバムの1曲というのはかなりの違和感がある。収録されている曲はどれも良かったけど、曲順のせいで作品としては低評価とした。
乃木坂46 / 透明な色 [TYPE-B] (2015)
★★★★★
AKB48の公式ライバルであり、今年の紅白歌合戦にも初出場が決定している乃木坂46。本作は彼女たちの1stアルバムであり、2012年のデビューから2014年末までにリリースされたシングル表題曲10曲に加え、投票で選ばれた人気カップリング曲と新曲をプラスした2枚組全29曲という、この3年間の活動の集大成とも言える内容。
先月購入したAKB48のベスト盤が思いのほか良くて、かねてから「AKBグループの中では乃木坂が一番曲が良い」と聞いていたので購入。そしてその評判通り、とにかく曲がどれも素晴らしかった。多数の優れたソングライターが楽曲を提供しているため、単純にメロディが良いのはある意味当然とも言えるのだけど、それに加え歌詞・歌声・アレンジどれをとってもポップ・ミュージックとして非常にクオリティが高い。
AKB48と比べて最も大きく異なるのは、乃木坂46はコンセプト重視・雰囲気重視のグループであるという点だろう。フレンチ・ポップスや昭和歌謡をモチーフにしたような、ストリングスやチェンバロ、タンバリンといった楽器がフィーチャーされており、そのせいかノスタルジックな曲調が多いところも琴線に触れた。また歌詞も、学校を舞台に思春期の男女特有の甘酸っぱい感情や心の葛藤などをテーマにした情緒豊かなものが多く、サウンドと声、歌詞が一体となってコンセプト性やシアトリカルなムードを高めている。だいたい、"君のことを考えた 僕が死んだ日のことを…"(「僕がいる場所」)で始まるアイドルソングがこれまでにあっただろうか。この一節こそが乃木坂46の楽曲群からにじみ出る「思春期の刹那に存在する君と僕」という一貫したテーマ(※あくまで私見です)を象徴していると思う。
デビュー曲「ぐるぐるカーテン」に、本作を聴く前から知っていた唯一の曲「おいでシャンプー」(間奏のストリングスはシルヴィ・バルタン「La Plus Belle Pour Aller Danser (アイドルを探せ)」のオマージュか)、「制服のマネキン」(メンバーの恋愛禁止を謳っている秋元康自身がこの詞を書いたというのがすごい)、キャッチーに弾ける「ガールズルール」と「夏のFree & Easy」に、哀愁漂う「バレッタ」と「気付いたら片思い」etc、とにかくよくもこんなにいい曲ばかり揃えたなと思う。そしてその頂点と言えるのが5枚目のシングル「君の名は希望」。紅白でも歌われる予定のこの曲は、もしもシングルリリースが今年だったら間違いなく年間ベストトラック1位に挙げていたであろう超絶名曲。
Disc1は基本的にシングル表題曲が時系列に並んでいるだけだけど、ライブのオープニングに使われているインスト「Overture」で始まり生田絵梨花のソロによるピアノバラード「あなたのために弾きたい」でしっとり締める構成は、本作をコンセプチュアルな作品として纏め上げている大きな要因となっている。
Disc2に収められたカップリング曲群も、人気投票上位とあっていい曲揃いなのだけど、アルバム用に作られた新曲までもが全くの手加減なしというのもすごい。ストリングスを全面的に押し出し、大空を飛んでいくようなイメージの「誰かは味方」、そして先述の「僕がいる場所」「あなたのために弾きたい」など、いずれもシングル曲に劣らぬクオリティの楽曲ばかりだった。
乃木坂46 - "君の名は希望"
Editors / In Dream (2015)
★★★★★
UKの5人組バンドの5作目。初期2作こそポストパンク然としたギターロックだったものの、3rd『In This Light and on This Evening』(傑作!)ではニューウェーヴ色を強め、デカダンなムードに満ちたダーク・エレクトロを展開。スタジアム・ロックに舵を切った4thをはさみ、本作では再び『In This Light~』の進化形とも言えるゴシックなニューウェーヴ路線に回帰してくれてとにかく嬉しい。
『In This Light~』と比べ、こちらはよりダークで、より無機質で、より美しく、より静謐。特にM4「Salvation」は、ピアノとストリングスが描くモノクロームの耽美な世界観の中でトム・スミスのバリトン・ヴォーカルがとても映える。またM2、6、9でバッキング・ヴォーカルを添えているSlowdiveのレイチェルの幽玄な歌声も印象的だった。
Editors - "Life Is A Fear"
Coldplay / A Head Full of Dreams (2015)
★★★★★
2014年の前作『Ghost Stories』に続く7作目。前作リリース時は数ヶ所のみのツアーに留め、すぐに本作の制作に入ったという彼らだが、内省的だった前作とは180度異なるカラフルで開放的な作風となっている。おそらく前作の制作前からすでにこの二作を対比させる構想はあったのだろう。
先行シングル「Adventure of A Lifetime」を初めて聴いた時はそのダンサブルな四つ打ちサウンドに驚きつつ、 アルバムの全体像には若干の不安感も抱いていた。しかしフタを開けてみれば、さすがのColdplay節ともいえる美メロの応酬。5作目『Mylo Xyloto』に収録されていたRihannaをフィーチャーした「Princess of China」は少々話題作り感が強い印象もあったのだけど、本作のBeyoncéをフィーチャーした「Hymn for the Weekend」は狙った感もなく、ごく自然なコラボになっていてアルバムにもすんなり馴染んでいる。「ポップ・バンド」としての役割を自覚し「キャッチーな良い曲を書くこと」を守りつつも、常に新たなサウンドを求めて進化を続ける姿勢は実に彼ららしい。
Coldplay - "Adventure of A Lifetime"
Archy Marshall / A New Place 2 Drown (2015)
★★★★★
Zoo KidやKing Krule名義で活動していたArchy Marshallが本人名義で突如発表した新作は、兄ジャックとの共作による208ページに及ぶアート・ブック、12曲収録のサウンドトラック、10分のドキュメンタリー映像などのメディア・ミックス作品。今回は音源のみをデジタルで購入した。
元々ヒップホップの要素が強いアーティストだったけど、ブルースやジャズなども多分に含まれていた過去作に比べ、本作はドープでイルでトリッピーなヒップホップを突き詰めた感じに。Tylor, the CreatorやEarl Sweatshirtを彷彿させる尖りまくりのビートとミニマルでアンビエントな音がゆらゆらと霞のように浮遊するトラック上で、アーチーはときにつぶやくように、ときに吐き捨てるようにルースなラップ&ヴォーカルを紡いでいる。
トラックはアーチーが作っていると思うけど(そうであってほしい)、サンプラーやシーケンサーを初めて使う5歳児のような(でもリズム感だけは正確な)、プリミティヴで無邪気さに溢れたトラックメイク・センスは本当に天才的。
Archy Marshall - "A New Place 2 Drown (Trailer)"
Bat for Lashes / Two Suns (2009)
★★★★★
デビューアルバムに続いて再びマーキュリー・プライズにノミネートされた2nd。
彼女のアルバムは3rd⇒1st⇒2ndの順で聴いたのだけど、当ブログの「2010年代前半ベストトラック」でも10位にランクインした「Laura」を収録した3rd『The Haunted Man』を余裕で越えるレベルだった。こだわり抜いた緻密なビートと各エレメントの構成、音の配置はヘッドホンで注意深く聴けば聴くほど新しい発見があり、魅力が増していく。ともすればアヴァンギャルにもなりがちなサウンドを、絶妙なラインでポップにまとめあげるセンスも素晴らしい。
ナターシャ・カーンの静謐かつエモーショナルな歌声と、Pearlと名乗る自らのオルター・エゴを主人公とするストーリーとが溶け合い、独特のお伽絵巻のような世界観を生み出しているところも興味深い。
Bat for Lashes - "Daniel"
Oneohtrix Point Never / Garden of Delete (2015)
★★★★★
Ford & Lopatinでの活動でも知られるDaniel Lopatinの7作目。2013年の前作『R Plus Seven』に続いてのWarpからのリリース。僕は本作と前作しか聴いていない(しかも聴いたのは今年に入ってから)のだけど、この2作はかなり質感が異なっている。
前作は古いMIDI音源のような音色を用い(そのせいかニューエイジっぽいムードがあった)、アンビエント~ドローンを基調としたサウンドだった。集中して聴かないと聴き流してしまいそうな、心地良くも奇妙なゲームBGMのようでもあった。しかし本作はいかにもWarpからのリリースらしく、先鋭的なビートが強調されたアグレッシヴな電子音楽となっている。アグレッシヴではあるけど、その「かっこよさ」が要所要所でわかりやすく提示されていて、非常にポップな作品と言える。
Oneohtrix Point Never - "Mutant Standard"
Danny Brown / Old (2013)
★★★★★
デトロイト出身のラッパーの3作目。音楽メディア・個人ブログともに2013年の年間ベストの上位でよく見かけた作品で、当時から気になっていた。
トラックも声もラップのフロウも好きというラッパーはあまりいないのだけど、彼はその全てが好みだった。André 3000(Outkast)を少し早送りしたような声質の高速ラップはとてもかっこいいし、RustieやA-Trakがプロデュースを手掛けるトラックもTrapやグライムを内包していて先鋭的。でも何より曲がキャッチーだと思う。そのキャッチーさはPurity RingやCharli XCXらをフィーチャーしていることとも無関係ではないはず。
Danny Brown - "25 Bucks feat. Purity Ring"
Ellie Goulding / Delirium (2015)
★★★★★
いまや本国UK以上にUSでも大人気の女性SSWによる3rd。映画『Fifty Shades of Grey』のために書き下ろされたシングル「Love Me like You Do」を聴いた限りでは安直過ぎるメロディーやありきたりなサウンドが全く好きではなかった。元々彼女のフォーク・ミーツ・エレクトロな哀愁サウンドが好きだったので、今回のアルバムはTaylor SwiftやCarly Rae Jepsenの近作のようにポップに弾けた作品になってしまうのではないかという懸念すらあった。
しかしそんな心配は無用。確かに過去作と比べてメインストリーム化はさらに進み、完全にエレクトロ・ポップな作風にはなっているけど、これまでの彼女らしい繊細さと荘厳さ、そして「陰」の部分はしっかりと残されている。何より今回も曲がよく書けている(Greg Kurstin、One RepublicのRyan Tedder、Max Martinらが参加)し、アルバムを通して聴いてみるとあの「Love Me like You Do」もだんだんと好きに思えてくるから不思議。
Ellie Goulding - "On My Mind"
Awesome City Club / Awesome City Tracks 2 (2015)
★★★★☆
今年4月に『Awesome City Tracks』でメジャーデビューを果たした5人組が早くも9月にリリースした2nd作。ともに全7曲とヴォリュームは少なめながら、「コンパクトな内容でも出来た曲から短いスパンでリリースしていく」という姿勢は今の時代には合っていると思うし、その辺はかなり意図的にやっているのだろう。
1stも楽曲クオリティは相当な高さだったけど、本作は「スタイリッシュ、アーバン、ダンサブル」という彼らの魅力がよりブラッシュアップされたように思う。前作ではファンクやソウル的なグルーヴをJ-POP流解釈で軽快に鳴らしていたのに対し、本作はエレクトロ・ポップ的な要素がさらに増し、ビートに対するこだわりも随所に覗かせている。おそらくまた早い段階で3作目もリリースされると思うけど、さらなる進化が期待できそうなバンドのひとつ。
Justin Bieber / Purpose (2015)
★★★★☆
カナダ出身のSSWによる4作目。デビュー当初こそティーン・ポップらしさに溢れていたけど、前作『Believe』から本格的なR&Bやダンス・ポップ路線に振り切れ、遂にその進化系とも言える洗練された、色気に満ちた作品が完成したと思う。
先日のミュージック・ステーションでも披露された名曲「What Do You Mean?」、そしてDiploとSkrillexによるユニットJack Üとの「Where Are Ü Now」が収録され、がっつりダンス寄りのアッパーなアルバムになるのか?と思いきや、しっとりと落ち着いたシンプルなバラードやミディアム・テンポな曲が目立ち、最初だけ少し肩透かしを食らった。でも「Love Yourself」(Ed Sheeranとの共作)や「Life Is Worth Living」をはじめ、これらのスロー~ミディアム曲も聴けば聴くほど染みてくるし、むしろ本作のカラーとしてはこちらの方が重要な要素となっている。
Grimes / Art Angels (2015)
★★★★☆
カナダ出身のClaire Boucherによるプロジェクトの4作目(4ADからは2作目)。世間的にも高い評価を得たブレイクスルー作『Visions』の頃はピンと来ず今までスルーしていたけど、今回先行公開された「Fresh without Blood」がかなり良かったので初めて彼女のアルバムを購入した。
オープニングこそゴシックでメルヘンチックながら、以降は基本的に「Fresh without Blood」同様めちゃくちゃキャッチーでドリーミーなエレクトロ・ポップ。同じ曲の中にも小悪魔やダミ声、正統派ポップス系シンガーなど多様な声のペルソナを混在させる歌唱も良い。「Kill V. Maim」と「Venus Fly」のような、パンキッシュだったり不穏だったりするトラックが特にお気に入り。
Muse / Drones (2015)
★★★★☆
当代最高のライブバンドである(と個人的に思う)UK出身3人組の7作目。
ダブステップなどエレクトロニックな要素を強めた前作『The 2nd Law』から一転、これまでで最もハードロック色の強い作品だ。ミックスが丁寧でとても良い音質で録られているものの、これまでの彼らの中ではやや無難な作品かもしれない。シンセは控えめでギターを主軸に置いているけど奇天烈なギタープレイ&エフェクトはそれほど目立っておらず、クリスによる印象的なベース・リフも特にない。耳あたりが良いせいか、各パートのアレンジ面で彼らの魅力の一つであった変態性が物足りないように感じた。よって本作で初めて彼らの音に触れる人や、今まで彼らの過剰さや変態性が苦手だった人にはすんなり聴ける作品かもしれない。
また、明るくメロディアスな楽曲がかつてないほど多いのもその「耳あたりの良さ」の要因の一つだろう。個人的にはそういった曲よりも、本作で言えば「The Handler」のようなダーク&ヘヴィな曲の方が好きなのだけど。
The Who / Quadrophenia (邦題:四重人格) (1973)
★★★★☆
The Beatles、The Rolling Stonesと並びUK三大ロック・バンドの一つ、The Whoの6作目。4作目『Tommy』同様、ロック・オペラ的手法が採られた80分超の大作である。
コンセプト作ということとジャケのかっこよさに惹かれたのだけど、内容も素晴らしかった。シンセやホーン、ピアノなど多彩な楽器を使用し(3曲のピアノ以外は全てメンバーによる演奏)、波音のサンプリングやインスト曲も交えた楽曲は情景豊かで、ブックレットに記載されたショート・ストーリーを読みながら聴くとさらに想像力が掻き立てられる。これが73年の作品だという事実にただただ驚愕。
AKB48 / 0と1の間 [COMPLETE EDITION] (2015)
★★★★☆
劇場オープンとグループ発足10周年を記念してリリースされたベスト盤。先月購入した同タイトルは予備知識なかったがゆえに収録曲数の少ない[THEATER EDITION]だったため、これまでの全シングルを収録した[COMPLETE EDITON]の方をレンタル。
初期はほとんど初めて聴く曲ばかりだったけど、モロにビーイング系だったり(デビュー曲「桜の花びらたち」や「僕の太陽」なんて完全にそれ)SPEEDっぽかったり(「軽蔑していた愛情」、「夕陽を見ているか?」)SMAPっぽかったり(「Baby! Baby! Baby!」)と90年代感の強い作風には懐かしさを覚えた。
この頃はドラムの打ち込みがチープだったり各ヴォーカルのミックスバランスがおかしかったりと、楽曲のクオリティは正直あまり高くはない。でも「大声ダイヤモンド」あたりから現在のAKBへと繋がる(そして現行の「アイドル・ポップ」なサウンドの雛型となる)ベクトルが定まり始めたように思う。この頃から楽曲のクオリティも格段に上がっていき、「ポニーテールとシュシュ」と「ヘビーローテーション」でそのアイデンティティを確立するまでの過程がよくわかり、付属していたDVD「DECADE〜AKB48 10年の軌跡〜」と併せて彼女たちの成長ぶりが非常に興味深かった。
にしても、[THEATER EDITION]に未収録だった「桜の栞」という2010年のシングルを今回初めて聴いたのだけど、こんなにも美しい合唱曲をAKBが歌っていたとは。このシングルは初動で30万枚も売れた有名な曲だそうで、自分が今までどれだけAKBに興味がなかったのかということを痛感させられた。
The Kinks / Arthur (Or the Decline and Fall of the
British Empire)
(邦題:アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡)
(1969)
★★★☆☆
1964年結成、イギリスを代表するバンドの7作目でありコンセプト作(Queen、The Who、ELOと、最近とにかくコンセプト・アルバムにハマっているのです)。
ベスト盤以外で彼らのアルバムを聴くのは今回が初めてだけど、初期の「You Really Got Me」の頃とはだいぶ趣の異なるサウンド。中後期のThe Beatlesっぽい「Victoria」は名曲だと思うし、中盤に配置された長尺曲「Australia」もサイケデリックなプログレ・サウンドでかっこいいし、「She Bought A Hat Like Princess Marina」のディキシーランド風なアレンジも好き。全体的にキャッチーなメロディーに貫かれ、レイドバックしたユルさがありつつもしっかりロックしている感じはBlur(「Yes Sir, No Sir」なんてまんま94~95年頃のBlurにメロディー運びがソックリ!)や奥田民生っぽさも感じさせる。
ROTH BART BARON / Atom (2015)
★★★☆☆
今年のサマソニで観たライブも良かった2人組バンドの2nd。カナダはモントリオールにあるHotel2Tango(Godspeed You! Black Emperorのマウロが所有するスタジオ)で大半がレコーディングされたそうで、音作りもどこかカナダのポストロック~アート・ロックの臭いが感じられる。
ライブではオーガニックで牧歌的なポストロックという印象を抱いたのだけど、音源では幽玄だったりラフだったりと多様性に富んでいる。ときおり聞こえてくる荒削りなギターの音がローファイ感すら漂わせ、サックスの甘美な音色を響かせるクリスマス情緒に満ちたその名も「X-Mas」などはAORまでをも内包している。
サウンドも良いけど、最も魅力を感じたのは歌詞。まるで洋楽の歌詞の対訳のような(といっても漠然とし過ぎているけど、それ以外に的確な表現が思い浮かばない)シニカルな暗喩、そして短いワンセンテンスを並べることでストーリーよりも想像力を掻き立てるタイプの歌詞は非常に奥ゆかしい。
その言葉を紡ぐヴォーカルはほぼ全編にわたってファルセットで歌われているけど、これはもっと多重コーラスで重厚にしたり、リヴァーヴで奥行きを出したりした方がより楽曲の雰囲気にマッチするのではと思った。
きのこ帝国 / 猫とアレルギー (2015)
★★☆☆☆
4人組ロック・バンドによる、EMIからとなるメジャーデビュー・アルバム(ミニアルバム含めて通算4作目)。
前作『フェイクワールドワンダーランド』も、メジャーデビュー・シングル「桜が咲く前に」もとても良かったので期待していたけど、残念ながら次第点。『フェイクワールド~』ではギターもベースもドラムもいわゆる「Nirvana、Radiohead以降の邦楽オルタナティヴ・ロック」の概念から離れ自由奔放に奏でられていたイメージがあり、僕にとってはそこが最大の魅力に感じられたのだけど、本作ではまた『渦になる』や『eureka』の頃に戻ったような感じがある。
確かに佐藤の歌い方も歌詞も、そしてピアノを大幅に導入したサウンドも、初期の重苦しさとは異なり前向きで明るい感じもある。でも、各楽器の音作りやフレーズがとてもクリシェに感じられた。「あーまた邦楽オルタナ系バンド特有の感じが出てしまってるな」みたいな。「YOUTHFUL ANGER」のざらついたミックスなんて、1997年ならともかく今それをやってしまうか。
歌詞にしてもCanとかThe Smithsの名を出しているのがあざとすぎてちょっとサムい。佐藤のヴォーカルは以前よりも透明度が増しながらも力強くエモーショナルでとても良くなっただけに他の部分のアラが目立ち、それがとてももったいなく思う。
Adele / 25 (2015)
★★☆☆☆
前作『21』が3,200万枚という驚異的なセールスを打ち立てたイギリスの女性SSWによる3作目。今回もとてつもない勢いで売れ、発売から1ヶ月ほどですでに1,000万枚(アメリカだけで600万枚)を突破したらしい。
先行シングルとなった1曲目「Hello」をはじめとする、彼女の持ち味を生かした哀愁たっぷりの失恋ソングはどれもドラマティックなアレンジが施され、もはや「感動の涙の押し売り」状態。でも、そのエモーショナル過剰な楽曲を歌声の魅力でねじ伏せ、「確かにこのアレンジが必要だよな」と納得させてしまうところはさすが。Greg Kurstinとの共作による「Million Years Ago」におけるボサノヴァ風のシンプルなアレンジも新鮮でとても良かった。
しかし、だ。「Send My Love (To Your New Lover)」だけはダメ。ていうか何この曲?Katy Perryが歌うのならともかく、なぜAdeleにこんな軽い曲をやらせるのか?この曲はMax MartinとShellbackとの共作だけど、二人とも僕の大好きなプロデューサだ。Greg Kurstinと合わせ、彼らはLily Allen、Katy Perry、Charli XCXといった女性ポップシンガーとの相性が抜群なプロデューサーだと思う。そんな中でもGregは「Million Years Ago」で、彼らしさも残しつつAdeleの魅力を最大限に引き立てているのに、「Send My~」におけるMaxとShellbackの自己満っぷりは何なんだろう。こんな浮きまくった曲を2曲目に、しかも「Hello」の荘厳なムードの後に配置して余韻もぶち壊しているし、アルバム全体のイメージも大きく損なってしまっている。この曲がなければ(せめて後半に配置されていれば)もっと評価は上だっただろうし、2015年の年間ワースト・トラックの座を与えたいくらい。
L'Arc~en~Ciel / The Best of L'Arc~en~Ciel c/w
(2003)
★★☆☆☆
初期(時期的には95年から2000年まで)のシングルのB面曲集。特にsakura在籍時の曲はどれもB面にはもったいないぐらいに佳曲揃いで、ファン人気の高い曲がこの中に多いのも頷ける。「a swell in the sun」や「花葬 -1014 mix-」などyukihiroによる作曲(またはリミックス)のインダストリアル色の強いダークな曲が続く後半も良い。
ただ、同時発売されたベスト盤『1994-1998』と『1998-2000』同様に企画に関してはメンバーは関与しておらず、そのせいか曲順は単なるリリース順。おそらくメンバーが企画に関わっていたらこの曲順にはしないだろう。いきなりサビから始まる「Brilliant Years」がアルバムの1曲というのはかなりの違和感がある。収録されている曲はどれも良かったけど、曲順のせいで作品としては低評価とした。
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