初聴きディスクレポート |
2015年11月に初聴きした音源の感想まとめです。今月は今年リリースものを多く聴きましたがいずれもとても良くて、5つ星乱発となりました。うれしい限りです。
★★★★★ 年間ベスト20位以内クラス*
★★★★☆ すばらしい
★★★☆☆ 標準レベルの良作
★★☆☆☆ 若干気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆ 期待ハズレ
☆☆☆☆☆ 全然ダメでした
*今年リリースでない場合、旧譜のみの年間ベスト20位以内クラス
11月のALBUM OF THE MONTHは、9月に続いて再びこのアーティストが。
★★★★★ 年間ベスト20位以内クラス*
★★★★☆ すばらしい
★★★☆☆ 標準レベルの良作
★★☆☆☆ 若干気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆ 期待ハズレ
☆☆☆☆☆ 全然ダメでした
*今年リリースでない場合、旧譜のみの年間ベスト20位以内クラス
11月のALBUM OF THE MONTHは、9月に続いて再びこのアーティストが。
■ALBUM OF THE MONTH■
Beach House / Thank Your Lucky Stars (2015)
★★★★★
今年8月にリリースされた5作目『Depression Cherry』(9月のALBUM OF THE MONTHにも選出)から2ヶ月、早くもリリースされた6作目。
メンバー自ら「アウトテイクではない」と説明しているけど、楽曲のクオリティの高さからもそのことは明らか。だけどここには『Depression Cherry』における「Sparks」や「Days of Candy」のような、新機軸とも言える印象的なトラックがあるわけではない。定番のBeach House節ともいうべき揺らめくギターとヴィクトリアの歌声、そしてLo-Fiなビートが全編にわたって繰り広げられているだけ。なのでサウンド的にはわりと淡白だし、さらっと聴けてしまう作品ではある。特筆すべきは、どこかマイブラの『mbv』に入ってそうな「Elegy to the Void」のギターくらいだろうか。
その代わり、本作の魅力を語る上で外せない要素は「メロディ」だろう。もちろん、もともとメロディセンスに定評のある彼らだけど、本作はより一層ソングライティングに磨きがかけられ、牧歌的で神秘的で甘美、そんな彼らの集大成的美メロ曲集となっている。
『Depression Cherry』は、形式的には「引き算」を用いて原点に立ち返った結果、退行ではなく前進を遂げた作品だと思う。同様に本作も「引き算」の手法が採られているが、原点に立ち返りながらもさまざまな実験を試みたのが『Depression Cherry』だったのに対し、肩肘張らずにありのままの自分たちを表現したものが『Thank Your Lucky Stars』なのではないだろうか。結果としていずれも素晴らしい作品となったし、来年の来日公演も本当に楽しみだ。
Beach House - "Elegy to the Void"
水曜日のカンパネラ / ジパング (2015)
★★★★★
正直に告白すると、僕はこれまで水曜日のカンパネラが好きではなかった(このことは何人かの人には直接話したこともあるし、あるいはなんとなく察していた人もいると思う)。なぜ好きではなかったかを事細かに説明するのは野暮なのでやめとくけど、最も大きな要因はトラックと歌のちぐはぐ感が苦手だったから。例えば、まりん在籍時の電気グルーヴや、初期の椎名林檎に抱いていた感情にもどこか似ている。つまり、狙いすぎた感のある歌詞や作り込まれた個性的なキャラクターと、クオリティの高いトラックとのアンバランスさが、どうにも気持ち悪く感じてしまっていた。
でもこの『ジパング』を聴いて、その印象は完全に払拭された。本作におけるケンモチヒデフミのトラックメイカーとしての才能の発揮ぶりは目を見張るものがあり、クールでスタイリッシュなだけではなく遊び心もふんだんに盛り込むことで、トラック自体にシュールさと(いい意味での)いかがわしさが加わって、一方のコムアイは逆にしっかり歌う部分も増えたことで、あのちぐはぐ感は完全になくなった。パターン化されていたラップのフローも、今回はかなり面白くなったと思う。「トラックはかっこよくてヴォーカルは滑稽」だった印象は、本作で「トラックもヴォーカルもかっこよくて、かつ面白い」になった。
アルバムは約33分とコンパクトながら、ここに収められた全10曲はどれも個性豊かでフックも盛りだくさん。ジュークやレゲトン、トラップ、ダブステップなどさまざまな要素をオリエンタルな世界観で包み込み、彼らならではのユーモアで昇華させた独自のダンス・ミュージックは、強烈なインパクトと濃厚な満足感を味わうことができる。
水曜日のカンパネラ - "ラ――"
Youth Lagoon / Savage Hills Ballroom (2015)
★★★★★
Youth Lagoonことトレヴァー・パワーズによる3作目。先行シングル「Highway Patrol Stun Gun」(年間ベストトラック候補!)を聴いた時、メロディアスでポップにひらけた作品になることはある程度予測していたけど、まさかここまでとは。1stとも2ndとも全く異なる、それでいてYouth Lagoonらしい作品になっていると思う。
例えるなら、1stは薬物中毒者が鬱状態で、2ndは躁状態で作った作品だとすると、今回のアルバムはクリーンになって最初の作品という感じ。こう書いてしまうとまるで当たり障りのない凡作のように聞こえるけどそうではなく、ソングライティングの才能が開花している(もちろん彼のメロディセンスは前作の「Mute」や「Dropla」でも顕著だったけど)。
これまでの彼の作品は、リヴァーヴやディレイなどのエフェクトによって音の隙間を埋めたり、サイケでドラッギーな世界観を作り込んでいた。でも今回は、エフェクトを極力排して音の輪郭をはっきりさせ、その分メロディやピアノの音色、ビート、そして彼の声そのものを引き立たせているのがとても印象的だった。
もしかしたら、一聴しただけではシンプルで地味な作品と捉える人もいるかもしれない。でも、聴き込むほどに随所に魅力を発見できるような、見事な職人的ポップ・センスとメロディ・センスに裏打ちされた最高傑作だと思う。ちょうどA/B面の中間にあたる位置に配されたインスト「Doll's Estate」もAphex Twinばりのアンビエント感があって、本作におけるいいアクセントになっている。
Youth Lagoon - "Highway Patrol Stun Gun"
!!! / As If (2015)
★★★★★
6作目。早いもので彼らが登場して15年が過ぎ、その音楽性もCanのようなミニマルなものから次第にポップなディスコ・サウンドへ変容し、前作『THR!!!ER』においてはジャム・セッションからではなくメロディから曲作りを始めるという変化もあった。しかしその『THR!!!ER』は、結果的にはメロディとグルーヴの両方が中途半端になってしまっていたと思う。またそれ以前の3rd、4thも、2ndの『Louden Up Now』に比べると精彩を欠き、キレやグルーヴ感に関しては物足りない作品だった。つまり彼らはすでに10年、自身の最高傑作を更新できていなかったように思う。
そんなわけで、今回の新作にも当初は大して期待していたわけではなかった。ただシングル「Freedom '15」を初めて聴いた時、これまでになかったファンキーなグルーヴとソウルフルなコーラスに、これはもしかしたら素晴らしい作品になるのでは?と期待が膨らんだ。
いざ本作を聴いてみると、その期待以上で驚いた。「Freedom '15」どころではないかっこいい曲がたくさんあって、しかもそれぞれの曲に異なる魅力がある。前作で中途半端だったメロディも素晴らしく、中でも本作随一のポップ・ナンバー「Every Little Bit Counts」のアッパーなディスコ・ポップ・サウンドは新鮮だった。これまでの彼らだったらこんなキャッチーな曲をやるなんてと戸惑ったかもしれないけど、ヴァラエティ豊かな曲が並ぶ本作にしっかりと馴染んでいる。
!!! - "Every Little Bit Counts"
New Order / Music Complete (2015)
★★★★★
New Orderサウンドの代名詞とも言える独特なベースを担っていたフッキーの脱退、そしてレーベルをMuteに移しての9作目(2013年の『Lost Sirens』はアウトテイク集という認識)。
まず、新ベーシストがかなりフッキーっぽいベースを弾いていてあまり違和感はない。あるとすればM5「People On The High Line」だろうけど、フッキーにはなかったファンキーなベースラインは、これはこれでかっこいいので全然アリ。前作『Waiting for the Sirens' Call』は音的にもメロディ的にもパッとしない印象だったけど、今回は音も若々しくなっている。M2「Singularity」はちょっと例えが古いがニューレイヴ感があり、M4「Tutti Frutti」などは電気グルーヴを思わせるハード・ハウス(しかもこの曲、石野卓球氏がリミックスを手掛けることが決まっているらしい)、M9「Unlearn This Hatred」はUnderworldのテクノ感とVan Sheのメロディック・シンセポップ感が合わさったような感じで、すでにデビューから35年が経っているバンドとは思えないほど野心に満ちた作品だと思う。
そして、本作をここ数年の彼らのディスコグラフィーの中でも特別なものたらしめているのはとりわけ美メロなM8「Nothing But A Fool」と、a-haやPet Shop Boysを彷彿させるラスト曲「Superheated」の2曲だろう。アルバムの前半はこれまで以上に哀愁が漂い、どこかほの暗くて陰鬱なムードさえ漂わせているけど、この2曲が終盤にあることでポジティヴィティに溢れた爽やかなムードで終わる感じがとても良い。
New Order - "Plastic"
Christine and the Queens / Christine and the Queens
(2015)
★★★★★
フランスの女性SSWによるワールドワイド・デビュー盤。本国で2014年にリリースされたアルバムに、Perfume Geniusとのコラボによる新曲などが新たに加えられている。そしてこのPerfume Geniusとのコラボ曲「Jonathan」がとにかく美しくて最高。
他の曲もソフトでレトロなエレクトロ・ポップで、英語詞に混じって歌われるフランス語の部分との相性が抜群にいい。Kanye Westの「Heartless」を引用した「Paradis Perdus」をはじめ、音数を最小限に絞ったエモーショナルな楽曲が心に染みる。
Christine and the Queens - "Jonathan ft. Perfume Genius"
[Spincoaster紹介記事]
Christine And The Queens / Jonathan feat. Perfume Genius
Girl Band / Holding Hands with Jamie (2015)
★★★★★
アイルランドのノイズ・ロック・バンドがラフトレードからリリースしたオフィシャル・デビューアルバム。
人を食ったようなバンド名と同様にサウンドも強烈で、ノイズと絶叫混じりのヴォーカルとカオティックなギターノイズにより、かなり尖りまくったハードコアな作品になっている。それでも不思議なくらいにポップさも持ち合わせていて、彼らの楽曲からは例えば00年代初頭のロックンロール・リバイバルやポストパンク・リバイバル、ディスコ・パンクといったシーンから登場したバンドたちを思い浮かべたりも。
『The Early Years EP』に収録されたBalwanのカバー「Why They Hide Their Bodies Under My Garage?」ほどインパクトのある曲はなかったものの、ストレス発散のための音楽としてはAtari Teenage Riot以来の存在と言えるかもしれない。個人的には彼らにファンクやダブ、ヒップホップといった要素が何かしら加わったらどうなるのか楽しみなので、今後にも期待したい。
Girl Band - "Paul"
[Spincoaster紹介記事]
Girl Band / Paul
Empress Of / Me (2015)
★★★★★
このブログでも「Sound of 2014」そして「Sound of 2015」とたびたび登場していた、Lorely Rodriguezによるプロジェクトのデビューアルバム。長い間期待して待っていた甲斐あって、キャッチーなエレクトロ・ポップとしての要素とフロア映えするクラブ・ミュージックとしての要素、そしてオルタナティヴでエクスペリメンタルな要素がバランスよくミックスされたかっこいい作品に仕上がっている。
しかし本作のほとんどの楽曲の中でメインリフと言えそうなシンセ音の多くは、はっきり言ってどれも普通のエレクトロ・ポップ/シンセ・ポップで使われるものとは異質の「ヘンな音」ばかり。それでも一貫してポップに聞こえるのは、彼女のクールで凛としたヴォーカルがしっかり「歌モノ」としての魅力を放っているからだと思う。
Empress Of - "Water Water"
[Spincoaster紹介記事]
Empress Of / Water Water
Dilly Dally / Sore (2015)
★★★★★
トロントのグランジィな4人組によるデビューアルバム。Holeのコートニー・ラヴを酒焼けさせたようなしゃがれたヴォーカルが個性的…って、まあコートニーも十分ハスキーだけど、このKatie Monksはそれ以上。Pixiesの「Where Is My Mind?」を連想させる1曲目「Desire」の出だしのカウントからしてゾクゾクくる。好き嫌いがはっきり分かれる声質だと思うけど、自分は最近になってHoleにハマったクチなので(2月の「初聴きディスクレポート」参照)ジャストだった。
曲調はゆったりしたものからアップテンポなものまであるけど、いずれもけだるいヴォーカルや歪んだギターの音がたまらない。それでいてやたらとポップでメロディアスなところも良い。アルバムを締めくくる「Burned By the Cold」はピアノを主体としたとても美しい曲で、彼女たちのメロディメイカーっぷりが発揮されている。
Dilly Dally - "Desire"
Disclosure / Caracal (2015)
★★★★☆
UKのローレンス兄弟によるデュオの2nd。どうも前作を高く評価していた人には本作は少し物足りないところがあるようだけど、前作がそこまでの評価ではない自分にとってこちらはかなり良かった。前作路線の90sUKガラージュをベースにしながらも、それをさらに独自発展させR&B要素を増した彼らのサウンドは、BPMこそ少し落ちたもののむしろこちらの方がダンサブルに感じられる。
ゲスト・ヴォーカルには前作に引き続きSam Smithが参加しているほかThe WeekndやLorde、Miguelなど売れっ子を揃えているけど、ただやみくもに話題のシンガーを集めただけというわけではなく、それぞれの曲に最適なシンガーをフィーチャーしていると思う。
Real Lies / Real Life (2015)
★★★★☆
イギリスの3人組バンドによるデビューアルバム。
ロマンティックなシンセ・サウンドとノスタルジックなメロディを備えたトラックに、ときにポエトリー・リーディング調だったりするラッド精神溢れるヴォーカルの組み合わせがかっこいい。マッドチェスター的な「Dab Housing」、New Orderみたいな「World Peace」、'15年型チルウェイヴな「Deeper」、Screamadelica期のPrimal ScreamやHappy Mondays辺りを彷彿させる90年代アシッド・ハウスな「One Club Town」など、全体的にシンセ・ポップというよりはパンクなインディー・ダンスという感じ。享楽的であると同時に破滅的なサウンドでもあり、どこか陰のあるメロディがまたいかにもイギリスらしい。
AKB48 / 0と1の間 [THEATER EDITION] (2015)
★★★★☆
5年ぶりのベスト盤。これまで彼女たちの楽曲をテレビやYouTubeなど以外で自発的に聴いたことはなかったけど、今回のベスト盤リリースの報を聞いて以来、密かに「これを機にちゃんと聞いてみよう」と思っていた。
洋楽だったり邦楽インディーなども好むリスナー層がAKB48も聴くことが何を意味するかという話も、かつての「コアな音楽ファン総アンチ時代」から「AKBも普通に聴きます的意識高いアピール時代」を経て、今となってはそういうリスナー層がAKB48も聴くことは特に珍しくも何でもない、ごく普通のことになった。なので今さらこんなことを言うことに大した意味はないのはわかっているけど、それでも率直な感想を言いたい。AKB48、めちゃくちゃ良いじゃん!
オリジナル・アルバムに収録された非シングル曲がどの程度のクオリティなのかわからないけど、シングル・ベスト盤ということもあってメロディの良さはどれも一級品。どれもどこかで聞いたことあるような(実際テレビなどで一度は耳にしたことがあるのかもしれないが)クリシェなメロディ、アレンジ、展開の連続。でも、それが妙に気持ちよく、聴きながらそのベタなコード進行とベタなフックに思わずニヤついてしまう。日本人のDNAにすり込まれた古き良き歌謡曲~アイドル歌謡~Jポップ&アイドル・ポップの歴史を俯瞰しているような感覚で、小難しいことは考えず、純粋に楽曲の良さをしみじみと感じた。
おそらく秋元氏は、曲ごとに「次のシングルは○○で行こう!」と明確なコンセプトを楽曲提供者に提示しているのではないだろうか。曲によって単純明快なまでにモーニング娘。や大滝詠一なんかのオマージュが盛り込まれている点も面白い。「UZA」なんて歌番組で聴いただけでは気付かなかったけど、90年代レイヴ風な分厚いシンセやサンプリング・ヴォイスを取り入れつつ、倖田來未みたいな00年代avexサウンドをうまく組み合わせたとてもかっこいい曲だったりする。
本作は収録曲がそれぞれ異なる4種類が存在するけど、予備知識がなかったため収録曲の少ない「THEATER EDITION」を購入してしまい、当然収録されていると思っていた「ポニーテールとシュシュ」と「ヘビーローテーション」が入っていなかったのは失敗。こうなったら「COMPLETE EDITION」の方も聴いてみたい。
cero / Obscure Ride (2015)
★★★★☆
いまや東京インディーの象徴的存在になるほどの成長を遂げたceroの3作目。ブラック・ミュージックのマナーに則った作品になっており、リズムのあり方からしてこれまでとは大きく変わっている。
すでにいろいろなところで指摘されているように、出だしの「C.E.R.O.」はD'Angeloを彷彿させる独特の「モタり」や「揺らぎ」のあるグルーヴで、微妙なタイミングのズレが逆にとても気持ちいい。高城晶平のヴォーカルは声質こそいつものハスキーな高音だけど、歌詞の言葉の選び方や乗せ方がこれまでと比べ大きく変わって、この"イエロー・ファンク"とも言うべきサウンドにマッチした独特な歌唱になっている。偉大な先人たちに敬意を払いその音を参照しつつ、自分たちのものに昇華させるスキルがすごい。
SOFT BALLET / TWINS -SUPER BEST OF SOFT
BALLET- (1996)
★★★★☆
90年代に人気を博したEBM/インダストリアル・ロック系ユニットのベスト盤。リアルタイムでは兄が聴いているのを隣で聴くだけだったけど、ここ数年「インダストリアル」という言葉をよく耳にする中で彼らの存在を思い出し、ベスト盤を聴いてみることに。
今聴くとダサい音に感じるかもという懸念はあったけど実際そんなことはなく、Pet Shop Boysを彷彿させる「Escape -Rebuild」のキャッチーな美メロやNine Inch Nailsばりのハードな「Needle」に驚かされたし、記憶していた以上にかっこよくて新鮮だった。
Rudimental / We the Generation (2015)
★★★★☆
UKのドラムンベース/ブレイクビーツ・バンドの2nd。2000年代以降のドラムンベースは2拍目と4拍目のスネアの間のタカタカッというスネアがゴーストノート的に入っていないことが多くてあまり好きではないのだけど、本作収録のドラムンベース曲はほとんどそれがあるのが良かった(自分にとってはここが非常に重要)。
曲の盛り上げ方の展開が若干ワンパターンなのと、中盤でBPMを落とした曲が続く構成などいくつか不満もあるけど、ソウルフルなゲストヴォーカルや豪華なホーンセクションが楽曲に華を添えていて、ライブ映えするサウンドに仕上がっていて楽しい。
Kylie Minogue / Kylie (1988)
★★★★☆
オーストラリアが生んだポップ・クイーンの記念すべきデビューアルバム。ストック・エイトキン・ウォーターマンがプロデュースしPWLからのリリースという、ユーロビートにおけるいわば金字塔的作品であるだけでなく、UKチャートで8週連続1位、年間チャート1位、全世界でも1,000万枚近く売れたというのだからこの時代を代表する作品とも言える。
幼少期によく親に聴かされていたし、2000年代に入ってから聴いた彼女のベスト盤にも本作からの曲が多数収録されていたので、厳密には初聴きではないし新鮮味もなかったけど、それにしても大ヒットしたのも納得な名曲揃い。あらためて本作のすごさを思い知らされた。
Awesome City Club / Awesome City Tracks (2015)
★★★★☆
今年メジャーデビューした男女5人組による1stアルバム。
ギターポップやディスコ、ソウル、ファンクなどからの影響が見え隠れしつつ、それでいてオーセンティックなJ-POPマナーにも基づいていて、各楽曲の完成度の高さとヒット・ポテンシャルの高さに驚かされる。一度ライブを観たことがあるのだけどとてもダンサブルだったし、何よりもメンバー全員がとても楽しそうに演奏をするのも良かった。音源でもまさにそんなムードが反映されたキャッチーで軽快な曲ばかり。
本作は4月リリースだけど、早くも9月に2ndアルバムをリリースしているのでこちらもぜひ聴きたい。
Queen / The Game (1980)
★★★★☆
今年からオリジナル・アルバムを集め始めたQueenの8作目。彼らの中で最も売れたシングル「Another One Bites the Dust」を収録し、UK・US両チャートで1位を獲得した唯一のアルバムでもある。
シンセを大幅に導入していたりディスコやファンクを取り入れたりと、ロック・オペラ期の彼らとは別の意味で意欲作と言えると思う。ゆえに風変わりな曲も多く、メロディの面では『A Day at the Races』や『News of the World』には劣るかもしれない。ただ、聴き込むにつれてその都度「面白さ」が発見できそうな予感のするアルバムだと思う。
Electric Light Orchestra / Balance of Power (1986)
★★★★☆
1971年デビュー、先日15年ぶりの新作をリリースしたばかりの、Jeff Lynneを中心としたイギリスのバンドの12作目。
Queenと同様、彼らも今年からオリジナル・アルバムを集め始めたのだけど、とても気に入っている『Out of the Blue』、『Time』に続いての本作は結論から言えばその二作ほどではなかった。でもドリーミーでロマンティックな雰囲気を醸し出すメロディアスな曲ばかりで、Jeff Lynneという人は本当にポップ・ミュージック史において最もメロディ・センスとポップ・センスに長けている人物なのではないかと思えてしまう。普遍的なグッド・メロディなのももちろんだけど、そのアレンジやサウンドも全く古さを感じさせないところがすごい。
ひとつ素朴な疑問。「So Serious」は日本語表記した場合「ソー・シリアス」だと思うが、「SO・シリアス」と書いてあるのは何故なんだろうか。
Rick Astley / Whenever You Need Somebody (1987)
★★★☆☆
先述のKylie Minogueと同様、ストック・エイトキン・ウォーターマンが大半の楽曲プロデュースを手掛けたユーロビートの名盤であり、「Never Gonna Give You Up」や「Whenever You Need Somebody」ほか全6曲のヒット・シングルを含むデビューアルバム。
やはりこれも幼少期によく聴かされていたけど、今聴くとAORやディスコやシンセ・ポップに繋がる部分も多くて楽しめた。ここ最近、彼の1stと2nd、カイリーの1stと2ndを立て続けに買って聴き直しているけど、あらためて自分のルーツとしてのユーロビートの魅力がわかって楽しい。
福山雅治 / MAGNUM COLLECTION 1999 "Dear"
(1999)
★★★☆☆
「ましゃロス」なんて言葉も生み出した福山雅治の結婚。今回福山雅治を聴こうと思ったきっかけはそれとは全く関係なく、時期的にも結婚前のことだったので誤解なきよう。
本作は彼が最初にリリースしたベスト盤。その後も何枚かベスト盤は出ているようだけど、ブレイク後の初期の曲にしか思い入れがないのでこちらを入手。
福山を初めて知ったのは92年の5枚目のシングル「Good night」から。当時からこの曲は大好きだったけど、今なお色褪せない名バラードだと思う。それ以前の曲は初めて聴いたのだけど、デビュー曲「追憶の雨の中」には驚かされた。おそらく彼の有名なシングル曲しか知らない自分のようなリスナーの中にある「アコギをかき鳴らした軽快な曲や、しっとりしたミディアム・バラードを歌うシンガー」というイメージとは大きく異なり、そのハードなギターの音やアッパーな曲調はメロディック・パンクのようにも聞こえるし、80年代バンド・ブーム時代の曲(ジュンスカ、BOØWYみたいな)のようにも聞こえる。こんなにロックな人だったとは…。
あと、Disc2の後半にはボーナス・トラック的にライブ音源が4曲収録されているけど、ゴスペル系女性シンガーのコーラスの入った驚くほどねっとりしたブルージーな曲調だったりしたのも驚き。ライブではやたらとクセの強い歌い方だし。そんなわけで、昔懐かしい曲ではソングライティングの良さをあらためて実感するとともに、その他の曲ではこれまでのイメージをガラッと一新させてくれた作品だった。
ラブリーサマーちゃん / #ラブリーミュージック (2015)
★★★☆☆
拙さやあどけなさを残したヴォーカル、そして女の子の日常を切り取った歌詞でSNSを中心に話題となったSSWによるデビューアルバム。
エレクトロポップだったり初期SUPERCARのような疾走感のあるギターポップだったりピアノの弾き語りだったりするけど、どのスタイルも彼女の声質にマッチしている。ただ全8曲とコンパクトなのがちょっと物足りない気も。あと2曲ほどあれば作品全体のストーリー性が生まれ、世界観を強く打ち出すことができたのでは。
Ill Insanity / Ground Xero (2008)
★★★☆☆
2004年にフジロックにも出演したターンテーブリスト・グループThe X-Ecutioners(元X-Men)。そのメンバーのうちRob Swift、Total Ecripse、DJ Precisionの3人がIll Insanity名義でリリースしたアルバム。
かつてはインストのアブストラクト・ヒップホップなどもよく聴いていたけど、最近ではヒップホップ≒ラップという認識が強く、ターンテーブリズムに主眼を置いた作品はほとんど聴いていなかった。なので「ラップがないと何だか物足りない」と思ってしまったのが正直なところ(ゲストでラッパーがフィーチャーされた曲も少しあるけど)。ただ、ビート(トラック)とスクラッチさばきはもの凄くかっこいいので、こういうものだとわかった上で聴き返すうちに評価が上がってきそうな作品ではある。ちなみにLinkin Parkをサンプリングした曲もあった。
Flume / Flume (2012)
★★★☆☆
今年のフジロックにも出演したエレクトロニック・プロデューサーのデビューアルバム。地元オーストラリアではチャート1位も獲得している。もう2年近く前から聴きたいと思っていたものの、このタイミングまで機会を逃してしまっていた。
フジロックでのパフォーマンスがとても良かったので期待していたけど、重低音の効いたビートや空間系のエフェクトを使ったコズミックなシンセ音が響き渡るライブの音響と比べてしまうと、CD音源は圧倒的に物足りなく感じられてしまったのが残念。フジロック前に聴いておけば良かった。
あと、この手の作品にしては少し音が整い過ぎているように感じた。もっとエフェクトによる偶発的な音とか「粗さ」のようなものが欲しかった。緻密にプログラミングされたアラのない音の感触が、悪い意味で日本人の作った音楽っぽく聞こえる。
泉まくら / P.S. (2015)
★★★☆☆
術の穴に所属しているヒップホップMCによる7曲入りアルバム。といっても本作は音楽的にはヒップホップ要素はほぼ皆無で、MetomeのプロデュースやQrion、Madeggのリミックスにより、ビート・ミュージックやエクスペリメンタル的な側面が強い作品になっている。
曲数が少なく、あまり統一性のある作品という感じもしないので、むしろこれは新曲も含むリミックスEPとして捉えるべきかもしれない。サウンド・テクスチャーとしては面白いものばかりだったので、この中のいずれかの方向に大きく振り切れた作品が聴きたいところ。
Avicii / Stories (2015)
★★★☆☆
Lana Del Reyを押し退け、ドタキャン新王座に輝いたEDM DJによる2nd。
前作は全豪チャート1位、全英2位、全米5位だったのに今回はそれぞれ10位、9位、17位と大きく後退。すでに6枚のシングルを切っているのに今ひとつ 「Wake Me Up」ほどのヒットに繋がっていないのはやはり前作から大きな変化が見られない点と、時代が今のEDMに対して求めるニーズに応えられていない点だろうと思う。すでに多くのEDM DJたちは次のフェーズに移行して、SkrillexはもちろんDavid GuettaもCalvin Harrisもうまくそれに適応しているのに、Aviciiはほぼ前作と変わらない路線で、2013年モードのまま「守りに入った」という印象。
Aviciiがプロデュースを手掛けた Coldplayの「A Sky Full of Stars」はとても良かったし、今後彼はサビにシンセ・リフではなくちゃんとしたヴォーカルを据えた歌モノのポップ・ソングのプロデューサーを目指した方が良いのでは?M8「City Lights」などはとてもいい曲だと思うけど、サビをシンセ・リフに任せているのがすごくもったいない。
かまいたち / I LOVE YOU (1991)
★★★☆☆
1985年結成、91年にメジャーデビューするも数ヶ月のうちに解散した4人組バンドのベスト盤。今年10月に24年ぶりに一夜限りの再結成ライブを行ない話題になったことが久々に聴こうと思ったきっかけ。
小学生の頃、テレビアニメ「つる姫じゃ~っ!」でオープニングとエンディングを担当していた彼らの存在を知り、まだX(後のX JAPAN)と出会う前の当時の僕としては結構な衝撃を受けたものだった。ヘビメタとかパンクとかもよくわからない中で、「ロック=異端」というイメージを最初に植え付けたのは彼らだったように思う。派手な色に染め抜いて逆立てた髪の毛を振り乱しながら、うるさいギターとドタドタ性急なビートを鳴らす姿は純粋にかっこいいと思えた。
今聴いてもやはり、このバンドは「異端」だったと思う。そもそもこのCDはTSUTAYAで「ビジュアル 系」の棚に置かれていたけど、果たして「ビジュアル系」に括っていいんだろうか。80年代~90年代初頭のV系バンドが持っていた「耽美」や「ゴシック」とは無縁な、コミカルな歌い方とシュールな歌詞。メロディはとてもポップだし、ヘタしたらコミックバンドすれすれですらある。今聴くと音の薄さやショボさはあるものの、やはり特異なバンドだとあらためて感じさせられた。
【次月予告】※購入済みや予約済みでまだ聴けていないタイトル
Editors / In Dream (2015)
Neon Indian / Vega Intl Night School (2015)
Muse / Drones (2015)
Ellie Goulding / Delirium (2015)
Justin Bieber / Purpose (2015)
Grimes / Art Angels (2015)
Adele / 25 (2015)
Oneohtrix Point Never / Garden of Delete (2015)
乃木坂46 / 透明な色(Type-B) (2015)
Danny Brown / Old (2013)
Bat For Lashes / Two Suns (2009)
L'Arc~en~Ciel / The Best of L'Arc~en~Ciel c/w (2003)
The Who / Quadrophenia (1973)
The Kinks / Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire) (1969)
Beach House / Thank Your Lucky Stars (2015)
★★★★★
今年8月にリリースされた5作目『Depression Cherry』(9月のALBUM OF THE MONTHにも選出)から2ヶ月、早くもリリースされた6作目。
メンバー自ら「アウトテイクではない」と説明しているけど、楽曲のクオリティの高さからもそのことは明らか。だけどここには『Depression Cherry』における「Sparks」や「Days of Candy」のような、新機軸とも言える印象的なトラックがあるわけではない。定番のBeach House節ともいうべき揺らめくギターとヴィクトリアの歌声、そしてLo-Fiなビートが全編にわたって繰り広げられているだけ。なのでサウンド的にはわりと淡白だし、さらっと聴けてしまう作品ではある。特筆すべきは、どこかマイブラの『mbv』に入ってそうな「Elegy to the Void」のギターくらいだろうか。
その代わり、本作の魅力を語る上で外せない要素は「メロディ」だろう。もちろん、もともとメロディセンスに定評のある彼らだけど、本作はより一層ソングライティングに磨きがかけられ、牧歌的で神秘的で甘美、そんな彼らの集大成的美メロ曲集となっている。
『Depression Cherry』は、形式的には「引き算」を用いて原点に立ち返った結果、退行ではなく前進を遂げた作品だと思う。同様に本作も「引き算」の手法が採られているが、原点に立ち返りながらもさまざまな実験を試みたのが『Depression Cherry』だったのに対し、肩肘張らずにありのままの自分たちを表現したものが『Thank Your Lucky Stars』なのではないだろうか。結果としていずれも素晴らしい作品となったし、来年の来日公演も本当に楽しみだ。
Beach House - "Elegy to the Void"
水曜日のカンパネラ / ジパング (2015)
★★★★★
正直に告白すると、僕はこれまで水曜日のカンパネラが好きではなかった(このことは何人かの人には直接話したこともあるし、あるいはなんとなく察していた人もいると思う)。なぜ好きではなかったかを事細かに説明するのは野暮なのでやめとくけど、最も大きな要因はトラックと歌のちぐはぐ感が苦手だったから。例えば、まりん在籍時の電気グルーヴや、初期の椎名林檎に抱いていた感情にもどこか似ている。つまり、狙いすぎた感のある歌詞や作り込まれた個性的なキャラクターと、クオリティの高いトラックとのアンバランスさが、どうにも気持ち悪く感じてしまっていた。
でもこの『ジパング』を聴いて、その印象は完全に払拭された。本作におけるケンモチヒデフミのトラックメイカーとしての才能の発揮ぶりは目を見張るものがあり、クールでスタイリッシュなだけではなく遊び心もふんだんに盛り込むことで、トラック自体にシュールさと(いい意味での)いかがわしさが加わって、一方のコムアイは逆にしっかり歌う部分も増えたことで、あのちぐはぐ感は完全になくなった。パターン化されていたラップのフローも、今回はかなり面白くなったと思う。「トラックはかっこよくてヴォーカルは滑稽」だった印象は、本作で「トラックもヴォーカルもかっこよくて、かつ面白い」になった。
アルバムは約33分とコンパクトながら、ここに収められた全10曲はどれも個性豊かでフックも盛りだくさん。ジュークやレゲトン、トラップ、ダブステップなどさまざまな要素をオリエンタルな世界観で包み込み、彼らならではのユーモアで昇華させた独自のダンス・ミュージックは、強烈なインパクトと濃厚な満足感を味わうことができる。
水曜日のカンパネラ - "ラ――"
Youth Lagoon / Savage Hills Ballroom (2015)
★★★★★
Youth Lagoonことトレヴァー・パワーズによる3作目。先行シングル「Highway Patrol Stun Gun」(年間ベストトラック候補!)を聴いた時、メロディアスでポップにひらけた作品になることはある程度予測していたけど、まさかここまでとは。1stとも2ndとも全く異なる、それでいてYouth Lagoonらしい作品になっていると思う。
例えるなら、1stは薬物中毒者が鬱状態で、2ndは躁状態で作った作品だとすると、今回のアルバムはクリーンになって最初の作品という感じ。こう書いてしまうとまるで当たり障りのない凡作のように聞こえるけどそうではなく、ソングライティングの才能が開花している(もちろん彼のメロディセンスは前作の「Mute」や「Dropla」でも顕著だったけど)。
これまでの彼の作品は、リヴァーヴやディレイなどのエフェクトによって音の隙間を埋めたり、サイケでドラッギーな世界観を作り込んでいた。でも今回は、エフェクトを極力排して音の輪郭をはっきりさせ、その分メロディやピアノの音色、ビート、そして彼の声そのものを引き立たせているのがとても印象的だった。
もしかしたら、一聴しただけではシンプルで地味な作品と捉える人もいるかもしれない。でも、聴き込むほどに随所に魅力を発見できるような、見事な職人的ポップ・センスとメロディ・センスに裏打ちされた最高傑作だと思う。ちょうどA/B面の中間にあたる位置に配されたインスト「Doll's Estate」もAphex Twinばりのアンビエント感があって、本作におけるいいアクセントになっている。
Youth Lagoon - "Highway Patrol Stun Gun"
!!! / As If (2015)
★★★★★
6作目。早いもので彼らが登場して15年が過ぎ、その音楽性もCanのようなミニマルなものから次第にポップなディスコ・サウンドへ変容し、前作『THR!!!ER』においてはジャム・セッションからではなくメロディから曲作りを始めるという変化もあった。しかしその『THR!!!ER』は、結果的にはメロディとグルーヴの両方が中途半端になってしまっていたと思う。またそれ以前の3rd、4thも、2ndの『Louden Up Now』に比べると精彩を欠き、キレやグルーヴ感に関しては物足りない作品だった。つまり彼らはすでに10年、自身の最高傑作を更新できていなかったように思う。
そんなわけで、今回の新作にも当初は大して期待していたわけではなかった。ただシングル「Freedom '15」を初めて聴いた時、これまでになかったファンキーなグルーヴとソウルフルなコーラスに、これはもしかしたら素晴らしい作品になるのでは?と期待が膨らんだ。
いざ本作を聴いてみると、その期待以上で驚いた。「Freedom '15」どころではないかっこいい曲がたくさんあって、しかもそれぞれの曲に異なる魅力がある。前作で中途半端だったメロディも素晴らしく、中でも本作随一のポップ・ナンバー「Every Little Bit Counts」のアッパーなディスコ・ポップ・サウンドは新鮮だった。これまでの彼らだったらこんなキャッチーな曲をやるなんてと戸惑ったかもしれないけど、ヴァラエティ豊かな曲が並ぶ本作にしっかりと馴染んでいる。
!!! - "Every Little Bit Counts"
New Order / Music Complete (2015)
★★★★★
New Orderサウンドの代名詞とも言える独特なベースを担っていたフッキーの脱退、そしてレーベルをMuteに移しての9作目(2013年の『Lost Sirens』はアウトテイク集という認識)。
まず、新ベーシストがかなりフッキーっぽいベースを弾いていてあまり違和感はない。あるとすればM5「People On The High Line」だろうけど、フッキーにはなかったファンキーなベースラインは、これはこれでかっこいいので全然アリ。前作『Waiting for the Sirens' Call』は音的にもメロディ的にもパッとしない印象だったけど、今回は音も若々しくなっている。M2「Singularity」はちょっと例えが古いがニューレイヴ感があり、M4「Tutti Frutti」などは電気グルーヴを思わせるハード・ハウス(しかもこの曲、石野卓球氏がリミックスを手掛けることが決まっているらしい)、M9「Unlearn This Hatred」はUnderworldのテクノ感とVan Sheのメロディック・シンセポップ感が合わさったような感じで、すでにデビューから35年が経っているバンドとは思えないほど野心に満ちた作品だと思う。
そして、本作をここ数年の彼らのディスコグラフィーの中でも特別なものたらしめているのはとりわけ美メロなM8「Nothing But A Fool」と、a-haやPet Shop Boysを彷彿させるラスト曲「Superheated」の2曲だろう。アルバムの前半はこれまで以上に哀愁が漂い、どこかほの暗くて陰鬱なムードさえ漂わせているけど、この2曲が終盤にあることでポジティヴィティに溢れた爽やかなムードで終わる感じがとても良い。
New Order - "Plastic"
Christine and the Queens / Christine and the Queens
(2015)
★★★★★
フランスの女性SSWによるワールドワイド・デビュー盤。本国で2014年にリリースされたアルバムに、Perfume Geniusとのコラボによる新曲などが新たに加えられている。そしてこのPerfume Geniusとのコラボ曲「Jonathan」がとにかく美しくて最高。
他の曲もソフトでレトロなエレクトロ・ポップで、英語詞に混じって歌われるフランス語の部分との相性が抜群にいい。Kanye Westの「Heartless」を引用した「Paradis Perdus」をはじめ、音数を最小限に絞ったエモーショナルな楽曲が心に染みる。
Christine and the Queens - "Jonathan ft. Perfume Genius"
[Spincoaster紹介記事]
Christine And The Queens / Jonathan feat. Perfume Genius
Girl Band / Holding Hands with Jamie (2015)
★★★★★
アイルランドのノイズ・ロック・バンドがラフトレードからリリースしたオフィシャル・デビューアルバム。
人を食ったようなバンド名と同様にサウンドも強烈で、ノイズと絶叫混じりのヴォーカルとカオティックなギターノイズにより、かなり尖りまくったハードコアな作品になっている。それでも不思議なくらいにポップさも持ち合わせていて、彼らの楽曲からは例えば00年代初頭のロックンロール・リバイバルやポストパンク・リバイバル、ディスコ・パンクといったシーンから登場したバンドたちを思い浮かべたりも。
『The Early Years EP』に収録されたBalwanのカバー「Why They Hide Their Bodies Under My Garage?」ほどインパクトのある曲はなかったものの、ストレス発散のための音楽としてはAtari Teenage Riot以来の存在と言えるかもしれない。個人的には彼らにファンクやダブ、ヒップホップといった要素が何かしら加わったらどうなるのか楽しみなので、今後にも期待したい。
Girl Band - "Paul"
[Spincoaster紹介記事]
Girl Band / Paul
Empress Of / Me (2015)
★★★★★
このブログでも「Sound of 2014」そして「Sound of 2015」とたびたび登場していた、Lorely Rodriguezによるプロジェクトのデビューアルバム。長い間期待して待っていた甲斐あって、キャッチーなエレクトロ・ポップとしての要素とフロア映えするクラブ・ミュージックとしての要素、そしてオルタナティヴでエクスペリメンタルな要素がバランスよくミックスされたかっこいい作品に仕上がっている。
しかし本作のほとんどの楽曲の中でメインリフと言えそうなシンセ音の多くは、はっきり言ってどれも普通のエレクトロ・ポップ/シンセ・ポップで使われるものとは異質の「ヘンな音」ばかり。それでも一貫してポップに聞こえるのは、彼女のクールで凛としたヴォーカルがしっかり「歌モノ」としての魅力を放っているからだと思う。
Empress Of - "Water Water"
[Spincoaster紹介記事]
Empress Of / Water Water
Dilly Dally / Sore (2015)
★★★★★
トロントのグランジィな4人組によるデビューアルバム。Holeのコートニー・ラヴを酒焼けさせたようなしゃがれたヴォーカルが個性的…って、まあコートニーも十分ハスキーだけど、このKatie Monksはそれ以上。Pixiesの「Where Is My Mind?」を連想させる1曲目「Desire」の出だしのカウントからしてゾクゾクくる。好き嫌いがはっきり分かれる声質だと思うけど、自分は最近になってHoleにハマったクチなので(2月の「初聴きディスクレポート」参照)ジャストだった。
曲調はゆったりしたものからアップテンポなものまであるけど、いずれもけだるいヴォーカルや歪んだギターの音がたまらない。それでいてやたらとポップでメロディアスなところも良い。アルバムを締めくくる「Burned By the Cold」はピアノを主体としたとても美しい曲で、彼女たちのメロディメイカーっぷりが発揮されている。
Dilly Dally - "Desire"
Disclosure / Caracal (2015)
★★★★☆
UKのローレンス兄弟によるデュオの2nd。どうも前作を高く評価していた人には本作は少し物足りないところがあるようだけど、前作がそこまでの評価ではない自分にとってこちらはかなり良かった。前作路線の90sUKガラージュをベースにしながらも、それをさらに独自発展させR&B要素を増した彼らのサウンドは、BPMこそ少し落ちたもののむしろこちらの方がダンサブルに感じられる。
ゲスト・ヴォーカルには前作に引き続きSam Smithが参加しているほかThe WeekndやLorde、Miguelなど売れっ子を揃えているけど、ただやみくもに話題のシンガーを集めただけというわけではなく、それぞれの曲に最適なシンガーをフィーチャーしていると思う。
Real Lies / Real Life (2015)
★★★★☆
イギリスの3人組バンドによるデビューアルバム。
ロマンティックなシンセ・サウンドとノスタルジックなメロディを備えたトラックに、ときにポエトリー・リーディング調だったりするラッド精神溢れるヴォーカルの組み合わせがかっこいい。マッドチェスター的な「Dab Housing」、New Orderみたいな「World Peace」、'15年型チルウェイヴな「Deeper」、Screamadelica期のPrimal ScreamやHappy Mondays辺りを彷彿させる90年代アシッド・ハウスな「One Club Town」など、全体的にシンセ・ポップというよりはパンクなインディー・ダンスという感じ。享楽的であると同時に破滅的なサウンドでもあり、どこか陰のあるメロディがまたいかにもイギリスらしい。
AKB48 / 0と1の間 [THEATER EDITION] (2015)
★★★★☆
5年ぶりのベスト盤。これまで彼女たちの楽曲をテレビやYouTubeなど以外で自発的に聴いたことはなかったけど、今回のベスト盤リリースの報を聞いて以来、密かに「これを機にちゃんと聞いてみよう」と思っていた。
洋楽だったり邦楽インディーなども好むリスナー層がAKB48も聴くことが何を意味するかという話も、かつての「コアな音楽ファン総アンチ時代」から「AKBも普通に聴きます的意識高いアピール時代」を経て、今となってはそういうリスナー層がAKB48も聴くことは特に珍しくも何でもない、ごく普通のことになった。なので今さらこんなことを言うことに大した意味はないのはわかっているけど、それでも率直な感想を言いたい。AKB48、めちゃくちゃ良いじゃん!
オリジナル・アルバムに収録された非シングル曲がどの程度のクオリティなのかわからないけど、シングル・ベスト盤ということもあってメロディの良さはどれも一級品。どれもどこかで聞いたことあるような(実際テレビなどで一度は耳にしたことがあるのかもしれないが)クリシェなメロディ、アレンジ、展開の連続。でも、それが妙に気持ちよく、聴きながらそのベタなコード進行とベタなフックに思わずニヤついてしまう。日本人のDNAにすり込まれた古き良き歌謡曲~アイドル歌謡~Jポップ&アイドル・ポップの歴史を俯瞰しているような感覚で、小難しいことは考えず、純粋に楽曲の良さをしみじみと感じた。
おそらく秋元氏は、曲ごとに「次のシングルは○○で行こう!」と明確なコンセプトを楽曲提供者に提示しているのではないだろうか。曲によって単純明快なまでにモーニング娘。や大滝詠一なんかのオマージュが盛り込まれている点も面白い。「UZA」なんて歌番組で聴いただけでは気付かなかったけど、90年代レイヴ風な分厚いシンセやサンプリング・ヴォイスを取り入れつつ、倖田來未みたいな00年代avexサウンドをうまく組み合わせたとてもかっこいい曲だったりする。
本作は収録曲がそれぞれ異なる4種類が存在するけど、予備知識がなかったため収録曲の少ない「THEATER EDITION」を購入してしまい、当然収録されていると思っていた「ポニーテールとシュシュ」と「ヘビーローテーション」が入っていなかったのは失敗。こうなったら「COMPLETE EDITION」の方も聴いてみたい。
cero / Obscure Ride (2015)
★★★★☆
いまや東京インディーの象徴的存在になるほどの成長を遂げたceroの3作目。ブラック・ミュージックのマナーに則った作品になっており、リズムのあり方からしてこれまでとは大きく変わっている。
すでにいろいろなところで指摘されているように、出だしの「C.E.R.O.」はD'Angeloを彷彿させる独特の「モタり」や「揺らぎ」のあるグルーヴで、微妙なタイミングのズレが逆にとても気持ちいい。高城晶平のヴォーカルは声質こそいつものハスキーな高音だけど、歌詞の言葉の選び方や乗せ方がこれまでと比べ大きく変わって、この"イエロー・ファンク"とも言うべきサウンドにマッチした独特な歌唱になっている。偉大な先人たちに敬意を払いその音を参照しつつ、自分たちのものに昇華させるスキルがすごい。
SOFT BALLET / TWINS -SUPER BEST OF SOFT
BALLET- (1996)
★★★★☆
90年代に人気を博したEBM/インダストリアル・ロック系ユニットのベスト盤。リアルタイムでは兄が聴いているのを隣で聴くだけだったけど、ここ数年「インダストリアル」という言葉をよく耳にする中で彼らの存在を思い出し、ベスト盤を聴いてみることに。
今聴くとダサい音に感じるかもという懸念はあったけど実際そんなことはなく、Pet Shop Boysを彷彿させる「Escape -Rebuild」のキャッチーな美メロやNine Inch Nailsばりのハードな「Needle」に驚かされたし、記憶していた以上にかっこよくて新鮮だった。
Rudimental / We the Generation (2015)
★★★★☆
UKのドラムンベース/ブレイクビーツ・バンドの2nd。2000年代以降のドラムンベースは2拍目と4拍目のスネアの間のタカタカッというスネアがゴーストノート的に入っていないことが多くてあまり好きではないのだけど、本作収録のドラムンベース曲はほとんどそれがあるのが良かった(自分にとってはここが非常に重要)。
曲の盛り上げ方の展開が若干ワンパターンなのと、中盤でBPMを落とした曲が続く構成などいくつか不満もあるけど、ソウルフルなゲストヴォーカルや豪華なホーンセクションが楽曲に華を添えていて、ライブ映えするサウンドに仕上がっていて楽しい。
Kylie Minogue / Kylie (1988)
★★★★☆
オーストラリアが生んだポップ・クイーンの記念すべきデビューアルバム。ストック・エイトキン・ウォーターマンがプロデュースしPWLからのリリースという、ユーロビートにおけるいわば金字塔的作品であるだけでなく、UKチャートで8週連続1位、年間チャート1位、全世界でも1,000万枚近く売れたというのだからこの時代を代表する作品とも言える。
幼少期によく親に聴かされていたし、2000年代に入ってから聴いた彼女のベスト盤にも本作からの曲が多数収録されていたので、厳密には初聴きではないし新鮮味もなかったけど、それにしても大ヒットしたのも納得な名曲揃い。あらためて本作のすごさを思い知らされた。
Awesome City Club / Awesome City Tracks (2015)
★★★★☆
今年メジャーデビューした男女5人組による1stアルバム。
ギターポップやディスコ、ソウル、ファンクなどからの影響が見え隠れしつつ、それでいてオーセンティックなJ-POPマナーにも基づいていて、各楽曲の完成度の高さとヒット・ポテンシャルの高さに驚かされる。一度ライブを観たことがあるのだけどとてもダンサブルだったし、何よりもメンバー全員がとても楽しそうに演奏をするのも良かった。音源でもまさにそんなムードが反映されたキャッチーで軽快な曲ばかり。
本作は4月リリースだけど、早くも9月に2ndアルバムをリリースしているのでこちらもぜひ聴きたい。
Queen / The Game (1980)
★★★★☆
今年からオリジナル・アルバムを集め始めたQueenの8作目。彼らの中で最も売れたシングル「Another One Bites the Dust」を収録し、UK・US両チャートで1位を獲得した唯一のアルバムでもある。
シンセを大幅に導入していたりディスコやファンクを取り入れたりと、ロック・オペラ期の彼らとは別の意味で意欲作と言えると思う。ゆえに風変わりな曲も多く、メロディの面では『A Day at the Races』や『News of the World』には劣るかもしれない。ただ、聴き込むにつれてその都度「面白さ」が発見できそうな予感のするアルバムだと思う。
Electric Light Orchestra / Balance of Power (1986)
★★★★☆
1971年デビュー、先日15年ぶりの新作をリリースしたばかりの、Jeff Lynneを中心としたイギリスのバンドの12作目。
Queenと同様、彼らも今年からオリジナル・アルバムを集め始めたのだけど、とても気に入っている『Out of the Blue』、『Time』に続いての本作は結論から言えばその二作ほどではなかった。でもドリーミーでロマンティックな雰囲気を醸し出すメロディアスな曲ばかりで、Jeff Lynneという人は本当にポップ・ミュージック史において最もメロディ・センスとポップ・センスに長けている人物なのではないかと思えてしまう。普遍的なグッド・メロディなのももちろんだけど、そのアレンジやサウンドも全く古さを感じさせないところがすごい。
ひとつ素朴な疑問。「So Serious」は日本語表記した場合「ソー・シリアス」だと思うが、「SO・シリアス」と書いてあるのは何故なんだろうか。
Rick Astley / Whenever You Need Somebody (1987)
★★★☆☆
先述のKylie Minogueと同様、ストック・エイトキン・ウォーターマンが大半の楽曲プロデュースを手掛けたユーロビートの名盤であり、「Never Gonna Give You Up」や「Whenever You Need Somebody」ほか全6曲のヒット・シングルを含むデビューアルバム。
やはりこれも幼少期によく聴かされていたけど、今聴くとAORやディスコやシンセ・ポップに繋がる部分も多くて楽しめた。ここ最近、彼の1stと2nd、カイリーの1stと2ndを立て続けに買って聴き直しているけど、あらためて自分のルーツとしてのユーロビートの魅力がわかって楽しい。
福山雅治 / MAGNUM COLLECTION 1999 "Dear"
(1999)
★★★☆☆
「ましゃロス」なんて言葉も生み出した福山雅治の結婚。今回福山雅治を聴こうと思ったきっかけはそれとは全く関係なく、時期的にも結婚前のことだったので誤解なきよう。
本作は彼が最初にリリースしたベスト盤。その後も何枚かベスト盤は出ているようだけど、ブレイク後の初期の曲にしか思い入れがないのでこちらを入手。
福山を初めて知ったのは92年の5枚目のシングル「Good night」から。当時からこの曲は大好きだったけど、今なお色褪せない名バラードだと思う。それ以前の曲は初めて聴いたのだけど、デビュー曲「追憶の雨の中」には驚かされた。おそらく彼の有名なシングル曲しか知らない自分のようなリスナーの中にある「アコギをかき鳴らした軽快な曲や、しっとりしたミディアム・バラードを歌うシンガー」というイメージとは大きく異なり、そのハードなギターの音やアッパーな曲調はメロディック・パンクのようにも聞こえるし、80年代バンド・ブーム時代の曲(ジュンスカ、BOØWYみたいな)のようにも聞こえる。こんなにロックな人だったとは…。
あと、Disc2の後半にはボーナス・トラック的にライブ音源が4曲収録されているけど、ゴスペル系女性シンガーのコーラスの入った驚くほどねっとりしたブルージーな曲調だったりしたのも驚き。ライブではやたらとクセの強い歌い方だし。そんなわけで、昔懐かしい曲ではソングライティングの良さをあらためて実感するとともに、その他の曲ではこれまでのイメージをガラッと一新させてくれた作品だった。
ラブリーサマーちゃん / #ラブリーミュージック (2015)
★★★☆☆
拙さやあどけなさを残したヴォーカル、そして女の子の日常を切り取った歌詞でSNSを中心に話題となったSSWによるデビューアルバム。
エレクトロポップだったり初期SUPERCARのような疾走感のあるギターポップだったりピアノの弾き語りだったりするけど、どのスタイルも彼女の声質にマッチしている。ただ全8曲とコンパクトなのがちょっと物足りない気も。あと2曲ほどあれば作品全体のストーリー性が生まれ、世界観を強く打ち出すことができたのでは。
Ill Insanity / Ground Xero (2008)
★★★☆☆
2004年にフジロックにも出演したターンテーブリスト・グループThe X-Ecutioners(元X-Men)。そのメンバーのうちRob Swift、Total Ecripse、DJ Precisionの3人がIll Insanity名義でリリースしたアルバム。
かつてはインストのアブストラクト・ヒップホップなどもよく聴いていたけど、最近ではヒップホップ≒ラップという認識が強く、ターンテーブリズムに主眼を置いた作品はほとんど聴いていなかった。なので「ラップがないと何だか物足りない」と思ってしまったのが正直なところ(ゲストでラッパーがフィーチャーされた曲も少しあるけど)。ただ、ビート(トラック)とスクラッチさばきはもの凄くかっこいいので、こういうものだとわかった上で聴き返すうちに評価が上がってきそうな作品ではある。ちなみにLinkin Parkをサンプリングした曲もあった。
Flume / Flume (2012)
★★★☆☆
今年のフジロックにも出演したエレクトロニック・プロデューサーのデビューアルバム。地元オーストラリアではチャート1位も獲得している。もう2年近く前から聴きたいと思っていたものの、このタイミングまで機会を逃してしまっていた。
フジロックでのパフォーマンスがとても良かったので期待していたけど、重低音の効いたビートや空間系のエフェクトを使ったコズミックなシンセ音が響き渡るライブの音響と比べてしまうと、CD音源は圧倒的に物足りなく感じられてしまったのが残念。フジロック前に聴いておけば良かった。
あと、この手の作品にしては少し音が整い過ぎているように感じた。もっとエフェクトによる偶発的な音とか「粗さ」のようなものが欲しかった。緻密にプログラミングされたアラのない音の感触が、悪い意味で日本人の作った音楽っぽく聞こえる。
泉まくら / P.S. (2015)
★★★☆☆
術の穴に所属しているヒップホップMCによる7曲入りアルバム。といっても本作は音楽的にはヒップホップ要素はほぼ皆無で、MetomeのプロデュースやQrion、Madeggのリミックスにより、ビート・ミュージックやエクスペリメンタル的な側面が強い作品になっている。
曲数が少なく、あまり統一性のある作品という感じもしないので、むしろこれは新曲も含むリミックスEPとして捉えるべきかもしれない。サウンド・テクスチャーとしては面白いものばかりだったので、この中のいずれかの方向に大きく振り切れた作品が聴きたいところ。
Avicii / Stories (2015)
★★★☆☆
Lana Del Reyを押し退け、ドタキャン新王座に輝いたEDM DJによる2nd。
前作は全豪チャート1位、全英2位、全米5位だったのに今回はそれぞれ10位、9位、17位と大きく後退。すでに6枚のシングルを切っているのに今ひとつ 「Wake Me Up」ほどのヒットに繋がっていないのはやはり前作から大きな変化が見られない点と、時代が今のEDMに対して求めるニーズに応えられていない点だろうと思う。すでに多くのEDM DJたちは次のフェーズに移行して、SkrillexはもちろんDavid GuettaもCalvin Harrisもうまくそれに適応しているのに、Aviciiはほぼ前作と変わらない路線で、2013年モードのまま「守りに入った」という印象。
Aviciiがプロデュースを手掛けた Coldplayの「A Sky Full of Stars」はとても良かったし、今後彼はサビにシンセ・リフではなくちゃんとしたヴォーカルを据えた歌モノのポップ・ソングのプロデューサーを目指した方が良いのでは?M8「City Lights」などはとてもいい曲だと思うけど、サビをシンセ・リフに任せているのがすごくもったいない。
かまいたち / I LOVE YOU (1991)
★★★☆☆
1985年結成、91年にメジャーデビューするも数ヶ月のうちに解散した4人組バンドのベスト盤。今年10月に24年ぶりに一夜限りの再結成ライブを行ない話題になったことが久々に聴こうと思ったきっかけ。
小学生の頃、テレビアニメ「つる姫じゃ~っ!」でオープニングとエンディングを担当していた彼らの存在を知り、まだX(後のX JAPAN)と出会う前の当時の僕としては結構な衝撃を受けたものだった。ヘビメタとかパンクとかもよくわからない中で、「ロック=異端」というイメージを最初に植え付けたのは彼らだったように思う。派手な色に染め抜いて逆立てた髪の毛を振り乱しながら、うるさいギターとドタドタ性急なビートを鳴らす姿は純粋にかっこいいと思えた。
今聴いてもやはり、このバンドは「異端」だったと思う。そもそもこのCDはTSUTAYAで「ビジュアル 系」の棚に置かれていたけど、果たして「ビジュアル系」に括っていいんだろうか。80年代~90年代初頭のV系バンドが持っていた「耽美」や「ゴシック」とは無縁な、コミカルな歌い方とシュールな歌詞。メロディはとてもポップだし、ヘタしたらコミックバンドすれすれですらある。今聴くと音の薄さやショボさはあるものの、やはり特異なバンドだとあらためて感じさせられた。
【次月予告】※購入済みや予約済みでまだ聴けていないタイトル
Editors / In Dream (2015)
Neon Indian / Vega Intl Night School (2015)
Muse / Drones (2015)
Ellie Goulding / Delirium (2015)
Justin Bieber / Purpose (2015)
Grimes / Art Angels (2015)
Adele / 25 (2015)
Oneohtrix Point Never / Garden of Delete (2015)
乃木坂46 / 透明な色(Type-B) (2015)
Danny Brown / Old (2013)
Bat For Lashes / Two Suns (2009)
L'Arc~en~Ciel / The Best of L'Arc~en~Ciel c/w (2003)
The Who / Quadrophenia (1973)
The Kinks / Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire) (1969)
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