初聴きディスクレポート |
2013年2月に入手した音源の初聴き感想まとめです。
<★の解説>----------------------
★★★★★年間ベストアルバムTOP20クラス
★★★★☆すばらしい
★★★☆☆標準レベルの良作
★★☆☆☆若干気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆期待ハズレ
☆☆☆☆☆全然ダメでした
----------------------------
それでは2月の「Album of The Month」の発表です。
<★の解説>----------------------
★★★★★年間ベストアルバムTOP20クラス
★★★★☆すばらしい
★★★☆☆標準レベルの良作
★★☆☆☆若干気になる部分あり・もっと聴きこみ必要
★☆☆☆☆期待ハズレ
☆☆☆☆☆全然ダメでした
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それでは2月の「Album of The Month」の発表です。
【Album of The Month - My Bloody Valentine / m b v (2013)】
★★★★★
91年リリースの「Loveless」以降にケヴィン・シールズが関わった楽曲をチェックしていた人ほど、来たるマイブラの新作の音を予測するのは難しかったと思う(というよりも、彼らの熱烈なファンほど新作リリースを期待することを諦めていたのでは)。なぜならモグワイの「Mogwai Fear Satan (My Bloody Valentine Remix)」(→YouTube試聴)では「You Made Me Realise」のノイズ・ビットも霞むほどの爆裂ノイズ・ジェット(+キィキィ音)をまき散らし、プライマル・スクリームの「MBV Arkestra (If They Move Kill 'Em)」(→YouTube試聴)では歪みまくったブレイクビーツとホーンによってぐるぐると混沌の渦に吸い込まれていくようなエクスタシーをもたらし、さらにはコンテンポラリー・バレエ集団「La La La Human Steps」に提供した曲「2」では美しくも狂気が垣間見えるアンビエントなギターノイズ・インプロヴィゼーションを展開し、映画「Lost In Translation」のサウンドトラックではイーノ風のインストもあり、時代によってかなり楽曲の趣が異なったからである。ケヴィンがこのような変遷を辿ったからこそ、もし仮にマイブラの新作が出るとするなら、それは「Loveless」に象徴されるマイブラのパブリック・イメージとは全く異質のものになると自分は考えていた。
だから、「Loveless」によってマイブラが至高の存在となった自分にとっては、どの方向に転んだとしてもきっと満足いくものにはならないだろうという複雑な思いがあった。ノイズというテーマがつきまとう彼らの場合、「進化」とは「難解になること」を意味し、それはきっと自分の好みのサウンドではないだろうと思ったからだ。だけどもし「Loveless パート2」だったら、きっと音そのものは気に入るけど、何十年も待たせておいて結局同じような音なのかと落胆しただろう。だからこそ、マイブラの新作に対してはいつか出てほしいという思いと、このまま永遠に出さずに「Loveless」で終わってほしいという思いが、常にせめぎ合っていたのだった。
「2、3日でリリースする」という宣言は本当に信じていなかったので、まさに青天の霹靂状態でリリースされたアルバムをさっそくDLして聴いてみると、意外にもそれは「パート2」と「異質」のいずれでもなかった。パッと聞いた感じだと音そのものは「Loveless」をアップデートしたものというより、むしろ「Isn't Anything」と「Loveless」の中間地点に位置するかのように感じられた。しかしこの音の引き加減や「マイブラ節」とも言えそうな独特のメロディーライン、リズム感は確実に「Loveless」を通過したからこそ鳴らすことができたものだと思う。なおかつ本作には、キャッチーで美しいメロディーと歌声を聴かせてくれる「あの頃のマイブラ」そのまま姿があった。
そんなわけで、本作はマイブラの新作として「最も多くのファンの期待に沿った作品」と言えるのではないだろうか。もちろん「21年も待たせて、結局何も進化していない」という批判的な声も見掛けるし、マスタリング云々という楽曲以前の議論も巻き起こっている(そういった議論が起こるのも、このバンドの特異性だと思う)。確かに本作は、マイブラが「Isn't Anything」から「Loveless」にかけて3年間の間に遂げた変貌ぶりを考えると、あれから21年を経た音というほどには変わっていない。むしろ、様々な音が広いレンジで幾重にも重ねられていた「Loveless」と比べると、「m b v」は(そのぶっきらぼうなタイトルが象徴するように)極めてシンプルかつラフな音作りが施されているが、それによって各パートの音の輪郭は(音質は籠っているものの)どれもハッキリ識別できるようになっている。もちろん、本作はほぼ90年代に録音された音の断片を最近になって編集したものらしいので、あの頃と何ら変わっていないと感じるのは当然かもしれないけど、かといって2013年の音としても古さを感じないことから、いかに「Loveless」期の彼らが先鋭的だったかということや、いかに現在の音楽シーンに大きな影響をもたらしたかということを窺い知ることができる。
本作の曲順は、もしかしたら制作順に適当に並べただけかもしれないけど完璧だと思う。オープニングの「She Found Now」のビートは「All I Need」や「Sometimes」を連想させずにはいられないシンプルな八つ打ちのバスドラのみで、「いかにもマイブラらしいサウンド」であることを強く印象付けるし、続く「Only Tomorrow」のビリビリに歪ませたギターは「Slow」を連想させ、タイトルからしてセルフパロディーっぽくてニヤリとさせられる。中盤には美しい「Is This And Yes」を挟みつつ、終盤のブレイクビーツ三連発はそれまでの印象を変えてしまうほどの強烈なインパクトがある。特にラストを飾るドラムンベース曲「Wonder 2」は、かつての「Soon」が持っていたのと同様に強靭なグルーヴとカオティック・サイケな展開を見せつけ、アルバムのエンディングを飾るに相応しいアンセムになっていると思う。
最後に一つ自問(愚問)。「このアルバムはLovelessを超えたのか?」―その答えは、現時点では「ノー」。でも、マイブラの新作としてはパーフェクトと言える作品だと思う。順調にいけば今年中にリリースされる(?)という、新曲のみで構成されたEPにも期待したい。
My Bloody Valentine - "Wonder 2"
The History of Apple Pie / Out of View (2013)
★★★★☆
当ブログの「2013年期待の新人」特集で1位(今となってはちょっと疑問も感じられるランクだったけど)に選出された、ロンドン出身の男女5人組バンドによるデビューアルバム。所謂シューゲイザーに大別されそうなサウンドながら、過度なリヴァーブに頼らずに粗削りなギターロックを鳴らす様はペインズのセカンド作「Belong」にも似た感触。アレンジにヒネリがないのが若干寂しいものの、捨て曲なしの良盤。
Tom Tom Club / Close To The Bone (1983)
★★★★☆
ただいま放送中のアメリカンアイドル・シーズン12の審査員として出演中のマライア・キャリー。マライアと言えば大好きな曲「Fantasy」(→YouTube試聴)、そしてその曲でサンプリングされていたのがTom Tom Clubの「Genius of Love」。という流れで、そういえばTom Tom Clubってファースト以外聴いたことないや、と本作収録の「The Man With the 4-Way Hips」(→YouTube試聴)を聴いてみたところ、ノックアウトされて即購入。ディスコファンク度が強化されつつ歌メロのポップさはしっかりキープされており、たぶんファーストよりも好きかもしれない。00年代のインディーロックとして聴いても何ら違和感のないクールな多国籍ファンクサウンドに仕上がっている。彼らからの影響を公言しているThe Ting Tingsや、CSSが好きなリスナーにもオススメ。
Ikara Colt / Modern Apprentice (2004)
★★★★☆
2002年、ガレージロックンロールリバイバルの最中にデビューし、よくソニック・ユースを引き合いに出されていたUKの4人組のセカンド。デビュー当時から「すべてのバンドは5年で消えるべきだ」と発言し、その言葉を全うすべくアルバム一枚で解散したように記憶していたので、中古CD屋でたまたま見つけるまで本作の存在を知らなかった。女性ベーシストが加わり、バンドの半数であるギターとベースが女性になったが、サウンドはそれによってソフトになったりガーリィになることなく、ファースト同様にパンキッシュで粗削りなロックンロールが満載。グランジもポストパンクもニューウェーヴも詰まったサウンドは現在も求められる音だと思うのでまた活動を再開してほしいものの、前述の発言やアティテュード的に再結成してはいけないバンド。
Six. By Seven / The Closer You Get (2000)
★★★★☆
イギリスのサイケデリックバンドによるセカンド。ファーストとサードは所持していたけど、昨年の個人的な再評価の流れでレンタル。マッドチェスター/トリップホップ/ブリットポップなどからの影響の強かったファーストと、ガレージパンク色を強めたサードの間で、どのような音楽性を持った作品なのかと思ったけど、うまく双方の間を埋めるサウンドに仕上がっており、「New Year」のようなメロディアスなポップナンバーから「Sawn Off Metallica T-Shirt」(→YouTube試聴)のような爆裂ガレージパンクまで幅広く、このバンドの持つ多様性を集約したような内容になっている。
Nirvana / In Utero (1993)
★★★★☆
厳密には本作を初めて聴いたのは15年ほど前ではあるけど、当時カセットテープだったためにもう10年近く聴いていなかった。昨年のクラウド・ナッシングスによるスティーヴ・アルビニ(の作るドラムサウンド)再評価でCDを買い直したけど、正直すっかり忘れていた曲もあって、初めて聴くような新鮮さと「こんなにかっこよかったっけ…」という驚きを覚えた。爆音で聴きたい一枚。
V.A. / Onwards & Upwards V.A. (2013)
★★★★☆
日本のネットレーベルano(t)raksが、昨年の「Soon V.A.」に続いてリリースしたレーベルコンピ。全16曲収録で、現在はこちらのano(t)raks公式bandcampにてフリーDL可能。前半は「Soon V.A.」にも参加していたバンドが多く、前コンピを彩っていたアノラックなギタポナンバー多め。中盤はエレポップやシティポップなど拡がりを見せ、終盤はスケール感のあるポストロック2曲でシメる(さらにその後、異彩を放つJ-POPライクなボーナストラックも)構成には強いこだわりを感じるとともに、今後のこのレーベルの活動が多岐に拡がっていくことを示唆するかのようにバラエティに富んでいる。
特にお気に入りなのは以前から注目しているThe Vanities(後ほど彼らのEPの感想もあり)と、今回初めて知ったKai Takahashi。後者による「1980」は耳馴染みの良いAOR的側面がありながら、どこか浮世離れした現実逃避感も感じさせるトラック。アーリー90's的なヒップホップ/R&Bマナーに沿ったミディアムテンポのビートが心地よく響き、そこに清涼感たっぷりの甘い男性ボーカルと、ポリリズムを活かしたエレピやトランペットの音が絡み合い、非常に洗練された都会的なポップナンバーに仕上がっている。個人的には、POP ETCの「Live It Up」(→YouTube試聴)、「Fosbury」期のTahiti 80、例えば「Paradise」(→YouTube試聴)辺りを引き合いに出したい。
The Vanities / 1+1=26 EP (2012)
★★★★☆
本当は1月の「初聴きディスクレポート」で書くはずだったけど漏れてました。先に書いたano(t)raksのコンピにも楽曲提供していた栃木の男女2人組によるデュオ。ano(t)raksのbandcampからフリーDL可。オープニングを飾る表題曲は(ほぼ)ワンコードのメロディーに乗せて、平熱でありつつも柔らかい女性ボーカルによってひたすら「○○たす××はにじゅうろく~」という脱力な歌詞が歌われており、相対性理論にも通じる摩訶不思議な世界観がある。その他にも「futarinotokei」は歪んだギターと打ち込みビートがThe Raveonettesライクな激甘ノイジーギタポ、続く「L.H.O.O.Q」は実験的でパンキッシュ、そして「X+Y=26」(このタイトルと表題との関連性など含めて、非常に面白いセンスを持っていると思う)は逆回転を用いたサイケ・シューゲイザーで、全4曲ながら聴きどころ満載。先述のThe Raveonettesの他、ジザメリやスーパーカー好きにもオススメ。デビューフルアルバムも非常に心待ちにしている。
Rihanna / Unapologetic (2012)
★★★★☆
ここ4年は1年に1枚のペースでアルバムをリリースしているリアーナ。正直、ライブパフォーマンスはイマイチだし、曲に関しても複数の一流制作陣が持ち寄った曲を歌うだけという印象が強く、「Rated R」(2009年)も「LOUD」(2010年)も中途半端でまとまりのない作風に感じられたし、デヴィッド・ゲッタ的EDM色をさらに加速させた「Talk That Talk」(2011年)に至ってはスルーしていた。そんなわけで今回もあまり期待はしておらず、シングル「Diamonds」の良さに釣られてアルバムを聴いてみてビックリ。ゲッタ印の「Right Now」はあるものの、The Weeknd以降とも言うべきR&Bやブロステップ、ポスト・ダブステップ界隈からの影響を感じさせる、空間を活かして音が配されたダウンビート曲が大半を占め、全体的に漆黒のミステリアスな空気に包まれている。彼女自身の声も以前よりも哀愁が増して美しくなったように感じられた。
Caribou / Andorra (2007)
★★★★☆
昨年のフジロックではベストアクトに選んだCaribou。セットリストのほとんどを占めた目下の最新作「Swim (2010年)」はオーガニックな質感のあるダンストラックがメインだったけど、その前作にあたるこのアルバムは冒頭から驚かされる。60年代のソフトロックやフラワームーブメントのロック、もしくはブリティッシュロック辺りに近い感触のサウンドは、サイモン&ガーファンクルの「Hazy Shade of Winter(冬の散歩道)」やママス&パパスの「California Dreamin'」、もしくはザ・ラスト・シャドウ・パペッツの「The Age of the Understatement」なんかを思い出させた。こんなサウンドから、どうして3年後に「Swim」のようなサウンドに至ったのか?と不思議に思いながら聴き進めていくうち、ラストを飾る「Niobe」(→YouTube試聴)ですべての点が線で繋がるような展開が素晴らしかった。
Earl Sweatshirt / Earl (2010)
★★★★☆
Odd Futureの最年少メンバーによるフリーミックステープ。2010年作なので16歳の時の作品ということがにわかに信じがたいクオリティ。音数を最小限に留めたヨタついたビートに、ピアノやブリープシンセなどを加えたシンプルかつドープなトラックがかっこいい。トラックがかっこよすぎて肝心のラップの方にあまり耳がついていかなかったのは残念ではあるけど。「Earl」はこちらからフリーDL可能。
Death Grips / Exmilitary (2011)
★★★★☆
昨年高い評価を得たデビューアルバム「The Money Store」に先駆けてフリーで発表されたミックステープ。ペット・ショップ・ボーイズの「West End Girls」を大胆にサンプリングした「5D」、ザック・ヒルの超絶ドラムが堪能できる、クドゥルとドラムンベースをミックスしたような「Thru The Walls」など、聴きどころも満載。「Exmilitary」ダウンロードはこちらから。
Death Grips / The Money Store (2012)
★★★★☆
こちらはそのデビューアルバム。終始ハイテンションでアッパーなトラック、重低音の効いたビート、ダブステップばりのウォブルベース、ドープでイルなムードに満ちたラップが混然一体となり、彼らにしか鳴らせない唯一無二のサウンドを作り出している。
Giraffage / Needs (2013)
★★★☆☆
Taquwami、XXYYXX、Slow Magic好きにオススメ。そのXXYYXXとコラボしたこともあるサンフランシスコのプロデューサによるミックステープ(「Needs」はこちらからフリーDL可能)。 こういったチョップト&スクリュード多用のチルウェイヴ風R&Bはそこまで好きではないのだけど、現在のトレンドど真ん中なので聴いて損はないと思う。繊細でドリーミーでオーガニックで、陶酔感に満ちたサウンドとキメの細かいハイハットのビートがかっこよかった。「Money」という曲でジャスティン・ビーバーの「As Long As You Love Me」(→YouTube試聴)をサンプリングしていると思うんだけど、もしそうだとしたら「Money」というタイトルとの関連性も含めていろいろと推測できそう。ちなみに読み方は「ジラーフエイジ(キリン時代)」だと思っていたけど、「ジラファージュ」らしい。
FIDLAR / FIDLAR (2013)
★★★☆☆
LA出身、スケボー、ガレージパンクと言ったキーワード、そしてWichitaやSUBPOPとのレコード契約、さらにバンド名は「Fuck It Dog, Life's A Risk」の頭文字!こういうやんちゃなガレージパンクバンドを待っていたし、先行シングル「Cheap Beer」や「No Waves」が最高にポップな能天気パンクだったのでかなり期待していたのだけど、アルバム通して聴くと何だか今一つ盛り上がりに欠けて物足りなかった。期待が大きかった分、少し肩透かしを食らった気分。もっとはちゃめちゃになっていいのにと思う。
The Script / The Script (2008)
★★★☆☆
USビルボードチャートにはちょいちょい顔を出し安定した人気を見せるものの、ここ日本ではなぜか知名度の低いアイルランドのバンドによるデビュー作。音楽性的にはU2からの影響を感じさせつつもトラヴィスや初期コールドプレイに近く、哀愁と叙情性たっぷりのメロディアスなロックなので、プロモーション次第では日本でももっと人気が出ていいと思う。Ed SheeranやJason Mraz好きにオススメな1曲目「We Cry」(→YouTube試聴)、アップテンポな「Talk You Down」など特によかった。
Ash / Trailer (1994)
★★☆☆☆
大のアッシュ好きを公言しておきながら実は持っていなかったこの最初期音源(まあ、本作収録曲の代表的なものはベスト盤に入っているし)。この頃はまだティムのソングライティング力は開花前夜という感じでメロディアス度はその後に比べると足りないものの、パンキッシュ(ほとんどメタル)なギターリフがグイグイ迫るラウドな作品。そんな中でも後のメロディック路線の萌芽が感じられる「Petrol」(→YouTube試聴)が光っている。
Madonna / Ray of Light (1998)
★★☆☆☆
数ヶ月放置してしまった、マドンナの全オリジナルアルバム11枚組BOXを時系列順に聴く試み再開。前半は本作のプロデューサーであるウィリアム・オービットらしさ全開のアンビエントなシンセ音を配したハウストラックが並び、後半はクリス・カニンガムによるミュージックビデオで有名な「Frozen」をはじめとした、オリエンタリズムとアンビエントが融合した内省的なトラックが中心。アルバム単体の世界観としてはマドンナ史上最も完成されているアルバムだと思う。
★★★★★
91年リリースの「Loveless」以降にケヴィン・シールズが関わった楽曲をチェックしていた人ほど、来たるマイブラの新作の音を予測するのは難しかったと思う(というよりも、彼らの熱烈なファンほど新作リリースを期待することを諦めていたのでは)。なぜならモグワイの「Mogwai Fear Satan (My Bloody Valentine Remix)」(→YouTube試聴)では「You Made Me Realise」のノイズ・ビットも霞むほどの爆裂ノイズ・ジェット(+キィキィ音)をまき散らし、プライマル・スクリームの「MBV Arkestra (If They Move Kill 'Em)」(→YouTube試聴)では歪みまくったブレイクビーツとホーンによってぐるぐると混沌の渦に吸い込まれていくようなエクスタシーをもたらし、さらにはコンテンポラリー・バレエ集団「La La La Human Steps」に提供した曲「2」では美しくも狂気が垣間見えるアンビエントなギターノイズ・インプロヴィゼーションを展開し、映画「Lost In Translation」のサウンドトラックではイーノ風のインストもあり、時代によってかなり楽曲の趣が異なったからである。ケヴィンがこのような変遷を辿ったからこそ、もし仮にマイブラの新作が出るとするなら、それは「Loveless」に象徴されるマイブラのパブリック・イメージとは全く異質のものになると自分は考えていた。
だから、「Loveless」によってマイブラが至高の存在となった自分にとっては、どの方向に転んだとしてもきっと満足いくものにはならないだろうという複雑な思いがあった。ノイズというテーマがつきまとう彼らの場合、「進化」とは「難解になること」を意味し、それはきっと自分の好みのサウンドではないだろうと思ったからだ。だけどもし「Loveless パート2」だったら、きっと音そのものは気に入るけど、何十年も待たせておいて結局同じような音なのかと落胆しただろう。だからこそ、マイブラの新作に対してはいつか出てほしいという思いと、このまま永遠に出さずに「Loveless」で終わってほしいという思いが、常にせめぎ合っていたのだった。
「2、3日でリリースする」という宣言は本当に信じていなかったので、まさに青天の霹靂状態でリリースされたアルバムをさっそくDLして聴いてみると、意外にもそれは「パート2」と「異質」のいずれでもなかった。パッと聞いた感じだと音そのものは「Loveless」をアップデートしたものというより、むしろ「Isn't Anything」と「Loveless」の中間地点に位置するかのように感じられた。しかしこの音の引き加減や「マイブラ節」とも言えそうな独特のメロディーライン、リズム感は確実に「Loveless」を通過したからこそ鳴らすことができたものだと思う。なおかつ本作には、キャッチーで美しいメロディーと歌声を聴かせてくれる「あの頃のマイブラ」そのまま姿があった。
そんなわけで、本作はマイブラの新作として「最も多くのファンの期待に沿った作品」と言えるのではないだろうか。もちろん「21年も待たせて、結局何も進化していない」という批判的な声も見掛けるし、マスタリング云々という楽曲以前の議論も巻き起こっている(そういった議論が起こるのも、このバンドの特異性だと思う)。確かに本作は、マイブラが「Isn't Anything」から「Loveless」にかけて3年間の間に遂げた変貌ぶりを考えると、あれから21年を経た音というほどには変わっていない。むしろ、様々な音が広いレンジで幾重にも重ねられていた「Loveless」と比べると、「m b v」は(そのぶっきらぼうなタイトルが象徴するように)極めてシンプルかつラフな音作りが施されているが、それによって各パートの音の輪郭は(音質は籠っているものの)どれもハッキリ識別できるようになっている。もちろん、本作はほぼ90年代に録音された音の断片を最近になって編集したものらしいので、あの頃と何ら変わっていないと感じるのは当然かもしれないけど、かといって2013年の音としても古さを感じないことから、いかに「Loveless」期の彼らが先鋭的だったかということや、いかに現在の音楽シーンに大きな影響をもたらしたかということを窺い知ることができる。
本作の曲順は、もしかしたら制作順に適当に並べただけかもしれないけど完璧だと思う。オープニングの「She Found Now」のビートは「All I Need」や「Sometimes」を連想させずにはいられないシンプルな八つ打ちのバスドラのみで、「いかにもマイブラらしいサウンド」であることを強く印象付けるし、続く「Only Tomorrow」のビリビリに歪ませたギターは「Slow」を連想させ、タイトルからしてセルフパロディーっぽくてニヤリとさせられる。中盤には美しい「Is This And Yes」を挟みつつ、終盤のブレイクビーツ三連発はそれまでの印象を変えてしまうほどの強烈なインパクトがある。特にラストを飾るドラムンベース曲「Wonder 2」は、かつての「Soon」が持っていたのと同様に強靭なグルーヴとカオティック・サイケな展開を見せつけ、アルバムのエンディングを飾るに相応しいアンセムになっていると思う。
最後に一つ自問(愚問)。「このアルバムはLovelessを超えたのか?」―その答えは、現時点では「ノー」。でも、マイブラの新作としてはパーフェクトと言える作品だと思う。順調にいけば今年中にリリースされる(?)という、新曲のみで構成されたEPにも期待したい。
My Bloody Valentine - "Wonder 2"
The History of Apple Pie / Out of View (2013)
★★★★☆
当ブログの「2013年期待の新人」特集で1位(今となってはちょっと疑問も感じられるランクだったけど)に選出された、ロンドン出身の男女5人組バンドによるデビューアルバム。所謂シューゲイザーに大別されそうなサウンドながら、過度なリヴァーブに頼らずに粗削りなギターロックを鳴らす様はペインズのセカンド作「Belong」にも似た感触。アレンジにヒネリがないのが若干寂しいものの、捨て曲なしの良盤。
Tom Tom Club / Close To The Bone (1983)
★★★★☆
ただいま放送中のアメリカンアイドル・シーズン12の審査員として出演中のマライア・キャリー。マライアと言えば大好きな曲「Fantasy」(→YouTube試聴)、そしてその曲でサンプリングされていたのがTom Tom Clubの「Genius of Love」。という流れで、そういえばTom Tom Clubってファースト以外聴いたことないや、と本作収録の「The Man With the 4-Way Hips」(→YouTube試聴)を聴いてみたところ、ノックアウトされて即購入。ディスコファンク度が強化されつつ歌メロのポップさはしっかりキープされており、たぶんファーストよりも好きかもしれない。00年代のインディーロックとして聴いても何ら違和感のないクールな多国籍ファンクサウンドに仕上がっている。彼らからの影響を公言しているThe Ting Tingsや、CSSが好きなリスナーにもオススメ。
Ikara Colt / Modern Apprentice (2004)
★★★★☆
2002年、ガレージロックンロールリバイバルの最中にデビューし、よくソニック・ユースを引き合いに出されていたUKの4人組のセカンド。デビュー当時から「すべてのバンドは5年で消えるべきだ」と発言し、その言葉を全うすべくアルバム一枚で解散したように記憶していたので、中古CD屋でたまたま見つけるまで本作の存在を知らなかった。女性ベーシストが加わり、バンドの半数であるギターとベースが女性になったが、サウンドはそれによってソフトになったりガーリィになることなく、ファースト同様にパンキッシュで粗削りなロックンロールが満載。グランジもポストパンクもニューウェーヴも詰まったサウンドは現在も求められる音だと思うのでまた活動を再開してほしいものの、前述の発言やアティテュード的に再結成してはいけないバンド。
Six. By Seven / The Closer You Get (2000)
★★★★☆
イギリスのサイケデリックバンドによるセカンド。ファーストとサードは所持していたけど、昨年の個人的な再評価の流れでレンタル。マッドチェスター/トリップホップ/ブリットポップなどからの影響の強かったファーストと、ガレージパンク色を強めたサードの間で、どのような音楽性を持った作品なのかと思ったけど、うまく双方の間を埋めるサウンドに仕上がっており、「New Year」のようなメロディアスなポップナンバーから「Sawn Off Metallica T-Shirt」(→YouTube試聴)のような爆裂ガレージパンクまで幅広く、このバンドの持つ多様性を集約したような内容になっている。
Nirvana / In Utero (1993)
★★★★☆
厳密には本作を初めて聴いたのは15年ほど前ではあるけど、当時カセットテープだったためにもう10年近く聴いていなかった。昨年のクラウド・ナッシングスによるスティーヴ・アルビニ(の作るドラムサウンド)再評価でCDを買い直したけど、正直すっかり忘れていた曲もあって、初めて聴くような新鮮さと「こんなにかっこよかったっけ…」という驚きを覚えた。爆音で聴きたい一枚。
V.A. / Onwards & Upwards V.A. (2013)
★★★★☆
日本のネットレーベルano(t)raksが、昨年の「Soon V.A.」に続いてリリースしたレーベルコンピ。全16曲収録で、現在はこちらのano(t)raks公式bandcampにてフリーDL可能。前半は「Soon V.A.」にも参加していたバンドが多く、前コンピを彩っていたアノラックなギタポナンバー多め。中盤はエレポップやシティポップなど拡がりを見せ、終盤はスケール感のあるポストロック2曲でシメる(さらにその後、異彩を放つJ-POPライクなボーナストラックも)構成には強いこだわりを感じるとともに、今後のこのレーベルの活動が多岐に拡がっていくことを示唆するかのようにバラエティに富んでいる。
特にお気に入りなのは以前から注目しているThe Vanities(後ほど彼らのEPの感想もあり)と、今回初めて知ったKai Takahashi。後者による「1980」は耳馴染みの良いAOR的側面がありながら、どこか浮世離れした現実逃避感も感じさせるトラック。アーリー90's的なヒップホップ/R&Bマナーに沿ったミディアムテンポのビートが心地よく響き、そこに清涼感たっぷりの甘い男性ボーカルと、ポリリズムを活かしたエレピやトランペットの音が絡み合い、非常に洗練された都会的なポップナンバーに仕上がっている。個人的には、POP ETCの「Live It Up」(→YouTube試聴)、「Fosbury」期のTahiti 80、例えば「Paradise」(→YouTube試聴)辺りを引き合いに出したい。
The Vanities / 1+1=26 EP (2012)
★★★★☆
本当は1月の「初聴きディスクレポート」で書くはずだったけど漏れてました。先に書いたano(t)raksのコンピにも楽曲提供していた栃木の男女2人組によるデュオ。ano(t)raksのbandcampからフリーDL可。オープニングを飾る表題曲は(ほぼ)ワンコードのメロディーに乗せて、平熱でありつつも柔らかい女性ボーカルによってひたすら「○○たす××はにじゅうろく~」という脱力な歌詞が歌われており、相対性理論にも通じる摩訶不思議な世界観がある。その他にも「futarinotokei」は歪んだギターと打ち込みビートがThe Raveonettesライクな激甘ノイジーギタポ、続く「L.H.O.O.Q」は実験的でパンキッシュ、そして「X+Y=26」(このタイトルと表題との関連性など含めて、非常に面白いセンスを持っていると思う)は逆回転を用いたサイケ・シューゲイザーで、全4曲ながら聴きどころ満載。先述のThe Raveonettesの他、ジザメリやスーパーカー好きにもオススメ。デビューフルアルバムも非常に心待ちにしている。
Rihanna / Unapologetic (2012)
★★★★☆
ここ4年は1年に1枚のペースでアルバムをリリースしているリアーナ。正直、ライブパフォーマンスはイマイチだし、曲に関しても複数の一流制作陣が持ち寄った曲を歌うだけという印象が強く、「Rated R」(2009年)も「LOUD」(2010年)も中途半端でまとまりのない作風に感じられたし、デヴィッド・ゲッタ的EDM色をさらに加速させた「Talk That Talk」(2011年)に至ってはスルーしていた。そんなわけで今回もあまり期待はしておらず、シングル「Diamonds」の良さに釣られてアルバムを聴いてみてビックリ。ゲッタ印の「Right Now」はあるものの、The Weeknd以降とも言うべきR&Bやブロステップ、ポスト・ダブステップ界隈からの影響を感じさせる、空間を活かして音が配されたダウンビート曲が大半を占め、全体的に漆黒のミステリアスな空気に包まれている。彼女自身の声も以前よりも哀愁が増して美しくなったように感じられた。
Caribou / Andorra (2007)
★★★★☆
昨年のフジロックではベストアクトに選んだCaribou。セットリストのほとんどを占めた目下の最新作「Swim (2010年)」はオーガニックな質感のあるダンストラックがメインだったけど、その前作にあたるこのアルバムは冒頭から驚かされる。60年代のソフトロックやフラワームーブメントのロック、もしくはブリティッシュロック辺りに近い感触のサウンドは、サイモン&ガーファンクルの「Hazy Shade of Winter(冬の散歩道)」やママス&パパスの「California Dreamin'」、もしくはザ・ラスト・シャドウ・パペッツの「The Age of the Understatement」なんかを思い出させた。こんなサウンドから、どうして3年後に「Swim」のようなサウンドに至ったのか?と不思議に思いながら聴き進めていくうち、ラストを飾る「Niobe」(→YouTube試聴)ですべての点が線で繋がるような展開が素晴らしかった。
Earl Sweatshirt / Earl (2010)
★★★★☆
Odd Futureの最年少メンバーによるフリーミックステープ。2010年作なので16歳の時の作品ということがにわかに信じがたいクオリティ。音数を最小限に留めたヨタついたビートに、ピアノやブリープシンセなどを加えたシンプルかつドープなトラックがかっこいい。トラックがかっこよすぎて肝心のラップの方にあまり耳がついていかなかったのは残念ではあるけど。「Earl」はこちらからフリーDL可能。
Death Grips / Exmilitary (2011)
★★★★☆
昨年高い評価を得たデビューアルバム「The Money Store」に先駆けてフリーで発表されたミックステープ。ペット・ショップ・ボーイズの「West End Girls」を大胆にサンプリングした「5D」、ザック・ヒルの超絶ドラムが堪能できる、クドゥルとドラムンベースをミックスしたような「Thru The Walls」など、聴きどころも満載。「Exmilitary」ダウンロードはこちらから。
Death Grips / The Money Store (2012)
★★★★☆
こちらはそのデビューアルバム。終始ハイテンションでアッパーなトラック、重低音の効いたビート、ダブステップばりのウォブルベース、ドープでイルなムードに満ちたラップが混然一体となり、彼らにしか鳴らせない唯一無二のサウンドを作り出している。
Giraffage / Needs (2013)
★★★☆☆
Taquwami、XXYYXX、Slow Magic好きにオススメ。そのXXYYXXとコラボしたこともあるサンフランシスコのプロデューサによるミックステープ(「Needs」はこちらからフリーDL可能)。 こういったチョップト&スクリュード多用のチルウェイヴ風R&Bはそこまで好きではないのだけど、現在のトレンドど真ん中なので聴いて損はないと思う。繊細でドリーミーでオーガニックで、陶酔感に満ちたサウンドとキメの細かいハイハットのビートがかっこよかった。「Money」という曲でジャスティン・ビーバーの「As Long As You Love Me」(→YouTube試聴)をサンプリングしていると思うんだけど、もしそうだとしたら「Money」というタイトルとの関連性も含めていろいろと推測できそう。ちなみに読み方は「ジラーフエイジ(キリン時代)」だと思っていたけど、「ジラファージュ」らしい。
FIDLAR / FIDLAR (2013)
★★★☆☆
LA出身、スケボー、ガレージパンクと言ったキーワード、そしてWichitaやSUBPOPとのレコード契約、さらにバンド名は「Fuck It Dog, Life's A Risk」の頭文字!こういうやんちゃなガレージパンクバンドを待っていたし、先行シングル「Cheap Beer」や「No Waves」が最高にポップな能天気パンクだったのでかなり期待していたのだけど、アルバム通して聴くと何だか今一つ盛り上がりに欠けて物足りなかった。期待が大きかった分、少し肩透かしを食らった気分。もっとはちゃめちゃになっていいのにと思う。
The Script / The Script (2008)
★★★☆☆
USビルボードチャートにはちょいちょい顔を出し安定した人気を見せるものの、ここ日本ではなぜか知名度の低いアイルランドのバンドによるデビュー作。音楽性的にはU2からの影響を感じさせつつもトラヴィスや初期コールドプレイに近く、哀愁と叙情性たっぷりのメロディアスなロックなので、プロモーション次第では日本でももっと人気が出ていいと思う。Ed SheeranやJason Mraz好きにオススメな1曲目「We Cry」(→YouTube試聴)、アップテンポな「Talk You Down」など特によかった。
Ash / Trailer (1994)
★★☆☆☆
大のアッシュ好きを公言しておきながら実は持っていなかったこの最初期音源(まあ、本作収録曲の代表的なものはベスト盤に入っているし)。この頃はまだティムのソングライティング力は開花前夜という感じでメロディアス度はその後に比べると足りないものの、パンキッシュ(ほとんどメタル)なギターリフがグイグイ迫るラウドな作品。そんな中でも後のメロディック路線の萌芽が感じられる「Petrol」(→YouTube試聴)が光っている。
Madonna / Ray of Light (1998)
★★☆☆☆
数ヶ月放置してしまった、マドンナの全オリジナルアルバム11枚組BOXを時系列順に聴く試み再開。前半は本作のプロデューサーであるウィリアム・オービットらしさ全開のアンビエントなシンセ音を配したハウストラックが並び、後半はクリス・カニンガムによるミュージックビデオで有名な「Frozen」をはじめとした、オリエンタリズムとアンビエントが融合した内省的なトラックが中心。アルバム単体の世界観としてはマドンナ史上最も完成されているアルバムだと思う。
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