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あのアーティストとの出会い

あのアーティスト・この出会いVol.3 ≪My Bloody Valentine≫

音楽との印象深い出会いの想い出を語る特集です。前回取り上げたNew Orderから実に13ヶ月ぶり、第三回目となる今回は、このたび遂に過去2作のリマスター、そしてEP集がリリースされるMy Bloody Valentineを取り上げたいと思います。

(それにしてもこの特集名、我ながらダサいよなあ・・・と思う今日この頃。)


my_bloody_valentine
※最もよく知られたアー写。ボーカルよりもドラマーが目立ってますね



マイブラを初めて聴いたのは2000年でした。当時はまだ洋楽ロックにハマって3年ほどで、名前をよく見聞きする未知のバンドを開拓してみようというところから始まりました。「ミュージックライフ」のスマパンの特集記事で、ビリー・コーガンが影響を受けた作品として紹介されていたのがきっかけで友人から「Loveless」を借りました。

最初にCDプレーヤーで聴いた時の印象は今も覚えていて、ひとつは「やたらと曲数が多くて長いアルバムだな」というものでした。実際は全11曲だし、48分なのでそれほど長いというわけでもないんだけど、曲のアウトロにいくつか挿入されているシンセパートとか、「Soon」や「I Only Said」にみられるミニマルに反復されるリフのパートによって、そのように感じられたのだと思います。

もうひとつの印象は、「音の気持ち悪さ」でした。冒頭の「Only Shallow」におけるギターのトレモロ・アーム奏法は、今となってはマイブラの代名詞的なサウンドだと思っていますが、初めて聴いた時は「カセットテープが伸びてしまってるのかな?」と思ったのです。10代や20代前半の人がどれくらい理解してくれるかわかりませんが、カセットって古くなったり機械に巻き込まれたりするとテープがヨレて、その箇所はテンポが緩まったり音程が低くなったりするんですよね。トレモロ・アームによる「音程の揺らぎ」がこの「テープ伸び」のように感じられて、最初かなり気持ち悪かったです。すぐに「あれ?でもこれカセットじゃなくてCDだよね?」と思い直しましたが・・・。

というわけでマイブラの第一印象は「長い、そして音が気持ち悪い」という結構ひどいものだったし、ボーカルはほとんど聞こえないし、ドラムの音は軽すぎるし(「タタタタタタタタ」って機械みたいなフレーズダサいなあと)と、けっこう惨憺たるものでした。

"Only Shallow"



それがなぜ、自分にとって「生涯のベスト・アルバム」で真っ先に挙げるほどのアルバムになったのか?それは自分でもよくわかりません。「長い、気持ち悪い」と思いながらも5回ほど聴いたら、突然好きになったのです。おそらく慣れによってトレモロや反復といったマイナス要因が次第に気にならなくなり、そこで霧が晴れたかのようにメロディーの美しさが浮かび上がってきたのだと思います。このアルバムの素晴らしさの本質は、幾重にも重ねられて輪郭も不明瞭になったノイジーなギターのウォール・オブ・サウンドではなく、耳馴染みの良いグッド・メロディーだと気付きました。それに気付くと同時に、音程の揺れや長々と反復するフレーズさえも、逆にとても魅力的に聴こえてきたのです。

スカーレット・ヨハンソンとビル・マーレイ主演の映画「Lost In Translation」で、マイブラの「Sometimes」が流れるシーンがあります。夜の東京タワーやレインボーブリッジをタクシーで走り抜ける映像のバックでこの曲が流れるのですが、ノスタルジックな気分と、初めて見る光景に対するワクワクが入り混じった感情にとてもマッチしています。それは牧歌的ですらあるキャッチーなメロディーと、聴いたこともないような不安定なギターノイズが見事に融和しているからではないでしょうか。

"Sometimes" (from Lost In Translation)



「Loveless」のことばかり書きすぎましたね。ほどなくしてマイブラにハマった僕はその後すぐに「Isn't Anything」を買い、「Only Shallow」の出だしとほとんど変わらないスネアの連打で始まる「Soft As Snow(But Warm Inside)」にズッコケつつも、ギターのチューニングが狂ったままひとつの不協和音を延々と引き倒す「Lose My Breath」、ドラムがしっちゃかめっちゃかなうえ、ボーカルをタイミングがズレまくったままいくつも重ねるという暴挙に出た「Sueisfine」など、「どこかぶっ壊れたポップネス」を感じました。ひたすらポップな音楽が好きではあったけど、完璧すぎて隙がないポップは刺激に欠けるということで、ポップなんだけどあちこちに狂気を覗かせるような音楽に惹かるようになったのはマイブラが最初でした。

当時結構な高額で売られていたクリエイション時代のEPなどは手が出ませんでしたが、ある日ディスクユニオンに「Complete Rarities Vol.1」というブートのアナログが売られていて、レコードプレーヤーも持っていないのにこれを買いました(そしてすぐにプレーヤーも買いました)。ここに収録されていた「You Made Me Realise」を初めて聴いた時の衝撃と言ったら、ちょっと文章にはおこせません。

※「You Made Me Realise」の動画は貼りません。もしまだ聴いたことがないという方がいましたら、今回リリースされるEP集に収録されていますので、それを聴いて吹っ飛ばされてみてください。

「Loveless」の国内盤ライナーの中で言及されていてその存在を知った「Ecstacy And Wine」(2枚のEP「Strawberry Wine」と「Ecstacy」を、バンド側の承認を得ないままLazyレコーズが勝手にコンパイルしたもの)も、当時足繁くディスクユニオンに通っていたおかげで再入荷盤を1500円ほどで入手できたし、これらのレコードを手に入れる度に自分の中でマイブラは大きな存在になっていきました。時代によって少しずつ音楽性は異なるものの、そこには「キャッチーなメロディー」と「ノイズ(もしくはある種の異物感)」を同居させるという共通の姿勢が貫かれていると思います。

そんなわけで、「Loveless」リリースから10年近く経ってからマイブラを知った僕ですら感慨深いものがある今回のリマスターアルバム2枚とEP集。リイシューの計画から10年以上かかったのは何故なのでしょうか。これまでも何度かリマスターやEP集、ボックスセットなどの発売情報が出たものの、その度に発売中止になり、自分を含め多くの人が「ケヴィン・シールズの言うことはアテにならない」「出す出す詐欺」「完璧主義者の偏執狂」というレッテルを貼ってきましたが、実は事情はそんな単純なものではなかったことがピッチフォークによるケヴィン・シールズのインタビューの中で語られています(日本語翻訳はこちらに詳しく書かれています/Simon Says)。

自分も後追いだけど、Twitterで見る限りもっと若い世代、特に10代の洋楽聴き始めたばかりの人まで、マイブラのファンは多いように感じます。きっとRingo DeathstarrやThe Pains of Being Pure At Heartなど、マイブラからの影響を公言するアーティストが多いからでしょう。彼らの音楽はこれからもずっと多くの人を魅了し続けると思うし、今回の一連のリリースや今後のリリースでさらに新しいファンが増えると思います。リマスターのリリース=レコード会社との種々の問題の解決とみれば、ケヴィン本人が言うように新作のリリースも夢物語ではないのかもしれません。でも何年も待たされるのは慣れているので、「年内リリース」は真に受けずに気長に待つことにします。





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