ZOO〈1〉 乙一 (2006/05) 集英社 この商品の詳細を見る

ZOO〈2〉 乙一 (2006/05) 集英社 この商品の詳細を見る

★★★★☆

　ジャンル分け不能、天才・乙一の傑作短編集。
　双子の姉妹なのになぜか姉のヨーコだけが母から虐待され…「カザリとヨーコ」、目が覚めたら何者かに刺されて血まみれだった資産家の悲喜劇「血液を探せ!」、ハイジャックされた機内で安楽死の薬を買うべきか否か?「落ちる飛行機の中で」など。話題の短編集を2冊にわけて文庫化。
　「1」には映画化された5編をセレクト。漫画家・古屋兎丸氏との対談も収録。
　「2」には文庫版だけのボーナストラックとして、単行本に入っていなかった幻のショートショート「むかし夕日の公園で」を特別収録。

　赤字が『ＺＯＯ１』、青字が『ＺＯＯ２』に収録されている作品。

「カザリとヨーコ」双子なのになぜか虐待される一方の女の子。彼女の双子であることを利用した復讐劇には驚かされました。ただ、彼女がそうなった経緯、家族のことなどについて一切説明が無いのが気になります。

「血液を探せ！」人が今にも死にそうな状況であるにもかかわらず、コミカルストーリーと化しているのが異様。このギャップが面白い作品でした。

「陽だまりの詩」ロボットが生きること死ぬことを考えるお話。ロボットを人間と誤認させたトリックがテーマと一体となっており、サプライズも効果的。

「SO-far　そ・ふぁー」一見、事故の犠牲になった親を描いたピュアな話かと思いきや…。本当の犠牲者は××という読者の思い込みの全く逆をつくものでありながら、ピュアストーリーは維持したまま。うまくオチをつけた作品です。

「冷たい森の白い家」××で家を作るなんて、作者は一体どういう経緯で思いついたんでしょう。読者の想像を凌駕するアイデアと、ある人物が終盤にとる行動が印象的。いろんな形で愛が描かれている作品でもあります。

「Closet」殺人事件を下敷きに、もっと別な物語が紡がれるのかと思いきや、思ったより本格ミステリ的なサプライズが用意されていました。丁寧な伏線の張り方で、真相と恐怖の結びつきが見事な作品。

「神の言葉」念じたことが現実となる男の子が主人公。まぁ「デスノート」乙一版といったところでしょうか。一見すると絶望感漂う世界ですが、異形のハッピーエンドを描いている点で秀逸。

「ZOO」無限ループを断ち切るきっかけが予想外のもので面白いです。主人公の苦しみを開放するものが結局、彼女の告発であるように思えてなりません。

「SEVEN ROOMS」島田荘司さんの『アトポス』の影響を受けたと小耳に挟みました。たしかに前半部分のワンシーンを抽出した感じ。たいへんサスペンスあふれる展開で面白いのですが、なぜ閉じ込められたのか、なぜ殺されなければならないのかという説明が一切無い。このことは他の作品にも見受けられますがすこし気になります。登場人物が女性ばかりなので、妊娠中絶について暗に描いているのかなぁと勘繰ってみましたが、それも定かではありません。

「落ちる飛行機の中で」これも「血液を探せ！」とある部分でにており、ハイジャック中であるにもかかわらず、空き缶を踏んですってんころりんしたり、機内で営業したりなどユーモラスな話です。悪くはないですが、インパクトがなくて印象に残りにくそう。

「むかし夕日の公園で」日常が非日常へずれ込む過程をうまく描いた作品です。単純に恐怖だけでなくどこか愛も感じられます。


　収録作のなかで好きなのは「冷たい森の白い家」「SO-far　そ・ふぁー」あたり。

　個人的には『ＧＯＴＨ』よりこっちの『ＺＯＯ』の方が好きです。バラエティーに富んだ宝石箱といった感じ。
　…いや宝石箱はなんかニュアンスが違うな…。