満願 (2014/03/20) 米澤 穂信 商品詳細を見る

★★★★☆

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　【内容紹介】

　人生を賭けた激しい願いが、6つの謎を呼び起こす。期待の若手が放つミステリの至芸! 人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは――。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、フリーライターなど、切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジック。「日常の謎」の名手が描く、王道的ミステリの新たな傑作誕生!

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　帯に「期待の若手が放つ」と書いてありましたが、米澤氏のキャリアでもいまだ「若手」扱いされているのが少し意外でした。
　本書は短編集で、以下の6編が収録されています。


　「夜警」
　「死人宿」
　「石榴」
　「万灯」
　「関守」
　「満願」

　漢字ばかりで堅苦しい印象を受けます。作品の文章をみてもライトな印象は全く無く、過去の氏の作品とは雰囲気が違っていました。
　ただし、エンタメとしては良質なものばかりです。書き下ろし作品が無いのが少し残念ですが、サプライズのためのアイデアが光るものばかり。しかも主人公やヒロイン、舞台となる地がバラエティに富んでいて、毎回新鮮な気持ちで物語に入っていけるのも良いです。いずれも独立した作品です。連鎖はしません。
　個人的に好きなのが「万灯」と「満願」。いずれも過去に例を見ないようなミステリとしてのサプライズを有しており、ネタだけみればワンアイデアものでしょう。しかし、決してそのネタの見本市にはなっておらず、そこへ行き着くまでも物語が大変面白いです。「万灯」は天然ガス採掘を目的に海外へ派遣された男性が主人公。舞台が海外で、異文化コミュニケーションが面白いです。ミステリのつくりとしては倒叙ものですが、犯行計画が崩れるきっかけとなる風穴が予想外のところから開いてしまいうのが楽しいです。
　「満願」は新人弁護士の初仕事を描いた物語。手がかりの見せ方も良ければそこから導き出されるロジックも良いです。手がかり～ロジック～ホワイダニットの連鎖が大変美しいです。特に真相を照射するエピソードがさりげなく物語の中に埋め込まれているのが良い仕事をしています。
　「関守」はホラー要素の強い作品で、「石榴」は見せかけとは裏腹に、女性の内に潜む情念を描いた「関守」とはまた違った恐ろしさを描いた作品。
　「死人宿」は、これもミステリとしてよく出来ていると思いました。物語にはひそかに2つの流れがあり、探偵役によって、拾うべき手がかりが見過ごされ、読者がミスリードされてしまいます。これも手がかりの埋め方が上手く、読み終わったときに思わず手がかりを拾いに読み返してしまいました。
　「夜警」は交番勤務になった新人警官とその上司が主人公。警官への向き不向きがリアルに描かれていて、そのあたりのリサーチにも感心しましたが、上司と新人の内面の書き分けが上手くそれが真相への足がかりになっているのが巧妙です。このあたりはさすが米澤穂信といった感じです。

　いずれも物語とミステリとしてのサプライズが一体になった作品ばかりです。全体的にクオリティーの高い作品ばかりでお勧めです。