| ・出版社/メーカー:光文社 ・定価:¥940 ・発売日:2005/03/25 ・メディア:新書 |
★★★★★ 「アリア系銀河鉄道」に続く“三月宇佐見のお茶の会”シリーズ第2弾!
幻想と論理が渾然一体となった作品ばかりで、本格ミステリの新たな可能性を秘めた作品集。 「エッシャーの世界」建築構造的な世界律が異なる世界へ紛れ込んだ宇佐見博士。宇佐見がこの世界を脱出するには、神の視点からのアプローチが必要であった。
エッシャーの世界のペンローズの階段の消失と、殺人事件の謎。そして宇佐見博士の世界のハロルド・ミューラーによる絵画の真意。そのどちらの謎も既成概念を打ち破ったアプローチの仕方で解決されていきます。ラストのドキッとするような宇佐見博士の台詞も、このシリーズならではのもので良かったです。
「シュレディンガーDOOR」今回は珍しく宇佐見博士の世界で起こった事件のように見えるたのだが、実は…
ここでも「内側」と「外側」が問題になっていて、観察を拒絶するカプセルの内と外に生死不明の人間が一体ずつ。どちらが双子の兄でどちらが弟か。とにかく特定できない謎ばかりが発生します。数学的に不可能とされる犯行方法を、犯人がいかに実行できたのか?ロジックの効いた作品で、事件の構図が逆転に次ぐ逆転を起こす展開は、たいへん素晴らしいです。
「見えない人、宇佐見風」まず、冒頭の絵がいいですね。数秒見つめて思わずニヤリ。
クロードという男が書いたミステリが作中作となっていて、それを宇佐見博士が解決するという構成です。ですから、読者にも真相を推理することが可能な訳です。入れ子構造のミステリですが、単なる作中作の謎だけに終わっておらず、宇佐見シリーズで描くことで成功しているミステリだと思います。
「ゴーレムの檻」冒頭の文
「君たちの世界を、私の造りあげる子宮に戻そう。私は、すべての外側に立つ。」とあるように、檻にとらわれたゴーレムは、檻の内側と外側を反転させようと試みる。
過去には人格を少しずつ檻の外側へ移し出していった彼ですが、今回はまるで、身体を分割して脱出したような事件が発生します。
ナノテクノロジーやクローンにも言及されていて、島田荘司さんの言う、いわゆる21世紀本格と言っても差し支えないと思います。昔も今もこれからも、未知なる力は何重もの檻で囲い、安全を確保する。その未知なる力が我々の外側に立ったのが、このゴーレムの檻事件で、そのゴーレムはそのままナノマシーンに置き換えることが可能です。
ゴーレムの檻事件が、別世界の事件だとは傍観してはいられません。この作品は「モルグ街の殺人」が当時の読者の現実を侵食したような、そんな不思議な感じを与えてくれるミステリでした。
「太陽殿のイシス」サブタイトルが「ゴーレムの檻 現代版」で、「ゴーレムの檻」で歩哨用石塀のデッドスペースに落ちたチップスが引き続き登場。今回も密室からの脱出を扱ったもので、現場となった太陽殿の一室は「ゴーレムの檻」の密室と酷似しています。「ゴーレムの檻」事件と違って、監視役の目の前で脱出が行われるので、不可能味はより強い。
神をも味方につけた脱出計画で、肉を切らせて骨を絶つともいうべきもの。前作を踏まえてのトリックも良かったし、そのトリックが同時に
反乱の正当な旗印にもなるという意味を持つのも良かったです。1つのトリックに、1つの意味だけでなく何重もの意味を持たせるやり方は巧いですね。
全編通して、不確定性原理と叙述トリックとを見事に融合させた、奇跡のような作品!やってくれたぜ柄刀一!柄刀マジック大炸裂!!