★★★☆☆
【あらすじ】 放課後の旧体育館で、放送部部長が何者かに刺殺された。外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態だった!?現場近くにいた唯一の人物、女子卓球部の部長のみに犯行は可能だと、警察は言うのだが…。死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のため、学内随一の天才・裏染天馬に真相の解明を頼んだ。なぜか校内で暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に―。エラリー・クイーンを彷彿とさせる論理展開+抜群のリーダビリティで贈る、新たな本格ミステリの登場。若き俊英が描く、長編学園ミステリ。
第22回鮎川哲也賞受賞作です。作者は1991年平成生まれの現役大学生です。
購入後に知ったことですが、ツイッターでかなり話題になったようです。エラリー・クイーンの論理展開という宣伝に惹かれたのか、館シリーズをもじったかのようなタイトルに惹かれたのか、実際のところはよく分かりませんが、いずれにしてもド直球の本格のようで、実際に読んでみてもそんな感じでした。
こういった売り文句で読書前の期待値を上げまくったのは作者の責任では無いとは思うんですが、クイーン云々の文言が出てきているせいで相対的に作品が悪く見えてしまっているのは不幸なところかもしれません。
正直謎解きに安易な決め付けが目立ちます。
ただ、論理的謎解きはどこかのタイミングで飛躍をさせなければならないし、そのあたりが上手くないというだけで、今後経験を積めば解決されることだと思います。本ミス上位ランカーでもこのあたりが下手な作家もいます。水も漏らさぬ完璧な謎解きより、どちらかと言うと読者が納得できる謎解きが重要で、本作の場合も、素直に「ああ、そういうもんなんだ」と疑いの目を無くして読めば普通に楽しめる本格ミステリになっています。しかし何度も言いますがクイーン云々という宣伝が期待値を上げ過ぎた。
論理的謎解きの見どころとしては、前半のある女子生徒の濡れ衣を晴らす謎解きと、終盤の犯人特定の謎解きの2つです。トリックの見どころとしては密室トリックです。リモコン、ポスターの上の傘、など謎解きの過程で「あっ」と言わせるネタを織り交ぜながら犯人特定に向けて進む展開は面白く、このあたりはセンスの良さを感じます。ただ、全体的に謎解きが浅いのか、中編を読み終わったかのような読後感でした。ここまでのシチュエーションを生み出すことができたのなら、犯人特定のロジックももっと徹底的にできたはずです。長編なのだからそのあたりの贅沢感は欲しかったですね。
押えておきたいのは、謎解きは決して悪いというわけではないということ。荒は目立ちますが、そのマイナス要因より、トイレの傘、密室トリック、アリバイ、放送室の秘密などといったさまざまな角度から、犯人特定へ向けての論理的アプローチの面白さが勝っているからです。
それからリーダビリティーのある今ふうの文章やキャラクターも、謎解き主体の本作のようなミステリでは大きな武器になっています。
論理的謎解きのセンスは抜群で、仮に今回鮎川賞を逃していたとしても、いつかは推理文壇に登場したであろう、登場しなければならない才能であることは感じました。梓崎優、市井豊、似鳥鶏らとともに第四の波を巻き起こして欲しいと思います。そのためにはクイーンの再生産からは脱却しなければなりません。それに今回は学園もの――つまり誰もが知り、誰もが経験したことのある学校・学生生活の中で事件が起こっているので、作者が一体どれだけの広さの世界・経験を持っているのかが分からないのです。とにかく2作目です。今後の活躍を期待しています。
あと関係ないですけど、作中で『魔法少女リリカルなのは』の話題が出てきません。悲しい…。