タイトルだけを見ると「Son House And The Great Delta Singers」というグループ名にも見えますがそうではなく、
サン・ハウスをはじめとしたデルタ・ブルースの歌手のオムニバスレコードです。録音が1928年から30年ということは…そうです、伝説のサン・ハウスの初期録音が入っているのです!
1930年って、パラマウント・レコードがチャーリー・パットンを中心にデルタ・ブルースのミュージシャンを集めた録音セッションを行っていて、その録音を中心に編んだコンピレーションがこのアルバム、という事だと思います。チャーリー・パットン自体は大物なので、別途パットンだけの録音を集めていて、結果サン・ハウスが最大の大物になった、みたいな。
このCDの内訳は、サン・ハウスの弾き語り6曲(3曲が各前後半で合計6)、サン・ハウスとウィリー・ブラウンのデュオ1曲、ウィリー・ブラウン2曲、キッド・ベイリー2曲、サン・ハウスが参考にしたというルービィ・レイシー2曲、ブラインド・ジョー・レイノルズ4曲、ガーフィールド・エイカーズ4曲、ジョー・カリコット2曲、ジム・トンプキンス1曲。ちなみに、ウィリー・ブラウンという人は、当時のデルタ・ブルースきってのサポート・ギタリストで、彼の歌や演奏を聴けるのも、このコンピレーションの大きな魅力です。
■1928年から30年のデルタ・ブルースは… 全体の印象は、1928年から30年までのデルタ・ブルースは、影や深みのあるタイプのブルースよりも、白人のフォークロアやカントリーにも繋がるのほほんとした音楽が多かったのだな、と感じました。それこそ「カントリー・ブルース」という言葉がピッタリ。
基本はギター弾き語りで、ギターは前奏が済むと、あとは基本的にループ・ミュージック。そのループがバスとコードのひとり二重奏となっている、みたいな。語られる物語があくまでメインなんでしょうが、このギターの技も大道芸的なセールス・ポイントだったんでしょうね。若い頃、ロック・ギタリストのジミ・ヘンドリックスの演奏を聴いて、「ギターだけでもすごいのに、これを歌いながら弾いてるのか」と驚いたことがありましたが、そういうジミヘンのスタイルってベースにアコースティック・ブルースがあったんじゃないか、と思ったりして。
曲もワンコーラスが12小節と決まっているわけではなく、またスリーコードどころかトニックとサブドミナントだけ、なんてものも普通にありました。
■サン・ハウス初録音! サン・ハウスは1930年に行われたこの録音が初レコーディングです。ちなみにこのセッションに参加したのはパットンとハウスのほか、ウィリー・ブラウンとルイーズ・ジョンソン。サン・ハウスは9曲を録音したと言われていますが、このレコードに入っていないあと2曲が現存するのかは不明です。
そしてサン・ハウスのパフォーマンスですが、ダミ声を張り上げるようなヴォーカルと、ループするギター伴奏のコンビネーションがカッコイイです!これはもうほとんど浄瑠璃の世界、語りものといった方が近い音楽だと思いました。
サン・ハウスの有名セッションを挙げると、初録音となったこれ、41~42年にアメリカ議会図書館のために録音されたもの、戦後サン・ハウスの再発見となった65年『Father Of Folk Blues』の3つでしょうが、ギターのテクニックこそ65年録音の『Father Of Folk Blues』に軍配を上げたいですが、ヴォーカルは間違いなく30年録音が圧倒的だと思いました。すごい。
■デルタ・ブルースのギター実力1位?!ウィリー・ブラウン そして、サン・ハウスとのセッションにも1曲参加したウィリー・ブラウン。
ウィリー・ブラウンはサイドマンとしての活躍で知られたギタリストで、チャーリー・パットン、サン・ハウス、ロバート・ジョンソンにサポートを任された凄腕。このレコードではヴォーカルも取った弾き語りを2曲披露していますが、それがまた絶品で、サポートじゃなくて自分がフロントでいいじゃないかと思いました。私の趣味だけでいえば、サン・ハウスやチャーリー・パットンより好きなヴォーカルで、ハスキーで叫ぶその声に、味も迫力もあるんですよ!いやあ、名前しか知らなかったんですが、
ウィリー・ブラウンを聴けるだけでも価値があるレコードだと思いました。
■散弾銃で眼球を吹き飛ばされた脱獄囚 ブラインド・ジョー・レイノルズ ブラインド・ジョー・レイノルズ。名前からして目が不自由と分かりますが、そうなった理由は
顔面に散弾が炸裂したため。だから、レイノルズは目が不自由どころか、眼球自体がありません。そこまでひどいと、顔に散弾が当たったのに命を落とさなくて良かったと思えてしまいますね。数センチずれていたら命はなかったかも知れないです。
実際の音もやさぐれた不良感ただようもので、メッチャカッコよかったです!ただ、この人の歌って詞が現在のポリコレ的な感覚で言うとちょっとヤバくて、このレコードに入っている4曲のうち「Outside Woman Blues」と「B Third Street Woman Blues」は、ちょっと女性蔑視が…まあでも、時代の違うものですからね。そういう風潮を知ることが出来る資料という価値もあるかも知れません。そうそう、「Outside Woman Blues」は、ロック・バンドの
クリームがカバーしています。クリームでの
エリック・クラプトンの演奏以上に、レイノルズの演奏がカッコイイと私は感じました。歌の合いの手に入れるフレーズのやさぐれ感がすごいんですよ!
レイノルズは実際の品行も良くなかったらしく、子供のころから懲役刑を喰らい、偽名を使って警察から逃げ、脱獄した事もあったそうです。彼が戦前に発表したレコードには「ブラインド・ウィリー・レイノルズ」を名乗っているものもありますが、この改名も警察を逃れてのものだったのかも知れません。こういう事を擁護するつもりはありませんが、たしかにそういう不良っぽさが音に滲み出てるんですよね。
彼は、このレコードに入っている人の中では、
汎的なブルースのイメージに一番近い音楽をやっていると感じましたが、ハスキー・ヴォイスや畳みかけるように弾くギターのやさぐれ感がすごいので、ブルースを通り越してひとりR&BやR&Rとすら感じてしまいました。う~ん、こと音響面では本当に素晴らしかったです。
■28~30年のデルタには実力者しかいないのか?!すごい 他の人たちも、お世辞ぬきでで素晴らしくて、聞き惚れてしまいました。以下、特に印象に強く残った人について、簡単に触れておきます。
キッド・ベイリー。20年代から50年代に活躍した人と言われていますが、詳細は分かっていません。現存する録音も、このアルバムに入っている2曲がすべて。
ところがそれが良く無い音楽かというとまったくそんなことはなく、曲もヴォーカルを含めた演奏も(でもギターは本人でないという説もあるみたいです)、サン・ハウスやウィリー・ブラウンに比べると牧歌的。でもそこが長所で、いつまでも聴いていたいと思ってしまう魅力を感じました。こういう音楽もいいですねえ。
1曲だけ入っていた
ジム・トンプキンス。デチューンするようにコードがずり落ちてくるボトルネックの味わいは強烈、一度は聴くべし。声も美しく歌い回しも調子が良くて、良かったです。なんで1曲なんだろ、良かっただけにもっと聴きたかったです。
■というわけで 全員は書ききれませんでしたが、書かなかった他の人も、ギターや歌が下手な人なんてひとりりもいませんでした。さすがは流しでお金を貰っていた人たち、プロは違いますね。ダメなら下ろされるだけだろうし、変なステマが聞かない世界で強く生き延びた人なだけありました。
デルタ・ブルースというとチャーリー・パットン、サン・ハウス、ロバート・ジョンソンが御三家かと思いますが、それに付け加えて、こういうコンピレーションをひとつ聴いておくと、デルタ・ブルースへの理解がより深まると思いました。私はコンピレーションやベスト盤って好きではない方なんですが、こういうものはコンピレーション以外の形にするのが難しいでしょうから、話は別。実にいいレコードでした!
デルタ・ブルースのファンの方は必聴じゃないかと!