ワーグナーの有名作といえば『ニーベルングの指輪』4部作だと思うのですが、僕にとっては『
トリスタンとイゾルデ』が最高傑作、次いで『パルジファル』と思っています。これは、ジェイムズ・
レヴァイン&メトロポリタン歌劇場管弦楽団による『パルジファル』の録音です。レヴァインはバイロイト音楽祭で『パルジファル』の棒を振ったことがあるので、それを自分が常任指揮者となっているメトロポリタンに持って帰って演奏したという事かな?
素晴らしい録音と演奏で、テンポが少しゆっくりなので最初は「大丈夫かな?」と思ったんですが、第1部の場面転換以降はあまりの音の迫力に魅了されてしまいました。
パルジファルは、ワーグナー最後の作品で、題材が宗教的です。というわけで、オラトリオみたいに厳かな宗教音楽的な楽劇が聴けそう…と思いきや、
音楽も物語も意外といつものワーグナーに近いロマン派テイストでした。物語も、宗教的とはいっても「聖なる
王や騎士たちがエロい魔物に誘惑されてエッチしちゃって、いっしょうけんめい守っている聖杯を奪われそうになる」みたいな話ですし(^^;)。宗教というより、生と死と救済というキリスト教圏にあるロマン派の普遍的なテーマを扱った楽劇なんじゃないかと感じました。
音楽部分で好きなのは、第1幕では前奏曲(ちょっと厳か)、舞台転換の音楽(鐘の音のクレッシェンドはぞわっとくる!)とそれ以降の合唱部分。以降しばらくは強烈に素晴らしくて、背筋がゾクゾク来る音楽が続いて、
「わが肉を取れ」の合唱部分に抜けた瞬間は鳥肌もの。でも、第2幕と3幕には、僕が好きだと思う音楽はなかった(^^;)。。
そして、パルジファル自体について。若い頃、ワーグナーの楽劇は、はっきり言ってつまらないと思いました(^^;)。だいたい、オペラもロマン主義も肌に合わないのに、その両方の極めつけのようなワーグナーを面白いと感じた方がうそですよね。でもそれって、音楽や物語だけでは、ワーグナーのこういう総合舞台みたいなものは理解できないという事だったのかも。久々に聴いて感じたのは、パルジファルは物語だけでも音楽だけでもダメで、テーマ自体が重要なんじゃないかという事でした。
この物語を要約すると、命を長らえる聖杯をめぐる話で、王や聖なる騎士はこれを守ろうとし、邪の者はこれを奪おうとします。で、エロスに翻弄されて聖者側は翻弄されます。そこに現れたのがパルジファルで、かれはこの色仕掛けに打ち勝ち、最終的には悪の側のものまでを含んだすべてのものが救済されます。これを
さらにまとめると、生と死と救済がテーマ…ですよね?知らんけど。
というわけで、生とは、死とは、そしていずれ死にゆく俺たちにとっての救済とは、という所自体が問題なのだと思いました。だから、音楽や物語はあくまでこの大テーマに対するワーグナーの見解を表現するツールにしか過ぎないんじゃないかと。重要なのは、テーマそのものと、それに対するワーグナーの見解なんじゃないかと。
ただ、この見解を現代人が共有できるかというと、それはまた別問題なんでしょう。そこを分かったうえで、やっぱり僕にとっては、ワーグナーの「音楽」として、これはトリスタンと双璧を成す傑作じゃないかと思っています。プラシド・ドミンゴとか
ジェシ・ノーマンとか、
錚々たる出演者に目が行きがちですが、本当にヤバいのは合唱…こんなの感動しちゃうって(^^)。
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