コロナ禍となり、「ウイルスって何なのか、僕はよく分かってないな」と思って読んだ山内一也さんの本
『新版ウイルスと人間』が分かりやすくて素晴らしかったので、山内さんが書いたウイルス関係の本をもう一冊読んでみました。先に読んだ本が入門的な内容だったので、もう少し学術的に踏み込んだ内容のものを探して選びました。
まずは、
もし自分がウイルスの基礎知識を持っていないと思うなら、この本を読む前に、入門編のウイルス本を読んでおいた方がいいと思いました。ウイルスはDNA型とRNA型があるとか、代謝機能を持ってないとか、ウイルスは宿主の動物には悪さしないどころかいい働きをする事すらあるとか、そういう事はあらかじめ知っている前提で書かれているようでした。
そして本文。11章に分かれていて、各章それぞれがテーマに掲げた内容を詳述する形でした。僕の目に留まった記述は、以下のような所でした。
・生物は死んだら生き返る事は無いが、
ウイルスは「多重感染再活性化」という現象で死んでも再生する事がある(1章)
・生物の定義のひとつが自己複製であるなら、ウイルスは生物ではない。ウイルス粒子は外界にいるうちはたしかにそうだが、しかし細胞内に入るとそれは生きている。つまり、ウイルスの存在によって生物の無生物の境界があいまいになった。(4章)
・ヒトのゲノムには約25万のHERV(ヒト内因性レトロウィルス)が入り込んでいる。このうち、HERV-Wというファミリーの働きによって、父親の遺伝形質を受け継いた胎児が母親のリンパ球により排除されずに住んでいる、つまり、ウイルスがもたらした遺産によって人間は生まれる事が可能となっている。(5章)
・アメリカのイエローストーン国立公園にあるパニック・グラスという植物は、土壌の温度が50度ともなる環境でも生きる。その理由はクルヴラリア・プロトゥベラータというカビが寄生しているためで、このカビに強制しているウイルスによってパニック・グラスは高温でも生き延びる事が出来ている。(6章)
・ウイルスは海中にも数多く存在し、ウイルスによって生態系の有機物の配分が強く影響を受ける。(8章)
・水中では太陽光と微細藻類が光合成により二酸化炭素を有機物に変換しているが、その際分解された自らは酸素が放出される。こうした海の炭素循環で発生する酸素の量はちきゅうの2/3を占める。ウイルスは二酸化炭素を吸収する微細藻類を死滅させるため、ウイルスは地球温暖化に影響を与えていると考えられる。(6章)
・ウイルスの多くは、恐らく数百万年から数千万年にわたって宿主生物と平和共存してきた。それが人間社会と派手に接触したのは20世紀から。これは人間にとっても激動だが、ウイルスにとっても激動。(11章)
そして、最後にこれらを総括してウイルスの意味を問う…というのがこの本が狙った所だったと思うのです。だってそれをやらないと意味論にならないのでね。でも総括されていなかったので、単にウイルスの知識をバラバラに語ってるだけになっちゃってる気がしました(^^;)。
というわけで、僕が勝手に総括して意味を立ち上げておくと、以下のような感じ。ウイルスは人間が思っているところの生と死を乗り越えた存在であって(1・3章を帰納)、人類の誕生にも生きるためにも必要なウイルスもあって(5章を帰納)、地球の生命環で大きな影響を持っている(6章を帰納)。最後の、「(ウイルスは)地球の生命環で大きな影響を持っている」が、地球や生物にとってのウイルスの意味、というところなのかな、と思いました。
コロナ禍にあって、WHOにしても各国政府にしても、ワクチン研究を進めるとかワクチンを打つとか、家から出ないようにするとか、せいぜいそんな対策しかしないじゃないですか。でも僕が読んだウイルス関係の本によれば、ウイルスはある一定割合で変異するし、もし人間が集団免疫を得るというのは、政府がやってることとはぜんぜん違う事。だから、応急処置としてはワクチンや戒厳令を敷くとかしかないだろうけど、根本的にはそれは付け焼刃であって、人間がこれまで接触してこなかった生物と接触しないで済むぐらいまで地球全体の人口を抑制するとか、それをしないのであれば大きく見たら本当に集団免疫獲得のために一定数の人が死ぬのを覚悟するとかをしないといけないのだと思います。だいたい、根本のところで「ウイルスは今の人間にとって良かろうが悪かろうが、地球の生命環の一部となっている」のだから、それを排除するなんてこと自体が方途として大間違いだとしか思えないんですよね。「人間は水に溺れるから、地球から海を無くすようにする」とか、しないですよね?それと同じことだと思うんだけどなあ。
そういう重要な事を考えるベースになる生命/ウイルスに関する教養を与えてくれる良い本だと思いました!