ヒンデミットが書いたバレエ音楽ふたつです。バレエ音楽とはいえ、モダン・バレエということもあってかストーリーを追う劇伴的な内容には聴こえず、
音楽だけで構造が完全に確立しているように聴こえました。それほど、音楽が素晴らしかったです!和声機能を拡張を狙っていたヒンデミットならではのサウンドは、聴くたびに独特の魅力を感じます。
なにより「
The Four Temperaments」に打ちのめされました。。
ヒンデミット作曲、バランシン振付のバレエです。先に音楽のことを言うと、打楽器も管楽器も入っていないものの弦はオケで、ピアノと弦の室内協奏曲的。スコアを見たわけではないですが、弦はディヴィジはなく四重奏+コンバスのスコアに聴こえるほどの、
声部の絡みが美しい音楽でした。また、録音もあるのかも知れませんが、管も打も入っていない弦の美しい響きとピアノのサウンドの美しさがまた見事。
第2楽章前半に出てくるピアノとソロ・ヴァイオリンの二重奏部分、そこから弦楽セクションへなだれ込んだ瞬間の展開の素晴らしさも、ゾクゾクするほどの素晴らしさ。まずは音楽に見せられた音楽でした。これってバレエ音楽と思わず純音楽として聴いても素晴らしい作品だと思います。
でもって、音楽外の部分。このバレエ音楽って、主題と4つの変奏という5パートからなっていて、この4つの変奏部分が、心理学でいう「4つの気質理論」での4タイプ(憂鬱melancholic, 楽観sanguine, 怒りっぽいcholeric, 無気力phlegmatic)に照応している、みたいな。でもって振付はモダン・バレエといえばにニジンスキーかこの人と言われるほどの超重要人物バランシン。バランシンといえば抽象バレエが多いですが、このCDのジャケットを見ても、なんだか4つの気質が抽象的に見事な形を作っていくんだろうな、と思えて、バレエ自体を見たくなりました。なんでもこのバレエ、当初は不人気だったものの、今ではいろんなバレエ団が取り上げるほどの演目になっているのだとか。
「
Nobilissima visione」もやはりバレエ音楽で、音楽面では「The Four Temperaments」の元ネタになった作品なんだとか。バレエ音楽全体もあるようですが、このCDに収録されたのは演奏会用に3楽章に再編集された組曲版。フルオケでの演奏でした。
第1楽章「Introduction and Rondo」の浮遊するような和音の響きが見事。長調系だけど重力がどこにあるのか分からないようなフワフワ感が20世紀初頭の無調直前の拡張された調音楽独特の豊饒さでたまらないです。ああ、これは素晴らしいわ…。
元々のバレエの振り付けはレオニード・マシーヌLéonide Massine で、ヒンデミットとマシーヌはピーテル・ブリューゲルの絵画を基にしたバレエを作ろうと思っていたそうです…そうはならなかったみたいですけど(^^;)。あ、そうそう、マシーヌという人は、あの
ストラヴィンスキー「春の祭典」の振り付けをした人です。春祭の振り付けはもともとニジンスキーがしたそうですが、ストラヴィンスキーから「こいつ、音楽のことなんにも分かってねえ」と嫌われたそうで、ストラヴィンスキーがお墨付きを与えたのはのちにつけられたマシーヌの振り付けだったそうな。
録音も室内楽ではないかと思うほど(それは言いすぎか^^;)実に明瞭かつホールのリッチな響きもしっかりつかまえた素晴らしい録音で、この素晴らしいスコアと演奏を見事にサウンドさせていました。僕は音楽しか聴けていませんが、音楽だけとっても間違いなく傑作。また「The Four Temperaments」に至っては、この構成にバランシンの振り付けというだけでもバレエ自体も実に興味を惹かれました…見てないんですけどね(^^)。