デルタ・ブルース全盛だった1920年代からしばらく、
ロバート・ジョンソンはそれほど名が知られていたわけでなく、チャーリー・パットンやサン・ハウスの方が名を知られた存在だったそうです。でもブルース自体が流しの弾き語り音楽なのでレコードよりライブで聴く音楽だったうえ、
1930年に行われたサン・ハウスの初録音があまり売れなかったものだから、以降しばらく録音が行われず、サン・ハウスはローカル人気こそあるものの、レコードの上では忘れかけられた存在でした。
■60年代に再発見されたサン・ハウス 60年代になって、サン・ハウスがふたたびクローズアップされるようになったのは、
ローリング・ストーンズや
アニマルズのヒットで、ブルースに再度注目が集まったからでしょう。というわけで、おそらくいちばんよく知られたサン・ハウスのこのアルバムが録音されたのは1965年のニューヨークのこと。さすがに戦前ブルースのあのチリパチがうるさいレコードとは違って、いい音でした!変なリヴァーヴなんかもかけられてないのが良かったです(^^)。
これはサン・ハウス初のLPアルバムですが、65年録音という事もあってか、デルタ・ブルースとは言うものの1曲9分とか、けっこう長いものもありました。はじめてこのレコードを聴いた頃、僕はブルースってもっと短い曲をどんどんやるんだと思ってたんです。昔ブルースの本で読んだことがありますが、
実際デルタ・ブルースやテキサス・ブルースといった戦前ブルースって、酒場で演奏する時は1曲がすごく長くなる時も普通にあったそうです。まあ即興で物語や時事問題を語る事もあったらしい音楽だし、循環するリート形式なので、そうなるのも自然かも。録音される時はEPの収録時間に合わせて数コーラスだけ演奏するように縮めただけで。リアルな戦前ブルースのスタイルが戦後になってようやく録音できるようになったというのは、なかなか面白い現象だと思いました。
■達人ぞろいのデルタ・ブルースで名を成したギターは… 2曲が手拍子だけの独唱、2曲でアル・ウィルソン(Al Wilson)のセカンド・ギターまたはハーモニカが入っていましたが、基本的にひとりギター弾き語りでした。サン・ハウスの強烈なヴォーカルと巧みなギターにびっくり!サン・ハウスって30~40年代が全盛で、その後何年も音楽をやめていた時期があったらしいので、60歳代となったこの時期はとうにピークを過ぎたころかと思いきや、いやいやそんなものではありませんでした。
さすがはギターの達人揃いのデルタ・ブルースで名を成した人、まずはギターが素晴らしかったです。サン・ハウスのギターって、1930年の録音のころから、1小節で出来たパターンを繰り返すものが多いんですが、カッコいいパターンが執拗に繰り返されるので、なんかトランス状態に入っちゃうような感覚があるんですよね。
その中でコードとバスはつかず離れずで、これはコード・ストロークの中でバスとコードを弾き分けている感じ。そして、その上に乗っかるボトル・ネックを使った旋律部分がむっちゃくちゃカッコよくて、キュイーンと決まってました。サン・ハウスといえばボトルネックを使った演奏が代名詞となっていますが、これが悶絶もの。このカッコよさは体験しないとなかなか分からないかも。
たとえば、このアルバムに入っている大有名曲「デス・レター」を例に説明してみます。私にはGのペンタトニックに聴こえるこの曲の演奏トリックの鍵はオープン・チューニング。間違っているかも知れませんが、恐らくギターのチューニングを、下からD,G,D,G,B,Dとしている気がします。少なくとも、1弦と2弦はこうしないとボトルネックで協和音程を作れないので、まあ間違いないのではないかと。
下から2番目(ギターの5弦)でGとB♭(またはその1フレット下のF)を弾いて、これがベース。その上の3つの弦(4,3,2弦)は指で抑えずそのまま弾いても綺麗にGメジャーの構成音が鳴ります。という事は、曲の大半で鳴っているG部分では、左手は指一本でバスとコードを弾くことが出来るんですよね。あとは旋律部分を担当しているボトルネックなので、演奏する時の脳みその使い方としては「バスコードとメロ」だけに限定できるんだな、みたいな。こうなると小指につけているだろうボトルネックにけっこう集中できそうです。それが簡単じゃないんですけどね。。
他には、ハー音の使い方が実にブルースで、独特のニュアンスでした。リフの中ではベー(B♭)なのに、コードの中ではハー(B)なんですよね。このふたつの音は、コードGに対しては短3度と長3度にあたる音。西洋音楽でいえばマイナーとメジャーを分ける重要な音です。この3度を自由に行き来するのがいかにもでもブルースで、本当にいい味を出していると感じました。
ギターの事ばかり語ってしまいましたが、ギターの上に乗っかるヴォーカルが歌というより語りのよう。語りのような自由さを持つ歌がギターとは対照的で、この歌があるからこそギターのループが生きてくるわけで、なるほどある意味でこれは完成した様式だと思いました。やっぱりギターだけじゃなくて、全体なんですね。
■全盛を過ぎた時期の録音だなんて思っていた私が馬鹿でした このレコードをはじめて聴いたとき(私は大学生でした)、クレジットされていないだけで
リードギターが別にいて、よもやギターをひとりで弾いているとは思わなかったんです。後日、ブルースは小指や薬指にボトルネックをつけて演奏する事で、これをひとりで演奏しているのだと知った時にはビックリしすぎてうしろにひっくり返りました。 アコースティック・ブルースのギターというと、ロバートジョンソンばかりがやけに神格化されっている雰囲気を感じますが、いやいやどうして、みんなすごいんですよね。デルタ・ブルースのシーン自体が、最低でもバスとコードを同時演奏できないとブルースマンを名乗る資格がない、みたいな。サン・ハウスは、間違いなくその中に入る重要人物のひとりだと思います。
というわけで、
デルタ・ブルースどころか、アコースティック・ブルースを聴くならこれはマスト・アイテム。60年代の録音という事で、若い頃の私は「これって全盛期の演奏じゃないんだろうな」と思って買うのを躊躇していましたが、いやいやとんでもない、聴き損じちゃいけない必殺の1枚と思います!久々に聴きましたが素晴らしかったです(^^)。
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