1982年制作、リドリー・スコット監督の近未来SF作品…といいたいところなのですが、この映画の時代設定は2019年、もうすぐなんですね。空飛ぶタクシーや電飾ギラギラの飛行船広告などは間に合いそうもありませんが、人工頭脳や遺伝子操作によるクローン技術は2017年時点でもう追いついているぐらい(すごい!)、この映画の未来予想って、おおむね当たっていたのかも。
大ヒットしたこの映画は、遺伝子工学によって人間が生み出しだした人造人間の話。この人造人間たちは宇宙で危険な仕事を任されています。つまり人間扱いされていません。彼らの寿命は4年で、それを知って脱走した彼ら数人が地球に舞い戻って人間の中に紛れ込むというもの。ブレードランナーというのは、紛れ込んだ人造人間を探し出して抹殺する雇われハンターみたいな存在です。この映画、大傑作とは思わないのに、一度見ると何回も何回も見ちゃうんです。なんでこんなにひきつけられるんでしょうか。自分なりに考えてみたんですが、その理由は…
まず、ストーリーのひねりと、その見せ方がいい!一例を挙げると、人造人間の人数。地球に舞い戻った人造人間は6人なのですが、映画に登場する人数と合いません。また、主人公のブレードランナーは、雇い主の使い走りからお目こぼししてもらうんですが、そこには馬の折り紙が。最初見た時、この意味が全く分からなかったんですが、映画の中で、主人公が見た白昼夢の中に馬が一度登場しています。これらを解釈しようとすると、では人造人間のもうひとりは…みたいな。いや~、何でもかんでもセリフやナレーションで説明してしまわずに、映像や脈絡の流れで把握させるというのは、映画にしか出来ない表現方法なので、「おおっ!」と思っちゃいます。こんなふうにして視聴者の想像力をかきたてるところが、先を見たくなる要因かも。ゴダールや
ポランスキーの映画にも似た感覚があるので、もしかすると映画術としては王道のテクニックなのかも知れません。7割ぐらい分かったつもりでも、後の3割が分からないので、「あれ、どういうことなんだろう」と、また見ちゃう(^^)。
次に、
人造人間のリーダー役のルドガー・ハウアーさんの演技が素晴らしい!この映画の主役はブレードランナー役のハリソン・フォードさんなんですが、敵役のルドガーさんが素晴らしすぎて、完全に主役を食ってる(^^)。このせいで、主人公と人造人間の闘い&人造人間との道ならぬ恋の話だったはずが、死に行く運命にある人造人間の苦悩の話になっちゃってます(^^)。でも結果オーライというか、話としてはそっちの方が全然深いものになったんじゃないかと。敵の首領の最後の言葉、「オリオン座の近くで燃えつきる宇宙船、タンホイザー・ゲートのオーロラ、そうしたものを俺はこの目で見てきた。そうした記憶もやがて消える」は、映画史に残る名セリフのひとつと思います。それにしても、
ブラックレインの
松田優作さんといいい、リドリー・スコット監督さんの映画って、敵役が主役を食っちゃうものが多いですね。。
美術では、サイバーパンクな雰囲気漂う近未来の描写がいいです!超ハイテクで綺麗な超高層ビルもあれば、その下に広がるスラム街も妙に説得力あって、すばらしい!!この映画の美術監督は秀逸!マンガの「AKIRA」とか、テレビゲームなんかに出てくるサイバーパンクな描写って、この映画に出てきた美術にそっくりですが、やっぱりこのルーツって、この映画じゃないかなあ。
最後に、たぶんここが一番重要で、映画が現実と繋がっているのがすばらしいです。映画って、謎の超巨大生物と必死に戦うみたいな現実にはありえない設定だと、その必死に戦っている演技やら映画そのもの自体がこっけいに見えてきちゃう、僕の場合。でも、このブレードランナーに描かれた「人造人間の苦悩」は、人工頭脳やクローンの問題が思いっきり現実味を帯びてきた現在に見ると、80年代当時見た時とは見え方が全然違ってきて、「人造人間を作ると、彼らにも心があっても同等の人とは見做さない」とか「人造人間自体が人間より優秀になる」とか、今人間が直面している問題そのもので、とても映画の中だけにある観賞用の虚構には思えません。まさに今人類が突き当たっている問題なんですよね。いや~、これは考えさせられるなあ。
というわけで、そこまで傑作とは思わないのに、すごく引き込まれちゃう映画。
間違いなくSF映画の好作でひとつと思うので、見てない人は、一度は見てもいいんじゃないかと!あ、でも、けっこう頭使いますよ。僕は3回目でなんとなくようやくが分かった気になれた感じでした(^^)。そうそう、この映画って、最初に劇場公開されたもののほかに、ディレクターズカット版とか最終版とか色々あるので、全部まとめて見れるBlu-ray版はおススメです(^^)。