デルタ・ブルースの雄サン・ハウスの泣く子も黙る
大名盤『Father Of Folk Blues』に、僕はなかなか手を出せませんでした。だって60年代の録音だったので、ロバート・ジョンソンよりも先輩という戦前ブルースマンの全盛期の録音とは思えなかったんです。
サン・ハウスには1930年にパラマウントで吹き込まれた有名な録音もあるのですが、数曲しか吹込みがないもので、だいたいは色々なミュージシャンの録音と一緒になったオムニバス盤しか見つけることが出来ず、レコードやCDはアーティストごとに集めたい私は、二の足を踏んでいました。つまりサン・ハウスはどのレコードから聴けばよいのか、むずかしかったんですよね。
そんなある時、中古レコード屋で、ついにこのレコードと出会ってしまったのでした。41~42年録音という所に惹かれ、しかもジャケットがカッコイイ!というわけで、これがどんなレコードもよく分からないまま、勢いで買いました。若いころって小遣いのほとんどすべてを音楽に充てていたんですよね。昼食代を浮かせてレコードを買うなんて、ほとんど日課でした。あ、だから体が細かったのか…レコード・ダイエット、今こそやるべきかも。
■明るいブルースって、聴いたことがありますか? 18歳ではじめて聴いたときの印象は、「ブルースとは思えないほど明るい音楽だな」というものでした。僕、アコースティック・ブルースって、
スリーピー・ジョン・エステスの「Rat in my kitchen」のようなレイドバック感の凄いものか、アラジンやゴールドスターに録音した
ライトニン・ホプキンス初期録音「Down baby」みたいな、ディープでダークな憂いあるスロー・ブルースが好きだったんです。
でもブルースって、深堀りしていくと決して暗いばかりの音楽じゃないんですよね。テキサス・ブルースの重鎮ブラインド・レモン・ジェファーソンですら明るい曲がありますし。若い頃は、このアルバムに入っていた音楽のそういう類いの明るさかと思ってたんですが、久々に聴き直したら、理由は違うところにあるんじゃないかと思えてきたのでした。
■この明るさの正体は… このアルバムの明るさの半分は、実際の曲の明るさ。ブルースも演奏しているんですが、白人のカントリー・ミュージックじゃないのかと疑いたくなるような音楽も演奏しているんですよね。「American Defence」なんて思いっきり長調だし。サイドBの前半は、「え、本当にサン・ハウスのレコードなの?」と思うほどです。
もうひとつは、ヴォーカルとギターの演奏の軽やかさです。ちょっとつま弾いてサラッとうたったようなパフォーマンスなんですよね。曲によっては、どう聴いても流して弾き語っていました。たしかに、30年の録音とかになると、サン・ハウスってもっとだみ声で叫ぶように歌うし、65年の『Father Of Folk Blues』もドブロ・ギターをスライドさせてギターがギュンギュン鳴って迫力でした。それに比べると、この録音はボトルネックも多くはないし、ヴォーカルも叫ぶというにはほど遠い。たしかに軽さを感じるんです。だから、1930年の録音や、逆に1965年の録音に比べると、サン・ハウスの別な側面が見える音楽にも感じるのが、このレコード。
あくまで推論ですが、このレコードの裏ジャケットに書いてあるクレジットにヒントがあるのかも知れません。「Recorded by Alan Lomax for the Library of Congress.」と書いてあるんですが、これを直訳すると「
アメリカ議会図書館のために録音したもの」という事。喋っているトラックもあるし、チューニングまで録音されてるし、アメリカの音楽文化の調査資料としての録音だったのかも知れません。そういう意味で言うと、ブルースマンとしてのサン・ハウスが演奏してきた音楽の王道ではなく、サン・ハウスが知っている古いアメリカ音楽を幅広く演奏してもらったもの、というのがこのレコードの正体なのかも。
というわけで、このレコードをサン・ハウスの音楽のど真ん中と思わない方がいいかも知れません。そういう意味で言うと、最初の1枚にはふさわしくないかも。でもつまらないかというとそんな事はなく、アメリカのアーリータイム・ミュージックの実態に触れるものとして、すごく面白い音楽だと思いました。なにより、
ブルースマンがこういう白人っぽい音楽を演奏するのが驚き。黒人酒場で演奏する時はブルースを演奏していただろうけど、多数派の白人の前で演奏する事もあっただろうし、そういう時にはそういう音楽のレパートリーも持っていたのかも知れません。あ、でもミシシッピ・ジョン・ハートみたいな人もいるか。。
そして、これが戦中録音、『Father Of Folk Blues』が戦後だとすれば、サン・ハウスには有名な戦前の録音がありまして…その話はまた今度させていただきます!
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