自分でも意外だったんですが、僕が
カラヤンが指揮した音楽でモーレツに感動したものって、ベートーヴェンやブラームスの交響曲じゃなくて、
ブルッフのヴァイオリン協奏曲とか、意外と協奏曲率が高いのです。ついでに、このCDとかプッチーニの『蝶々夫人』みたいに、オペラがそれなりに多いのです。これって何なんだろうかと考えてみたんですが、要するに
ストーリーでもソリストでもいいので、何らかの主役を軸に沿って爆走するカラヤンが好きなのかも知れません。交響曲だと、もっとアンサンブルを楽しみたいのにガシガシと突貫されて「もっと聴衆に優しく、たっぷり聞かせてくれ~」って思っちゃうのかな…いや、分かりませんが。
そんな具合で、このCDです。まず
このCD、音がメチャクチャ良いです!80年代にデジタル録音がバンバン進出したクラシックの録音で、いちばん恩恵にあずかったのって、オペラなんじゃないかと。
マリア・カラス全盛期の録音なんて、声はいっぱい聴こえるけどオケは遠いしこもってるし、まともに音が聴こえないなんてざらでした。でもこのCD、声だけじゃなくてオケもバッチリ、それどころか現代オケの中に入ると弱音で埋まって聴こえない事も多いチェンバロすらきれいに聴こえます!オペラ音楽どうこうの前に、音の良さに「おお~」って思いました!
そして、
モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」です。前作
「フィガロの結婚」がプラハで大ヒット、これに気をよくしたモーツァルトが気分良く書き上げた作品だそうです。台本は前作に続いて
ロレンツォ・ダ・ポンテ、題材は有名なドン・ファンの物語です。
ドン・ファンはスペインの伝説の人物で、女たらしの代名詞。1000人以上の女と寝た剣の腕が立つ貴族で、ある貴族の娘をたぶらかした上にその父親を切り殺したもんだから、その父親の幽霊に地獄にひきずりこまれた (^^;)。ざまあみろ、天罰じゃ。このオペラも、まったくこの通りの筋で進みます。
意外だったのは、このオペラだと、ドン・ファン(役名はドン・ジョヴァンニ)は女性からそれなりに忌み嫌われている人物として描かれている事。勝手に夜這いに行って怖がられたりしてます。それじゃ女殺しじゃなくて単なる強姦魔だよ(^^;)。ドン・ファンって、もっとカサノヴァみたいに女の方からも愛されるモテ男なのかと思ってました。このへんは、脚本家の解釈なのか、西洋でのドン・ファンの認識ってそんな感じなのか、ちょっと僕には分かりません。
このオペラ、娯楽性が強くて、
途中で「フィガロの結婚」で有名なアリアが演奏されると、セリフで「これは有名な曲だ」と言ったりして(^^;)、けっこうふざけてます。最後は女たらしが地獄にひきずりこまれてめでたしめでたしですから、やっぱり娯楽作ですよね。
音楽的には、なんといっても序曲が完成度高し。オペラでは序曲が音楽をいちばんたっぷり聴かせられる所なので、ここが名曲になるのはよくある事ですが、以降の
コミカルな娯楽作の序曲とは思えないほどに厳かで見事です。
あと、曲中で有名な曲と言えば、ドン・ジョヴァンニが見境なく村の小娘だろうが貴族だろうが年増だろうが手当たり次第に関係してきた女性遍歴を歌った歌とか(^^;)トンデモネエナコイツ、結婚式の花嫁をその場で口説く歌とか(花嫁もまんざらじゃなかったりする)、そんなのが多いです。高尚な舞台や音楽をこのオペラに期待しちゃダメだと思うんですが、ところがこのCDのサミュエル・レイミーというバリトンが、こういうとんでもない歌を恐ろしくうまく歌うんですよ。しかも音楽自体は普通に見事。このアンバランスが、僕にはただのコメディにしか思えなかったりして。
モーツァルトは、こういう自分のオペラを「
オペラ・ブッファ」なんて呼んで、今までの貴族向けのオペラとは違う大衆オペラと言っていますが、それぐらい気楽に楽しめる作品でした。そして、それを恐ろしく見事な演奏に録音、そして
サミュエル・レイミーや
キャサリーン・バトルという名歌手の見事な歌唱が聴けるという、なんともくそまじめな娯楽大作でした(^^)。