ブルースです。ギター弾き語りが中心のアコースティック・ブルースです。僕にとってのブルースの中心は、ギター弾き語りのアコースティック・ブルースです。もろに産業音楽化した戦後のバンドブルースになるとかなりつまらないと感じてしまうんですが、ギター一本、低音で唸るように歌われるフォークロアの混じったアコースティックなブルースには、暗澹たる迫力を感じます。陰鬱としながら、それだけではないあの渋い質感というのは、ちょっと他の音楽では聴く事の出来ないものだと思います。そして、私にとってのアコースティック・ブルースの最高峰の一角が、アコースティック・ギター弾き語りをしていた頃のライトニン・ホプキンスです。
ブルースというと、ジャズの曲調でいうブルースとか、日本のムード歌謡なんかで使われるちょっと悲しげな曲を指して言う「ブルース」とか、色々な使われ方をする言葉ですが、大元は奴隷貿易でアメリカ合衆国に連れてこられたアフリカン・アメリカンが弾き語りしていた音楽です。同じ時代のアメリカのフォルクローレでも、白人が歌うカントリーやフォークソングやカウボーイソングというものは、「美しいテネシーで…」とか「ここがあなたの故郷よ」とか、すごく郷愁をそそるようないい歌が多いですが、黒人の歌ったブルースは「38口径の銃でお前を殺さざるを得なかった」とか、かなり陰鬱な内容のものが多いです。で、白人は澄んだ声で大らかに歌いあげるようなものが多いのに対し、ブルースは酒焼けした声で唸るように歌ったり。これって当時の合衆国の黒人の置かれた状況をそのまま反映しているのではないでしょうか。
そして、ライトニン・ホプキンス。この人は、後にエレキギターも弾いたり、バンドブルースを演奏したりもするんですが、レコードデビュー初期はギター弾き語りでした。ライトニン・ホプキンスのレコード・デビューは1946年ですが、そのデビューEPを録音したのがこのアラジンというレーベルでした。曲によってはピアノなどほかの楽器も入っているものもありましたが、あくまでギター弾き語りが凄かったです。僕ははエレキ・ギターを弾くライトニンを先に体験していたのですが、アコースティック・ギターの演奏を聴くやその素晴らしいテクニックにくぎ付けになってしまいました。うまいと言っても、速弾きのテクニックとかそういうのではなくて、伴奏と旋律を同時に弾く、ギター独特のあのテクニックです。僕は、ギターで単旋律をいくら速く弾かれてもぜんぜんすごいと思わないんですが、和声と旋律を同時に弾かれると、ものすごくひきつけられます。ピアノだったらできますが、ギターって、旋律と和声を片手で同時に弾いているわけですよね。すげえ。。で、歌の間に入れてくる合いの手とか、歌につけるオブリとかがもの凄いセンス。これを歌いながら弾いているというのが、信じられない。。
そしてこの声。今の西洋のポピュラー音楽から見れば、1オクターブは低い低音で、唸るように声を絞り出します。この語りに近いような歌とギターが一体となって、何とも言えない情感ある音楽に。いや、音楽という感じじゃないんですよね。伴奏つき物語という感じ?いや、うまく言えません。暗いとか、重いとか、言葉では言い当てられないような。映画でいうと、ヒッチコックの『サイコ』って映画がありますよね。サスペンスで、すごく陰鬱としているんですが、見終わった後になんかすっきりした気分になるという、不思議な映画です。ブルースって、それに近いものを感じます。暗鬱としているんですが、じゃあ聴いて暗くなるかというと、ちょっと違う感じ。一種のカタルシスなんでしょうか。
ライトニン・ホプキンスはブルースマンの中でも結構人気のある人なので、録音が結構残っています。ライトニンの録音はけっこうたくさん聴きましたが、このアラジンの録音と、ゴールド・スターの録音が一番好きです。アラジン録音のEPをまとめたレコードって、昔は何枚ものアルバムに分かれていましたが、今はそれらをコンプリートしたこの2枚組で決定じゃないかと。
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