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心に残った音楽♪

おすすめCDの紹介のほか、本や映画の感想などを (*^ー゜)v

 

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『Ravi Shankar ‎/ India's Master Musician』

Ravi Shankar Indias Master Musician インドは広い上に色々な文化の発祥地でもあって、音楽も多種多様。舞踊音楽、歌音楽、器楽なんて分け方も出来て、うち器楽の古典芸術音楽に絞ると、大きく北インドのヒンドゥスターニ音楽と南インドのカルナティック音楽に分かれるそうです。ビートルズ以降の西洋ポピュラー音楽に洗脳された僕ら世代にとってのインド人ミュージシャンと言えばラヴィ・シャンカルじゃないかと。ビートルズもアニマルズも、思いっきりシャンカルに影響されて、なんと西洋ロック/ポップスの楽曲中にシタールを入れてましたしね(^^)。1959年リリースのこのレコードはシャンカルが世界に紹介された初期の録音で、シャンカルのシタールを中心に、タンブーラとタブラによる合奏でした。

 シャンカルは北インドの古典芸術音楽の形式であるヒンドゥスターニ音楽の演奏家ですが、このCDはヒンドゥスターニとカルナティックの両方のスタイルを紹介していました。インドのフォルクローレの有名なものや、いくつかのラーガ(西洋音楽でいうスケールみたいなもの)を、即興演奏を絡めて短くざっくり、みたいな。古典芸術音楽はどちらも本当は長いドラマティックな音楽ですが、これぐらいコンパクトにしてくれると、インド音楽初心者だった若い頃の僕にはすごく分かりやすくて良かったです。タンブーラという撥弦楽器が「ビヨビヨ~ン」とドローンを奏でていて、タブラが多彩な音色を使い分けて見事なリズムを紡ぎ出していて、シタールが旋律的な即興演奏を奏でる、みたいな。

本当はこのムードを前提に、前奏部分のアーラープがついたり、リズムがアッチェルしてクライマックスを迎えたりして起承転結のついた大きなドラマがインド古典芸術音楽みたいですが、インド音楽に初めて手を出した若い頃の僕はそんな事は当然知らず、しばらくはこのCDを聴いて、モードの即興音楽みたいなノリでインド音楽を楽しんでいました。でもそれが良かったんでしょう、いきなりフルオケから入ったらとても理解できなかったでしょうしね。ラヴィ・シャンカールの超有名作で、インドの器楽の入門レコードとしても最適な1枚じゃないかと。


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映画『麗しのサブリナ』 ハンフリー・ボガート、オードリー・ヘップバーン主演

Sabrina_movie.jpg 1954年のアメリカ映画です。若いころ、食わず嫌いで白黒時代の映画が苦手でした。どれも堅苦しい文芸作みたいな気がしたんですよね(^^;)。文芸作が理解できない時点でまだ子供でしたが、でもこういうラブコメな映画を観ているうちに、古いモノクロ映画への偏見はなくなりました。「アパートの鍵貸します」「昼下がりの情事」のビリー・ワイルダー監督ハンフリー・ボガート目当てで見たのですが、オードリー・ヘプバーンが素晴らしかったです!

 家の中にテニスコートにプールに車が10台ぐらいあるアメリカの大富豪一族。その家の住み込み運転手の娘サブリナ(オードリー・ヘップバーン)は、大富豪の次男である遊び人デイビッドに恋焦がれています。その熱を冷まそうと、サブリナのお父さんがサブリナをフランスの料理学校に留学させます。サブリナは現地で老紳士に気に入られ、すっかりあか抜けてアメリカに帰ってきます。綺麗になったサブリナを見て、今まで見向きもしなかったデイビッドが彼女に入れあげます。政略結婚が決まっていたデイビッドを別れさせるため、仕事人間の長男ライナス(ハンフリー・ボガート)が分断工作に出ます。ところがサブリナもライナスもお互いに惹かれ…

 いや~登場人物に嫌な奴がひとりもいないので、見ていて気持ちがいいです(^^)。そして、「古い映画はテンポが悪い」とか「白黒なんて古くせえ」と思っていたのに、話は面白いしテンポはいいし、なにより白黒はコントラストの表現が見事でむしろカラーより映像としての作品性が高いと思ってしまいました(^^)。文芸作でも芸術作品でもなく、ラブコメという(でも泣かせる所はきっちり泣かせる)娯楽映画として超一級品だと思います。

Sabrina_pic1.jpg そして、オードリー・ヘップバーンが綺麗すぎ。綺麗といっても、顔がいいというより…もちろん顔だちも綺麗なんですが、写真で見るとそこまで「絶世の美女」という感じでもないじゃないですか。でも、映画で見ると「きれい」と思うのは、ピッと張った背筋や立ち居振る舞いに品があって、そういうすべてをひっくるめて「きれい」と感じるのかも知れません。父親に手紙を書くシーンがあるんですが、その時の姿勢なんて尋常じゃない美しさです。舞踏会での振る舞いも、演技指導だけでこんなに綺麗になるもんなのかと思うぐらいに品があります。こういうのを見ちゃうと、今の人って要するに品がないんだなと思っちゃいますね、自分も含めて(^^;)。

 この映画で一番感動したセリフ。身分違いの恋をあきらめようとしていたサブリナが、パリの老紳士と知り合って変わり、そして達した言葉「生きがいのある生涯を送るには、傍観者ではいけない」。これは心に響きました、自分の人生の教訓にしたいひと言です。

 ところで、この映画はボギーは中年男性でヘップバーンは23歳ぐらいの役柄。恋人というには齢が離れています。『ローマの休日』にしても『ティファニーで朝食を』にしても、ヘップバーンの映画って、中年男性と20歳そこそこの小娘の恋愛ものが多いです。なにかで読んだ事がありますが、欧米のロリコン趣味って、未成年者が対象になる日本とは違って、中年以上の男が女盛りの20代の女を色眼で見る事も指すんだそうです。日本の映画でいうと、「ルパン三世カリオストロの城」がこれに近いパターン。ヘップバーンの映画って、「おっさんにもワンチャンある」という欧米のロリコン趣味を満たす映画でもあるのかも知れません(^^)。


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映画『アフリカの女王』 ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘプバーン主演

Africa no Joou_movie 1951年制作、セシル・スコット・フォレスターの同名小説の映画化で、ついにハンフリー・ボガートがアカデミー主演男優賞を受賞した作品です!僕がこの映画を観たのはボギーだけが理由じゃなくて、キャサリン・ヘプバーンが出演していたからでした。何かの権威あるランキングで、彼女が映画女優ナンバーワンに選ばれていたんです。え、オードリー・ヘブバーンでもイングリッド・バーグマンでもないのか…というわけで、この映画を見てみたのでした。タイトルからして歴史大作か文芸作品かと思っていたのですが、内容は思いっきりエンターテイメントでした。ちなみに、「アフリカの女王」とはキャサリン・ヘプバーンじゃなくて船の名前です。

 第1次世界大戦がはじまりそうな世相下、アフリカで教会をやっていた兄妹がドイツ軍に襲われます。兄が死に、妹は復讐を誓って、船で郵便物を届けに来ていた郵便配達員とともにドイツ軍の船を撃沈しに行きます。…みたいな話なんですが、ストーリーなんてどうでもよくて、要はアフリカの大きな川をふたりが小さな蒸気船に乗っハラハラドキドキのジャングル・クルーズをおこなう映画でした(^^)。でもこれが楽しかったです!
 「やべえ、急流だ!」「大雨が降ってきた!」「ワニがいる!」「蚊が大量にきた、はやく船を出せ!」「ドイツ軍だ!」「うわー今度の急流はやべえ、俺たち終わったかも」…こんな感じで、完全にジャングル・クルーズ(^^)。ディズニーランドのジャングル・クルーズもすごく楽しいですが、あれの3倍は面白かったです。

 あたりまえですが、娯楽映画って楽しくていいですね!笑って、ハラハラして、アフリカ観光や急流下りを疑似体験出来て、最後はハッピーエンドで、最高に楽しかったです。キャサリン・ヘプバーンはずっと青筋が立っていて勝気そうであまり好きになれず、ダンディでハードボイルドなボギーのイメージも壊れましたけどね(^^;)。


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映画『マルタの鷹』 ハンフリー・ボガート主演、ジョン・ヒューストン脚本・監督

Maruta no taka_Movie 映画『カサブランカ』に感動し、ハードボイルド小説も好きだった僕がこの映画を観たのは必然でした。ボギーの出世作『マルタの鷹』、1941年作品…って世界大戦まっただ中じゃないか!やっぱり合衆国にとっては自国が戦場にならなかった世界大戦は、どこかほかの世界での出来事という印象だったんだろうなあ。そうそう、この映画はフィルム・ノワールの名作としても知られています。

 『マルタの鷹』、僕はダシール・ハメットが書いた原作を先に読んでました。チャンドラーとハメットのハードボイルド小説はハヤカワ文庫から大量に出ていて、古本屋で見つけると片っ端から買って読んでました。ハードボイルド小説は大衆小説とはいえアメリカ文学からの流れを強く感じるものでした。20世紀初頭のアメリカ文学と言えばヘミングウェイフィッツジェラルドあたりのロスト・ジェネレーション世代特有の乾いた文章が主流で、ハードボイルド小説もその流れを汲んでいるように感じました。情感豊かに伝えるものではなく、事実だけを淡々と追っていくのです。

Maruta no taka_pic1
 この映画はそうしたハードボイルド小説の特徴が見事に映像化されていて、演出も映像も実にドライ。そんな情感を排除したその表現が、若い頃の僕には最高につまらなく感じられたのでした(^^;)。。ほら、70年代以降の映画って、迫力あるシーンになると音楽がけたたましく鳴り響いて、これでもかというぐらいの大爆発が起きて、主人公が血みどろになって死者が出て…みたいに演出過多じゃないですか。世代的に、そういうのに慣れすぎちゃっていた僕にはジェネレーションギャップが大きすぎたのかも知れません。でもこの映画に詰まっている「非情のダンディズム」が、ハンフリー・ボガートのイメージを決定づけたといっても過言ではないのかも。『カサブランカ』でのボギーも完全にこのキャラクターを踏襲してましたし。

 若い頃の僕は、これでオリジナルのアメリカン・フィルムノワールに苦手意識を覚えてしまったのでした。ハードボイルドって映画じゃなくて小説向きなんだな、みたいな。モノクロのノワールなら『第三の男』『地下室のメロディ』『サムライ』といった、フレンチ・ノワールは大好きで、アメリカ製でもカラーになってからの『殺しの分け前』や『チャイナタウン』はものすごく好きなんですけどね。でも、この映画をいま観たらもう少し違う感想を覚えるのかも知れないし、『上海から来た女』や『殺人者』、『飾り窓の女』という40~50年代のオリジナルなアメリカン・フィルムノワールをきちんと観てみたいという気持ちは、今もあるんですよね。今度見てみようかな。


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映画『カサブランカ』 ハンフリー・ボガート、イングリッド・バーグマン主演

Casablanca_Movie.jpg 1942年のアメリカ映画、ハードボイルドの代名詞ハンフリー・ボガートの代表作でも、ヒロインを務めたイングリッド・バーグマンの代表作でもある名画です!監督は「汚れた顔の天使」などのマイケル・カーティス音楽マックス・スタイナー(「風と共に去りぬ」の音楽はマジで最高だった!)でした。この映画がいちばん好きという人もいるほどの名画、僕が知ってる人には、この映画が好きすぎて、東京の吉祥寺で「カサブランカ」という名前のバーを始めた人もいるほどです(^^)。あのバー、すごく良かったけど、いまでもあるのかな?

 ナチがヨーロッパを占領した第2次世界大戦中の、フランス領であったモロッコ最大の都市カサブランカ。第2次エチオピア戦争やスペイン内戦を戦ってきたアメリカ人リック(ハンフリー・ボガート)は、今はカサブランカでバーとカジノを経営しています。そこに、かつてパリで愛し合った恋人イルザ(イングリッド・バーグマン)が、地下運動家の夫ラズロ(ポール・ヘンリード)とともに訪れます。クールなニックでしたが、イルザとの再会に激しく動揺。イルザとは、かつて戦時下のパリをふたりで逃れようと約束しながら、駅にイルザが来ないまま別れたきりでした。ナチのゲシュタポから逃れようとリックに懇願するラズロとイルザ。しかしリックは…

 この映画、はじめてみたのは20歳ごろ。その時の感想は良いものじゃなかったんです。でも久々に見たら、ものすごく感動しました。でも、どっちの感想も正解なんじゃないかと。
 恋愛映画として観ると猛烈に感動する映画。胸のしめつけられるような恋愛経験のあるひとであればあるほど、主人公の気持ちがわかって、心ゆすぶられるんじゃないかと。かつて胸を焦がすほど愛し合い、しかし最後の待ち合わせの駅に彼女は来ず、以降は心を閉ざしてニヒルになった男が、その女に再会したらどう思うか。僕の場合、ボギーのハードボイルドな態度ではなくて、恋愛をしている時の切ない感覚そのものに、心を動かされました。

casablamca_pic1.jpg そいて、イングリッド・バーグマンが素晴らしいです。美人なのはもちろんだけど、美人なら脳みそ空っぽでいいという最近の風潮と違って、すごく知的で態度も毅然として大人。イルザ役に感情移入出来なかったら、この映画の感動は半減というほど重要な役を、見事に演じ切ったと思います。きっと、バーグマン自身が聡明な人なんでしょうね。ボギーの代役は他でも務まりそうだけど、バーグマンの代役はあり得ない、それぐらい素晴らしかったです。

 でも、「これはちょっと」と思ったところもある映画でした。プロパガンダが強すぎるんです。フランス領モロッコが舞台なのにアメリカ音楽のジャズが極上の音楽として扱われているとか、ドイツ人が血も涙もない悪の権化のように描かれているとか、そういう所に抵抗を感じたんです。ラブストーリーに意識を向けさせておきながら、見終った頃には連合軍は常に正義でドイツ人は全員悪魔のような存在、この戦争は正義の戦いなんだという事が刷り込まれている、みたいな。そういう洗脳的な刷り込みに、本能的に拒否反応をしてしまう自分がいるのです。。

 久しぶりに観て、昔感じたそういう嫌悪感を改めて感じつつも、それはそれとして楽しめたのは、逆にこれだけ分かりやすい刷り込みではビクともしない人間に自分がなっていたからかも。齢を取って汚れたというか、心臓に毛が生えたというか(^^;)。そうそう、この映画を観て本当にカッコよいと思ったのは、ボギーやバーグマン以上に、ポール・ヘンリード演じた地下運動家でした。妻を助けたいために、妻の浮気相手に「妻と一緒に逃げてくれ」なんて言えるものじゃないです。彼こそ男だ!


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『Return to Forever / Hymn of the Seventh Galaxy』

Return to Forever_Hymn of the Seventh Galaxy 1973年発表、「リターン・トゥ・フォーエヴァー」がアルバム名からバンド名へと格上げになった頃に作られたアルバムです。メンバーは、チック・コリア(p, ep, org, hsc)、ビル・コナーズ(ag, eg)、スタンリー・クラーク(eb)、レニー・ホワイト(dr)。今ならこのメンバーを見て音楽の想像がついたんでしょうが、若い頃はスタンリー・クラークもビル・コナーズも知らなかったもんで、買ってしまったんですよね。

 ディストーションで歪ませたロックなギターが弾きまくって、ドラムはエイトビート叩きまくり…これはロックですね(^^;)。。ジョン・マクラフリンのマハビシュヌ・オーケストラとかラリー・コリエルのイレヴンズ・ハウスみたいなロック寄りフュージョンと言えばいいのかな?そういうものとして聴けば良かったのかも知れませんが、なにせ若い頃の僕はECMから出た『Return to Forever』が気に入ってこのアルバムに手を出したもんで、えらく幼稚な音楽に感じてしまいました。あのECM盤の感動がこれですべて吹き飛んじゃったのです(^^;)。レコード購入の達人になりたいんだったら、このジャケットを見ただけでガキくさい匂いをかぎ分けられないといけないんでしょうね。高校生の頃の僕は未熟者でした(^^;)>。

 マハビシュヌ・オーケストラあたりの流れで聴いていればまったく感想は違った気がします。ロック色の強い弾きまくり系フュージョンってあるじゃないですか。そういうものと思って聴けば熱いしうまいし、名盤ではないかと思います。ただ、『Now He Sings, Now He Sobs』や『Is』やブラクストンらとのCIRCLE で素晴らしい音楽を作った人が、こういうガキくさい事ををやっちゃいけない…と思った学生時代の僕の感想も分かるな、みたいな。


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『Chick Corea / Return to Forever』

Chick Corea_Return to Forever 1972年発表、チック・コリアとECMの大ブレイク作です!レーベルはECM、女性ヴォーカルのクレジットは入ってるし、 海鳥ジャケットはイージーリスニングっぽいしで、買う前は不安でした。でも名盤ガイドに傑作と書いてあったので、安い中古盤を見つけた時に買いました。高校生の頃でしたが、当時ロック友だちはいたけどジャズは自分しか聴いている人がいなかったので、貸し借りできなかったのが辛かったです(^^;)。

 全編エレクトリック・ピアノを弾いていて、スタンリー・クラークもエレベもコンバスもアンプリファイした演奏。ボサノバ調の曲もあり…というわけで、感触はフュージョン。アルバム冒頭曲「Return to Forever」なんて、エレピのサウンドが大前提のイントロ/アウトロ部分を持っていて、サウンドの浮遊感がすごく良かったです。これ、ピアノで弾いても全然面白くないでしょうね。このエレピのサウンドに持っていかれたアルバムと言っても過言ではありませんでした。

 でもムード系フュージョンかというとそうではなく、即興演奏しまくっていました。B面は23分で1曲ですが、大まかに分けると3つのパートで出来ていて、メインパートAが終わると、メジャー系ボッサ調のBパートと、マイナー系フラメンコ調Cパートを交互に入れ替えながらアドリブで白熱して盛り上がっていく、みたいな。ところがジャズも即興も大好きなはずの僕なのに、この即興が嫌でした。

 意識低下系の音楽は別として、意識覚醒型の音楽は、たとえアドリブであっても起承転結をつけてドラマを作ったほうがより音楽が良くなると思うんですよね。でもフュージョンの人って、自分のコーラスをもらったら起承転結関係なしにひたすら指動かして即興している、みたいに陥りがちじゃないですか。しかも特にチャレンジした音を使うわけでもないので、本当にコードなりスケールなりに従って指動かしてるだけみたいに聴こえてしまいました。こうなると、白熱していくかいかないかのふたつしか音楽の道筋がなくなっちゃうので、すごくつまらないな、みたいな。墨絵で白熱してぜんぶ塗ったら真っ黒になっちゃうだろ、みたいな。

 それでもいいと思ったのは事実。本当にエレピの音と作曲部分のムードだけかも知れませんが(^^;)、それだって好きには変わりないです。僕が好きなチック・コリアはここまでで、以降のチック・コリアはポップスのプレイヤーであってアーティストじゃないな、みたいな。


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『Chick Corea / "Is"』

Chick Corea Is 1969年録音、チック・コリアのサード・アルバム(Solid State レーベルでは『Now he sings, now he sobs』に次ぐ2枚目)です。クレジットには3管(ヒューバート・ロウズfl, ウディ・ショウtp, ベニー・モーピンts)や2台のドラムが記されていますが、曲によってメンバーが選抜されていて、全員で演奏する事はないのかな?というわけで、おおむねワンホーンカルテット、みたいな。ちなみにベースはデイヴ・ホランドで、彼とチックさんは次に結成する驚異のユニット「サークル」でも共に行動をする事になります。このアルバム、衝撃の音楽です!エレクトリックなチック・コリアやリターン・トゥ・フォーエバーあたりしか聴かずにチック・コリアさんを語っているようでは素人、語りたいならまずはこのアルバムとブラクストンらと結成した「サークル」を聴くべし!

 内容はかなりニュージャズに寄っています。音楽が先鋭なだけでなく、演奏も難しくて指が動かないという事もなく爆走!インプロヴィゼーションに入ってからの白熱度が強烈ですが、フリージャズと違うのはインプロヴィゼーションを統制する何らかの規則が設けられている事。この統制の強さは曲によって多少差がありますが、基本的にどれも厳しすぎず、またプレイヤー全員がその中でイージーな選択をしないので、指が速いとかダイナミクスが凄いだけでなく、音自体が知性的な響きを持っていました。けっこう複雑な事をやっているのですが、話を単純にするためにスケールに還元して表現すれば、ゆるい規制なのでドリアンやリディアンというイージーな選択だって出来るはずなのに、長三度と短三度の併用とかコンディミ的なアプローチとか、その程度の事は平然と出てきます。いやあこれはすごい、この素晴らしさはいくら言葉で書いたって、音を聴かないと分からないかも。

Chick Corea_Is Complete チック・コリアの全盛期は69年から71年の3年間だと僕は思っていますが、そのスタートを切ったのがこのアルバム。僕はRTFやエレクトリック・バンドや名盤ガイドに出ていた『Now he sings…』を聴いて「チック・コリアって悪くはないけどエンターテイメントというか優等生というか、うまいけど誰かの作ったレールの上でしか音楽を考えられないというか、こんなもんか」と思っていました。でもそんな考えはこのアルバムを聴いてふっ飛ばされました。今となっては、チック・コリアを語るのに「Is」を聴いてないなんてありえないと思っているほどです。超がつく大名盤、心して聴くべしです!

 そうそうこのアルバム、ブルーノートからコンプリートなる2枚組CDが出ましたが、今では超絶プレミア価格です。未発表音源には完全なフリージャズな演奏もあって、そこまでいくと僕には無軌道すぎて感じましたが、収録されていた別テイクがすごい演奏で、コンプリート盤はそれを聴く為だけでも書く価値があると思います。音も良くなって感じました(僕が持ってるオリジナルのLPの音が悪いだけかな?ぼろぼろの中古LPを買ったんですよね^^;)。
 この後、この素晴らしすぎるチック・コリアですらついていけなくなる「サークル」なる凄いグループが結成されまして…「サークル」については書きたいことが大量にあるもんで、またいつか書こうと思います(^^)。。


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『Chick Corea / Now He Sings, Now He Sobs』

Chick Corea_Now He Sings Now He Sobs 今年(2021年)の2月、ジャズ・ピアニストのチック・コリアさんが他界してしまいました(-.-、)。僕にとっては大好きなところと大嫌いなところがある、なんとも位置づけの難しい人でしたが、ジャズ・ピアノを学ぶなら聴かずに済ますなんてわけにいかないピアニストである事は間違いなし。僕もずいぶん聴きました。これは1968年に発表された2枚目ののリーダー・アルバムで、ミロスラフ・ヴィトゥス(b)、ロイ・ヘインズ(dr) のピアノ・トリオ。今は原盤をブルーノートが買い取ったみたいですが、元々は「Solid State」というレーベルからのリリースでした。

 1曲目「Steps - What Was」のピアノのアドリブに、このアルバムでやっている事が要約されているんじゃないかと。超うまい、さすがジュリアード卒です。新主流派的というか、王道だけどバップではなくモードを通過した後のオーセンティックなジャズ、みたいなハービー・ハンコックとチック・コリアのふたりが60年代以降のジャズ・ピアノのスタンダードを作ったんだろうなと思わされる演奏でした。

 でも、ぜったいにはみ出さないし、デュナーミクはすごく狭いです。ピアニシモやフォルテシモという概念がないのではないかというほどに平ら…。さらに、良くも悪くもタッチが均質で使い分けられる音色が少ないので、表現がすごく狭いと感じてしまいました。以降のアメリカやヨーロッパのジャズ・ピアニストがみんなこういうこぎれいな演奏に追従したもんで、フュージョン以降みたいなある時代以降のジャズしか聴かない人だと、これでも表現が狭い演奏と思えないかも知れません。でもクラシックや西アジアの民族音楽やそれ以前のジャズを知っていると…ね。

 というわけで、いま聴くと演奏も音楽もステレオタイプすぎて刺激が足りなく感じなくもありませんでしたが、オーセンティックなジャズを演奏するチック・コリアを聴くならこれじゃないかと。ところがチック・コリアって色んなことをやる人で、ここで純ジャズ路線は一度おしまい。戻ってきたときも最前線をやるわけでなく「ジャズも出来るよ」ぐらいなことしかやらなかったので、極端に言えばこれがオーセンティックなジャズに本気で取り組んだ最初で最後のアルバムかも。ここからチック・コリアさんは色んなことをやって…その話はおいおい書いていこうかと(^^)。


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『ヴェーベルン:《パッサカリア》 《5つの楽章》 《オーケストラのための6つの小品》 《交響曲》 カラヤン指揮ベルリンフィル』

Webern Passacaglia_Karajan BerlinPhil 指揮者がブレーズではなくカラヤンの、ヴェーベルン管弦楽作品集です。ここに入ってる曲は、「ブーレーズ・コンダクツ・ヴェーベルン」の2集と3集を持っていたら全部聴く事が出来るので、両方聴きたいという人でなければどちらかを選択という事でいいかも。

 どちらもベルリン・フィルの演奏ですが、「ブーレーズ・コンダクツ・ヴェーベルン」との違いは…録音は間違いなくこっちの方が上!演奏は、全体にこちらの方がたっぷり目、そして弱音時の演奏が恐ろしく綺麗!いやあ、これは僕が今まで聴いたカラヤン&ベルリン・フィルの演奏の中で、マーラー以上の大名演に感じました!
 それから、Op.6の「オーケストラのための6つの小品」ですが、こちらは1928年改訂のオケ縮小版です。この曲、僕は改訂版の方が好きかも…というか、このCD本当に音が良くて、Op.6の緊張感がヤバいです、ゾッと来ます。。というわけで、ヴェーベルンといえばまずはブーレーズ指揮ですが、個人的には、ここに入ってる曲ならカラヤン版に軍配をあげたくなります(^^)。

 問題は選曲でしょうか。このCDは「20世紀のクラシック」シリーズの中の1枚で、取り急ぎCD1枚で20世紀の作曲家ひとりを知るというコンセプトのものです。そんなもので、僕は「なるほど、シェーンベルクの弟子だな」という程度の感想で、ヴェーベルンを片付けてしまっていたのです。交響曲作品21番なんて構造のかけらも聴き取る事の出来なかったボンクラでしたし(・ω・`)。まず、Op.26 以降の最晩年の傑作群が1曲も入ってないという所が、実はヴェーベルン最初の1枚には適してない気がするんですよね。初期作品で、まだ従来のクラシック音楽とのつながりが分かりやすい選曲という事なのかな?

 というわけで、今の僕にとっては悩ましいCD。間違いなく神がかった演奏と素晴らしい音、でも完全に曲がダブったCDをいつまでも持っていてもという気持ちと、持っているレコードをひと通り聴いて整理する作業をもう8年も続けてるのに、まだ所有レコードの1/5ほども聴き終わってなさそうな現状を考えると、両方取っておいても聴いてあと1~2回と思うと…でも素晴らしい演奏だったし音楽にも感動できたし、それをいま処分する必要もないか、、ここは優柔不断に両方取っておくとしよう。また整理が進まない。。


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『ヴェーベルン:Boulez conducts WebernⅡ ブーレーズ指揮ベルリンフィル』

Webern_Boulez conducts webern2 作曲家兼指揮者のブーレーズが指揮をしたヴェーベルン作品集第2弾です。ヴェーベルンの初期作品と、ヴェーベルンによる編曲作品が収録されています。自作曲は、習作を除けばすべて1098-9年の作品なので、本当に初期です。収録曲は、以下の通りです。

(作曲作品)
・パッサカリア
・弦楽四重奏のための5つの楽章
 ・大オーケストラのための6つの小品
 ・夏風のなかで
(編曲作品)
 ・バッハ「音楽の捧げもの」
 ・シューベルト「6つのドイツ舞曲」

 ヴェーベルンといえば無調や音列技法を使った点描的な作品というイメージがありますが、最初からそこに行ったわけではなく、初期は機能和声の音楽を書いていたんですね。学生時代に書いたという「夏風のなかで」と、作品番号1となっている「管弦楽のためのパッサカリア」は、まだ普通に長調&短調の曲でした。ただ、パッサカリア自体が短調の変奏曲という意味でもあるだけに、最初から構造的な視点が強い作曲家だったのかも、とも思いました。
 それが作品5「弦楽四重奏のための5つの楽章」になると、もう無調です。曲の長さも1楽章が1分未満から長くても3分ほどで、すでにミニアチュールな作風が始まっています。ただ、セリー的な厳格さはまだ音の構成面だけのようで、クライマックスでデュナーミクはフォルテになるし音数は密集する状態で、音楽の表現自体はロマン派や新古典的です。そういう意味で、けっこうシェーンベルクっぽく感じました。それは作品6「大オーケストラのための6つの小品」も同じ。あ、そうそう、ライナーによると、この曲は1928年に改訂版が書かれているそうですが、そちらは4管が2管に減らされるなど縮小されてるそうです。このCDは改定前のスコアを用いたもので、ヴェーベルンの熱狂的な信者であるブーレーズは、この曲を演奏する時はいつも改定前のスコアを採用するんだそうな。

 自分が若いときは、ヴェーベルンの作品は晩年の曲よりも、このCDに収められている無調になった直後のop.5 やop.6 という初期作品の方が好きだったんです。でも、いま聴くと晩年の方が圧倒的に好きで、初期作品はそこに至るまでの過渡期の作品に聴こえるから不思議。セリー音楽が分かるようになるには、古典純粋対位法→バッハ→シェーンベルクと進まないと、なかなか理解できないのかも知れません…僕の音楽センスに問題があるだけか(^^;)>。でも、どちらもクラシックの歴史の中で決定的に重要な事をやっている、聴かずに済ます事の出来ない重要作だと思います。ヴェーベルンの管弦楽の演奏で、ブーレーズ&ベルリン・フィルを上回るものはないと思うので、必聴と言えるんじゃないかと(^^)。


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『ヴェーベルン:Boulez conducts Webern ブーレーズ指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン』

Webern_Boulez conducts webern ブーレーズがグラモフォンに録音したヴェーベルン作品集、これが第1弾です。このCDに収録されていた曲は声楽曲が多く、声の入っていない音楽はピアノ・クインテット、オーケストラのための5つの小品、室内四重奏、9重奏と、いずれも室内楽曲でした。曲が作品番号順に並んでいたので、このブレーズによるヴェーベルン録音シリーズは最初からリサイタルというよりもヴェーベルンの作品を総覧する、みたいなコンセプトだったんじゃないかと。

 「Piano Quintet」(1907) は作品番号なしだったので、きっと習作期の作品。でも曲想からするともうシェーンベルクに学んでいた頃かも知れず、1楽章のソナタなのですが響きが面白くて、調感は保っているものの響きが最高に気持ち悪いです。でもそれが悪いと感じるかというとまったく逆で、世紀末ドイツみたいな雰囲気でむっちゃカッコイイ!

 「オーケストラのための5つの小品」op.10 は、音列作法(12音列技法前に使われた無調音楽の音列的作曲法)をもとに作曲された作品で、個人的にはシェーンベルクにしてもヴェーベルンにしても初期の12音列技法より無調時代の方が好きだった僕にはグッとくる作品でした。無調と言ったってこういうカギになる音や音程関係がはっきりしていると調感は感じるもので、どこまで行っても機能和声の3or4和音の音楽を聴かされるよりよほど面白く感じるんですよね。

 「四重奏曲」Op.22。ヴァイオリン、クラ、サックス、ピアノという編成の2楽章形式で、12音列技法曲。第1楽章は音列技法とはいえ、メインの音列に対して反行や逆行や反行逆行が対位法的にずらされていて、第2楽章はそれぞれの断片化された音列要素の組み合わせを用いたロンド…なのかな?自信がないので、あんまり信用しないでくださいね(^^;)>。このへんまで来るといま聴いてもセリーの最先端に近いというか、ほとんどトータルセリーな音楽に感じました。いやあ、これは音列の関係性を聴きとれる人が聞いたら「すげえ」ってなるでしょうが、そういう所を聴かない人には退屈きわまりない音楽でしょうね(^^;)。

 「協奏曲」Op.24。9つの楽器を使用したセリー曲で、この曲になると基礎音列を作るために3つの音を基音、その半音下、基音の短三度上、という形で作り、その反行、逆行、反行逆行、個の4つで計12音を作るという事をやってます。僕もセリー曲を書いたことが何度かありますが、セリー曲って最初の作曲のアイデアが大事で、特に最初の音列は曲想を決定してしまう超重要なものとなるので、だんだんこうなっていくんですよね。。でも、そうやって作られた曲は実に精緻に感じるけど、響きのカラーリングやダイナミックさはなくなって聴こえるもんで、こういう音楽があってもいいけど、全部これだとつまらないだろうな、みたいな。

 上記以外はすべて声楽曲でした。
 「軽船にのってのがれよ」Op.2 はゲオルゲの詩をあてた無伴奏混声合唱。これはカノン状に進行していましたが、響きはやっぱり調感はあるものの響きがグロくて素敵。このへんまではシェーンベルクで言う「月に疲れたピエロ」あたりの感覚で、初期作品と言えるのかも。
 以降、何らかの伴奏付きの声楽曲が9曲続きました。作品番号で言うと、Op.8からOp.19 。この「何らかの伴奏」というのがくせもので、例えばOp.8 は8つの楽器を使っていて、この楽器軍が形成する対位法的な構造が強烈でした。仕事しながらこのCDを聴いているいま、ひとつひとつの曲を分析する気にはなれませんが、声と無調なり音列技法なりの対位法的音楽を作曲しようと思ったら、このCDは聴き直さないと駄目だと思いました。なんかすげえ。

 ヴェーベルンが作品番号をつけた曲は全31曲と少ないですが、うち声楽曲が17曲。声楽曲にこだわっていただけあって、恐ろしいほどの素晴らしさでした。当時がそういう時代であった事もあるでしょうが、音大では新ウィーン楽派と言えばヴェーベルンが至高みたいな風潮がありました。でも僕にはベルクが最高でヴェーベルンは難しくて良いと思えなかったんですよね、先生も同級生もスノッブなだけで、本当にこれを聴いてよいと感じているのかと疑うほどでした。でももしあの頃、難しい点描主義の器楽曲ではなく声楽曲から聴いていたら、感想はまったく違ったかも。もし「ヴェーベルンはよくわからない」という方がいらっしゃいましたら、声楽曲のいっぱい入ったこのCDから聴き始めると突破口になるかも知れません。演奏も録音も良かったです!


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『ヴェーベルン:Boulez conducts WebernⅢ ブーレーズ指揮ベルリンフィル』

Webern_Boulez conducts webern3 僕が「これぞ現代音楽の王道」と思っているのは、セリーという作曲技法です。その作曲技法の源流にあるのが新ウィーン楽派という集団が使った音列技法で、ヴェーベルンはその中の急進左派。このヴェーベルンの音楽が次世代のセリーの手本となっていきました。このCDは、トータル・セリーの代表格ブーレーズが指揮したヴェーベルン作品集の第3弾です。収録されていたのは以下の曲で、ヴェーベルン晩年の作品と、未発表作品でした。

・オーケストラのための5つの小品
・女声独唱とオーケストラのための3つの歌曲
・交響曲 op.21
・混声合唱とオーケストラのための《眼の光》 op.26
・第1カンタータ op.29
・オーケストラのための変奏曲 op.30
・第2カンタータ op.31

 なにより、ソプラノと管弦による曲が素晴らしかったです。技法にかなり忠実で厳格なヴェーベルンの音楽には構造美を感じるのですが、僕には音がどうしても無機質でブツ切れに聴こえてしまいがちなんです。ところがそこに声が入ると、音楽が横に繋がりやすくなって、表現の余地も何倍も増えて聴こえました。ソプラノが最終楽章で合唱に合流する「第1カンタータ」はゾクッと来ました。声ってやっぱり凄いです。
 そしてヴェーベルンの遺作「第2カンタータ」まで来ると…僕には理解しきれていない部分が山積みだろう事を百も承知でいうと、もうこれはシェーンベルクのセリーを超えてトータル・セリーまで行ってるんじゃないかという緻密さ。これ、分析したらすごいんだろうなあ。音大に行っている頃にやっとけばよかったです、社会人になってからこれに取り組む時間はちょっと作れません(^^;)>。

 声楽以外の曲も見事でした。「交響曲 op.21」は、名前こそ交響曲ですが、普通に想像できる交響曲のサウンドとはまるで違いました。第1楽章は2重カノンになっていて、ホルン2本がカノンを作り、そのすぐ後をクラリネット2本がカノンを作り、このそれぞれがカノンの関係にもなっています。和弦は点描で、ベートーヴェンの交響曲みたいにずっと鳴っている事がありません。空虚で冷たく感じる質感の音楽なので、カノンの関係に気づく事が出来なければつまらないかもしれないですが、この関係に気づくとと…このあたりはバッハのフーガに似ている所があるかも知れません。ひとつひとつの音型が覚えにくい形をしているもんで、僕はスコアを見るまでは理解できない音楽でした。
「オーケストラのための変奏曲」は、12音列技法を用いて構造に原核でありながら、それを変奏していくというこれまた驚異の作品。

 ヴェーベルンの音楽は構造が緻密、一方で色彩感覚に乏しく感じます。つまり、カノンの線の関係が捉えられるだけのソルフェージュ能力がない人が、この音楽を良いと思う確率は低いと思うんですよね。僕自身がそうで、大学に行って作曲を学ぶまでは、まったく面白く思えない音楽でした。でも、機能和声法を離れた現代の作曲法の勉強をいくつかして、少しは構造を追う事が出来るようになるにつれ、聴こえ方が変わっていきました。20世紀最高峰の音楽のひとつと思うので、ヴェーベルンの音楽を聴いてみたいという方には、最初の1枚として2曲のカンタータを収録したこれを推薦したいです。大名盤!


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書籍『ボブ・ディラン全詩集』 片桐ユズル、中山容訳 晶文社

BobDylanZensishuu.jpg ボブ・ディランはアメリカのフォークシンガーなので、詞を聴かないと話にならない…そんな風に思ったのは、輸入盤を何枚か買った後の事でした。今なら少しは聴き取れるんですが、中学高校の頃では英語のリスニングなんてまったく無理。そんな時に、このボブ・ディランの日本語訳の本と出あったのです!2冊セットになっていて、1冊が英語、1冊が日本語でした。
 全詩集とはいうものの74年発行なので、74年時点までのアルバムまでの収録でした。また、ボブ・ディランが書いた詩の訳なので、カバー曲の訳は入っていませんでした。カバー曲がほとんどのファースト・アルバムが好きな僕にとって、ここがちょっと痛かった(^^;)。そうそう、ファースト・アルバムがらみで言うと、ちょっと理解できなかったのは、ファースト・アルバムに入ってない曲の訳詩が大量に載っていました。これって、シングルとかで発表された曲ということなのかなあ。

 残念に感じた点が2点。訳が下手に思えた事と、日本語訳と原詩を2冊に分けたこと。訳が美しくないだけでなく、変なところで改行されていたり、色々あるんですよ。。修辞法の雨あられとなる詩の翻訳ほど難しいものはないと思うので、ある程度は仕方ないと思うんですが、でも小林秀雄のランボー訳とか、三好達治訳のボードレールとか、原詩を知らなくても「これは良い詩だなあ」と感じさせてくれる訳ってあるじゃないですか。そういうレベルの訳ではありませんでした。だから、「フォークミュージックの訳だし、だいたいの意味さえ分かれば充分」ぐらいの気持ちで読んだ方がいいかもです。

 さらに残念だったのは、原詩と訳詩を別の本に分けないでほしかった点です。多くの詩が2段組でレイアウトされていたので、英紙と邦訳を併記する事も出来たと思うんですよね。英詩のまま分かる人はそもそも日本語訳なんて買わないんだから、英語だけ別冊にしてもほとんどの人は読まないじゃないですか。英詩をつけるなら、日本語訳を読みながら原詩がどうなってるのかを見るというのが一番一般的だろうに、装丁ばかり気にしてどう読まれるかなんて考えなかったんでしょうね。岩波文庫の海外の名詩選とかそうなってますし、そうしてほしかったなあ。

 というわけで、大満足とはいきませんでしたが、若い頃の僕はこれでボブ・ディランの詩の世界が何となくわかったので、ありがたい本ではありました。でも今となっては相当にプレミア化してしまったので、これを買うなら訳のついた日本盤のLPやCDを買った方が良いかも。。


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『Bob Dylan / The Times They Are a-Changin'』

Bob Dylan The Times They Are a-Changin 邦題『時代は変わる』、1964年発表のボブ・ディランのサード・アルバムです。64年という事は、このへんでビートルズがデビュー、アメリカの大衆音楽はブリティッシュ・インベイジョンにのまれていくわけですね。。

 詩よりも曲…というか、ギターのアレンジと歌のメロディや語りとの絡みが素晴らしくて聴き入ってしまいました。うまくはないけど、バスとメロディとコードをちゃんとアンサンブルさせて弾くんですよ。で、それがテクニカルに聴かせるんじゃなくて、ホッコリするあったかさ、でもどこか郷愁を誘うような雰囲気のものが多いのです。カウボーイソング風の曲はカッコいい。ギター弾き語りながら、詩を聴かなくても聴けてしまうほどに素晴らしかったです。。

 仲でもカッコよかった曲は、「Ballads of Hollis Brown」、「North Country Blues」、「Only A Pawn in Their Game」、「With God On Our Side」。「Ballads of Hollis Brown」なんてベースを弾いて、内声でリフを刻んで、上声が和声。これを弾きながら歌うんですが、カントリーっぽくてカッコいい。。こういうアメリカやイギリスの古いフォークギターの弾き語りって、本当にカッコいいと思います。ちょっとジョン・レンボーンを思い出してしまいました。

 一方、詩に感動したのは、「Boots of Spanish Leather」。スペインに旅に行った恋人の心は、もう自分のもとにはない。スペインから帰ってくる事もないかもしれない。そんな彼女に送った言葉が、「気をつけて、西風に気をつけて。何か送ってくれるのなら、スペイン革のブーツを」。このアルバムにも、不当な判決を咎めたり、チェスのポーンのように使い捨てにされる人を語ったプロテスト・ソングがいくつか入っていましたが、心を動かされるのはこういう人生の歌だなあ。。ちなみにこの曲は音楽も良くて、美しいアルペジオにつけられた歌のメロディが美しかったです。でもこのメロディ、どこかで聞いた事があるな…。

 発表は64年ですが、西部開拓時代の合衆国のフォルクローレでも聴いているような気分になりました。ほこり舞う土地を耕して、家畜を飼って、木を組んで自分で家を作ってたくさんの子供を育てて、夜にフォークギターでちょっとした歌を歌い詩を読む、みたいな。古き良きアメリカ音楽ですね、すごく良かった!ボブ・ディランは弾き語り時代が素晴らしいです。2回リピートして聴き、それが終わった今もジーンとしています。僕的には間違いなく名作です。


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『Bob Dylan / The Freewheelin' Bob Dylan』

Bob Dylan The Freewheelin Bob Dylan 63年発表、フォークシンガーのボブ・ディランのセカンドアルバムです。大名曲「Blowin' in the Wind 風に吹かれて」収録で、デビューアルバムはほとんどカバーだったのにこれはほぼオリジナルという所もポイント高し!
 ファーストアルバムほどではないですが、フォークとはいえギターの演奏や曲が良いものがあって、音だけでもなかなか聞かせます。また、語るような歌うような歌い方も「詩」「言葉」という感じで見事。そして詩の素晴らしさは言わずもがな。というわけで、自分が良いと思った曲を選んで書き残しておこう、そうしよう。

 音楽が良かった曲。僕が好きな曲は3曲です。

 「風に吹かれて」、これはやっぱりいい!いいんだけど、なんでこんなに良いと思うのか分からない。さんざん聴いて良さが分からなくなっちゃう曲ってあるけど、この曲はいつ聴いてもため息が出てしまいます。
 「Corrina, Corrina」は、帰って来ない恋人に語り掛ける歌、これはメッチャクチャいい!!なんてことない曲にも思えますが、ギターの最初の反復フレーズと歌メロの絡みがが胸にしみるのかも。いい曲だと思ったら、トラディショナルなんですね。
 「Down The Highway」は、演奏がうまいというより、ギターのアレンジと歌の絡みが良かったです。これはアレンジのアイデア勝利といった感じ、いい!

 詩が良かった曲。これも心に残ったものが3つありました。

 「北国の少女」。淡々としたギターのアルペジオと、少し乾いた詩の絡みがいいです。友人が旅をするので、ついでにそこに住んでいる女性の様子を見て来てくれるように頼みます、その人は、昔自分の恋人だった人…あたたかくも淡々としたギターに合わせてそんな詩を読まれたらもう。。
 「ボブ・ディアランの夢」、これは帰って来ない人生最良の時の郷愁。「古い薪ストーブのそばに帽子をかけて、語って歌って、満足しきっていた」「歳をとる事なんて考えてもいなかった、いつまでも愉快に座っていられると思っていた」「善悪を決めるのは簡単だった、そんな俺たちのたびが砕けるなんて」「もう一度あの部屋に座りたい、といっても無理だ。一万ドルでも投げ出すよ、あんな生活が出来るのなら」。ああ、年を取ってから聴くと胸に響く…。
 「Masters of War 戦争の親玉」は、ボブ・ディランの代名詞のひとつのプロテスト・ソング。戦争を起こしている国の指導者を揶揄した歌ですが、聴いていて考えさせられるのではなく、スカッとするんです。なんでだろうか…戦争を起こしている人に「人をだまそうとしているが、あんなの頭の中は透けて見えてるぞ」「金がそんなにいいのか?死ぬ時にその金を全部払っても魂は買い戻せないぜクズ野郎」「イエスさえあんたのやる事は許さない」と言葉を浴びせるから、スカッとするんですね。原爆落とされてから100年と経ってないのに、もう戦争をやりたがってる日本の誰かにも聞かせてやりたいぜ。日本の政治家はボブ・ディランでもききやがれ、胸にグサグサ来るはずだ。

 ほぼ語り物の曲も入っていて、それらは音楽だけ聴いていてもつまらないと思うので、このアルバムを聴くなら詩を聴くつもりで聴いた方がいいと思います。ほら、洋楽って、言葉は聞かずに音だけ聴いて楽しむことがあるじゃないですか、それをやっちゃうと半分ぐらいは面白くない(^^;)。ちょっとしたショートエッセイを聴くような感じのアルバム、練りに練られた作品ではなく、ちょっとした人の言葉を聴く感じで、それが逆に本音が伝わってくるようですごく心地よかったです。


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『Bob Dylan』

BobDylan.jpg アメリカのフォークシンガーといって僕が真っ先に思い浮かべるのはボブ・ディラン…ではなくウディ・ガスリーなんですが(^^;)>、その次ぐらいがボブ・ディラン。これは1962年に発表されたデビューアルバムです。ボブ・ディランは途中でロックバンド編成で音楽をやるようになりましたが、初期はアコギ&ハーモニカの弾き語りで、僕はこの頃の方がだんぜん好きです。

 ボブ・ディランといえば詩に目が行きそうなものですが、このアルバムで耳に残ったのは演奏です。若い頃の僕は、フォークなんてコード押さえてジャカジャカ弾くだけだと思ってたのに、そんな単純なもんじゃない、メチャクチャうまくてプレイに感動してしまったのです。このアルバムはカバー曲が多く、それだけに奏法が多彩。メロディとストロークを織り交ぜるフォーク的な演奏はもちろん、意外とブルースの演奏を取り入れていて、フォークブルースではなく、バスをペダルしながらのギターみたいなアコースティック・ブルースそのものの演奏も出てきます。実際、ブッカ・ホワイトやブラインド・レモン・ジェファーソンの曲もやってますしね。特に「In My Time Dyin'」「Fixin' to Die」の演奏は絶品、これはいい!

 アニマルズもカバーしたトラディショナル「朝日のあたる家」が入っていたり、息が切れるまで歌うエンターテイメントなパフォーマンスもしていたり、弾き語り時代ながら、詩を抜きにした音楽だけでも聴かせてしまう見事な演奏でした。もちろん詩を聴けたらさらに楽しい事間違いなし。若い頃、僕はボブ・ディランはどうにも食わず嫌い気味だったんですが、アコースティック時代を聴くようになって好きになりました(^^)。ギター弾き語りを始めたい人は、このアルバム1枚聞くだけでメッチャクチャ勉強になるんじゃないかと!大好きなアルバムです…ジャケットはダサいけどね(^^;)。


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映画『アフガン零年』 セディク・バルマク監督

AfganZeronen.jpg アフガニスタンで衝撃だったのは音楽だけじゃなくて、2003年制作のこの映画もでした。劇映画ではあるのですがドキュメンタリータッチで作られていて、タリバン政権時代のアフガニスタンの状況がひしひしと伝わってくる映画でした。

 タリバン政権下の医療崩壊で父を亡くした少女マリナ。女性の労働が禁じられている社会なので、このままでは一家が飢えてしまうため、祖母と母にそそのかされ、泣く泣く少年のふりをして働く事に。それが災いしてタリバンに捉えられ、少年兵士を養成する学校に入れら…

 はじめてみた時の衝撃といったらありませんでした。アフガニスタンの状況やイスラムの慣習については歴史の教科書やらニュースやらで情報として少しは知っていたつもりだったのですが、いざ映像で見せられると、本当にこれが現代か、これが日本と同じアジアなのかと戦慄を覚えました。
 たとえば、イスラムの本で「戦争で男を失った後家を守るため、養える範囲で妻を何人も娶っていい」みたいな知識はあったんですよ。こういう言葉だけだと美談にすら思えるじゃないですか。ところが実際にアフガンで生きたバルマク監督が映したその実情はそんなものじゃなかったです。他にも、コーラン朗誦を日に何度も行うことは情婦としては知っていましたが、その作法を女性は知らないなんて思っても見ませんでした。また、女性は顔を隠さないといけない事は知っていましたがベールがあんな形なのかとか、現代のアフガニスタンの首都があそこまで瓦礫の山だったのかとか…百聞は一見にしかず、冷戦以降の第3世界の軍事政権の実情、僕たちは偏向した日本やアメリカ寄りの教科書やニュースだけで捉えるのではなく、いろんな角度からものを見て知らないといけないと思いました。

AfganZeronen_pic1.jpg 主人公の少女は軍事政権の不安定な社会と、社会が持つ女性差別の二重苦にさらされます。家族を救うために泣く泣く少年として生きて働いていたというのに、それを男と偽ったかどで宙づりの拷問にかけるこの女性蔑視。僕は男女区別は良いと思うんですよね、実際に違うんですから。またその違いから分業制をとる社会を築くのも悪くないと思います。でもここまでくると区別ではなく差別じゃないかと思ってしまいました。中国チベット自治区の惨劇もそうですが、外からではなかなか見えない惨状を伝えたい映画だったのではないかと思いました。今のビルマもこんな感じなんだろうなあ…。

 『アフガン零年』を観て、自分はアフガニスタンの歴史を知らなすぎると思いました。アフガニスタン史を知らないという事は、タリバンについてもアルカイダについてもろくに分かってないという事じゃないですか。そうなるとアメリカ同時多発テロにしてもISにしても、あるいは冷戦以降の代理戦争や軍事政権樹立の背景、経済的グローバリゼーションについても分かっていない事になり、つまり現代の世界構造をろくに分かってない事になります。この映画をきっかけに僕はアフガニスタンの歴史やイスラム過激派の主張するところ、ひいては世界大戦の時からまったく変わっていない世界の帝政構造を学ぶ事になったので、見て本当に良かった映画でした。

 この映画、僕はアップリンクがリリースしたDVDで観たんですが、そのDVDには特典として監督へのインタビューがついていて、これがまた素晴らしかったです。監督自身がアフガニスタン人で、タリバン政権下の圧政を経験していたそうで、それだけに言葉に重みがありました。出演者もみな素人の一般人で、主人公の少女とバルマク監督の出会いも、彼女が監督に物乞いをしたことで知り合ったんだそうです。いまから見るなら、ぜひこのインタビューも観て欲しいです。現代人必見、誰でもいつかは観ないといけない映画だと思います。


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『アフガニスタン:ヘーラートのルバーブの音楽 Afghanistan: The rubab of Herat』

Afghanistan The rubab of Herat これもスバラしかった!ジュネーヴ民族博物館のレーベルVDEが1974年に録音したアフガニスタン音楽のCDです。僕が買ったのは日本語解説つきで日本クラウンが発売したものです。あれは素晴らしいシリーズだったなあ。。

 いつぞやパキスタンの音楽を収録した『カラコルム山地の音楽』というCDの感想を書いた時に、アフガン・ルバーブという撥弦楽器を紹介しましたが、あの演奏です。独奏半分、タブラとのデュオが半分ぐらいの割合でした。どちらも感動ものの素晴らしさで、さすがはインド/パキスタンとイランという高度な音楽文化に挟まれた土地の音楽。ヘーラートという都市の音楽はペルシャに支配されていた時代が長かっただけあってイラン音楽的でもありましたが、このCDはインドのラーガのような曲も多くて、双方のいい所がミックスした雰囲気で、演奏も素晴らしければ独特の音色もぞくぞくするようなエキゾチックさでした。いやあ、ちょっとこのカッコよさは言葉では表現しきれないです。エキゾチックなリュート音楽とでもいうか、これは素晴らしいわ。。

 アフガン・ルバーブを演奏しているのはモハンマド・ラヒム・ホシュナワーズという人で、ヘーラートに住む代々の音楽一家の人なんだそうです。どの演奏も素晴らしかったんですが、個人的には恐らく即興演奏のパートと思われる部分が長い9曲目10曲目が驚異。演奏がどんどん速くなるんですが、この忘我の境地のような演奏は見事。イラン古典音楽もそうですが、ひとつの音階で即興していたのが突如としてモードを変えるんですが、これが聴いた人じゃないと分からないカッコよさ、ジャズやロックのアドリブでこんな高度なチェンジは聴いた事がないです。

 地図で見ると首都カブールやカンダハールがパキスタン寄りなのに、ヘーラートはイラン寄り。15世紀に最盛期を迎えて、ペルシア語圏の文化の中心だったんだそうです。ああ~なんとなく分かる気がする…この音楽スタイルは18世紀あたりに出来たものらしいですが、そういう事じゃなくて、昔に栄華を極めた土地特有の品の良さとか技術の高さ、古風さを感じるんですよね、絶対に田舎の音楽ではないというか。この音楽の見事さと演奏の見事さとエキゾチックな古風さ、最高でした!


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『Afghanistan | Rubâb et dutâr』

Afghanistan Rubab et dutar Ocora 原盤のアフガニスタンの民族音楽のCDです。アフガニスタンの伝統音楽のCDって多くないと感じますが、理由は、録音しに行くのがデンジャラスすぎるからなんじゃないかと。『アフガン零年』という映画がありましたが、マジでタリバンやアル・カーイダが躍動して、国内でロケット砲打ちまくってるような地域だから、音楽や録音どころじゃないのかも。フランスのオコラはよく録音に行ったもんだと思います。これは命がけじゃないかと。

 音楽の中心はルバーブドゥタールで、これにタブラの打楽器伴奏がついてました。このへんにあるルバーブという楽器は西アジアにある擦弦楽器のあれじゃなくて撥弦楽器。撥弦のルバーブはアフガニスタンが本家で、たしか「アフガン・ルバーブ」なんていう呼び方もあったはず。ドタールは中央アジアでよく見る細竿のリュート属の弦楽器で、2弦(「ド」が2本という意味みたい)です。イランのダストガーやイラクのマカームに近い音楽と、中央アジア方面の音楽、そしてインドやパキスタンの音楽の中間という感じでした。イランやインド音楽に比べると若干いなたかった点は、中央アジアの音楽的とも言えるのかな?前半4曲はヘーラート(アフガニスタンにある都市)の、後半5曲はアフガニスタンの首都カーブルの音楽でした。ド素人の僕では両者の差はよく分かりませんでしたが、あえて比較するとヘーラートの方が中央アジアの民族音楽っぽくて、カーブルの方がイランの芸術音楽に近い感じなのかな?

 楽器はうまいし音楽の完成度は高い。効率ばかり重視して技術力や作曲能力もダダ下がりになってる西洋音楽をはじめとした資本主義圏の音楽とはレベルが段違いのこのへんの地域の音楽がつまらない筈がなく、素晴らしかったです!あの戦火の中で楽器練習を欠かさないんでしょうが、それもすごいです。ああいう厳しい社会だから真剣に何かに打ち込むというのもあるのかも。僕が聴いたCDだけでいうと、カザフスタンキルギスタンウズベキスタンよりアフガニスタンの方が真摯で精巧。イラン音楽やインド音楽といった芸術音楽の香りにかなり近づいている印象でした。これはオススメ!



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『今田勝 Masaru Imada Quartet / ナウ NOW!』

ImadaMasaru_Now.jpg 1970年にスタートし、日本人ジャズを数多く記録した素晴らしいインディーズ・レーベル、スリー・ブラインド・マイスのレーベル第2弾アルバムです!第2号アーティストはピアニストの今田勝さんで、ワンホーンカルテットでした。フロントを務めるテナー/ソプラノ・サックスは三森一郎さん。この方、僕は前田憲男さんのグループと今田さんのグループでしか名を見た事がないんですが、どういう方だったんでしょう。あまり見かけないまま消えるにしては、このアルバムでのソプラノサックスなんて素晴らしい演奏でした。良いプレイヤーなのに陽の目を見ない人ってきっと多いんでしょうね。。

 カバーやスタンダードは一曲もなし、すべて今田さん作曲という所に気合いを感じました。全4曲、2曲目だけちょっとフリー気味の音響的なアプローチでしたが、アルバム全体はおおむねメインストリーム。そのメインストリーム3曲のうち2曲がスロー~ミドルスローなので、このアルバムの本筋はアップテンポのB面1曲目「Gehi Dorain」という事になりますが、これがドリアン調のモード曲。でもって、それがビル・エヴァンスコルトレーンの頃より、もうちょっと新しい時代の匂いがしました。なんといえばいいんでしょうね…デイヴ・リーヴマンまではいってないけど、あんな感じ?
 このメインストリームというのが表現がむずかしくて…たとえばビバップやハードバップみたいなあのスタイルをやってるわけじゃないのです。でもニュージャズや新主流派的なのがバリバリかというとそうでもない。フォービートでのウォーキンベースを使ったりジャズ的なテンションを使ってコードプレスするので間違いなくジャズな感触なんですが、でもジャズ特有のビート感を追求してるかというとそうは聴こえないもので、ジャズではあるけどアメリカのあれと何か違う感じでした。70年代のイギリスのジャズも、ジャズ的ではあるけど何か違う感触があるじゃないですか。色は違うけど、あんな感じ。
 でもそれが駄目かというとまったくそんな事はなくて、だからこそ良いとすら感じました。ぜんぜん違っていたら「そもそもジャズじゃなくていいだろ」となるだろうし、まったく同じだったら「だったらアメリカ本家のジャズを聴くよ」となるだろうから、アメリカと日本の間にあるものをやるのが正解だと思いますしね。

 アメリカのジャズがどこかで引きずっているあのエンターテイメントな感じから切り離されている感触があって、でも思いっきり純音楽に持っていけてるかいうとどこかに70年代の日本の狭いジャズ箱で黄昏ている感じもあったりして、そこが好きなアルバムです。でも恐らく本人たちがそれを狙ったわけではないのでしょう。同時代の日本だと富樫雅彦さんとか高柳昌行さんとか、アメリカの模倣ではない純音楽としてのジャズを追求していた人がいっぱいいたわけで、そういうものと比べるとやっぱりアメリカのジャズをやってる感があって、だからこの「どこかに感じるアメリカのジャズとの差」は、狙ったわけではなく自然ににじみ出ているものなんじゃないかと。日本のジャズは70年代が一番面白かったと感じます。今なんて、洋楽のエピゴーネンかほとんどポップスみたいなのばっかりですからね。。


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『Tee & Company / Spanish Flower』

Tee and Company_SpanishFlower 70年代の日本人ジャズのオールスターバンド、ティー&カンパニーの第3弾アルバムにして最終作です。メンバーは、森剣治(ss, fl, b-cl)、植松孝夫(ts, b-cl)、今田勝(p)、高柳昌行(g)、金井英人(b)、井野信義(b, vcl)、村上寛(ds)、今村祐司(perc)。このアルバムはAB面各1曲の計2曲ですが、どちらも作曲は今田勝さん。

 1曲目「A Tree Frog」は、この時代のエレクトリック・マイルス的なジャムセッションでしたが、今村祐司さんと村上寛さんの打楽器隊が熱い!森さんのサックスが、思わずコルトレーンを吹いてしまう所もいい!きっと無意識なんでしょうね。そして、今田さんのインプロヴィゼーションが熱い!いやあ、これぞジャズ、この熱気ムンムンのセッションは最高でした(^^)。
 2曲目「Spanish Flower」は、タイトルからしてギル・エヴァンス的なのかな…と思いきや、当たらずも遠からずだけど、むしろエレクトリック化したジョン・コルトレーン・カルテット…というか、マッコイ・タイナーみたいな感じでした。あれ?もしかして今田さんって、マッコイ・タイナーが好きな人なのかな?若い頃はあんまり積極的に聴いたことがなかったんですが、なんだか興味がわいてきました(^^)。

 というわけで、ティー&カンパニーの作品の中では、今田さんが中心になって白熱のセッションになっているこのアルバムが一番好きです。久々に聴きましたが、なんとなく70年代の日本の垢ぬけきれないやぼったさや暑苦しさを感じて、それも懐かしく感じられてよかったです(^^)。


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『Tee & Company /Dragon Garden』

Tee and Company_DragonGarden 70年代の日本人ジャズのオールスターバンド、ティー&カンパニーの2作目のアルバムです。メンバーは前作と同じで、森剣治、植松孝夫(reed)、今田勝(p, ep)、高柳昌行(g)、金井英人、井野信義(b)、村上寛(ds)、今村祐司(perc)。この作品は、A面が森剣治さんが書いたエレクトリック・ジャズ、B面が高柳昌行サイドという作りでした。

 13分に及ぶA面の森剣治さん曲「Dragon Garden」は、まるでエレクトリック・マイルス…というか、ルパン三世テレビ第2シリーズみたいな音楽でした。う~ん、日本の70年代ジャズって、たしかにこんな感じだったなあ。聴いていて懐かしくなっちゃいました(^^;)。

 B面は、高柳さん作曲またはアレンジの曲。ひとつはジャズで、コードプログレッションとテーマだけ決めて、あとはみんなアドリブ。この頃の高柳さんって、ギターにコーラスっぽいエフェクターかけて、単旋律でアドリブ演奏する事がありましたが、まさにそういう演奏でした。曲はウエストコーストジャズっぽいけど、アプローチはちょっと先鋭的。
 もうひとつも古いジャズっぽい曲で、今度はコードアプローチがメイン。高柳さんって修行僧っぽいところがあるので、この2曲はジャズ・インプロヴィゼーションの練習みたいな意味があったんじゃないかなあ。
 もうひとつはピアソラの曲でした。でもモダン・タンゴっぽくない環境音楽っぽいアレンジでした。そういえば高柳さん、タンゴバンドもやってたなあ。ギター音楽は何でも挑戦する人だったんですよね。でもこれはつまらなかった(^^;)。

 オールスターバンドなので、作曲者によって音楽の方向性がガラリと違って、まとまりに欠けるバンドと感じましたが、このメンバーで面白い事をやろうと思ったら、アンサンブルもプログレッションもあんまり難しくせずに、決めるところ決めたらあとは各自の技量で何とかしてもらう南米のサッカーみたいなことをやった方がうまくいくのかも。というわけで、高柳さんサイドはマニアックで面白いとは思ったものの、このバンドだと前作『Sonnet』やこのアルバムのA面のセッション風の曲とかが、このバンドらしいのかも知れません。


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『Tee & Company / Sonnet』

Tee and Company_Sonnet 1970年代にスタートした日本のレーベルにスリー・ブラインド・マイスというジャズレーベルがありました。サングラスをかけたネズミがレーベルロゴになっていて、そのロゴデザインが好きでした。レーベルを作ったのは藤井武さんという方で、あだ名が「ティー」だったんだそうな。このティーさんが、自分の好きなジャズ・ミュージシャンを集めて作ったのが「ティー&カンパニー」というエイテットで、森剣治、植松孝夫(reed)、今田勝(p, ep)、高柳昌行(g)、金井英人、井野信義(b)、村上寛(ds)、今村祐司(perc) というメンバー。ティー&カンパニーは3枚のアルバムを残してますが、これはその中の1枚です。僕はこの3枚をコンプリートした2枚組CDを持っているのですが、どうやらこれは今となっては超貴重盤みたいです。英語ライナーがついているので、海外向けだったのかな?

 ティー&カンパニーというバンドは、スリー・ブラインド・マイスからリーダー作を発表したミュージシャンのスペシャル・バンドといった感じで、高柳昌行さんに狂ったことがある僕は、高柳バンドのメンバーだった高柳さん、森剣治さん、井野さんの参加を見てこのアルバムに手を出しました。でも、高柳グループの音楽とは似てもに使わない音楽だったという(^^;)。
 このアルバムは2曲入りで、1曲目の「Sonnet」(作曲は金井英人さん)を聴いた最初の印象は、キース・ティペット・アークやソフト・マシーンあたりのジャズ・ロックと、エレクトリック・マイルスの中間ぐらいの印象でした。トゥッティが決まっていて、でもビバップやハードバップみたいなツーファイブなジャズ訛りは少なくて、プレイは2割ぐらいフリーが入っていて、支離滅裂なカオスになったかと思ったら、スコア・パートに突入して大団円…ね、フュージョン寄りのジャズ・ロックっぽいでしょ?この傾向は、2曲目「Combo ‘77」(作曲は金井さんに楽曲提供していた作曲家の水野修孝さん)も同じ。ジャズ期のソフトマシーンが大好きな僕は、こういう音楽はけっこう好きでした(^^)。

 このバンドはアルバムを3枚作りましたが、リーダーを定めていないようで、音楽の方向が漠然としているんですよね。で、誰が作曲をするかで、バンドの方向性がいろいろと動きます。個人的には、ティー&カンパニーの3作の中では、このアルバムが一番ティー&カンパニーらしいアルバムなのかなと思ってます。いま聴くと色々と荒い演奏ですが、けっこう好きです(^^)。


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『グリーグ:抒情小曲集 エミール・ギレリス(piano)』

Greig_JojouShoukyokushuu_Gilels.jpg エミール・ギレリスが演奏した、グリーグのピアノ作品の演奏です。グリーグには「抒情小曲集」という曲集が実際にあって、全66曲。このCDは、その中から20曲の抜粋でした。

 グリーグや抒情小曲集の前に、ギレリスの演奏が素晴らしい!なんだこの美しさは、完璧じゃないか…。オデッサと言えば、僕の世代の男子にしてみればガンダムでの戦局の転換点ですが、ギレリスはウクライナはオデッサ生まれのユダヤ人。ロシア系ピアニスト特有の緻密な完全主義者といった感じの演奏でした。勢いや情熱に乗って弾き切るというより、徹底的に研究し尽くしたうえにすべての弾き方が決定されているようで、まったく隙がない感じ。ギレリス、見た目はごつくておっかないルックス、タッチも力強いんだろうなと想像していましたが、実際にやっている事は本当に繊細と思いました。隙を作らず完璧に仕事をこなす人って、ゴルゴ13のようで尊敬してしまいます。プロフェッショナルばんざい!
 そして、録音も素晴らしかったです。録音は1974年ですが、音はきれいだしタッチも音像も明瞭。やっぱりグラモフォンは昔の録音の方が音が音楽的で良いと思ってしまいます。

 グリーグの抒情小曲集ですが、聴いてすぐに連想したのはシューマンの「子供の情景」。すごく素朴でシンプルで、ピアノの技巧がどうとかじゃなくて、寝てるのか起きてるのかあいまいな状態で見ている情景、みたいな。グリーグを聴いていると、自分の音楽を故郷ノルウェーへの郷愁に費やした気がしますが、この小曲集はまさにそう感じました。昔聴いハーダンガー・フィドルの演奏で聴いたメロディも出てきたし、1曲目に入っていた「アリエッタ」と最後に入っていた「余韻」の主題がまったく同じでしたが、こういうのも多分ノルウェーの民謡か何かから取ってるんでしょうね。曲で好きだったのは、「バラード風に Im Balladenton op.65 no.5」

 日本でも、地方に行くと「ここはこういう歴史がある」とか「ここではこうやって食べる」みたいにガイドしてくれる人がいるじゃないですか。あれって、どこかに郷土愛があるというか、アイデンティティがその土地の上に成立しているというか、そんな風に思うことがあります。グリーグも、どこかで「俺はドイツやオーストリアでは通用しない。俺の人生はノルウェーで…」みたいに思ったのかも。自分を作った田舎や文化の中に還るって、挫折も抱えているようで僕はいまだに受け入れられないですが、人生の最後にはそれを選ぶのが一番いい気もします。


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『グリーグ:《ペール・ギュント》第1&第2組曲、《ホルベルク組曲》 カラヤン指揮、ベルリンフィル』

Greig peer gynt Holberg_Karajan でも一般的にグリーグと言ったら歌曲ではなく、ピアノ協奏曲とこの曲「ペール・ギュント」が有名なのではないかと。もともと劇音楽で23曲が書かれたそうですが、その音楽部分8曲を抜粋して作られた組曲がふたつあり、このCDはその両方が収録されていました。他に、「ホルベアの時代から」(ホルベルク組曲)も収録。演奏はカラヤン&ベルリンフィル。昔、カラヤン&ベルリンフィルのCDは廉価盤で1枚1000円で売られてまして、ずいぶんお世話になったもんです。ちょっと、過去のCDの曲の組み合わせを変えてあったりして、後から考えると凄くビジネスライクで嫌なやり方してるとも思いましたけどね(^^;)。

 ペール・ギュントの原作はイプセン。「人形の家」を書いた人だとは知ってるんですが、タイトルからして児童文学っぽい気がして読んでません(^^;)>。。ペール・ギュントも童話チックで、ノルウェーの民話を題材にしたうそつきの冒険家が主人公でした。音楽はこのストーリーに従った雰囲気で、とってもファンタジーでした。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」みたいなもので、娯楽音楽と感じて深入りしませんでした。素晴らしいメロディやらファンタジックな音が次々に飛び出してくるので、子どもの頃に聴いていたら夢中になったかもしれないけど、僕がこの音楽を聴いたのは、フランス文学とか哲学を読み始めた年頃だったもんで、自分とは関係がない音楽に思えてしまいました。。

 でもいま聴くと、なるほどノルウェーの広大で透明感ある情景が見えるようでもあって、書法やら民謡からの引用とかではなく、なるほどこの美感そのものがノルウェーの国民楽派としての意識だったのかな、な~んて思ったり。「ペール・ギュント」のメロディは有名なものがいくつもあって、第1組曲の「朝」と「山の魔王の宮殿にて」は、どこかで聴いた事がある人も多いんじゃないかと。有名なうえに間違いなくいい音楽なので、チャンネルさえ合えば最高に気に入る作品じゃないかと思います。


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『グリーグ:歌曲集 アンネ・ソフィー・フォン・オッター(mezzo Sop)、フォシュベリ(p)』

Greig_Kakyokushuu_Otter.jpg ノルウェーの作曲家といえばグリーグ。僕がはじめてグリーグの曲を聴いたのはピアノ協奏曲でした。LP時代は、シューマンとグリーグのピアノ協奏曲がカップリングされることが多くて、リパッティもポリーニもこの組み合わせでした。だからシューマンのついでにグリーグも自動的に聴いていた、みたいな。そんな「おかずについてきた」みたいな出会いだったグリーグの音楽をはじめて素晴らしいと思えたのがこのCDで、歌曲でした。メゾソプラノのオッターも素晴らしければ、ピアノのベンクト・フォシュベリとのペアスケートのような見事な絡みも見事でした(^^)。ちなみにオッターはスウェーデンのストックホルム出身です。

 ノルウェーの作曲家という事で国民楽派に数えられる事の多いグリーグですが、ノルウェーの民謡をよく知らない僕にとってはロマン派の音楽そのものに聴こえました。特に歌曲はそうで、詩を生き生きと歌わせる事だけを目的にしたみたいで、音楽がものすごく歌うんです!僕がそう感じた理由は多分ふたつあって、ひとつは詩が先行な事。ハイネやイプセンやアンデルセンの詩に音楽をつけているからだと思うのですが、音楽が単純なリート形式でなく起承転結といった劇的な進行になるものが多くて、そこが素晴らしかったです!

 もうひとつの理由は…もしかすると、これはこのCDのオッターが凄かったのかも知れませんが、大げさに言えば半分以上レチタティーヴォじゃないかというぐらいに、話すように歌う音楽なのです。なんでもグリーグの奥さんが歌手で、そういう歌い方をする人だったそうです。なるほど、この音楽は半分は奥さんありきなんですね。ちなみにグリーグは愛妻家で、今も湖の見えるお墓の中に奥さんと一緒に眠っているんだそうです…いいなあ、僕も最後はそういう人生の終わり方をしたい。

 歌曲というと僕はショパンフランス印象派を聴く事がほとんどだったんですが、「ロマン派歌曲ってこんなにゾクゾクするものなのか」と驚かされた体験でした。ちなみに、個人的に好きな曲は、ドイツ歌曲風なものだと「夢」と「白鳥」、印象派的なものだと「春の雨」が好きです。そして、レチタティーヴォ的な歌唱を堪能できるのは曲集「山の娘」。このCD、曲もパフォーマンスも録音も、何ひとつとして不満に思うところのないパーフェクトな1枚。たま~にこういうCDに出会ってしまうもんだから、音楽から離れられないんですね(^^)。


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『松本零士999』 PlayStation ゲーム

MatsumotoReii999.jpg プレステで発売された銀河鉄道999のゲームです。内容は、自分が主人公の哲郎少年になり、謎の美女メーテルと一緒に銀河を走る列車に乗りこんで宇宙を旅し、旅の目的を果たすというもの。紙芝居型ではなく、3D空間をポリゴンのキャラクターを動かして進めていきます。
 映画、テレビアニメ、コミックなどなど、銀河鉄道999のストーリーを体験できるコンテンツはたくさんありますが、僕がその中でふたつ選ぶとしたら、劇場版銀河鉄道999の1作目とこのゲームです。このゲーム、原作やテレビアニメでは不可能な事を達成してるんですよね。そこが本当に素晴らしかった!

 このゲームで素晴らしいと思った点が3つあります。ひとつ目は、このゲーム用に新たにアニメーションが書き下ろされていること。この絵、きっと松本零士さん本人が書き下ろしてるのだと思いますが、映画やテレビアニメの絵より奇麗なんですよ!しかも、量が多かったです。ゲームが好きじゃなくても、999ファンならこのアニメ部分だけを見る為だけでも買いじゃないかと…ゲームを解いたところまでしか観れませんけどね(^^;)。

 ふたつめは、ストーリーが原作や映画と似て非なるものであること。そしてそれが本当に良いアイデアと思いました。だって、原作とまったく違ってしまったら、「これは999ないだろ」と思ってしまいそう、かといって同じだと原作をなぞる事になってしまって、ゲームとして成立しなくなってしまいます。似て非なるものとしたことで、原作の面白さとゲームへの興味を維持する両方を達成できていると感じました。すばらしい!

MatsumotoReiji999_Photo1.jpg 最後に、自分が999の世界にいる人間としてのめり込める事!これは作品の完成度どうこうではなく、ゲームという媒体が持つ特徴です。僕は999という作品が大好きでしたが、それでも漫画でも映画でも、その世界に自分がいると感じたことはなく、あくまで傍観者でした。ところがゲームという媒体だと自分が主人公を操作する事になるので、自分がその世界にいるように錯覚できるんです。傍観者として眺めていた時よりもワクワク感が半端ないのです!
 たとえば、地球を離れて999に乗って銀河に飛び立つとき。漫画や映画ではそれを眺めるだけでしたが、ゲームだと本当に汽車に乗って宇宙へ出るんだ…みたいな高揚感が!しかもこの旅は観光旅行ではなくて、今までの自分の人生とはまったく違う世界へ飛び出す決断で、その先には夢に満ち溢れています。こんなの、ワクワクするに決まってるじゃないですか!
 ほかにも、乗車パスを盗まれて他の星の4畳半のアパートでメーテルと暮らすことになったりするのですが、これは傍観者の立場から眺めるのと自分の体験と感じるのとでは大違い。まったく違う人生を生きているような感覚でした。夢のある魅力的なSFの世界に当事者としてかかわる楽しさですね。
 そしてこのゲーム、クリア後もまだメーテルと一緒に銀河鉄道で旅を続けるような終わり方をします。リアルだと人間はいずれ死んでしまうので、永遠という描写はヴァーチャルだけに許されている幸福です。未知の世界への夢と希望に満ちた旅が永遠に続く、みたいなロマン派的な世界観に泣けました

 古いゲームなので、今の人がやったら「ポリゴンがひどい」とか、「戦闘になるたびにロード状態になるのがかったるい」とか、不満を感じるところは多々あると思います。でもインベーダーの時代からリアルタイムでテレビゲームと共に育ってきた世代の僕にとっては問題なし。今、このゲームを手に入れることが出来るかどうか、あるいは皆さんがプレイできる環境を持っているか分かりませんが、もし999のファンの方なら、このゲームはおぜひやってみて欲しいです。いや~これをやっている時はずっと夢を体験させてもらっている感覚だったなあ。。


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映画『さよなら銀河鉄道999』

SayonaraGingatetsudo999.jpg 映画『銀河鉄道999』の大ヒットを受けて制作された続編映画です。これはゴジラや宇宙戦艦ヤマトとまったく同じパターンで、1作目で見事に完結したはずの物語の続編を作るとどうなるか…これを学ぶいい機会になった映画です。ヤマトで痛い目を見ていたにも関わらず同じ手に何度もひっかかる僕でした (゚∀゚*)バカダネ。

 それでも小学生のころは、いいと思ったんです。永遠に別れたはずの親友や恋人にまた会えた、みたいな感慨でしょうか。でも高校生ぐらいになってから観たら、「柳の下にドジョウは2匹いねえよな」という思いがそれを上回ってしまいました(^^;)。2度と会えない今生の別れにじゃなかったのかよ、1作目で流した涙を返してくれ、みたいな。劇的な死のあと、次回作で「実は生きてました」とやってしまうライダーマンやウルトラセブンみたいなパターンほどしらけるものもないです。
 エンディングもどうかと。一緒にいようと思えばいられるのに、最後に無理やり別れてる感が強烈で、悲しみの押し売りだと思ってしまいました。。

SayonaraGingaTetsudo999_pic1.jpg 別の言い方をすると、熱く愛し合った女性でも、いざ別れてしまえばクールなもんで、再会してみると「どうしてそんな冷たく出来るの?」みたいな人生体験をさせてもらった映画かも(^^;)。女の「愛してる」を信じすぎてはいけない。
 大手映画会社の作る映画は興業なので、大ヒットしたものは売れなくなるまで何度でも続編を作るという事なんでしょう。面白くても面白くなくても大ヒット作の続編は黒字確定ですからね。でも視聴者としては取ってつけたような続編なら作って欲しくないなあ。1作目の感動を保ちたい僕としては、なかった事にしている映画です(^^;)>。でも見ないわけにはいかなかったんですよね…。


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『組曲 銀河鉄道999 テレビサウンドトラック』 青木望

KumikyokuGingatetsudo999 soundtrack TVアニメ版の銀河鉄道999のサウンドトラックです。音楽監督は青木望さん。青木さんと言えば、僕は作曲家というよりはJポップの管弦アレンジャーとして名前を知っている人で、中島みゆきさんとの仕事が初体験だったかな?作曲作品はこのレコードぐらいしか持ってないかも(^^;)。

 思いっきりベートーヴェンの月光ソナタっぽい曲が出てくるのはマジでやめてほしいんですが(^^;)、TV版999には大好きな曲がふたつあるのです。

 ひとつはエンディング曲。この曲のコードプログレッションが心に刺さります。この曲、ヴォーカルバージョンだと和声進行よりも主旋律と対旋律の関係が強調されているので分かりにくいんですが、実は和声進行が恐ろしくきれいなのです。例えばイントロですが、「D△ | Ddim | Gm6/D | D△」。Aメロの前半は「D△ | A7 | Em7 A7/A A7/G | F#m」。前者はジャズ和声を勉強した人ならおなじみのディミニッシュの使い方ですが、ずれる感じが鳥肌もので涙が出そう。後者はバスラインの順次進行を利用して部分転調を滑らか且つ劇的にしています。こういう色をつけられるかどうかがポピュラー音楽の作曲家とアレンジャーの大きな差で、「作曲はアマチュアでもできるがアレンジはプロでないと無理」という所以じゃないかと。
 こういう西洋音楽のプログレッションやリハーモニゼーションの技術って後期ロマン派あたりから飛躍的に進化しましたが、青木望さんはこういう事をやらせたら超一流。『劇場版銀河鉄道999』の哲郎がメーテルを張り飛ばすシーンの音楽でもこの手の見事な魔術を使っていました。

 もうひとつの鳥肌曲は、新し星に着いたり、物語のエピローグ部分などで良く流れた「ラ~ソファ~ラソファ~」というピアノ入り管弦楽曲。このLPだと「序曲−出発」とか「終曲−永遠(とわ)の祈り」なんてタイトルがついていて、何度もヴァリエーションで出てくるので、これこそテレビ版999の主題でしょう。これが映画版999のオープニング並みに素晴らしくて、聴いていて涙が出てしまいそうなほどです。
 この曲で僕が感動してしまうのは、ザ・ロマン派みたいに感じるところです。聴いていると、宇宙の果てのまったく新しい世界に、絶世の美女と一緒に足を踏み入れて、音楽が壮大でありつつ、美しく、幸福感に満ち溢れ、希望が詰まっていて…これをロマン派的に解釈すると、救いとしての死の世界への参入としか思えないのです。ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」とか、もうああいう感じ。僕は死をメチャクチャ恐れてますが、いつかは絶対に死を受け入れないといけません。その時、死の恐怖を和らげるものって、バッハのロ短調ミサとか、ロマン派音楽の壮大な救いの雰囲気とか、そういう音楽じゃないかと思うんですよね。

 テレビアニメのサントラと侮るなかれ、999のメインテーマの美しさは、現代版ロマン派音楽の傑作だと僕は思っています。昔はLPがプレミアついていましたが、いまはCDが安くなって出ているみたいです。メインテーマを聴くためだけに買っても損はしないレベルの音楽、おすすめ!!


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プロフィール

Bach Bach

Author:Bach Bach
狭いながらも居心地のいい宿で、奥さんとペット数匹と仲良く暮らしている音楽好きです。若いころに音楽を学びましたが、成績はトホホ状態でした(*゚ー゚)

ずっとつきあってきたレコード/CDやビデオの備忘録をつけようと思い、ブログをはじめてみました。趣味で書いている程度のものですが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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ロシアとウクライナがほぼ戦争状態に入りましたが、僕はソ連解体後のウクライナについて本当に無知…。これは2016年にオリバー・ストーン監督が作ったウクライナのドキュメンタリー映画。日本語字幕版が出たらぜひ観たい このブログをYoutube にアップしようか迷い中。するなら作業効率としては早いほど良いんですよね。。その時にはVOICEROIDに話してもらおうかと思ってるけど、誰の声がいいのか考え中
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