ブーレーズがグラモフォンに録音した
ヴェーベルン作品集、これが第1弾です。このCDに収録されていた曲は声楽曲が多く、声の入っていない音楽はピアノ・クインテット、オーケストラのための5つの小品、室内四重奏、9重奏と、いずれも室内楽曲でした。曲が作品番号順に並んでいたので、このブレーズによるヴェーベルン録音シリーズは最初からリサイタルというよりもヴェーベルンの作品を総覧する、みたいなコンセプトだったんじゃないかと。
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Piano Quintet」(1907) は作品番号なしだったので、きっと習作期の作品。でも曲想からするともう
シェーンベルクに学んでいた頃かも知れず、1楽章のソナタなのですが響きが面白くて、調感は保っているものの響きが最高に気持ち悪いです。でもそれが悪いと感じるかというとまったく逆で、
世紀末ドイツみたいな雰囲気でむっちゃカッコイイ! 「
オーケストラのための5つの小品」op.10 は、音列作法(12音列技法前に使われた無調音楽の音列的作曲法)をもとに作曲された作品で、個人的にはシェーンベルクにしてもヴェーベルンにしても初期の12音列技法より無調時代の方が好きだった僕にはグッとくる作品でした。無調と言ったってこういうカギになる音や音程関係がはっきりしていると調感は感じるもので、どこまで行っても機能和声の3or4和音の音楽を聴かされるよりよほど面白く感じるんですよね。
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四重奏曲」Op.22。ヴァイオリン、クラ、サックス、ピアノという編成の2楽章形式で、12音列技法曲。第1楽章は音列技法とはいえ、メインの音列に対して反行や逆行や反行逆行が対位法的にずらされていて、第2楽章はそれぞれの断片化された音列要素の組み合わせを用いたロンド…なのかな?自信がないので、あんまり信用しないでくださいね(^^;)>。このへんまで来るといま聴いてもセリーの最先端に近いというか、ほとんどトータルセリーな音楽に感じました。いやあ、これは音列の関係性を聴きとれる人が聞いたら「すげえ」ってなるでしょうが、そういう所を聴かない人には退屈きわまりない音楽でしょうね(^^;)。
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協奏曲」Op.24。9つの楽器を使用したセリー曲で、この曲になると基礎音列を作るために3つの音を基音、その半音下、基音の短三度上、という形で作り、その反行、逆行、反行逆行、個の4つで計12音を作るという事をやってます。僕もセリー曲を書いたことが何度かありますが、セリー曲って最初の作曲のアイデアが大事で、特に最初の音列は曲想を決定してしまう超重要なものとなるので、だんだんこうなっていくんですよね。。でも、そうやって作られた曲は実に精緻に感じるけど、響きのカラーリングやダイナミックさはなくなって聴こえるもんで、こういう音楽があってもいいけど、全部これだとつまらないだろうな、みたいな。
上記以外はすべて声楽曲でした。
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軽船にのってのがれよ」Op.2 はゲオルゲの詩をあてた無伴奏混声合唱。これはカノン状に進行していましたが、響きはやっぱり調感はあるものの響きがグロくて素敵。このへんまではシェーンベルクで言う「月に疲れたピエロ」あたりの感覚で、初期作品と言えるのかも。
以降、何らかの伴奏付きの声楽曲が9曲続きました。作品番号で言うと、Op.8からOp.19 。この「何らかの伴奏」というのがくせもので、例えばOp.8 は8つの楽器を使っていて、この楽器軍が形成する対位法的な構造が強烈でした。仕事しながらこのCDを聴いているいま、ひとつひとつの曲を分析する気にはなれませんが、声と無調なり音列技法なりの対位法的音楽を作曲しようと思ったら、このCDは聴き直さないと駄目だと思いました。なんかすげえ。
ヴェーベルンが作品番号をつけた曲は全31曲と少ないですが、うち声楽曲が17曲。声楽曲にこだわっていただけあって、恐ろしいほどの素晴らしさでした。当時がそういう時代であった事もあるでしょうが、音大では新ウィーン楽派と言えばヴェーベルンが至高みたいな風潮がありました。でも僕にはベルクが最高でヴェーベルンは難しくて良いと思えなかったんですよね、先生も同級生もスノッブなだけで、本当にこれを聴いてよいと感じているのかと疑うほどでした。でももしあの頃、難しい点描主義の器楽曲ではなく声楽曲から聴いていたら、感想はまったく違ったかも。もし「ヴェーベルンはよくわからない」という方がいらっしゃいましたら、声楽曲のいっぱい入ったこのCDから聴き始めると突破口になるかも知れません。演奏も録音も良かったです!