アーリー・ミュージックは僕の中でまとめきれていない部分が多いので、ルネサンス音楽をきいたついでに、自分の頭を整理しておこう、そうしよう。
(アーリー・ミュージック) まず、アーリー・ミュージックについて。西洋音楽というと、今だと
バッハがいる18世紀バロックという音楽以降に注目が集まる事が多くて、クラシックの教科書でもバッハより前にさかのぼる事は珍しいです。そして、バロックの前の16世紀は、いわゆるルネサンス音楽の時代。このルネサンス音楽以前の西洋音楽を、まとめてアーリー・ミュージックと呼びます。
(グレゴリアン・チャント) そして今、西洋のアーリー・ミュージックをどこまでさかのぼる事が出来るかというと、9~10世紀ごろに出来たといわれるグレゴリアン・チャント(グレゴリオ聖歌)まで。
グレゴリオ聖歌はローマ・カトリック教会で歌われる聖歌なので、カトリック系の教会ではなんと今でも歌われ続けてます。1200年も歌い継がれてるって、すごくないですか?!というわけで、アーリー・ミュージックというと、だいたい9~10世紀のグレゴリアン・チャントから16世紀のルネサンス音楽までを指す事が多いみたいです。
(世俗歌曲) ヨーロッパの5~15世紀は中世と呼ばれてますが、中世ヨーロッパの音楽が宗教曲ばかりだったわけでもなくて、世俗音楽もいっぱいあったんじゃないかと。ただ、教会音楽は歌い継がれ書き記されてきたから、残りやすかったんでしょうね。でも世俗音楽の中にも現代にまで伝わったものがありました。吟遊詩人たちが歌い継いだ曲がそれです。
中世の吟遊詩人は名前がついているものがあって、中でもトルバドゥール、トルヴェール、ミンネゼンガーと呼ばれる吟遊詩人が有名です。いちばん古いのが
トルバドゥールたちで、11世紀ぐらいが起源で、南フランスで活動。次が
トルヴェールたちで、12世紀後半ごろに北フランスで活躍。最後が
ミンネゼンガーたちで、12~14世紀のドイツで活躍。これらの世俗歌曲はつながりがあります。音楽の形式にもそれぞれ特徴がありますが、まあそんな事より歌を楽しむところから始めるのがいいんじゃないかと。今とはぜんぜん違う生活風景なんかが歌われてて面白いです(^^)。そして、
グレゴリアン・チャントとトルバドゥール~ミンネゼンガーまでの歌は単旋律であるのが共通した特徴です。
(アルス・アンティクヮ) そんな西洋にも多声楽が生まれ始めます。
初期の多声楽は「アルス・アンティクヮ」といいます。
アルス・アンティクヮは、オルガヌム、モテトゥス、コンドゥクトゥスという様式が3本柱です。
オルガヌムは、グレゴリアン・チャントを斉唱してるだけではつまらなくなってきて、度数を変えて2つの旋律にしたのがはじまり…な~んて何かの本で読んだ記憶があるんですが、何の本だったか覚えてない(>_<)。まあ
2声の多声楽である事は間違いないんですが、これがカノン状になっていくものまであってメッチャ素晴らしい!今の歌謡音楽よりよっぽど高度でしかも美しく、未体験の人にはぜひ聴いてみて欲しい声楽です。
オルガヌムの中では「ノートルダム楽派」が有名で、これはノートルダム寺院で発展したオルガヌムなんですが、実に見事。
モテトゥス(モテット)は、用法によって意味合いが変わるややこしい言葉ですが、ここでは
アルス・アンティクヮやアルス・ノーヴァの時代の世俗ポリフォニーをモテトゥス、ルネサンス音楽以降の教会ポリフォニーをモテットと呼ぶ方法で紹介。オルガヌムが長大なものになりやすいのに対して、モテトゥスは短め。でも、3声のモテトゥスの中には、上部2声が別の詞を歌ったりしたものもあって(これ、『十字軍の音楽』というCDなんかで聴く事が出来ますが、同時に違う詞を歌ってるのに、ちゃんと聴き取れるんです、すげえ!)、これがバッハまで連なる対位法音楽の基礎になったように感じます。
コンドゥクトゥスは、それぞれの声部が違う動きをみせるモテトゥスと違って、
すべての声部が同じリズムで動くので、声部音楽というより和声音楽のように聴こえます。でも、コンドゥクトゥスが発生的にはいちばん最後だし、これが現在のホモフォニーな合唱曲や、和声音楽の基礎になったのかも(あくまで僕の見解なのであまり信じないでね^^;)。
(アルス・ノーヴァ) アルス・ノーヴァは、アルス・アンティクヮからルネサンス音楽への橋渡しになった音楽で、フィリップ・ド・ヴィトリーという司教が書いた「アルス・ノーヴァ」という音楽理論の本が最初。それまでノリで書いて発展してきた多声楽が、これで一気に理論的にまとまり、ノリや経験だけで作ってきた音楽と違って理論から音楽を生み出せるようになったもんだから、新しい音の組み合わせやリズムのかみ合わせがブワッと出てきた、みたいな感じ。そんな
アルス・ノーヴァの代表的作曲家が、ギョーム・ド・マショーです。マショーの作品で、そういうアルス・ノーヴァ的な技巧があらわれた傑作が
「ノートルダム・ミサ」というミサ曲で、この曲は連作ミサ曲をひとりの人が作った最初の曲だといわれます。ここで使われている
イソリズム(アイソリズム)というリズム面での技巧が使われていて、以降のカノン系の音楽を生み出す大発明…だそうですが、実は僕、この「イソリズム」というのがよく分からない…。
このへん以降のヨーロッパ音楽は、世俗音楽以外のものはかなり高度で、プロの音楽家でないととても作る事が出来ない高度なものの連発。そんなわけで、作曲家の名前が残っているものが一気に増えます。
(ルネサンス音楽の夜明け:ブルゴーニュ楽派) ルネサンスというと14~16世紀のヨーロッパのアレの事だと思いますが、ルネサンス音楽というと15~16世紀のヨーロッパ音楽のアレの事。作曲家の柴田南雄先生は、
『西洋音楽の歴史 上』の中で、「ほほ1430年の頃が音楽史上アルス・ノーヴァとルネサンスとの交替期」と書いてます。理由はいろいろですが、たとえば和声の整備。ちょっと前までは1・4・5・8度以外の音程は全部不協和音程だったものが、長3・短3・長6・短6が不完全協和音程になり…みたいに、ほぼ現代と同じように整備された事などなど。これに伴って、15世紀に入るといきなりすぐれた作品がどんどん生まれてきたのでした、ルネッサ~ンス!
そんなわけで、ルネサンス音楽がついに咲き乱れるわけですが、さっき書いた3度と6度の発展で重要な役割をしたのがイギリス人
ダンスタブル。ダンスタブルはイギリスから大陸に3度と6度を持ちこんだのでした。イギリスは音楽不毛の地なんて言いますが、要所でいい仕事をするんですよね(^^)。
そして、
初期のルネサンス音楽は、ベルギー・オランダ・フランス東北部あたりのブルゴーニュ地方で花を開かせます。ダンスタブルはアルス・ノーヴァの作曲家に見なされる事もあるし、最後はブルゴーニュ公国の宮廷と関係を持ってたのでブルゴーニュ楽派に数えられる事もあるみたい。ほかにブルゴーニュ楽派で有名な作曲家は、
デュファイと
バンショワ。デュファイのミサ曲はドミナントとサブドミナントがはっきりしていて、声部書法優勢だった多声楽に、思いっきり和声法が食い込んでます。もうこのへんの西洋音楽の精密さは、今のアマチュア音楽家の延長程度のポップスの作曲家では太刀打ちできないレベルです。すごい。
(ルネサンス音楽:フランドル楽派) ブルゴーニュ楽派に続いて、フランドル楽派なんてものも出てきます。昔はこのふたつを合わせてネーデルランド楽派と呼んだそうです。
フランドル楽派は、ルネサンス音楽の大本命。
オケゲム、
ジョスカン・デ・プレ、
ラッススなどの錚々たる作曲家ぞろいです。
この中で
オケゲムは発明家的な才能があって、カノンの中に拡大・反行・逆行なんていう、後のシェーンベルクにまで繋がってくる書法を開発します。すげえ。
そして、
ジョスカン・デ・プレ。ルネサンス音楽でひとりだけ作曲家を挙げろと言われれば、たぶんこの人。洗練というヤツですね、色んな技法を見事に使いこなしてる感じ。そういう意味でいえばラッスス(ラッソ)も同じで、ラッソはモテットのような宗教曲ばかりでなく、
マドリガル、シャンソン、リートなんていう世俗音楽も大量に書いていて、こんな作曲の達人に曲を量産されたら、アマチュア音楽家なんて曲を書けなかったんじゃないかと。ベートーヴェンが歌謡曲も大量に書いちゃうようなもんですからね。フランドル楽派、おそるべし。
(ルネサンス音楽:ローマ楽派) というわけで、ルネサンス音楽は不思議な事にルネサンスの震源地イタリアでなくてネーデルランド周辺で大爆発だったわけですが、とうぜんその音楽はローマ・カトリック教会にも飛び火。ローマ楽派なんてものも生まれますが、その代表選手が
パレストリーナです。ローマ・カトリックの肝いりという事もあるのか、パレストリーナの方が厳格で様式美的、ラッススの方が遊び心あり(なんせシャンソンまで書いてますからね^^;)、みたいな感じ。
パレストリーナの作った聖歌はいまでもカトリックの総本山バチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂で歌われてます。CDでは、前に紹介した
『システィーナ礼拝堂の音楽』なんかで聴く事が出来ます。あともうひとり、ローマ楽派で僕が聴いた事があるのは
カヴァリエーリ、これも素晴らしい作曲家でした。僕が聴いたのは預言者エレミアを扱ったポリフォニーでしたが、素晴らしかった(^^)。
(ルネサンスからバロックへ:モンテヴェルディ) そんなルネサンス音楽も、バロック音楽へと移行していく時が来ました。そこで活躍したのが
モンテヴェルディ。ルネサンス音楽末期には、オペラがずいぶんと盛んになっていて、フィレンツェには「カメラータ」というグループがオペラを生み出します。そんな
オペラを一気に芸術的レベルまで持って行ったのがモンテヴェルディ。彼の
『オルフェオ』は、本格的なオペラ最初期の作品として有名、なんと今でもその中の曲は演奏され続けています。また、モンテヴェルディがすごかったのは、けっこう野蛮ギャルドなんですよね、不協和音なんて全然気にしないというか、オペラで緊張感のあるシーンになると不協和音を平然と鳴らします。これは、あのどこまでも整合性のとれた調和を聴く事が出来るパレストリーナの音楽とは大違い。ぶっ壊して次の時代への道筋をつけたとも言えそう(あくまで僕の見解なので、あんまり真に受けないで下さい^^)。
お~、書いてみたら、グッチャグチャだった自分の中でのアーリー・ミュージックが整理できた気がするぞ…あ、マイスタージンガーとか書いてないや、どうしよう(^^;)>。次のバロックへの道はドイツのオルガン音楽の歴史についても書かないと…まあいいか、ここまで整理出来ていれば、あとはいくらでも深く入っていけそうな気がします。
アーリーミュージックで僕が特に好きなのは、オルガヌムと後期フランドル楽派の音楽。このへんの音楽を聴いてると、昔の作曲家ってべらぼうに頭が良かったんだろうな、と感じます。中世~ルネサンス期の音楽を聴いてみたいけど何が何だかわからないという人は、どうぞ参考にしてみてくださいね(^^)/。