
結成するやいなや、ロックの歴史にさん然と輝く驚異の音楽
『クリムゾン・キングの宮殿』を作り上げ、そしてあっという間にメンバーが脱退して空中分解した初期メンバーのキング・クリムゾン。最初の解散までのキング・クリムゾンの音楽の素晴らしさ凄まじさに魅了された僕は、それがブートだろうがオーディエンス録音だろうが、60~70年代のキング・クリムゾンの演奏とあらば夢中で聞きかじっていた時期がありました。
とにかくメンバーチェンジの激しいバンドでしたが、
マイケル・ジャイルズ、グレッグ・レイク、イアン・マクドナルド、ロバート・フリップという初期ラインアップと、デヴィッド・クロス、ジョン・ウェットン、ビル・ブラッフォード、ジェミー・ミューア、ロバート・フリップという最終ラインアップのふたつは、ロックの歴史の中でも異常といえるレベルのすごいバンドでした。これは初期ラインアップでのライブ録音で、CD2枚組。この時期のライブはブート以外ではリリースされていなかったので、リリースされるやいなや飛びつきました(^^)。
音源はひとつのライブを丸々というものではなく、以下の音源を収録していました。
・69.5.6と8.19収録の2つのBBCラジオ・セッション
・69.11.21フィルモア・イーストのライブの一部
・69.12.14フィルモア・ウエストのライブの一部
・12.16フィルモア・ウエストのライブの一部
音楽は例によってロックとジャズとクラシックのとんがったところをみんな取り込んだ凄さ、演奏はクソうまい、でも録音はもう一声という内容でした。なるほど、録音が良くないからずっとリリースされなかったんですね、きっと。
ただ、驚異のメンバーが揃った初期ラインアップ時のキング・クリムゾンにはひとつだけ弱点がありまして、まだロバート・フリップが単旋律のロックなギター・ソロがうまくない事。たぶんクラシック・ギターやジャズ・ギターの練習はしていたようで、そっち系の演奏はうまいんですが、とにかくロック的なギターソロが弱いです。面白いですよね、ロックのギターの方が簡単そうなものなのに。でも、数年後にはとんでもないロック・ギターのソロを弾いちゃうので、単にロックの練習が間に合ってなかっただけじゃないかと。まあこんな事も、以降のロバート・フリップのギター・ソロの素晴らしさを知ってるからそう思うのであって、69年時点のロック・バンドのギターでここまで弾けたら相当なもんじゃないかと。
他のメンバーの演奏は、とんでもないレベルでした。特に
イアン・マクドナルドのサックスと、マイケル・ジャイルズのドラムの凄さといったら、大名盤『クリムゾン・キングの宮殿』での演奏ですら控えたものだった事が分かる凄さでした。60年代後半のブリティッシュ・ジャズのミュージシャンのレベルの高さはヤバいです。しかもクリムゾンの音楽はジャズ訛りがないから民族音楽にならずに芸術音楽に向かうのがカッコイイです。
そんな演奏でジャズをやるのではなくて、クラシックのような構造美を持つ曲を演奏するんだから、やっぱり凄いバンドだったんだと思います。初期ラインアップのキング・クリムゾンは、ライブでスタジオ盤未収録の曲をやるんですが(「Get Thy Bearing」「Travel Weary Capricorn」「Drop In」など)、これがまたものすごい演奏と素晴らしい完成度の作編曲。この初期ラインアップでメンバー脱退が起きなければ、この3曲はセカンド・アルバムに収録されていたと思うし、このメンバーと3曲が入ってセカンドが作られていたらあんなショボい事にならなかったと思うので、つくづくあっという間のメンバー脱退が残念です。
僕はこのCDを日本盤で持ってるんですが、そのライナーには1996~7年に行ったメンバーへのインタビューが載っていました。それを読む限り、「ああ、キング・クリムゾンって、本当はこの初期ラインアップの音楽をいうんであって、これが崩れて立て直すのに数年かかって、ようやく立て直せたのが解散前のメンバーだったんだな」と思いました。そのぐらい、この初期メンバーの音楽はスタジオでもライブでも強烈。いかんせん録音が良くないので、初期ラインアップ唯一の公式録音『In the court of the Crimson King』を聴いてない人は、先にそっちを聴く事を推奨しますが(そうしないと録音のショボさにずっこけるかも^^;)、もしあれを聴いているなら、このブート盤より音の悪いCDも聴く価値があるかも。僕が最初に初期キング・クリムゾンを聴いた時、そのロックの範囲を大きく超えたクラシカルな作曲技術に度肝を抜かれたんですが、初期のライブ録音を聴けば、実は初期ラインアップの凄さって、ライブで実力を発揮する演奏技術にもあった事が理解できると思います。