1961年録音(62年リリース)、マルチインストゥルメンタリストのローランド・カークのアルバムです。カークはこのアルバムからマーキュリーと専属契約、ワンショット契約の流浪生活からようやく脱出です!とはいえ、この後もカークはワンショット契約のレコードを幾つかリリースするのですが、ローランド・カークのレコードをいっぱい出したのってマーキュリーとアトランティックなので、60年代前半の初期はマーキュリー、60年代中ごろから70年代中ごろはアトランティックというザックリした区分けは出来るんじゃないかと。
編成はワンホーン・カルテットでしたが(でも管の同時演奏が入るので、テーマ部分が複数管…大道芸っす^^)、マーキュリー移籍でレコード会社側のプロデュースが入るのか、ハンク・ジョーンズ(p)、アート・デイヴィス(b)、チャーリー・パーシップ(dr) など、メンバーに有名人がズラリ。でもこれって良し悪しかも知れません。音楽はこれまで同様にハード・バップ調がメインなんですが、これまで以上にハードバップのステレオ・タイプに近づいて感じました。安定した演奏ではあるんだけど、どこかで聴いたような音楽になってしまった感が…。昔の保守的なレーベルが出すジャズ・アルバムって、こういう所あるんですよねえ。。
そんな中で面白かった曲が、アルバム・タイトルにもなった「We Free Kings」。曲はマイナーですがややドリアン気味なのでモードっぽくも聴こえました。ヘッドは管を何本も加えての同時演奏で、アドリブになったら最初はフルート、次はテナーサックスに持ち替え。ややモード的に聴こえるんですが難解さや理論先行に聴こえず、あくまでソウルフルな所はカークらしくて魅力的でした。
そして演奏。音楽が典型的なハード・バップにより近づいたからか、この演奏で連想したのは完全に
キャノンボール・アダレイ。アルトとテナーの差はありますが、チャーリー・パーカーからの影響少なめで、アドリブが歌いまくるところが似て感じるんですよね。それでもアドリブの中でカークの必殺技が炸裂する瞬間はあって、たとえば「Moon Song」のアドリブで出てくる高速の演奏。音を独特の方法で細かく割るこの演奏ってどうやってるのかと自分の口でやってみたら、なるほどこれってタングロールを大袈裟にやるんですね、きっと。尺八や能管など、日本の管楽器ってあんまりこういう音の切り方をしないのとは対照的だと思いました。
特殊な演奏という事でいうと、ブルース曲「You Did It, You Did It」での、
声とフルートを混ぜた演奏がすごく良かったです。「アーッ」とか声を出しながらフルートに息を入れるんですが、これがなかなかのインパクト。日本に狩俣道夫さんというサックス/フルート奏者がいるんですが、この人が似たような演奏をしていて(しかもちょっと尺八や能管みたいな表現も混じっていてカッコイイ!)、なるほどアンサンブルから外れて個人の表現を拡大していいのなら、管楽器の演奏に自分の声を混ぜるのは有効な方法だと思いました。これはいいっす!
というわけで、細かく聴けばいろんな魅力がある音楽でしたが、でも大まかにいえばハードバップのステレオタイプ。普通すぎて退屈…そういう部分を減らして、個性や特技をもっと前面に出してくれればと思う自分もいたりして。それが後年のカークというわけですね。