
イラン・イラク・シリア・トルコの中間あたりに少数民族として生き、しかし自分たちの国を持たないクルド人。多くがイスラム教徒で、何度も独立を試みながら、世界情勢の中でそれを何度も握りつぶされ、それぞれの国にマイノリティとしての立場を余儀なくされています。「少数派民族」といっても、それは国を持つ事が出来ずに、それぞれの国でマイノリティになっているという事であって、中東全体で見れば人口第4位、とても「少数」なんて言えません。。
…な~んていうのは教科書やニュースで知っている情報であって、僕はこのあたりに行った事もなければ、クルド人の知り合いもいません。つまり、文字情報の上でしかクルド人というのを知らないんですね。これで知ったようにつもりになっているのだから情報って恐ろしい。事あるごとにニュースになる彼らがどういう文化を持ち、どういう考えを持っているのか…こういうのって、気になりませんか?生の文化を強く伝えているもの…音楽って、こういう時にすごく役に立つと思うのです。クルド人の音楽とか、聴いてみたいと思いませんか?僕はそんな気持ちでこのCDを手にしました。発売元はなんとユネスコ。文化遺産としてこの音楽を捉えているんですね。たしかに、場合によっては消滅させられてしまいそうな危険がある文化ですよね。
さて、他の民族音楽と同じように、ひと口に「クルド人の音楽」といっても、けっこうな幅があります。で、このCDの
1曲目は、なかでも一番プロ音楽的というか、ペルシャ芸術音楽に近いです。というか、僕がこれを音だけ聴かされたら、間違いなくイラン音楽と間違えるでしょう。サズ(トルコでよく聴く、細長い弦楽器)とタンブーラのデュオ。で、イラン芸術音楽と同じように、スケールが確定したら、(たぶん何かの法則で)いくつかのシーンチェンジをしながらも
音楽が即興的に駆け上がっていくのですが…これが壮観。サズはモハメッド・アリという人が演奏しているのですが、この名前って中東ではやたらよく聴く名前なので、あのイラン音楽の巨匠モハメッド・アリと同一人物かどうかは分かりません。しかし、もしかしたら同一人物なんじゃないかというぐらいにうまい。文化的にもイランのクルド人の録音なのかも知れません。で、この「ペルシャ芸術音楽」的方向の歌入りが4曲目にも入ってます。
2曲目は一転してトルコ音楽かと思うぐらいのダブルリード楽器の重奏にバレルドラム。トルコ軍楽の小編成版という感じです。変化する事はなく、同じ音楽をひたすら続ける感じで、聴いていると病み付きになります(^^)。やはり素晴らしい演奏なんですが、これは1曲目のプロミュージシャン的な演奏ではなく(プロかも知れませんが)、日本の声明みたいに、なにか儀式とか、そういう時に使う音楽のような雰囲気です。
3曲目が一番大衆的な音楽という感じがして、タンバリン(カスタネット?)状の楽器、リズムに徹しているリズム太鼓、ずっとドローンを奏でる笛(これがまったくノンブレスなので、もしかして循環呼吸で吹いている?すげえ…)、この3つをバックに、縦笛(横笛)のような、非常に高音域の笛が即興的にソロを取り続けます。これは、純粋に音楽を楽しんでいるという感じで、すごくいい。
な~んてかんじで、全5曲。いやあ、音楽だけを聴いても、イラン文化、アラビア文化、トルコ文化がもろに重なっている感じが分かります。そして、僕が知っているクルド人といえば、イスラエルのクルド人自治区の人みたいに、鉄条網で仕切られた難民キャンプのテント暮らしみたいなイメージだったので、ここまで優れた音楽文化を保存しているというのはまったく意外でした。音楽どころではないと思っていたもので…。
ものすごく素晴らしい音楽。西アジアの音楽というのは異常に洗練されている上に、西洋音楽とは全く違ったベクトルにある音楽なので、体験した事のない方にはぜひともお勧めしたいです。そうそう、本盤のレコード番号は「UNESCO D8023」なんですが、同じユネスコ原盤のレコードに、これまた『KURDISH MUSIC』という同じタイトルのCDがあります。これが曲タイトルも違うし収録曲数も違っているので、恐らく違うレコードだと思います。