Albums of the Month |
あんなに定額ストリーミング導入を渋っていた日本の音楽産業も、ようやくビジネスモデルとしての光明を見出してきたのか積極的な解禁が進んでますね。自分もSpotifyは重宝してますがやっぱり未だにCDを買い続けてしまいます。月1,000円で50枚のアルバムを2回ずつ聴くよりは月1万円かけて5枚のアルバムを20回ずつ聴きたいかな。別にアーティストやレーベルにお金落としたいとか応援したいとかじゃなく、単純にCDというメディアとして持ちたいし、厳選された枚数を繰り返し聴きたいっていう欲求のためです。てことで2020年リリースの洋楽新譜がようやく届き始めた今月に初聴きした音源のまとめ。
Bombay Bicycle Club / Everything Else Has Gone Wrong (2020)
★★★★☆
2016年に活動休止を宣言したバンドの6年ぶりとなる復帰作。もとはCajun Dance PartyらとともにUKインディ・シーンを盛り上げる形でデビューしたけど、見た目の華やかさがなかったりハッタリの利いたサウンドを武器としない代わりに、彼らはコンスタントに良作をリリースしてきた。そんな彼らの集大成であり最高傑作が2014年の前作『So Long, See You Tomorrow』だったと思うけど、そこで見せたフォークとエレクトロと民族音楽の絶妙な融合は見事なものだった。
もともと彼らを象徴していたものは、アンセミックなメロディやスタジアム映えするサウンドではなく、肉体的なグルーヴに対する繊細なメロディや、享楽性と内省といったもののコントラストだった。数年の時を経てヴォーカルのJack Steadmanの頭は「うっすらハゲ」からついに「完全なるハゲ」へと進化を遂げてしまったが、彼らがもともと持ち合わせてきたそのコントラストはそのままこのアルバムでも受け継がれている。先行シングルの「Eat, Sleep, Wake (Nothing But You)」、終盤のハイライト「Let You Go」がとりわけ秀逸。
Bombay Bicycle Club - "Eat, Sleep, Wake (Nothing But You)"
Soccer Mommy / Color Theory (2020)
★★★★★
「ソフィア」とか「レジーナ」とか「アリソン」みたいな名前、どれも女性的でとても素敵だと思うのだけど、そんなSophia Regina AllisonのステージネームSoccer Mommyによる2作目。
実はこれまで彼女のことは「好きな声質だしまあまあいいな」という程度で、音源を買うまでには至っていなかった(よく比較されるであろうBeabadoobeeの方が断然好きだった)。でも『The Bends』期のRadioheadに影響を受けたFountains of Wayneをバックに従えたかのような「Yellow Is the Color of Her Eyes」を聴いて、そのソングライティング・センスやノスタルジー満載のローファイ・サウンドに一気に引き込まれた。
Soccer Mommy - "Yellow Is the Color of Her Eyes"
THICK / 5 Years Behind (2020)
★★★★☆
Epitaph Recordsといえば以前(自分がキッズだった頃)はRancidとかNOFX、The Offspring、Pennywiseみたいな西海岸系パンク~メロコアなイメージだったけど、いつの間にかパンク・マインドを持った面白いバンドをいくつも抱えるレーベルになってて。去年はMannequin Pussy、そして今年はガールズ・パンク・トリオのTHICK。歌詞もちゃんと訳したわけではないけど男性優位社会に中指を立てるような内容になっているっぽくて、でもそれでいて曲はとにかく明るくキャッチーなところが良い。
THICK - "Mansplain"
Caroline Rose / Superstar (2020)
★★★★☆
「赤ジャージの人」ことCaroline Roseの4作目。このジャケ、どんだけ赤が好きなんだ…はさておき、おちゃらけているのかマジメなのかよくわからない脱力系シンセ・ポップは魅力的。それでいて、「I Took A Ride」みたいなややダークな曲で締めるところも良い。
Caroline Rose - "I Took A Ride"
Algiers / There Is No Year (2020)
★★★★☆
Algiersと書いてアルジェと読む。ソウルフルなヴォーカルを擁するポスト・パンク・バンドということでBloc Partyを連想したけど、ドラマーがMatt Tong(元Bloc Party)ということを知ってちょっとびっくり。アートワークも良い。
Algiers - "We Can't Be Found"
Georgia / Seeking Thrills (2020)
★★★★☆
前作のリリースは2015年。ということで、しばらくは「この人消えちゃったのかな…才能あったのに…」なんて思っていたけど、去年辺りからチラホラ再び名前を目にするようになり、BBC Sound of 2020のロングリストに入ったり、本作がUKインディチャートで1位を取ったりとついに本格ブレイク。
以前は個人的にM.I.A.の後継者とか勝手に思っていて、前作を2015年の年間ベストで13位に選んだりしていたけど、本作ではわりとオーソドックスなエレクトロ・ポップに変貌を遂げている(M.I.A.っぽさの名残としては「Ray Guns」くらいか)。それはそれで好物ではあるんだけど、やはり尖ったビートや攻撃的なサウンドももっと欲しかったかなという印象。何と言ったって、LeftfieldのNeil Barnesの娘さんなのだから。
Georgia - "Ray Guns"
Grimes / Miss Anthropocene (2020)
★★★★★
5年ぶりとなる待望の新作。先行曲を聴いた段階ではダークでグロテスクで猥雑なサイバーパンク作品になるかと予想していたけど、意外にもおとなしめな印象。というのも冒頭の数曲がダウンテンポだったり、ビートが比較的弱めで前作の「Kill V. Maim」みたいな明確なパンク・チューンがなかったり、ヴォーカルも歌モノとしてではなく楽器の一部のような扱いをされている曲が多いからだと思う。そんなことが影響してか、本作は前作で見せたようなポップ性やメインストリーム感こそないものの、アンビエント・テクノやニューエイジ、スピリチュアル、ゴア・トランス、民族音楽を聴いているときのような陶酔感が得られる作品になっていて、つまりはサイケデリック・アルバムであると。
Grimes - "Idoru"
Sorry / 925 (2020)
★★★★☆
ケムトレイルに包まれた気怠いヤサグレ・デュオ(バンド?)のデビュー・アルバム。「やってられねーぜ」というような厭世感を携えた音像は「ダラダラ」と「ヒリヒリ」が同居していて、King Kruleにも通じるものがある。
Sorry - "As The Sun Sets"
さてここからは恒例のBUCK-TICK祭り。
ベルリン室内管弦楽団 / Symphonic Buck-Tick in Berlin (1990)
★★★★☆
3作出ているトリビュート盤をはじめとして、ライブ盤やリミックス盤(AutechreやAphex Twin、Hardfloorなどリミキサーが豪華すぎることで有名)などいわゆる「オリジナル・アルバム以外の関連作品」は数あれど、その中でもおそらく最もマニアックなのがこれ。演奏にB-Tはたずさわっておらず、B-Tの楽曲をベルリン室内管弦楽団がオーケストラ・アレンジで演奏したもの。こんな企画モノのアルバムが出せるなんてさすがバブル時代、さすがバンド・ブーム。
アレンジャーは複数いるが、「Maborosi no Miyako」や「Silent Night」なんかはオーケストラ・アレンジがとてもマッチしていて原曲の怪しげな雰囲気やホーリーな雰囲気を最大限に増幅させているし、「Just One More Kiss」「Love Me」は彼らの楽曲がいかにキャッチーかを再認識させてくれるような出来だ。が、上野耕路氏が手掛けた2曲「Hyper Love」「Kiss Me Good-Bye」は解体され過ぎで正直何の曲か全くわからないほどにアヴァンギャルド。
BUCK-TICK / 天使のリボルバー (2007)
★★★★☆
前作『十三階は月光』は思いっきりゴシックな作風だったけど、ここでいきなりロックンロール・アルバムとは。えっ、「CREAM SODA」って星野さん作曲なの?という驚きもありつつ、自分は『十三階は月光』(2005年)の次に『アトム 未来派 No.9』(2016年)→『No.0』(2018年)→『夢見る宇宙』(20212年)→『或いはアナーキー』(2014年)という順序で聴いてきたので、ここ15年くらいのB-Tに関してはゴシックとかダークなイメージが強かったんだけど、そのイメージを見事に吹き飛ばしてくれた。
★★★★☆
2016年に活動休止を宣言したバンドの6年ぶりとなる復帰作。もとはCajun Dance PartyらとともにUKインディ・シーンを盛り上げる形でデビューしたけど、見た目の華やかさがなかったりハッタリの利いたサウンドを武器としない代わりに、彼らはコンスタントに良作をリリースしてきた。そんな彼らの集大成であり最高傑作が2014年の前作『So Long, See You Tomorrow』だったと思うけど、そこで見せたフォークとエレクトロと民族音楽の絶妙な融合は見事なものだった。
もともと彼らを象徴していたものは、アンセミックなメロディやスタジアム映えするサウンドではなく、肉体的なグルーヴに対する繊細なメロディや、享楽性と内省といったもののコントラストだった。数年の時を経てヴォーカルのJack Steadmanの頭は「うっすらハゲ」からついに「完全なるハゲ」へと進化を遂げてしまったが、彼らがもともと持ち合わせてきたそのコントラストはそのままこのアルバムでも受け継がれている。先行シングルの「Eat, Sleep, Wake (Nothing But You)」、終盤のハイライト「Let You Go」がとりわけ秀逸。
Bombay Bicycle Club - "Eat, Sleep, Wake (Nothing But You)"
Soccer Mommy / Color Theory (2020)
★★★★★
「ソフィア」とか「レジーナ」とか「アリソン」みたいな名前、どれも女性的でとても素敵だと思うのだけど、そんなSophia Regina AllisonのステージネームSoccer Mommyによる2作目。
実はこれまで彼女のことは「好きな声質だしまあまあいいな」という程度で、音源を買うまでには至っていなかった(よく比較されるであろうBeabadoobeeの方が断然好きだった)。でも『The Bends』期のRadioheadに影響を受けたFountains of Wayneをバックに従えたかのような「Yellow Is the Color of Her Eyes」を聴いて、そのソングライティング・センスやノスタルジー満載のローファイ・サウンドに一気に引き込まれた。
Soccer Mommy - "Yellow Is the Color of Her Eyes"
THICK / 5 Years Behind (2020)
★★★★☆
Epitaph Recordsといえば以前(自分がキッズだった頃)はRancidとかNOFX、The Offspring、Pennywiseみたいな西海岸系パンク~メロコアなイメージだったけど、いつの間にかパンク・マインドを持った面白いバンドをいくつも抱えるレーベルになってて。去年はMannequin Pussy、そして今年はガールズ・パンク・トリオのTHICK。歌詞もちゃんと訳したわけではないけど男性優位社会に中指を立てるような内容になっているっぽくて、でもそれでいて曲はとにかく明るくキャッチーなところが良い。
THICK - "Mansplain"
Caroline Rose / Superstar (2020)
★★★★☆
「赤ジャージの人」ことCaroline Roseの4作目。このジャケ、どんだけ赤が好きなんだ…はさておき、おちゃらけているのかマジメなのかよくわからない脱力系シンセ・ポップは魅力的。それでいて、「I Took A Ride」みたいなややダークな曲で締めるところも良い。
Caroline Rose - "I Took A Ride"
Algiers / There Is No Year (2020)
★★★★☆
Algiersと書いてアルジェと読む。ソウルフルなヴォーカルを擁するポスト・パンク・バンドということでBloc Partyを連想したけど、ドラマーがMatt Tong(元Bloc Party)ということを知ってちょっとびっくり。アートワークも良い。
Algiers - "We Can't Be Found"
Georgia / Seeking Thrills (2020)
★★★★☆
前作のリリースは2015年。ということで、しばらくは「この人消えちゃったのかな…才能あったのに…」なんて思っていたけど、去年辺りからチラホラ再び名前を目にするようになり、BBC Sound of 2020のロングリストに入ったり、本作がUKインディチャートで1位を取ったりとついに本格ブレイク。
以前は個人的にM.I.A.の後継者とか勝手に思っていて、前作を2015年の年間ベストで13位に選んだりしていたけど、本作ではわりとオーソドックスなエレクトロ・ポップに変貌を遂げている(M.I.A.っぽさの名残としては「Ray Guns」くらいか)。それはそれで好物ではあるんだけど、やはり尖ったビートや攻撃的なサウンドももっと欲しかったかなという印象。何と言ったって、LeftfieldのNeil Barnesの娘さんなのだから。
Georgia - "Ray Guns"
Grimes / Miss Anthropocene (2020)
★★★★★
5年ぶりとなる待望の新作。先行曲を聴いた段階ではダークでグロテスクで猥雑なサイバーパンク作品になるかと予想していたけど、意外にもおとなしめな印象。というのも冒頭の数曲がダウンテンポだったり、ビートが比較的弱めで前作の「Kill V. Maim」みたいな明確なパンク・チューンがなかったり、ヴォーカルも歌モノとしてではなく楽器の一部のような扱いをされている曲が多いからだと思う。そんなことが影響してか、本作は前作で見せたようなポップ性やメインストリーム感こそないものの、アンビエント・テクノやニューエイジ、スピリチュアル、ゴア・トランス、民族音楽を聴いているときのような陶酔感が得られる作品になっていて、つまりはサイケデリック・アルバムであると。
Grimes - "Idoru"
Sorry / 925 (2020)
★★★★☆
ケムトレイルに包まれた気怠いヤサグレ・デュオ(バンド?)のデビュー・アルバム。「やってられねーぜ」というような厭世感を携えた音像は「ダラダラ」と「ヒリヒリ」が同居していて、King Kruleにも通じるものがある。
Sorry - "As The Sun Sets"
さてここからは恒例のBUCK-TICK祭り。
ベルリン室内管弦楽団 / Symphonic Buck-Tick in Berlin (1990)
★★★★☆
3作出ているトリビュート盤をはじめとして、ライブ盤やリミックス盤(AutechreやAphex Twin、Hardfloorなどリミキサーが豪華すぎることで有名)などいわゆる「オリジナル・アルバム以外の関連作品」は数あれど、その中でもおそらく最もマニアックなのがこれ。演奏にB-Tはたずさわっておらず、B-Tの楽曲をベルリン室内管弦楽団がオーケストラ・アレンジで演奏したもの。こんな企画モノのアルバムが出せるなんてさすがバブル時代、さすがバンド・ブーム。
アレンジャーは複数いるが、「Maborosi no Miyako」や「Silent Night」なんかはオーケストラ・アレンジがとてもマッチしていて原曲の怪しげな雰囲気やホーリーな雰囲気を最大限に増幅させているし、「Just One More Kiss」「Love Me」は彼らの楽曲がいかにキャッチーかを再認識させてくれるような出来だ。が、上野耕路氏が手掛けた2曲「Hyper Love」「Kiss Me Good-Bye」は解体され過ぎで正直何の曲か全くわからないほどにアヴァンギャルド。
BUCK-TICK / 天使のリボルバー (2007)
★★★★☆
前作『十三階は月光』は思いっきりゴシックな作風だったけど、ここでいきなりロックンロール・アルバムとは。えっ、「CREAM SODA」って星野さん作曲なの?という驚きもありつつ、自分は『十三階は月光』(2005年)の次に『アトム 未来派 No.9』(2016年)→『No.0』(2018年)→『夢見る宇宙』(20212年)→『或いはアナーキー』(2014年)という順序で聴いてきたので、ここ15年くらいのB-Tに関してはゴシックとかダークなイメージが強かったんだけど、そのイメージを見事に吹き飛ばしてくれた。
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