ライブレポート |
1月11日と12日にさいたまスーパーアリーナにて行われたMUSEの単独来日公演の、12日の方に行ってきました。現ロックシーンにおいて世界最強のライブバンド(として世間で広く認知されているし、個人的にも異論ありません)ということで、2013年のライブ初めとしてこれ以上相応しいものはないと思うし、その期待に応えてくれるような素晴らしいライブでした。以下、ライブレポートをどうぞ。
今回の来日は2011年のフジロック以来、約1年半振り。昨年リリースされた6枚目のアルバム「The 2nd Law」は、これまで以上に壮大でシンフォニックな作品であり、いつものド派手なギターフレーズやエネルギッシュな歌唱を抑えた曲が多いため、それらの曲群がライブの場においてどのようにプレイされ、セットリストの中でどのような存在感を放つのか非常に気になったし、過去の曲と比べて見劣りしてしまわないか気を揉んだりしつつライブ会場へと向かった。
自分にとって今回が初となるさいたまスーパーアリーナは、チケットに記された「アリーナBブロック」がどの程度見えるのか全く未知だったのだけど、想像していたよりも結構後ろの方。それに加え、今回はステージが低めだったので前方の人によってかなり視界を遮られ、かなり見づらい状況だった。比較的視界の広い場所をなんとか確保したものの、それでも常にステージ全体を観ることはできなかった。きっと同じ不満を抱いた人は多いはず。せめてステージがあと1メートル高ければ、と思った。
開演時間の18時を過ぎると、場内で流れるSEの1曲が終わるたびに、彼らの登場を今か今かと待ち焦がれた人々のどよめきと手拍子が鳴り止まない。そしてパンパンに膨れ上がった期待と緊張感のなかで突如客電が落ちると同時に、16ビートで刻まれるストリングスと重厚なコーラス、カットアップされた女性の音声が流れ、場内をスリリングな空気に一変させる。オープニングは新作から「The 2nd Law: Unsustainable」。実はこの曲、密かにライブの1曲目だろうなと予想していたのだけど、ハリウッドのアクション大作映画のオープニングを思わせるこの曲は、もはや一大エンタテインメント・スペクタクルとも言える彼らのライブの幕開けとして最も相応しい曲だと思う。
セットは、ドラム台の正面とステージ後方にLEDディスプレイを配し、映像とメンバーの演奏を同時に堪能できる作りで、ステージの両サイドにはマシューとクリス用のお立ち台も。これだけでも豪華なのだけど、それだけではない。3曲目「Hysteria」が終わるとステージの上から逆ピラミッド型の巨大な映像ディスプレイが登場。5段×4面(客席から見えるのは2面だけど)ある、かなり大きな舞台装置である。事前にマシューが「会場に持ち込めたら、日本でもすごいセットを披露できるよ」と言っていたのはこれのことだったのね。続く「Panic Station」では、このピラミッド型ディスプレイの中に映し出されたTV画面の中でモンスター達が踊り、ステージ後方ディスプレイではモンスター達が曲に合わせてトランペットを吹くという、視覚的にも楽しめるステージング。ちょっとファニーな雰囲気の映像が、彼らの新機軸とも言えるファンク調の曲にとてもマッチしている。
5曲目にはファンの間でも人気の高そうな「Bliss」がライブ用にアレンジされたイントロ付きでプレイされ、8曲目には早くも「Knights of Cydonia」を投下。かつてはオープニングだったりラストだったりしたこのライブ定番曲が、このように中盤(の中でも序盤)にポンと配置されたことは正直かなり驚いた。しかしよくよく考えてみれば、この曲は既に「The 2nd Law」の前々作の収録曲であり、彼らはその後もライブの定番となりうる曲を量産し続けているのだから、いつまでもひと昔前の代表曲に頼ることなく進化し続けている証であると言える。
ただ、この曲でアクシデントが…。ベースのクリスがいつものようにイントロのハーモニカを吹くのだけど、途中で息を吸い込む時にツバが絡んだような「ズズーッ」という音が。このイントロは完全にハーモニカの独壇場でシーンとした状態だったので、その場にいた全員が「!?」となる。しかも、普段は寡黙なキャラのクリス。これは笑っていいのか、どうなのか…。と思っていると、堪えきれなかった人たちの笑い声が5秒遅れで到達。しかしそんなミスがあっても、「いつも完璧なアンサンブルを聴かせる彼らでもミスるのね」と、少し安心したというか、妙に親近感を覚えてしまった。そんなところも、さすがMUSE。
その後クリスとドムによるジャムを挟んで、ステージ上にはピアノが登場。このピアノは蓋部分が透明で、弾く鍵盤によって蓋のあちこちが光るという特殊仕様で美しい。このピアノを用いて「The 2nd Law」屈指の美メロ・バラード「Explorers」、続いてマシューが「ファーストアルバムから」と前置きしてからプレイされたのは何と「Sunburn」!ファースト「Showbiz」の冒頭を飾る、古くからのファンにはとても思い出深い曲であり、あの哀愁漂う流麗なピアノの旋律が紡ぎ出されると、どよめきにも似た歓声が巻き起こり、オーディエンスは狂喜乱舞の反応を見せていた。
ここまで新作からの曲は1、2曲おきに演奏され、そのどれもがライブの流れの中でもいいアクセントになっていたけど、ここからは三連発。クリスがボーカルをとった「Liquid State」ではマシューは裏方に徹し、ドムの後方でギターを弾きまくるのだけど、やはりさすがはフロントマン、どんなに後方でプレイしようとも目立つ。こんなところでもマシューのカリスマ性、スター性が浮き彫りに。続く「Madness」では、先日「スッキリ!」に出演した際も掛けていたサングラス型ディスプレイをマシューが装着。ここに歌詞を映し出し、その姿を逆ピラミッド型ディスプレイにアップで映すという手法がユニーク。そして目下の最新シングル「Follow Me」ではブロステップ風のマッシヴなビートによって、最新作収録曲の中では最大級の盛り上がりを見せた。
例の逆ピラミッドディスプレイを使った演出も面白い。ディスプレイ全体をルーレットに見立てて画面内でボールを転がし、落ちたところに書かれてある曲を演奏するという演出。もちろんこれはあらかじめ決められた映像で、本当にルーレットによって決まったわけではないのだけど、こういう「遊び心」は大切だと思う。それにしても、このルーレットによって「Stockholm Syndrome」ではなく「New Born」が演奏されたのは個人的には残念。なぜなら「Stockholm~」はMUSE屈指のヘヴィなナンバーで人気も高く、ライブで最も盛り上がる曲の一つだからだ。とは言え、「New Born」も確かにライブで盛り上がる人気曲だからまあ仕方ないのだけど。それにしても「New Born」はCDと比べてテンポが遅すぎる(走りやすい曲だから抑えているのだろうか)と思うので、何とかならないものだろうか…。
その後、例の逆ピラミッドがステージに降りてきて、今度はピラミッド型になるという驚愕の仕掛けが。しかもメンバーがその中にスッポリ収まってしまい、「The 2nd Law:Isolated System」が流れるとともに、ピラミッド上では以下のような「男女が波動のようなものから逃げる映像」が流れた。
Muse - "The 2nd Law: Isolated System" "Uprising"
映像が終わると両サイドのお立ち台にマシューとクリスが現われて「Uprising」が始まり、ピラミッドが再び上昇。すると中から、いつの間にやら真っ赤な衣装に着替えたドムが登場。この衣装替えは一体何の意味があるのかよくわからないけど、この曲で本編終了。
それにしてもアンコールの勢いがすごい。手拍子だけではなく足踏みや「oi! oi!」コールなども起こる中、メンバーが再びステージ上に姿を現すと「Starlight」「Survival」をプレイ。特に後者では、コーラス部分が厚くなっていく展開に合わせてアニメーションで描かれた人物が増殖していくという映像も面白かったし、アウトロの掛け声に合わせてスモークが何本も噴射され、まさに重厚で壮大なサウンドを最大の武器とするMUSEの魅力の集大成といった感じで、ロンドン五輪の開会式セレモニーを思い出させた。この曲はライブのシメに相応しいニュー・アンセムだと思う。
細かい点を挙げれば、「Stockholm Syndrome」をやらなかったこと、ステージが低かったことなど多少の不満もなくはない。しかし、これまでとは少しテンションの異なる新作からの曲が数曲おきに混ざることで、適度に緩急が付いて良かったと思うし、派手なギターリフのない曲でもライブで退屈さを感じることが一瞬もなかったのは、それらの曲がこれまで以上にメロディアスで叙情的であり、じっくりと聴きこむことで楽曲の良さを再確認できたからだと思う。確かにクリスの歌う「Liquid State」だけは、MUSEをMUSEたらしめているドラマティックな展開がないぶん淡々とした演奏になり、若干休憩タイムっぽくなってしまった感は否めないけれども。あと、個人的にはこのライブ後「Explorers」の評価が特に高まった。
結果的には、新作からの曲は何の心配も要らなかった。ある曲は映像とのコラボで新機軸のグルーヴを生み出し、ある曲はロック的ダイナミズムとエレクトリックな意匠で新たなアンセムを生み出し、ある曲はしっとりと美しいメロディーを奏で、そしてある曲はラストに相応しい壮大なサウンドでMUSEのアイデンティティを再構築した。いずれもこれまでの彼らにはなかったサウンドであり、ライブという場ではとりわけ新鮮な驚きをもって楽しめるものになっていた。次の来日は今夏のサマーソニック。最新作からの曲は、さらに進化した形で再び披露されるに違いない。
■2013/1/12 さいたまスーパーアリーナ set list
The 2nd Law:Unsustainable
Supremacy
Hysteria
Panic Station
Bliss
Supermassive Blackhole
Animals
Knights of Cydonia
-Drum And Bass Solo-
Explorers
Sunburn
Time Is Running Out
Liquid State
Madness
Follow Me
Undisclosed Desires
Plug In Baby
New Born
The 2nd Law:Isolated System
Uprising
-encore-
Starlight
Survival
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