名盤合評 |
前回からだいぶ間が空いてしまいましたが、音楽ブロガー仲間であるヤボリさん(Twitter⇒@boriboriyabori)のブログ「新聞が書かないGood News」との合同企画として、9ヶ月ぶりとなる名盤合評の第二弾をお送りします。
前回は唐突にKula Shakerの「K」を取り上げましたが、今回のお題もまた唐突です(笑)。
今回のお題:Blondie - "Parallel Lines"(1978年)
唐突とは言ってもきっかけはありました。このアルバムに収録されている「Heart of Glass」が、最近某自動車メーカーのCMに使われているので、そこでBlondieの音に初めて触れた人たちに彼女たちの魅力を伝えるとともに、現代のインディー・ロック・シーンに与えた影響についても再検証してみたいと思います(以下、突然「~だ、~である」調に変わります笑)。
前回は唐突にKula Shakerの「K」を取り上げましたが、今回のお題もまた唐突です(笑)。
今回のお題:Blondie - "Parallel Lines"(1978年)
唐突とは言ってもきっかけはありました。このアルバムに収録されている「Heart of Glass」が、最近某自動車メーカーのCMに使われているので、そこでBlondieの音に初めて触れた人たちに彼女たちの魅力を伝えるとともに、現代のインディー・ロック・シーンに与えた影響についても再検証してみたいと思います(以下、突然「~だ、~である」調に変わります笑)。
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■Blondieというバンド
Blondieは、その妖艶なオーラで人々を魅了したボーカリスト、デボラ(デビー)・ハリーを擁するパンクバンド。1976年にデビューした彼女らは、82年の解散までに6枚のアルバムをリリース。そんな中でも本稿で取り上げる3作目「Parallel Lines」は、彼らの代表作の一つであり、その後の方向性を決定付けた作品と捉えられている。
ファースト「Blondie」とセカンド「Plasitc Letters」における彼らのサウンドは、「X Offender」や「Denis」などの楽曲に見られるように、60'sポップをベースにしつつ(実際「Denis」は、Randy & The Rainbowsの63年のヒット曲のカバー)当時のニューヨーク・パンク・マナーに則ったもので、彼女らと同様にライブハウス「CBGB」(パンクの聖地と言われる)に出演していたラモーンズ(Ramones)、元祖パワーポップバンドであるザ・ナーヴズ(The Nerves)、そして初期ビートルズのような、耳馴染みの良いメロディラインとコーラスワークを持った軽快なロックンロール・バンドだった。
その頃からすでにニューウェイヴ的な片鱗は見え隠れしていたものの、それがいよいよ顕著になったのが「Parallel Lines」である。Blondieサウンドの最大の特徴といえば、非ロック的な音楽を吸収して自分たちの音に変えてしまうことだ。あらゆるジャンルのクロスオーバーが盛んな現代のインディー・ロック・シーンではごく当たり前のことだが、すでに35年前からそれを実践し、さらにセールス的にも成功を収めた最初のバンドがBlondieだったと言える。
■アルバム「Parallel Lines」
「Parallel Lines」は、前述のThe Nervesのカバー「Hanging On The Telephone」から始まり、そしてカントリー・ロック調の「Picture This」、官能的なバラード「Fade Away And Radiate」の他、ストレートなパンク/パワーポップ/60'sポップなど多種多様なジャンルが、それぞれしっかり「Blondie」というフィルターを通して収められている。そして終盤には彼らにとって初の全米NO.1シングルであるディスコ・ナンバー「Heart of Glass」(シングルリリースは1979年)がある。
元々はファンキーなアレンジだったという「Heart of Glass」だったが、形式的なパンクサウンドには限界を感じ、クラフトワークを下敷きにしつつ敢えて「クールではないサウンド」(おそらくパンクのシリアスさとは無縁の、脱力気味のファニーさといった意味だろう)を狙ったという。
■雑食性、ミクスチャー感覚
この曲の大ヒットを受け、図らずも「パンク」「ニューウェーヴ」の解釈を拡げることになった彼らは、その後さらにディスコ・ミュージックの歴史でも最も有名なプロデューサーと言われるジョルジオ・モロダーを迎えて「Call Me」(1980)の特大ヒットを放つ。その後も「The Tide Is High」(1980)ではレゲエ、「Rapture」(1981)ではラップを取り入れたシングルヒットを放つ。またシングル以外でも、モダン・ジャズのエッセンスを導入した「Here's Looking At You」(1980年のアルバム「Autoamerican」収録)のように、様々なジャンルを取り入れながらもあくまで「Blondie」というフィルターを通したポップな作品を数多く生み出した。彼らは、プライマル・スクリームのようにアルバムごとにスタイルを変えるのではなく、1枚のアルバムの中で楽曲ごとにスタイルを変えていったのだった。
彼らの代名詞である雑食性、ミクスチャー感覚は、4作目「Eat To The Beat」や5作目「Autoamerican」によく顕れているが、バンドがそのような音楽性になったきっかけが本作「Parallel Lines」だと言える(その立役者となったのが、The Knackなどを手掛けていたプロデューサーのマイク・チャップマンだが、詳細は本稿では省く)。
以下に挙げた曲を聴いていただければ、彼らが様々なジャンルをいかにして取り込んでいったかが少しお判りになると思う。
Blondie - The Tide Is High
Blondie - Rapture
Blondie - Here's Looking At You
■現代のBlondieチルドレンたち
さて、「Call Me」で当時流行の最先端だったディスコ・ミュージックを取り入れたことで、彼らを「パンクに非ず」とする声や、「節操がない」と揶揄する声もあったのだと思うが、現在では彼らの自由な姿勢こそがパンク、と評価されている。
Blondieのその姿勢は、あらゆるジャンルのクロスオーバーが進む昨今のインディ・ロック・バンド達に、直接/間接を問わず多大な影響を与えていると言っても過言ではないだろう。例えば00年代インディにおける最重要バンドのひとつThe Strokesは、2011年作「Angles」においてレゲエ、ボサノバ、エレポップなど、各メンバーの趣向を反映させたミクスチャー感覚に溢れた一面を見せた。それが一部のリスナーにはネガティブなもの(つまり、メンバーの方向性がバラバラでまとまっていない)と捉えられた向きもあるようだが、自分はそう思わない。彼らはその個性的でバラエティ豊かな各メンバーの音楽趣向を、キャッチーなメロディという鎖で繋ぎとめて自分たちらしいサウンドに仕上げるためにBlondieの手法を下敷きにしているはずだと思う。
そう思って「Parallel Lines」と「Angles」に限らず両バンドの楽曲を比べてみると、いくつかの類似点を見出すことができた。例えば、Blondie「Call Me」の1:38からとThe Strokes「Heart In A Cage」の1:50からのパートを比較してみてほしい。
Blondie - Call Me
The Strokes - Heart In A Cage
三連のリズムだけではなく、ダークなトーンのメロディが非常によく似ている。さらに、The Strokesの「Juicebox」における、というよりも「First Impressions of Earth」におけるアルバートとニックの絡み合うようなギタープレイとギャンギャンした音色は、Blondieの「Hanging On The Telephone」のギターと非常に似た印象を受ける。
The Strokes - Juicebox※1:33からのギターソロとか
Blondie - Hanging On The Telephone
他にも曲名のみの類似だが、The Strokesの「12:51」に対してBlondieには「11:59」という曲があったりする。また、CSSやFranz FerdinandなどもBlondieチルドレンと言えると思う。CSSの2011年作「La Liberacion」における非ロック的サウンドの取り入れ方は、Blondieのそれと非常に似た印象を受けたし、Franz Ferdinandもチャリティ・コンピ「War Child Presents Heroes」に「Call Me」のカバーをライブバージョンで提供している。
Franz Ferdinand - Call Me をYoutubeで聴く
00年代のロックシーンを代表するこれら3組のバンドを取ってみても、Blondieからの影響力の大きさを伺い知ることができると思う。何よりも、彼女たちは常に変化を求めながらも「ポップであること」というブレない芯があったからこそ、現代においても影響を公言する若いミュージシャンが多いのであろう。Blondieは1982年に一度解散したのち1999年に再結成し、「No Exit」(1999)、「The Curse of Blondie」(2003)、「Panic of Girls」(2011)とアルバムをリリースしている。特に2011年作ではニューウェイヴ色の強いエレクトロ・ロックや、レゲエ、フランス語で歌われたジプシー音楽、スペイン語で歌われたオートチューン・フラメンコ(!)なども含んだ意欲作。デビー・ハリーは御年66歳にして未だに妖艶で美しい容姿を保ち、女性としてもアーティストとしても現役で輝き続けている。
ヤボリさんのレビューはこちら
入門編としてはベスト盤がオススメ
■Blondieというバンド
Blondieは、その妖艶なオーラで人々を魅了したボーカリスト、デボラ(デビー)・ハリーを擁するパンクバンド。1976年にデビューした彼女らは、82年の解散までに6枚のアルバムをリリース。そんな中でも本稿で取り上げる3作目「Parallel Lines」は、彼らの代表作の一つであり、その後の方向性を決定付けた作品と捉えられている。
ファースト「Blondie」とセカンド「Plasitc Letters」における彼らのサウンドは、「X Offender」や「Denis」などの楽曲に見られるように、60'sポップをベースにしつつ(実際「Denis」は、Randy & The Rainbowsの63年のヒット曲のカバー)当時のニューヨーク・パンク・マナーに則ったもので、彼女らと同様にライブハウス「CBGB」(パンクの聖地と言われる)に出演していたラモーンズ(Ramones)、元祖パワーポップバンドであるザ・ナーヴズ(The Nerves)、そして初期ビートルズのような、耳馴染みの良いメロディラインとコーラスワークを持った軽快なロックンロール・バンドだった。
その頃からすでにニューウェイヴ的な片鱗は見え隠れしていたものの、それがいよいよ顕著になったのが「Parallel Lines」である。Blondieサウンドの最大の特徴といえば、非ロック的な音楽を吸収して自分たちの音に変えてしまうことだ。あらゆるジャンルのクロスオーバーが盛んな現代のインディー・ロック・シーンではごく当たり前のことだが、すでに35年前からそれを実践し、さらにセールス的にも成功を収めた最初のバンドがBlondieだったと言える。
■アルバム「Parallel Lines」
「Parallel Lines」は、前述のThe Nervesのカバー「Hanging On The Telephone」から始まり、そしてカントリー・ロック調の「Picture This」、官能的なバラード「Fade Away And Radiate」の他、ストレートなパンク/パワーポップ/60'sポップなど多種多様なジャンルが、それぞれしっかり「Blondie」というフィルターを通して収められている。そして終盤には彼らにとって初の全米NO.1シングルであるディスコ・ナンバー「Heart of Glass」(シングルリリースは1979年)がある。
元々はファンキーなアレンジだったという「Heart of Glass」だったが、形式的なパンクサウンドには限界を感じ、クラフトワークを下敷きにしつつ敢えて「クールではないサウンド」(おそらくパンクのシリアスさとは無縁の、脱力気味のファニーさといった意味だろう)を狙ったという。
■雑食性、ミクスチャー感覚
この曲の大ヒットを受け、図らずも「パンク」「ニューウェーヴ」の解釈を拡げることになった彼らは、その後さらにディスコ・ミュージックの歴史でも最も有名なプロデューサーと言われるジョルジオ・モロダーを迎えて「Call Me」(1980)の特大ヒットを放つ。その後も「The Tide Is High」(1980)ではレゲエ、「Rapture」(1981)ではラップを取り入れたシングルヒットを放つ。またシングル以外でも、モダン・ジャズのエッセンスを導入した「Here's Looking At You」(1980年のアルバム「Autoamerican」収録)のように、様々なジャンルを取り入れながらもあくまで「Blondie」というフィルターを通したポップな作品を数多く生み出した。彼らは、プライマル・スクリームのようにアルバムごとにスタイルを変えるのではなく、1枚のアルバムの中で楽曲ごとにスタイルを変えていったのだった。
彼らの代名詞である雑食性、ミクスチャー感覚は、4作目「Eat To The Beat」や5作目「Autoamerican」によく顕れているが、バンドがそのような音楽性になったきっかけが本作「Parallel Lines」だと言える(その立役者となったのが、The Knackなどを手掛けていたプロデューサーのマイク・チャップマンだが、詳細は本稿では省く)。
以下に挙げた曲を聴いていただければ、彼らが様々なジャンルをいかにして取り込んでいったかが少しお判りになると思う。
Blondie - The Tide Is High
Blondie - Rapture
Blondie - Here's Looking At You
■現代のBlondieチルドレンたち
さて、「Call Me」で当時流行の最先端だったディスコ・ミュージックを取り入れたことで、彼らを「パンクに非ず」とする声や、「節操がない」と揶揄する声もあったのだと思うが、現在では彼らの自由な姿勢こそがパンク、と評価されている。
Blondieのその姿勢は、あらゆるジャンルのクロスオーバーが進む昨今のインディ・ロック・バンド達に、直接/間接を問わず多大な影響を与えていると言っても過言ではないだろう。例えば00年代インディにおける最重要バンドのひとつThe Strokesは、2011年作「Angles」においてレゲエ、ボサノバ、エレポップなど、各メンバーの趣向を反映させたミクスチャー感覚に溢れた一面を見せた。それが一部のリスナーにはネガティブなもの(つまり、メンバーの方向性がバラバラでまとまっていない)と捉えられた向きもあるようだが、自分はそう思わない。彼らはその個性的でバラエティ豊かな各メンバーの音楽趣向を、キャッチーなメロディという鎖で繋ぎとめて自分たちらしいサウンドに仕上げるためにBlondieの手法を下敷きにしているはずだと思う。
そう思って「Parallel Lines」と「Angles」に限らず両バンドの楽曲を比べてみると、いくつかの類似点を見出すことができた。例えば、Blondie「Call Me」の1:38からとThe Strokes「Heart In A Cage」の1:50からのパートを比較してみてほしい。
Blondie - Call Me
The Strokes - Heart In A Cage
三連のリズムだけではなく、ダークなトーンのメロディが非常によく似ている。さらに、The Strokesの「Juicebox」における、というよりも「First Impressions of Earth」におけるアルバートとニックの絡み合うようなギタープレイとギャンギャンした音色は、Blondieの「Hanging On The Telephone」のギターと非常に似た印象を受ける。
The Strokes - Juicebox※1:33からのギターソロとか
Blondie - Hanging On The Telephone
他にも曲名のみの類似だが、The Strokesの「12:51」に対してBlondieには「11:59」という曲があったりする。また、CSSやFranz FerdinandなどもBlondieチルドレンと言えると思う。CSSの2011年作「La Liberacion」における非ロック的サウンドの取り入れ方は、Blondieのそれと非常に似た印象を受けたし、Franz Ferdinandもチャリティ・コンピ「War Child Presents Heroes」に「Call Me」のカバーをライブバージョンで提供している。
Franz Ferdinand - Call Me をYoutubeで聴く
00年代のロックシーンを代表するこれら3組のバンドを取ってみても、Blondieからの影響力の大きさを伺い知ることができると思う。何よりも、彼女たちは常に変化を求めながらも「ポップであること」というブレない芯があったからこそ、現代においても影響を公言する若いミュージシャンが多いのであろう。Blondieは1982年に一度解散したのち1999年に再結成し、「No Exit」(1999)、「The Curse of Blondie」(2003)、「Panic of Girls」(2011)とアルバムをリリースしている。特に2011年作ではニューウェイヴ色の強いエレクトロ・ロックや、レゲエ、フランス語で歌われたジプシー音楽、スペイン語で歌われたオートチューン・フラメンコ(!)なども含んだ意欲作。デビー・ハリーは御年66歳にして未だに妖艶で美しい容姿を保ち、女性としてもアーティストとしても現役で輝き続けている。
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