力石二題
盤持ち道そばつぶ
今年4月、埼玉の研究者・斎藤氏からこんなメールが届いた。
「平岩弓枝さんの本に、魚吹八幡神社の力石が出ていますよ」
平岩さんは時代小説作家で、「御宿かわせみ」などの名作を残した人。
で、今回、私は大きなミスをしてしまいました。
最初アップした記事で、
「ご実家は東京の代々木八幡神社なんだけど、
残念ながらそこには力石がないんですよ」と、斎藤氏。
と書きましたが、
記事を見た斎藤氏から以下の指摘をされて大慌て。
「代々木八幡神社に力石はないのではなく、
”平岩氏は実家の神社に力石があるのに気づかなかったのかな”
とメールに書いたはずですが…。ここには3個あります。
これを見つけた友人同伴で、2011年1月に、確認、判読、採寸して来ました」
改めて当時のメールを探したら、ありました。
「代々木八幡神社で力石を発見したので、
もしかしたら平岩氏の本に力石のことが出ていないか探したが見つからず。
たぶん生家の力石には関心もなく気づかなかったのでしょう」と。
斎藤さん、ごめんなさい。ご指摘の通りでした。
それにしてもなんでこんな早とちりをしてしまったんだろう。ああ…。
気を引き締めます。
さて、そこで早速、教えられた本を読んだ。
これです。
71歳のときに書いたエッセイです。

講談社 2003
「播州網干の祭
網干には本田商店という素晴らしい名酒を造る蔵元がある。
そこの若旦那の本田眞一郎さんとは十年来の友人である。
その本田さんに勧められて、お祭り大好き人間ばかりが七人、播州入りした。
宵宮の夕方に大きな石を持ち上げる力くらべをまず見物した。
こういう力業というのは、相撲取りのようなでっぷりした人が挑戦するもの
と思っていたら、次々と名乗り出るのはみるからに細っこい体つきの
若者ばかりである」

そうか、平岩さんもここへ。
私は2度。
そのころはもう力石一色の生活で、姫路の蛭子・神明神社の力石神事から
岡山の総社市、笠岡市まで足を延ばした。
岡山県笠岡市の笠岡市立郷土館にて。

総社市、笠岡市訪問からすでに12年。
70歳目前のときだったが、疲れを感じたことはなかった。
京都・醍醐寺の餅上げや東京深川の力持睦会の演技も見に出かけた。
炎天下も雪の日も駆けずり回っていた。今はただただ懐かしい。
魚吹八幡神社の三ノ宮卯之助像と力石。

兵庫県姫路市網干区宮内
さて、ここからが本題です。
金沢市在住で現代の力石力持ちのそばつぶさんから、
「力石の重量の真実」について問い合わせをいただきました。
「高島先生の本を見て疑問に思ったのは、力石はその重さが売りなのに
なぜ三辺の合計しか測らないのか?
そっちも大事だけれど重さはもっと大事なのではと当初から思っていました。
盤持ち(力石)もウエイト種目なので、重量を更新する喜びを味わうためにも、
実測は必須だなと思い、私は秤を購入して計測しています」
言われて見ればもっともなことで、
今までの研究者がスルーしてきた分野です。
確かに力石の世界では「切り付け八掛け」などといって、
ほとんどの力石は実際の重量より多く盛って石に刻んでいます。
こちらはそばつぶさんが最高記録を更新した「殿村重次郎石」です。

富山県下新川郡朝日町・熊野神社
この石には「六十三メ(貫)五十目(匁)」と刻まれています。
㎏に換算すると約236㎏。しかしそばつぶさんの実測では139㎏だった。
約100㎏の盛り。あまりにも盛り過ぎですよね。
「私の経験上、地方より都会の方が多く盛られてると思いました。
150㎏以下は2割増し、
そして呼称で150㎏を超える石は3~4割盛られている事も多々あります。
ちなみに北陸では150㎏以下は呼称より1割増し、
150㎏以上は2割増しのイメージです。呼称が重くなればなるほど盛り率も
増える傾向にあります。もちろん例外もありますが」と、そばつぶさん。
「それと正目と刻んである力石も、
実測とは大きくかけ離れている事を確認済みです。
重次郎石がある朝日町の他の刻字石もかなり盛ってあります。
私の経験上、正目と刻まれた石は3割減が2割減になるくらいの感覚です。
正目と刻まれていない石より、
1割くらいは実測に近いのかなという意味です」
このことを知った斎藤氏、
「”正”を冠する力石、正直に量って刻銘する気風が感じられますが、
重次郎石の事実を思う時、
”正”のある石も”正”のない他の力石の重量にも疑問が湧いてきました」
そばつぶさんが投じた
「力石はその重さが売りなのに、なぜ量らないのか」
という視点は、力石の研究への大きな一石になる。
なによりも力石を持ち上げる実践者だから、今までの研究者とは違います。
なんだか無性に嬉しいです。新しい研究者の誕生を実感しました。
そばつぶさんが重量更新した「重次郎石」の動画をぜひご覧ください。

にほんブログ村
「平岩弓枝さんの本に、魚吹八幡神社の力石が出ていますよ」
平岩さんは時代小説作家で、「御宿かわせみ」などの名作を残した人。
で、今回、私は大きなミスをしてしまいました。
最初アップした記事で、
「ご実家は東京の代々木八幡神社なんだけど、
残念ながらそこには力石がないんですよ」と、斎藤氏。
と書きましたが、
記事を見た斎藤氏から以下の指摘をされて大慌て。
「代々木八幡神社に力石はないのではなく、
”平岩氏は実家の神社に力石があるのに気づかなかったのかな”
とメールに書いたはずですが…。ここには3個あります。
これを見つけた友人同伴で、2011年1月に、確認、判読、採寸して来ました」
改めて当時のメールを探したら、ありました。
「代々木八幡神社で力石を発見したので、
もしかしたら平岩氏の本に力石のことが出ていないか探したが見つからず。
たぶん生家の力石には関心もなく気づかなかったのでしょう」と。
斎藤さん、ごめんなさい。ご指摘の通りでした。
それにしてもなんでこんな早とちりをしてしまったんだろう。ああ…。
気を引き締めます。
さて、そこで早速、教えられた本を読んだ。
これです。
71歳のときに書いたエッセイです。

講談社 2003
「播州網干の祭
網干には本田商店という素晴らしい名酒を造る蔵元がある。
そこの若旦那の本田眞一郎さんとは十年来の友人である。
その本田さんに勧められて、お祭り大好き人間ばかりが七人、播州入りした。
宵宮の夕方に大きな石を持ち上げる力くらべをまず見物した。
こういう力業というのは、相撲取りのようなでっぷりした人が挑戦するもの
と思っていたら、次々と名乗り出るのはみるからに細っこい体つきの
若者ばかりである」

そうか、平岩さんもここへ。
私は2度。
そのころはもう力石一色の生活で、姫路の蛭子・神明神社の力石神事から
岡山の総社市、笠岡市まで足を延ばした。
岡山県笠岡市の笠岡市立郷土館にて。

総社市、笠岡市訪問からすでに12年。
70歳目前のときだったが、疲れを感じたことはなかった。
京都・醍醐寺の餅上げや東京深川の力持睦会の演技も見に出かけた。
炎天下も雪の日も駆けずり回っていた。今はただただ懐かしい。
魚吹八幡神社の三ノ宮卯之助像と力石。

兵庫県姫路市網干区宮内
さて、ここからが本題です。
金沢市在住で現代の力石力持ちのそばつぶさんから、
「力石の重量の真実」について問い合わせをいただきました。
「高島先生の本を見て疑問に思ったのは、力石はその重さが売りなのに
なぜ三辺の合計しか測らないのか?
そっちも大事だけれど重さはもっと大事なのではと当初から思っていました。
盤持ち(力石)もウエイト種目なので、重量を更新する喜びを味わうためにも、
実測は必須だなと思い、私は秤を購入して計測しています」
言われて見ればもっともなことで、
今までの研究者がスルーしてきた分野です。
確かに力石の世界では「切り付け八掛け」などといって、
ほとんどの力石は実際の重量より多く盛って石に刻んでいます。
こちらはそばつぶさんが最高記録を更新した「殿村重次郎石」です。

富山県下新川郡朝日町・熊野神社
この石には「六十三メ(貫)五十目(匁)」と刻まれています。
㎏に換算すると約236㎏。しかしそばつぶさんの実測では139㎏だった。
約100㎏の盛り。あまりにも盛り過ぎですよね。
「私の経験上、地方より都会の方が多く盛られてると思いました。
150㎏以下は2割増し、
そして呼称で150㎏を超える石は3~4割盛られている事も多々あります。
ちなみに北陸では150㎏以下は呼称より1割増し、
150㎏以上は2割増しのイメージです。呼称が重くなればなるほど盛り率も
増える傾向にあります。もちろん例外もありますが」と、そばつぶさん。
「それと正目と刻んである力石も、
実測とは大きくかけ離れている事を確認済みです。
重次郎石がある朝日町の他の刻字石もかなり盛ってあります。
私の経験上、正目と刻まれた石は3割減が2割減になるくらいの感覚です。
正目と刻まれていない石より、
1割くらいは実測に近いのかなという意味です」
このことを知った斎藤氏、
「”正”を冠する力石、正直に量って刻銘する気風が感じられますが、
重次郎石の事実を思う時、
”正”のある石も”正”のない他の力石の重量にも疑問が湧いてきました」
そばつぶさんが投じた
「力石はその重さが売りなのに、なぜ量らないのか」
という視点は、力石の研究への大きな一石になる。
なによりも力石を持ち上げる実践者だから、今までの研究者とは違います。
なんだか無性に嬉しいです。新しい研究者の誕生を実感しました。
そばつぶさんが重量更新した「重次郎石」の動画をぜひご覧ください。

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コメント
No title
これはこれまでの研究を否定しているのではなく、まだ研究は始まりの段階なのかなという気持ちにさせるものです。
そうかなるほど、素材ももしかすると地域によって違うのかもしれないと、ふと思いました。
僕の思い込みはこうです。
そもそも同じ石だから、大きさで重さが決まってしまう。
だから、大きさが重さである。
でも実はその考えそのおのが違っている可能性がありますね。
2024-08-16 10:20 たいやき URL 編集
たいやきさんへ
当地にある「テツガン石」、これは鉄分の多い石なので、
小さくても手強いと昔、担いでいた方からお聞きしました。
20数年前、岩石の研究者から、「石の素材を調べるべきだ」との
ご意見がありましたが、力石を砕くわけにもいきませんし。
せめて専門家に見ていただくことが必要だったのかもしれません。
また、石の形状によっても難易度が違ってきます。
たかが石といっても、スポーツ、民俗学、文化人類学など、
研究者によってアプローチが違いますので、難しいのですが。
今回、そばつぶさんから疑問をぶつけられて、ハッとしました。
実測することによって、新たに見えてくるものが必ずありますから、
期待大です。
2024-08-16 11:20 雨宮清子(ちから姫) URL 編集
No title
ただ、「担げない人」から見ると普通に?重くて秤に乗せられないもんね?!と思っていましたし、研究者の皆さんが石の大きさを測るだけでも大変な事で、まして重さまで!と考えていました。
力石に使われている岩石の種類についても、どういう分析があるのかなぁ?と思った事があります。砂岩、泥岩、◇◇岩~と種類が違えば、大きさが同じでも当然重さも違ってくるわけですし(とは言え実際にはどのような岩石が使われ、何種類位の岩石が一般に力石として使用されているのか?スマホアプリで、写真を撮影すると石の種類がだいたいわかるというのがありましたが)
それにしても、そばつぶさんのおっしゃる通り、重さが重要なのに、測定されていない!!という「宿題」をどのような方法で解決していけばよいのでしょうか?これは、科学者も参加して良い方法を考えていけると良いですねえ。
ちなみに、100kg以上の石の重さを簡単に測る事ができる秤ってどんなものなのでしょうか??普通の秤じゃこわれちゃいますよねっ(^▽^;)
2024-08-20 16:49 torikera URL 編集
torikeraさんへ
高島先生が今まで誰もやらなかった全国の力石の集計をしてまとめ上げ、それを博物館へ納めた。これは偉業です。そしてそこから次の課題が生まれた。ぜひ次の研究者が育って欲しい、そう思います。
そばつぶさんは理論家で、なによりも実践者ですから期待しています。でもあまりにも力石の担ぎ手がいません。少しでも仲間が増えてくれたらいいのですが…。
秤ですが、聞いてみますね。
2024-08-20 19:38 雨宮清子(ちから姫) URL 編集
No title
そばつぶさんの動画を拝見したら、業務用のデジタル秤で計測していました。
通販サイトを見ると1万円ほどの商品でも200kgまで測定できる秤が販売されているのですね!いやぁ、知りませんでした。
秤に乗せるところもしっかり動画に写っていました。失礼しました(^^ゞ
2024-08-20 23:39 torikera URL 編集
torikeraさんへ
2024-08-21 04:33 雨宮清子(ちから姫) URL 編集
torikeraさんへ
何種類かあるのですが私が使用しているものは300kgまで測れるタイプです。安物ですが精度は完璧です。強度もかなりのものですが私の様な使い方だとさすがに壊れますね。
3年間で2回壊れました。先月3台目を購入した所です!
2024-08-21 22:48 そばつぶ URL 編集
ちなみに高島先生を批判しているつもりはないんです。
私が神経質な性格なのでグラム単位で重さが気になったと言う事です!
担ぎ手でも研究者でもとにかくもっと力石界隈の人口が増えてほしいですね!!
2024-08-21 22:54 そばつぶ URL 編集
そばつぶさんへ
昔の人は米俵一俵の重さを基準に石の重さを量ったということが言われています。石担ぎは米や酒などを河岸あげする方々が盛んに行っていたので、この石ならこれくらいの重さだという具合に考え、それに見栄を張る分を盛って刻んだのではないでしょうか。大正から昭和初期の力持ちの神田川徳蔵はのちにバーベルを持った人ですから、彼の力石の重さの実測はどうなっているのか、また石斗升など米の重さを刻んだ石の実測はどうなんだろうかと気になります。これ、今後の面白いテーマになりそうです。
静岡の河瀬衡器製作所の「はかりの歴史」は、とても参考になりますのでURLをご紹介しておきます。https://kawasekouki.co.jp/history.html
2024-08-22 01:10 雨宮清子(ちから姫) URL 編集