ラーラーラー …㊶
田畑修一郎2
「これで私も子宮がなくなっちゃったんだよねぇ」
そうつぶやいた八重の言葉に、
格子縞のガウンの女性がうなづきながら言った。
「そういうこと」
みんなが押し黙った。
「ショックだったよ。こんな私でも泣いちゃったし」
八重のずんぐりした肩が少し震えた。
けれどすぐにその肩をいからせて大きな声を出した。
「でもさ、悪いことばかりじゃないよね!
だって、生理から解放されるわけだから、こんな楽なことはないよ」
「そうよ」と、ナイトキャップを被った女性が口を開いた。
「筋腫って生理痛が大変だって言うしねぇ」
「生理痛だけじゃないよ」と、八重。
「出血がね、もう突然の大出血でサ。そうなりゃもうフラフラよ。
鉄分不足になっちゃって。だから私、薬をずっと飲んでたもの」
みんながまた一斉に押し黙った。
八重の言葉に触発されて、それぞれが自分の病気を思い起こしたのだ。
「でもさ、子宮がないんだから、だからこれからは、
生理痛に悩むことはないし、突然の大出血に慌てることもない。
よかったよ。気楽に旅行に行けるしね。サバサバしちゃった」
「ほんとほんと」と、周りのみんなも口々に言い出した。
そして無事、病気を克服した八重の意気軒高な態度に、
みんなも「病気は乗り切れる」という安堵感と自信を得た。
だが、ハツエだけは違った。
ハツエは自分の病気は「筋腫で、それも軽いものだった」と常々言っていたが、
その同じ病気の八重が自分より先に退院する。
それがどうしても納得できないのか、八重の言葉を一言も聞き漏らすまいと
瞬きもせず、八重の顔を凝視していた。
そんなハツエには目もくれず、八重はどこまでも快活に話し続ける。
「もうこうなったら、これからは不倫でもなんでもバンバンしちゃうぞー!」
と、八重が叫んだので、ドッと笑いが起きた。
「でもさ、相手だって選ぶ権利ってものがあるんじゃない?」
と、珍しくTさんが軽口を叩いた。
すると八重がキッとなって、
「そんなこと言うけどね。あんた、温泉場のストリップ見たことある?」
「ないわよ、そんなの…」
Tさんがムキになって言い返した。
「あんた、一度見とくといいよ。ありゃあひどいもんよ。
踊り子なんていったってサ、ババアばっかりなんだから」
そう言って八重は立ち上がると、ガウンの裾をつまんで身体をよじり始めた。
♪ ラーラーラー ラーラーラー
八重の口から、スローテンポの曲が流れた。
♪ ツーラーラー ラーラーラー
八重は自分が発するリズムに合わせて、くねくねと踊り始めた。
時々、ガウンの裾を広げて腰を突き出す。
みんなは呆気にとられ、それから一気に爆笑し、笑い転げた。
「回復したばかりでなので」と言い、空いたベッドに横になっていた女性が、
お腹の傷を両手で押さえて笑いをこらえている。
ハツエだけがなにか汚いものでも見るように、
口元に手を当てて、顔をしかめていた。
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そうつぶやいた八重の言葉に、
格子縞のガウンの女性がうなづきながら言った。
「そういうこと」
みんなが押し黙った。
「ショックだったよ。こんな私でも泣いちゃったし」
八重のずんぐりした肩が少し震えた。
けれどすぐにその肩をいからせて大きな声を出した。
「でもさ、悪いことばかりじゃないよね!
だって、生理から解放されるわけだから、こんな楽なことはないよ」
「そうよ」と、ナイトキャップを被った女性が口を開いた。
「筋腫って生理痛が大変だって言うしねぇ」
「生理痛だけじゃないよ」と、八重。
「出血がね、もう突然の大出血でサ。そうなりゃもうフラフラよ。
鉄分不足になっちゃって。だから私、薬をずっと飲んでたもの」
みんながまた一斉に押し黙った。
八重の言葉に触発されて、それぞれが自分の病気を思い起こしたのだ。
「でもさ、子宮がないんだから、だからこれからは、
生理痛に悩むことはないし、突然の大出血に慌てることもない。
よかったよ。気楽に旅行に行けるしね。サバサバしちゃった」
「ほんとほんと」と、周りのみんなも口々に言い出した。
そして無事、病気を克服した八重の意気軒高な態度に、
みんなも「病気は乗り切れる」という安堵感と自信を得た。
だが、ハツエだけは違った。
ハツエは自分の病気は「筋腫で、それも軽いものだった」と常々言っていたが、
その同じ病気の八重が自分より先に退院する。
それがどうしても納得できないのか、八重の言葉を一言も聞き漏らすまいと
瞬きもせず、八重の顔を凝視していた。
そんなハツエには目もくれず、八重はどこまでも快活に話し続ける。
「もうこうなったら、これからは不倫でもなんでもバンバンしちゃうぞー!」
と、八重が叫んだので、ドッと笑いが起きた。
「でもさ、相手だって選ぶ権利ってものがあるんじゃない?」
と、珍しくTさんが軽口を叩いた。
すると八重がキッとなって、
「そんなこと言うけどね。あんた、温泉場のストリップ見たことある?」
「ないわよ、そんなの…」
Tさんがムキになって言い返した。
「あんた、一度見とくといいよ。ありゃあひどいもんよ。
踊り子なんていったってサ、ババアばっかりなんだから」
そう言って八重は立ち上がると、ガウンの裾をつまんで身体をよじり始めた。
♪ ラーラーラー ラーラーラー
八重の口から、スローテンポの曲が流れた。
♪ ツーラーラー ラーラーラー
八重は自分が発するリズムに合わせて、くねくねと踊り始めた。
時々、ガウンの裾を広げて腰を突き出す。
みんなは呆気にとられ、それから一気に爆笑し、笑い転げた。
「回復したばかりでなので」と言い、空いたベッドに横になっていた女性が、
お腹の傷を両手で押さえて笑いをこらえている。
ハツエだけがなにか汚いものでも見るように、
口元に手を当てて、顔をしかめていた。
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