Albums of the Month |
早いもので明日から12月。2019年を振り返る時期に突入です。今年は本当にライブやフェスに行かない、というか行けない年だった。サマソニは例年よりも早くソールドアウトするし、抽選でハズレたりプレイガイドに繋がる前に売り切れたり。というわけで、フェスと単独合わせても現時点ではフジロックしか行っていない。
でも12月はようやくライブの予定がある。それも2つ。
まずはU2。SS席でチケットが4万円ほど。今まで行ったどの単独公演よりも高い。それだけのプライスレスな体験ができるのか、期待と不安でワクワクしている。
今回は1987年の名盤『The Joshua Tree』の再現ツアーなので、そのアルバムを聴いてライブの予習をしているんだけど、おそらくそれ以外も代表的なものは演るよね?てことで奥さんからベスト盤を拝借。
U2 / The Best of 1980-1990 (1998)
★★★★☆
U2ってやっぱりこの頃のキラキラした感じがいいね。最近のちょっと渋みのある音もいいと言えばいいんだけど。
そしてもう1つ、年末にはBUCK-TICKのライブも控えている。一般発売開始直後に即完売してしまったが、完売表示が出てからもしばらく打ちひしがれながらポチポチしていたら突然先に進めるようになりチケット購入できてしまった(タイムアウトとかの影響?)。今年は自分にとってまさにBUCK-TICKイヤーだったので、そんな一年の締めくくりとしてもふさわしいライブになるはず。
ということで今月のB-T祭りはこの4枚。ライブ当日までに最新作まで辿り着かなくては。
BUCK-TICK / BT (BEST TRACKS) (1999)
★★★☆☆
すでに彼らの90年代のアルバムやベスト盤などいくつか購入しているけど、それでも彼らにとって初のベスト盤となった本作は聴く価値がある。『COSMOS』期までのシングルのシングル・バージョンやB面曲がほぼ網羅されているからだ。
特にデビューシングル「JUST ONE MORE KISS」のカップリング「TO SEARCH」はインディーズ時代のシングル曲でもあり、ブランキーみたいなサイコビリー風だった最初期の音楽性が垣間見えて興味深い。
アルバム収録版とは前奏やミックスが異なる「スピード」や「M・A・D」、歌詞が異なる「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」、アレンジが全く別物な「鼓動」、アルバム・バージョンでの痙攣したような歌い方が普通(?)になっている「君のヴァニラ」など、アルバムだけではカバーしきれなかった曲がたくさん収録されていて聴き応えがある。
BUCK-TICK - "見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ"
BUCK-TICK / 十三階は月光 (2005 / 2017 reissue)
★★★★★
BUCK-TICKは時代ごとに、作品ごとに進化し続けるバンドだ。そんなところに惹かれるのだけど、それだけに自分にとって「あまり刺さらない」という時期もある。2000年代のアルバムはシンプルなバンド・サウンドに回帰したものが多く、Spotifyで聴いた限りではやや物足りなさを感じてしまったため、2002年の『極東 I LOVE YOU』から2010年の『RAZZLE DAZZLE』までの6作品の中では現時点で購入に至ったのは本作のみ。
が、これはめちゃくちゃ良かった。ジャケからもわかるように本作は「ゴシック」がテーマになったコンセプト作だそうで、コンセプチュアルな作品大好き&B-Tのダークな側面大好きな自分にとって、これはもう『狂った太陽』と双璧をなすほどの最高傑作なのでは。90年代前半のヴィジュアル系バンドの多くが持つ退廃的なムードを体現した「夢魔 -The Nightmare」や妖艶で淫靡な「ROMANCE -Incubo-」など捨て曲なし。13秒間の無音トラックである13曲目「13秒」でさえも全く捨て曲ではない…いや、コンセプト的にはむしろなくてはいけない曲。
BUCK-TICK / 夢見る宇宙 (2012)
★★★★☆
ロックンロールやグラム・ロックといった形容が浮かぶ曲が中心。95年作『Six/Nine』では若干浮いていた「愛しのロック・スター」がここに入っていても違和感なさそうだし、彼らには珍しい夏のパーティ・チューン「人魚 -mermaid-」など全体的にグリッターでポップ。そんな中で、Radiohead「No Surprises」にも通じる儚さを持った「夢路」が素晴らしかった。
BUCK-TICK / 或いはアナーキー (2014)
★★★★☆
現段階ではまだ本作以降の作品を試聴レベルでしか聴けていないけど、なんとなく現在のB-Tの音楽性に至るターニングポイントになったアルバムなのかなと思える作品という印象。
さて、U2ももうすぐ観れることだし、「来日したら必ず観に行きたい大御所系アーティスト」といって真っ先に思い浮かぶのはDepeche Modeか。目下最後の来日公演は1990年の日本武道館、来年はそれから30年という節目だし、そろそろどうですかね?プジョーのCMにも使われたりしたし、来日の布石になってくれたら嬉しいのだけど。ってことで今回聴いたのは2013年作。
Depeche Mode / Delta Machine (2013)
★★★★☆
ライブといえば。2017年フジロックでのパフォーマンスをきっかけにハマってしまったCoccoが、以降で初となるオリジナル・アルバムをリリースした。
Cocco / スターシャンク (2019)
★★★★★
先行公開された「願い叶えば」をYouTubeで聴いて、MGMT「Kids」を思わせるエレクトロ・ポップ具合に「なんか吹っ切れたようにポップになったな、アルバムもこういう感じなのかな?」と思いきや、大いに裏切られた。
もちろんいい意味で、だ。美しいミディアム・ナンバーと牧歌的で童謡ちっくな曲とヘヴィ・ロックというのは以前からCoccoの三本柱だったけど、今回はその振れ幅がかなり極端。そして当初はかなり明るいと思っていた「願い叶えば」でさえも、アルバムの中で聴くとやはりこの曲もどこか物悲しい、愁いを帯びた曲であることに気付く。
そしてダウナー系の白眉は何といっても「Come To Me」だろう。ズシリとヘヴィーかつ歪んだギターとドラムの、Cocco流ドゥーム・メタルなこの曲は終盤の絶叫が強烈。まあ、これもCoccoらしいのだけど。
Cocco - "願い叶えば"
Coccoにいい意味で裏切られた一方で、「悪い意味で」な作品もあったり。
Charli XCX / Charli (2019)
★★★☆☆
佐藤千亜妃 / PLANET (2019)
★★★☆☆
Charli XCXも佐藤千亜妃ソロも、期待値がクソ高かったからこそ事前に試聴などせずに購入したんだけど、いずれも期待値を超えはしなかった。
チャーリーの方は何となく、大衆性と先鋭性のはざまでどっちつかずになってしまっている印象を受けた。チャーリー自身はおそらくマインドがロック寄りなので、先鋭的な音楽もやりたいのだろう。でもかつて「Boom Clap」というシングルヒットを飛ばしたことで「商業的にシングルやアルバムを売る」ことも使命として持っていて、それはテイラー・スウィフトら大物ポップ・シンガーたちの前座を務めたりしたことや、前作『Sucker』以来「ミックステープ」という形態でそのバランスを取ろうとしたことからも推測できる。今作は、「1999」や「White Mercedes」など曲単位ではいい曲もあるけど、先鋭的な曲があるわけでもなく(それでも一応、耳タコ状態のトレンドのビートは意図的に避けているとは思う)アルバムとしてのパンチは弱い。米ビルボードチャート最高42位という結果も「うん、まあね」と思ってしまった。
佐藤さんの方は1曲目「STAR」がなあーという感じ。本人も「詰め込み過ぎた」と言っているように、バラエティ豊かな楽曲が収められていて、それ自体は全然いいのだけど。
後半に行くほどアルバムは良くなっていくので全体としては結構良かったが、やっぱり「STAR」だけはなんだか中高生バンドみたいなアレンジだし、1曲目なのもあってその印象に引きずられてしまう。歌詞が自身のソロ活動に対する決意表明みたいで重要度高い内容なだけにちょっと残念。
その他、洋邦ともに新譜系をいくつか購入。
Have a Nice Day! / DYSTOPIA ROMANCE 4.0 (2019)
★★★★★
東京アンダーグラウンドの旗手ともいえるハバナイがエイベックスからリリースしたメジャーデビュー盤。浅見北斗は「エイベックスからのリリースなので小室哲哉へのリスペクトを込めた」という趣旨の発言をしているが、正直このコメントを読んだときはジョークだと思っていた。
なぜなら彼らの起点であるアンダーグラウンド・シーンとは対極にあるような、メジャーレーベルの中でもとりわけ大衆性が高いと思われるエイベックスからのリリースということに、本人としては(おそらく旧来ファンからセルアウトなどと揶揄されることを予見して)照れ隠しの意味で「いや、だっておれ小室哲哉好きだもん(嘘)」としたかったのではと思ったからだ。少なくとも自分の中で彼は、頭脳的で挑戦的で挑発的で、アイロニックなキャラクターとして認識されていたから。
でも実際、このアルバムにはガチの小室リスペクトが感じられた(後から知ったのだけど、だいぶ前から浅見氏は小室哲哉から受けた影響を公言していたようだ)。自分も重度の小室ファン、というかTM好きだからわかる。
例えば先行してMVが公開された「Night Rainbow」。この曲は2012年にリリースされたTM NETWORKのシングル「Alive」のサビとコード進行がとても似ている。まあこれだけなら偶然の一致と片付くのだけど、そのタイトルにも注目すると、TM NETWORKのデビュー・アルバム『RAINBOW RAINBOW』と、最初の活動時期10年間におけるラスト・シングル『Nights of The Knife』のタイトル・ワードが含まれているし、歌詞には「電気仕掛け」というFANKS(TMファンの総称)ならば誰もがピンとくるワードが登場する。全体的にシンセの音色も『NETWORK™ -Easy Listening-』や『QUIT30』の頃のものに似ている。
「僕らの時代」はH Jungle with tの「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」を想起させるコード感だし、そのジャングルのビートを取り入れた「Kill All Internet」なんて曲もある。尤も、こちらは「You got the money, I got the soul」という歌詞からしてPrimal Scream「Kill All Hippies」のオマージュだと思うけど。
先日オンエアされた地上波の音楽番組「Love Music」でのパフォーマンスも観たが、MVとリンクした軽やかなステップや近未来的な映像が視覚的にもとてもカッコよかった。最後の「白目で静止」には笑ったけど。
Have a Nice Day! - "Night Rainbow"
TM NETWORK - "Alive (QUIT30 Trailer)"
yeule / Serotonin II (2019)
★★★★☆
シンガポール出身でロンドンを拠点に活動する女性シンガー/トラックメイカー。ゴシックでグロテスクな世界観とエレクトロ・シューゲイザーな音の相性ってやっぱり抜群。全体的にオブスキュアでドリーミーな音だけど、最後の曲でノイズぶっぱなすところも良い。まだまだ伸びしろはあると思うので、次作でゴス/ダークウェーヴ/インダストリアルの要素がさらに押し出されたらもっと面白いことになりそう。
yeule - "Poison Arrow"
Friendly Fires / Inflorescent (2019)
★★★★☆
久しぶりの新作。一度聴いただけで覚えてしまうキャッチーなフレーズとパーカッシヴなダンス・チューンてんこ盛りなのは相変わらず。さすがです。
Friendly Fires - "Silhouettes"
Tegan and Sara / Hey, I'm Just Like You (2019)
★★★★☆
2013年の前々作『Heartthrob』の頃は自分もエレクトロ・ポップが大好きで結構ハマった…が、次の『Love You to Death』の頃にはエレクトロ・ポップ熱も多少冷めてしまい、スルーしていた。今回はフォーク/ロック系のギター・デュオとしてデビューした彼女たち本来の、ギターを主体とした音作りにはなっているが、エレクトロ・ポップ期に吸収したエッセンスもしっかり盛り込み、良質なロック/ポップ・サウンドに落とし込めていると思う。二人がティーネイジャーの頃に書いた曲群をベースにした作品ということで、瑞々しさや甘酸っぱさも感じられるし、あらためて二人のソングライティング力の高さを知ることができる。っていうかWeezerはこういう感じでロックとメインストリームのエレクトロ・ポップの融合をやってくれればいいのにな。
Tegan and Sara - "I'll Be Back Someday"
The Lumineers / Ⅲ (2019)
★★★★☆
前作『Cleopatra』は当ブログの2016年の年間ベスト1位。今年のフジロックで披露された新曲群も良かったので期待の大きかった作品で、前作の高い壁は超えられていないかもしれないけど良作。とある中毒者一家の物語を描いたコンセプト作らしく歌詞の内容も気になるので、これからじっくり紐解いていきたいと思う。
The Lumineers - "Gloria"
Esther Rose / You Made It This Far (2019)
★★★★★
The Lumineersみたいなカントリーやフォークをベースにした音楽がここ数年本当に好きだ。このEsther Roseもざっくりと言えばカントリー系に括られるんだろうけど、フィドルが入ったりしてちょっとジプシー音楽っぽさがあり、Dexy's Midnight RunnersやThe Fairground Attraction、Joni Mitchellにも通じるものがあるかも。フジロックで言うとジプシー・アヴァロンかカフェ・ド・パリで観たい系。
Esther Rose - "Only Loving You"
Post Malone / Hollywood's Bleeding (2019)
★★★★☆
全17曲ながら半分以上は2分台、最も長い曲で「Only the Road feat. Future & Halsey」の4分5秒というとてもシンプルでコンパクトな作品。もっとヒップホップ寄りなのかと思っていたけどかなりキャッチーな歌モノで、特に4~6曲目「Allergic」「A Thousand Bad Games」「Circles」あたりは質感的には最近のWeezerに近いかもしれない。それくらいにポップでメロディアス。
Post Malone - "Circles"
HYDE / ANTI (2019)
★★★★☆
『人生×僕=』や『35xxxv』の頃のワンオクにかなり近いメタル・コア寄りのアルバム。全体的にゴリゴリしているけど、ラストはなぜかDuran Duran「Ordinary World」のカバー。選曲自体は確かにHYDEらしいけど、このアルバムのこの流れだとやや唐突すぎる気も。逆に言えば、こういったソフトな曲やミドル・テンポな曲がもう少しあった方がもっと良かったかも。
HYDE - "ANOTHER MOMENT"
U2 / The Best of 1980-1990 (1998)
★★★★☆
U2ってやっぱりこの頃のキラキラした感じがいいね。最近のちょっと渋みのある音もいいと言えばいいんだけど。
そしてもう1つ、年末にはBUCK-TICKのライブも控えている。一般発売開始直後に即完売してしまったが、完売表示が出てからもしばらく打ちひしがれながらポチポチしていたら突然先に進めるようになりチケット購入できてしまった(タイムアウトとかの影響?)。今年は自分にとってまさにBUCK-TICKイヤーだったので、そんな一年の締めくくりとしてもふさわしいライブになるはず。
ということで今月のB-T祭りはこの4枚。ライブ当日までに最新作まで辿り着かなくては。
BUCK-TICK / BT (BEST TRACKS) (1999)
★★★☆☆
すでに彼らの90年代のアルバムやベスト盤などいくつか購入しているけど、それでも彼らにとって初のベスト盤となった本作は聴く価値がある。『COSMOS』期までのシングルのシングル・バージョンやB面曲がほぼ網羅されているからだ。
特にデビューシングル「JUST ONE MORE KISS」のカップリング「TO SEARCH」はインディーズ時代のシングル曲でもあり、ブランキーみたいなサイコビリー風だった最初期の音楽性が垣間見えて興味深い。
アルバム収録版とは前奏やミックスが異なる「スピード」や「M・A・D」、歌詞が異なる「見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ」、アレンジが全く別物な「鼓動」、アルバム・バージョンでの痙攣したような歌い方が普通(?)になっている「君のヴァニラ」など、アルバムだけではカバーしきれなかった曲がたくさん収録されていて聴き応えがある。
BUCK-TICK - "見えない物を見ようとする誤解 全て誤解だ"
BUCK-TICK / 十三階は月光 (2005 / 2017 reissue)
★★★★★
BUCK-TICKは時代ごとに、作品ごとに進化し続けるバンドだ。そんなところに惹かれるのだけど、それだけに自分にとって「あまり刺さらない」という時期もある。2000年代のアルバムはシンプルなバンド・サウンドに回帰したものが多く、Spotifyで聴いた限りではやや物足りなさを感じてしまったため、2002年の『極東 I LOVE YOU』から2010年の『RAZZLE DAZZLE』までの6作品の中では現時点で購入に至ったのは本作のみ。
が、これはめちゃくちゃ良かった。ジャケからもわかるように本作は「ゴシック」がテーマになったコンセプト作だそうで、コンセプチュアルな作品大好き&B-Tのダークな側面大好きな自分にとって、これはもう『狂った太陽』と双璧をなすほどの最高傑作なのでは。90年代前半のヴィジュアル系バンドの多くが持つ退廃的なムードを体現した「夢魔 -The Nightmare」や妖艶で淫靡な「ROMANCE -Incubo-」など捨て曲なし。13秒間の無音トラックである13曲目「13秒」でさえも全く捨て曲ではない…いや、コンセプト的にはむしろなくてはいけない曲。
BUCK-TICK / 夢見る宇宙 (2012)
★★★★☆
ロックンロールやグラム・ロックといった形容が浮かぶ曲が中心。95年作『Six/Nine』では若干浮いていた「愛しのロック・スター」がここに入っていても違和感なさそうだし、彼らには珍しい夏のパーティ・チューン「人魚 -mermaid-」など全体的にグリッターでポップ。そんな中で、Radiohead「No Surprises」にも通じる儚さを持った「夢路」が素晴らしかった。
BUCK-TICK / 或いはアナーキー (2014)
★★★★☆
現段階ではまだ本作以降の作品を試聴レベルでしか聴けていないけど、なんとなく現在のB-Tの音楽性に至るターニングポイントになったアルバムなのかなと思える作品という印象。
さて、U2ももうすぐ観れることだし、「来日したら必ず観に行きたい大御所系アーティスト」といって真っ先に思い浮かぶのはDepeche Modeか。目下最後の来日公演は1990年の日本武道館、来年はそれから30年という節目だし、そろそろどうですかね?プジョーのCMにも使われたりしたし、来日の布石になってくれたら嬉しいのだけど。ってことで今回聴いたのは2013年作。
Depeche Mode / Delta Machine (2013)
★★★★☆
ライブといえば。2017年フジロックでのパフォーマンスをきっかけにハマってしまったCoccoが、以降で初となるオリジナル・アルバムをリリースした。
Cocco / スターシャンク (2019)
★★★★★
先行公開された「願い叶えば」をYouTubeで聴いて、MGMT「Kids」を思わせるエレクトロ・ポップ具合に「なんか吹っ切れたようにポップになったな、アルバムもこういう感じなのかな?」と思いきや、大いに裏切られた。
もちろんいい意味で、だ。美しいミディアム・ナンバーと牧歌的で童謡ちっくな曲とヘヴィ・ロックというのは以前からCoccoの三本柱だったけど、今回はその振れ幅がかなり極端。そして当初はかなり明るいと思っていた「願い叶えば」でさえも、アルバムの中で聴くとやはりこの曲もどこか物悲しい、愁いを帯びた曲であることに気付く。
そしてダウナー系の白眉は何といっても「Come To Me」だろう。ズシリとヘヴィーかつ歪んだギターとドラムの、Cocco流ドゥーム・メタルなこの曲は終盤の絶叫が強烈。まあ、これもCoccoらしいのだけど。
Cocco - "願い叶えば"
Coccoにいい意味で裏切られた一方で、「悪い意味で」な作品もあったり。
Charli XCX / Charli (2019)
★★★☆☆
佐藤千亜妃 / PLANET (2019)
★★★☆☆
Charli XCXも佐藤千亜妃ソロも、期待値がクソ高かったからこそ事前に試聴などせずに購入したんだけど、いずれも期待値を超えはしなかった。
チャーリーの方は何となく、大衆性と先鋭性のはざまでどっちつかずになってしまっている印象を受けた。チャーリー自身はおそらくマインドがロック寄りなので、先鋭的な音楽もやりたいのだろう。でもかつて「Boom Clap」というシングルヒットを飛ばしたことで「商業的にシングルやアルバムを売る」ことも使命として持っていて、それはテイラー・スウィフトら大物ポップ・シンガーたちの前座を務めたりしたことや、前作『Sucker』以来「ミックステープ」という形態でそのバランスを取ろうとしたことからも推測できる。今作は、「1999」や「White Mercedes」など曲単位ではいい曲もあるけど、先鋭的な曲があるわけでもなく(それでも一応、耳タコ状態のトレンドのビートは意図的に避けているとは思う)アルバムとしてのパンチは弱い。米ビルボードチャート最高42位という結果も「うん、まあね」と思ってしまった。
佐藤さんの方は1曲目「STAR」がなあーという感じ。本人も「詰め込み過ぎた」と言っているように、バラエティ豊かな楽曲が収められていて、それ自体は全然いいのだけど。
後半に行くほどアルバムは良くなっていくので全体としては結構良かったが、やっぱり「STAR」だけはなんだか中高生バンドみたいなアレンジだし、1曲目なのもあってその印象に引きずられてしまう。歌詞が自身のソロ活動に対する決意表明みたいで重要度高い内容なだけにちょっと残念。
その他、洋邦ともに新譜系をいくつか購入。
Have a Nice Day! / DYSTOPIA ROMANCE 4.0 (2019)
★★★★★
東京アンダーグラウンドの旗手ともいえるハバナイがエイベックスからリリースしたメジャーデビュー盤。浅見北斗は「エイベックスからのリリースなので小室哲哉へのリスペクトを込めた」という趣旨の発言をしているが、正直このコメントを読んだときはジョークだと思っていた。
なぜなら彼らの起点であるアンダーグラウンド・シーンとは対極にあるような、メジャーレーベルの中でもとりわけ大衆性が高いと思われるエイベックスからのリリースということに、本人としては(おそらく旧来ファンからセルアウトなどと揶揄されることを予見して)照れ隠しの意味で「いや、だっておれ小室哲哉好きだもん(嘘)」としたかったのではと思ったからだ。少なくとも自分の中で彼は、頭脳的で挑戦的で挑発的で、アイロニックなキャラクターとして認識されていたから。
でも実際、このアルバムにはガチの小室リスペクトが感じられた(後から知ったのだけど、だいぶ前から浅見氏は小室哲哉から受けた影響を公言していたようだ)。自分も重度の小室ファン、というかTM好きだからわかる。
例えば先行してMVが公開された「Night Rainbow」。この曲は2012年にリリースされたTM NETWORKのシングル「Alive」のサビとコード進行がとても似ている。まあこれだけなら偶然の一致と片付くのだけど、そのタイトルにも注目すると、TM NETWORKのデビュー・アルバム『RAINBOW RAINBOW』と、最初の活動時期10年間におけるラスト・シングル『Nights of The Knife』のタイトル・ワードが含まれているし、歌詞には「電気仕掛け」というFANKS(TMファンの総称)ならば誰もがピンとくるワードが登場する。全体的にシンセの音色も『NETWORK™ -Easy Listening-』や『QUIT30』の頃のものに似ている。
「僕らの時代」はH Jungle with tの「WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント」を想起させるコード感だし、そのジャングルのビートを取り入れた「Kill All Internet」なんて曲もある。尤も、こちらは「You got the money, I got the soul」という歌詞からしてPrimal Scream「Kill All Hippies」のオマージュだと思うけど。
先日オンエアされた地上波の音楽番組「Love Music」でのパフォーマンスも観たが、MVとリンクした軽やかなステップや近未来的な映像が視覚的にもとてもカッコよかった。最後の「白目で静止」には笑ったけど。
Have a Nice Day! - "Night Rainbow"
TM NETWORK - "Alive (QUIT30 Trailer)"
yeule / Serotonin II (2019)
★★★★☆
シンガポール出身でロンドンを拠点に活動する女性シンガー/トラックメイカー。ゴシックでグロテスクな世界観とエレクトロ・シューゲイザーな音の相性ってやっぱり抜群。全体的にオブスキュアでドリーミーな音だけど、最後の曲でノイズぶっぱなすところも良い。まだまだ伸びしろはあると思うので、次作でゴス/ダークウェーヴ/インダストリアルの要素がさらに押し出されたらもっと面白いことになりそう。
yeule - "Poison Arrow"
Friendly Fires / Inflorescent (2019)
★★★★☆
久しぶりの新作。一度聴いただけで覚えてしまうキャッチーなフレーズとパーカッシヴなダンス・チューンてんこ盛りなのは相変わらず。さすがです。
Friendly Fires - "Silhouettes"
Tegan and Sara / Hey, I'm Just Like You (2019)
★★★★☆
2013年の前々作『Heartthrob』の頃は自分もエレクトロ・ポップが大好きで結構ハマった…が、次の『Love You to Death』の頃にはエレクトロ・ポップ熱も多少冷めてしまい、スルーしていた。今回はフォーク/ロック系のギター・デュオとしてデビューした彼女たち本来の、ギターを主体とした音作りにはなっているが、エレクトロ・ポップ期に吸収したエッセンスもしっかり盛り込み、良質なロック/ポップ・サウンドに落とし込めていると思う。二人がティーネイジャーの頃に書いた曲群をベースにした作品ということで、瑞々しさや甘酸っぱさも感じられるし、あらためて二人のソングライティング力の高さを知ることができる。っていうかWeezerはこういう感じでロックとメインストリームのエレクトロ・ポップの融合をやってくれればいいのにな。
Tegan and Sara - "I'll Be Back Someday"
The Lumineers / Ⅲ (2019)
★★★★☆
前作『Cleopatra』は当ブログの2016年の年間ベスト1位。今年のフジロックで披露された新曲群も良かったので期待の大きかった作品で、前作の高い壁は超えられていないかもしれないけど良作。とある中毒者一家の物語を描いたコンセプト作らしく歌詞の内容も気になるので、これからじっくり紐解いていきたいと思う。
The Lumineers - "Gloria"
Esther Rose / You Made It This Far (2019)
★★★★★
The Lumineersみたいなカントリーやフォークをベースにした音楽がここ数年本当に好きだ。このEsther Roseもざっくりと言えばカントリー系に括られるんだろうけど、フィドルが入ったりしてちょっとジプシー音楽っぽさがあり、Dexy's Midnight RunnersやThe Fairground Attraction、Joni Mitchellにも通じるものがあるかも。フジロックで言うとジプシー・アヴァロンかカフェ・ド・パリで観たい系。
Esther Rose - "Only Loving You"
Post Malone / Hollywood's Bleeding (2019)
★★★★☆
全17曲ながら半分以上は2分台、最も長い曲で「Only the Road feat. Future & Halsey」の4分5秒というとてもシンプルでコンパクトな作品。もっとヒップホップ寄りなのかと思っていたけどかなりキャッチーな歌モノで、特に4~6曲目「Allergic」「A Thousand Bad Games」「Circles」あたりは質感的には最近のWeezerに近いかもしれない。それくらいにポップでメロディアス。
Post Malone - "Circles"
HYDE / ANTI (2019)
★★★★☆
『人生×僕=』や『35xxxv』の頃のワンオクにかなり近いメタル・コア寄りのアルバム。全体的にゴリゴリしているけど、ラストはなぜかDuran Duran「Ordinary World」のカバー。選曲自体は確かにHYDEらしいけど、このアルバムのこの流れだとやや唐突すぎる気も。逆に言えば、こういったソフトな曲やミドル・テンポな曲がもう少しあった方がもっと良かったかも。
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