ライブレポート |
10月9日にディファ有明にて行われたThe Killersの単独公演に行ってきました。そのライブレポートなのですが、ライブそのものの内容的な部分は他の音楽メディアに任せるとして、ここではもう少しパーソナルな心情の部分を書き綴りたいと思います。「です/である」など語尾が統一されていないのはわざとなのでご了承ください。
結論から言うと、この日のライブは本当に最高でした。過去5年間くらいに観たライブの中でも一番楽しかったし、一番盛り上がってた。なにより、オーディエンスの想いが一つになっていたと思うし、バンドとオーディエンスの気持ちが互いにしっかりと通じ合っていた。こう書いてしまうと単なる抽象的な誇張表現に思われるかもしれないので、その辺りの説明をしたいと思う。
まず、そのオーディエンスの想いというのは、やはりこれまでにあった紆余曲折──ひとことで言うとフジロックと単独公演、2回のキャンセル──を経ての6年振りの来日ということで、ファンにとってはやっと念願が叶った来日だったわけです。とは言うものの、東京で2日間のみという小規模な「ジャパン・ツアー」だったし、会場もキャパ2400人程度の新木場スタジオ・コースト。欧米をはじめとする諸外国と日本における彼らの人気の差を考えたら仕方がないにしても、その格差の原因は過去のキャンセルによる因果でもあった(キャンセルの理由はやむを得ないものだったとしても)。そんなワケで、なんとか有給を取ったりバイトのシフトを代わってもらったり、あるいは授業をサボったりして、高い交通費や宿泊費を払いながらも日本各地からたくさんのファンが東京に駆け付けたことと思う。
が、キラーズはまたしてもやってくれた。7日当日の昼を過ぎてからの、まさかの当日キャンセル。理由はメンバーの体調不良。8日は予定通りとのことだったけど、7日の振替公演は9日。おそらく遠方からの人はほとんどが7日のチケットだっただろう。すでに東京に来ている、でも今日は何もすることがなくなってしまった、8日と9日も休むなんて無理、新幹線のキャンセルと再手配、宿泊場所の確保、お金オカネOKANE…。TwitterのTL上では、怒りとも悲しみともとれないやり場のない絶望感が渦巻き、当人に対してなんとも声の掛けられないような状態となっていた。
ここまでくると、もう我々としても「あー、キラーズ、日本嫌いなんでしょ?そうだよね海外と比べて人気ないし、今回も売り切れてないもんね!?ほんとうちらのこと嫌いだよね!?」っていう気持にもなってくるもんだ。でも、そんな想いがあったからこそ今回のライブは特別な、素晴らしいものになったと思わずにはいられない。7日のキャンセルにより、両日とも断念せざるを得なくなってしまった人には本当に申し訳ないのだけど、そんな度重なる不運があったからこそ、あの場に集まったファンが全員「今日は絶対に盛り上げて、『日本で人気ない』だなんていう考えを変えさせてやる!『日本のオーディエンスは静かだと思ってたけど、めちゃくちゃ盛り上がってるじゃん』と驚かせてやる!絶対にまた来日したくさせてやる!!」という想いで一つになっていたと思う。そんな風に思えるほど、会場全体が盛り上がっていたから。
僕は先日の「The Killersのマイ・フェイバリット・ソングBEST20」という記事で、彼らのロイヤル・アルバート・ホールでのライブ映像の動画を貼って「日本でもこれくらい盛り上がりたいけど、さすがにそれは厳しいか」と自嘲交じりに書いた。本気で無理だと思ってたしね。でもフタを開けてみたら、それぐらい盛り上がってた。というかマジで、あれを超えていたくらいだと思う。
ディファ有明はスタンディングだと約1800人のキャパだそう。2400人キャパのスタジオ・コースト以下。7日のキャンセルを受けて8日の公演に流れた人もいただろうし、両日とも諦めた人もいただろう。ディファ有明はスタジオ・コーストと比べるとショボく(関係者の方すみません)、どことなく体育館のような雰囲気さえあった。後方の椅子のある部分はロープが張られていたしスタンディングのスペースも結構余裕があったから、あの場にいたのは1,200~1,300人くらいじゃないだろうか。キラーズがそんな人数を前にライブをやるなんて、まさに完全招待制のプレミア・ショーケースみたいなレア感。そんなことも、今回オーディエンスの魂を燃え上がらせる要因になっただろう。
8日のスタジオ・コーストはほぼ満員に近い客入りで大盛り上がりだったらしい。さすがにこの会場(ディファ有明)でこの人数では勝てないか?とも思ったのだけど、そんな心配も1曲目の「Spaceman」で吹き飛んだ。今回のアジアツアー含めてここ最近は1曲目に「Mr. Brightside」を持ってきて、いきなりピークを迎えるパターンが定番だっただけに、これは意表を突く展開。それにこの曲、「The Killersのマイ・フェイバリット・ソングBEST20」では2位に選んだ曲で、個人的にはめちゃくちゃアガった。「オッオッオー」のコーラスが大合唱となる激キャッチーなこの曲で、オーディエンスの興奮もいきなり沸点に達し、早くもフロア前方はもみくちゃ状態に。こんな盛り上がりは、オーディエンスが静かなことで有名な日本では絶対に経験できないと思っていた。
3曲目には隠れた名曲であり、海外でもあまり演奏しないらしい「Under The Gun」。前日はやっておらず、曲自体もB面&レアトラック集「Sawdust」収録(あと「Hot Fuss」国内盤ボーナストラック)なのでかなりレア度が高かったのでは。その後もジョイ・ディヴィジョンのカバー「Shadowplay」、個人的に彼らの中で一番好きな「Human」、ブランドンがベースを弾く「For Reasons Unknown」、ライブアレンジで楽しげなコール&レスポンスが加わった「From Here On Out」、ガチャピンの着ぐるみを着た女の子2人をステージに上げての「Read My Mind」、「I got soul but I'm not a soldier」の合唱が鳴り響いた「All These Things That I've Done」、もう全編がハイライトと言えたのではないだろうか。
▲「For Reasons Unknown」でベースを弾くブランドン
▲ステージに上がり踊るガチャピンさんたち
8日の公演では「この曲のコーラスをこんなに完璧にやってくれたのは東京だけだよ!」と言っていたらしいし、この日も「6年間待たせてごめんね」とか「7日はキャンセルしちゃってごめん…許してくれる?」とか、とにかく彼らの謝罪の気持ちと心からの感謝の気持ちが感じられた。そしてこちら側ももちろん「まあ許してやってもいいよ」なんてワケではなく「いやいや…気にしないでよ!みんなキラーズが大好きだよ!だからまた来てね!」みたいな和やかな雰囲気に包まれていた。まあこれは僕がそう思っただけかもしれないけど(笑)とにかく会場にいた全員がそういう気持ちだったと信じたい。
アンコールではまず、8日のスタジオ・コーストではやっていない「This Is Your Life」と「Battle Born」をプレイ。この「Battle Born」では、ブランドンがフロアに降りてきて左から右へと数ヶ所で前方のオーディエンスとタッチ。左側では将棋倒しのようになり、僕も少し巻き込まれたので残念ながらタッチできず。倒れた人たちにブランドンが驚きながらも「大丈夫かい?」という視線を送っていたのを僕は見逃さなかった。
それからの「When You Were Young」もまた凄まじい盛り上がりを見せた。「heartache」「old ways」「I don't know」などの部分もオーディエンスはしっかり合せて、飛び跳ねながらシンガロング。そしてラストには8日の公演ではオープニングだった彼らのデビュー曲「Mr. Brightside」。いやーこの曲の時は本当に文章では表せないほどすごすぎて命の危険さえ感じたほど。それまでも1時間半近くノリノリだったオーディエンスが、ギターのデイヴィッドがあのイントロを奏でるや否や、そんな体力がどこにあったのかと思うくらいに大爆発。自分も日ごろの運動不足がたたってだいぶ疲れていたけど、この曲のイントロを聴いたら踊らずにはいられなかった。というか「踊る」などという生易しい表現では到底表現できないくらいにぐちゃぐちゃだった(笑)。この曲は絶対に盛り上がるアンセムではあるけど、これほどまでにフロアがカオスになったのは日本だけなんじゃ…?演奏を終え、笑顔でステージを去るメンバーを見送りながら盛大な拍手が鳴り響き、気付けば周りのオーディエンスはみんな髪の毛からTシャツまでずぶ濡れだった。
▲アンコールでは星柄のかわいいシャツで登場(前日も着ていたらしいが…)
2013/10/09 Differ Ariake, Tokyo, Japan
"When You Were Young / Mr. Brightside"
やっぱり今回のライブが素晴らしかったのって、オーディエンスがこれまでの悔しさとかいろいろな複雑な思いを抱えながらも気持ちがひとつになって、それがバンドにもしっかり伝わり、そしてバンドが完璧なセトリと圧倒的なパフォーマンスで応えるという、最も理想的にコミュニケートされた空間を生み出せたことにあると思う。海外のライブって、一見盛り上がっているようには見えるけど実はオーディエンスの大半はステージに背を向けて酒飲んで騒いでるだけだったりするし、コミュニケート出来ているとは言い難い場面も多いしね。
正直、今回のライブは過去にもキャンセルされ、7日もキャンセルされてモヤモヤした気持ちを抱えたまま行った人も多かっただろう。確かに自分もふざけんなと思ったし、9日もちゃんとやるの?っていう不安も拭えなかった。でもそんなみんなのモヤモヤした気持ちが、負ではなく正の方向に向かったっていうのはすごいなと思った。それだけ彼らのパフォーマンスも素晴らしかったし、ブランドン・フラワーズは男から見てもホレボレするくらいかっこいい、現在のロックシーンにおいて最高のフロントマンだと思う。
7日のキャンセルによって来られなくなってしまった方には申し訳ないけど、あの場にいられたことは本当に幸せだった。でも彼らはきっとまた次のアルバムのツアーで日本に来てくれるはず。あの時あの場にいたオーディエンスはみんな、その確信を持っていると思う。もしかしたらその前に、来年のフェスでの来日もあるかもしれない。今回のように、小さなハコに熱心なファンだけが集まった熱いライブは、それはそれで素晴らしかったけど、彼らのサウンドは馬鹿でかいスタジアムやアリーナ、そして野外が最もよく似合う。今ごろ各プロモーターが競って彼らと交渉していることを願う。
■2013/10/9 ディファ有明 setlist
1. Spaceman
2. Somebody Told Me
3. Under The Gun
4. The Way It Was
5. Smile Like You Mean It
6. Bling (Confession of a King)
7. Shadowplay
8. Human
9. For Reasons Unknown
10. From Here On Out
11. A Dustland Fairytail
12. Read My Mind
13. Runaways
14. All These Things That I've Done
encore:
15. This Is Your Life
16. Battleborn
17. When You Were Young
18. Mr. Brightside
(オマケ)
■2013/10/8 新木場STUDIO COAST setlist
1. Mr. Brightside
2. Spaceman
3. The Way It Was
4. Smile Like You Mean It
5. Bling (Confession of a King)
6. Shadowplay
7. Human
8. Somebody Told Me
9. For Reasons Unknown
10. From Here On Out
11. A Dustland Fairytail
12. Read My Mind
13. Runaways
14. All These Things That I've Done
encore:
15. Jenny Was A Friend of Mine
16. When You Were Young
<ボヤキ半分のあとがき>
この2日間の公演の後に彼らにインタビューしたメディアはあるのだろうか?あればぜひ今回の感想を知りたい。絶対に「日本のオーディエンスはアメリカよりもすごい、こんなに盛り上がるとは正直思ってなかった」と思っているはず。とは言え、クロスビートが休刊してしまった今となっては雑誌だとrockin'onくらいで、あそこは「2012年ベスト・アルバム50枚」特集で「Battle Born」を選外にしたからなあ…。
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