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「星の王子さま」の主題とハラスメント問題

 「星の王子さま」、浅草社労士も昔読んだことがあります。しかし、動画でも触れられているように表面的な読み方で深く考えさせられることはありませんでした。ましてや、黄色い毒蛇が登場したことなど、かすかに覚えている程度で、その象徴する意味など全然分かりませんでした。この動画では、童話の主題が「自分以外のものに興味を持つこと」だといっています。確かに、今の教育は「自分を大切にしない人は、他人を大切にできない」という式の教え方をしますから、浅草社労士のように素が自分勝手なタイプは、益々自己中心的な傾向を強めます。やれ、セクハラだ、パワハラだとハラスメント問題が顕在化し、行き過ぎた干渉行為やいじめが防止されるようになってきた効果はあるのかもしれません。一方で、こんな面倒なことに巻き込まれるくらいなら、自分以外のもの、特に他人に対して関心を持つことは極力避けようという傾向に拍車がかかるのではないかと懸念されます。

 生きとし生けるものは、個体では不完全であり、集団の中に入ることでより成長し、完成度を高めてゆくものです。人の形成する社会的な集団の中にあっても、ある程度のとか、常識の範囲内での他者に対する興味が働かないと、それは烏合の衆であって、社会的集団の体をなさなくなり、全体が不幸になってゆくような氣がいたします。価値観の多様化は常識の範囲という言葉を無力化しているのかもしれませんが、ハラスメント問題(職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕)は、適度な「自分以外のものに興味を持てる」程度の規範の均衡点を見つけるという課題を提示しているように思います。

 令和元年もとうとう大晦日になりました。ご健康に留意され、良き新年をお迎えください。

兼業・副業と労災の関係

 一昨年あたりだった思いますが、厚生労働省が公表しているモデル就業規則で兼業・副業に肯定的な条文が書き加えられ、経済産業省などが兼業・副業を奨励する立場をとっていることから、今後兼業・副業に係る労働問題の議論がここ数年かなり顕在化してくるようになっています。現在、労災保険については、労働基準法が適用されるすべての労働者が対象ですから、兼業・副業が特に問題になることはないともいえます。しかし、休業補償、障害補償、遺族補償等の算定は、実際に災害が発生した勤務先での賃金額のみに基づくことになっています。短時間の兼業・副業先では非常に低く算定されることになるのが問題でした。また、勤務先Aから勤務先Bへ向かう途中の移動時に起こった災害は、通勤災害として移動の終点たる事業所、つまり勤務先Bの保険関係に基づき処理されるということになります。Bが、兼業・副業先であるときには、同じような問題が生じることになります。

 この問題に関連する記事が昨日の日本経済新聞電子版に掲載されておりました。記事の要旨は以下の通りですが、兼業・副業の推進は、現実に労働時間の合算ができるのか、情報漏洩の危険の高まり、長時間労働による労災発生の責任の所在の分散などなど、非常に深刻な労働問題が発生しそうな種を含んでいるような感じ致し、少々心配な世の中の潮流だと思います。

1.厚労省は12月23日開いた労働政策審議会の部会で労災保険制度の見直し案を示し、了承されました。2020年の通常国会に改正法案の提出をめざします。

2.労災保険の制度改正では、本業と兼業・副業先の合算月収額を基準に補償額を算定することになるため、副業をする人への補償が手厚くなります。通勤災害の場合も同様に賃金を合算して給付額を決めることになります。現在の労災保険の給付規模は全体で年間8300億円程度で、制度の見直しによって2つ以上の職場を合算すると、給付は年120億円程度増えると見込まれています。

3.長時間労働を原因とする労災の認定基準についても、複数の勤め先の労働時間を合算する仕組みが変わるのに伴い、発症前1箇月の残業時間が100時間を超えているかの労災の認定基準が合算した労働時間に適用されやすくなります。

4.総務省の17年就業構造基本調査によると、副業を持つ人の数は267万人にのぼり、仕事を持つ人の4%を占めてており、非正規社員だけでなく、正社員にも副業がじわじわと広がる傾向が見られます。

5.雇用保険については65歳以上に限り、複数企業で働いた場合に労働時間を合算する制度を試験導入することになっているようです。現行制度では、適用事業所においては、各事業所ごとに個別で判定されますので、週当たりの労働時間がA社で20時間未満、B社でも20時間未満ならば、雇用保険関係は成立しないことになってしまいます。逆に、両社で雇用保険関係が成立している場合には、労働者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係のある事業所でのみ被保険者となります。

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セブンイレブンの時間外未払い問題

 このところご難続きのセブンイレブンですが、今度は時間外手当が長期間にわたって支払われていなかったことが発覚し、新聞・テレビなどで報道されることになりました。日本経済新聞電子版の記事によれば、事件の概要は以下の通りですが、どのように労働基準法で定められた計算式をセブン本部が誤っていたのか、記事は明らかにしていません。記事から受ける印象では、時間外等の割増賃金計算のベースとなる賃金に職責手当や精勤手当をしっかりと含めて算定していなかったという基本的な誤りのように感じられます。

1.セブンではフランチャイズチェーン(FC)加盟店が従業員を雇用し、人件費を負担します。これらの従業員の給与の計算や支払いは本部が代行して行っています。今年9月、労基署からの指摘により、時間給で働くバイトやパート従業員が休まずに出勤した場合などに払う「精勤手当」や、職務の責任に対して払う「職責手当」から算出する残業手当について、労働基準法で定められた計算式をセブン本部が誤っていたことが発覚し、2001年10月から本来の金額より少なく支給してきたことが判明します。

2.この計算式を導入したきっかけは2001年6月に労基署から職責手当や精勤手当に基づく残業手当が支払われていないとの指摘があったことです。しかし、当時はこの事実を公表せず、現在もそれ以前の未払い分を支給していないとのことです。このほかにも加盟店の社員など固定給で働く従業員の残業手当の一部も当時まで支給されておりません。

3.残業手当の未払いの対象は不足額の記録が残る2012年3月からだけで全国8千店以上の約3万人の従業員になります。支払不足額は遅延損害金を含めて約4億9千万円にのぼり、不足分についてはセブン本部が負担する方針と伝えられています。

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三菱電機事件とパワハラ

 先日、かの電通が社員の違法残業などの労働基準法違反と労働安全衛生法違反があったとして、労働基準監督署から是正勧告を受けたという記事を見かけたと思ったら、三菱電機のパワハラ事件について報じられておりました。今時、大企業でこれほどのあからさまなパワハラ、というよりは、自殺教唆の刑事犯として書類送検されたという極めて悪質な事件のようです。三菱電機は、その起源が岩崎弥太郎に至る三菱グループの中核企業の一つであり、重電の雄の一角です。厳しい競争をこれまで勝ち抜いてきた力の根源が、技術者や研究職を極限まで追い込む精神論にあったとは、にわかには信じられません。崇高な会社の理念をどこかで履き違え、むやみに成果だけを追求する風土が近年形成されていたとすれば、それは自滅への最短ルートになりかねないと懸念されます。報じられている事件の概要は以下の通りです。

1.三菱電機の新入社員だった20代の男性が今年8月に自殺し、兵庫県警三田署が11月14日付で教育主任だった30代の男性社員を自殺教唆容疑で書類送検しました。男性は書類送検された教育主任から日常的に暴言を受けていたとの証言もあり、県警が事情聴取していました。今後、神戸地検が教育主任の刑事責任の有無を判断します。

2.男性は技術職として4月に入社。7月にシステム開発などを担う生産技術センター(兵庫県尼崎市)に配属され教育主任の指導を受けていましたが、8月下旬に自殺、現場に職場の人間関係に言及したメモが残されていたとのことです。教育主任は社内調査に「死ねとは言っていないが、似たような言葉を言ったかもしれない」などと説明、同僚社員からは、男性が暴言を受けていたとの証言が得られています。

3.同社では、2014~17年に長時間労働などが原因で技術職や研究職の男性社員5人が精神障害を患うなどして相次ぎ労災認定され、うち2人が自殺、子会社の男性社員が17年に過労自殺し、今年10月に労災認定されたことも明らかになっています。17年には新入社員の男性(当時25)が職場の上司や先輩からいじめや嫌がらせを受けて自殺したとして、両親が約1億1800万円の損害賠償を三菱電機に求める訴訟を東京地裁に起こしています。

4.三菱電機には、「極限まで追い込んで成果を出させる体質だった」、研修時から怒鳴られ、配属後の職場は上司の「死ぬ気でやれ」といった怒声が延々と響き、社員の1割以上が精神疾患で休職したといった社風があったとの指摘もされています。

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