1.健康保険と労災 日本の医療保険制度は、世界に冠たる国民皆保険制度であるといわれています。病氣にかかったり、怪我をして病院等に行くと医療保険制度によって比較的安く、高度な医療を受けることができます。ここで、社労士などの専門家には常識なのですが、意外にわかりにくいのが、医療について健康保険と労災という2つの保険制度が用意されていることです。
両者は目的が異なり、前者は「業務外の疾病、負傷等」、後者は「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」を守備範囲にしていることを明確に意識しておくことが必要です。また、労災保険は、法人事業主はもちろんのこと、一部農林水産業のごく限られた例外を除き個人事業主であっても、1人でも人を雇った場合には加入しなければなりません。健康保険の方も、法人事業主は必須です。そこで、実際に従業員が病氣や怪我で医師にかかったときどちらを使うかは、その病氣や怪我が業務上の事由によるものか否かで自動的に決められます。本来、会社や従業員自身に選択権はありません。
そのことを知らずに、業務中に負傷したにもかかわらず、健康保険で医療機関に受診してしまい、後日健康保険組合などがレセプト(診療報酬明細書)を確認する過程で労災であることが発覚して、健康保険から労災に移管する手続きが必要になる場合が散見されます。今日、医療保険財政は決して余裕があるものではなくなってきていることもあり、このあたりは厳しくチェックされているようです。移管の手続きを無視して放置しておくと、「労災隠し」ということになってしまいます。
2.法人の代表者等に関する健康保険の適用 さて、「業務外の疾病、負傷等」は健康保険、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」は労災と切れ間なく保険制度が適用されているように見えますが、ここで抜け落ちてくるのが法人の代表者等です。法人の代表者等が業務上の事由で負傷、疾病等になったときに、使える保険がないという問題です。
個人事業主の場合、自身は健康保険に加入できないので、国民健康保険に加入します。国民健康保険は、個人事業主の疾病、負傷等を全般的に守備範囲としていますから、法人の代表者等のような問題は生じません。
そこで救済措置として、法人の代表者等が業務に起因して生じた傷病に関する健康保険適用については、以下の平成15年7月1日付け行政通達(保発第0701001号)があります。
法人代表者等の業務上傷病に対する健康保険適用
1.健康保険が適用される法人代表者等の3要件
(1)社会保険の被保険者数5人未満の事業所に所属
(2)一般労働者と著しく異ならない労務に従事
(3)労災保険の適用が受けられない
2.支給されない健康保険給付
上記1の(1)~(3)を全て満たす場合であっても傷病手当金は不支給。
(これは、事業経営の責任を負う法人の代表者等は、自らの報酬を決定すべき立場にあり、業務上の傷病による休業に対して報酬の減額等を受けるべき立場にないためです。)
それでは、5人以上の従業員を雇用する法人の代表者等はどうすればよいかという疑問は依然として残ります。この場合は、中小企業事業主の特別加入という制度があります。保険料は、保険料算定基礎日額1,277,500円から9,125,000にそれぞれの事業に定められた保険料率を乗じたものとなります。特別加入制度に加入できたとしても、次のような問題点が残るため、あえて民間の医療保険を選択する事業主もおられるようです。
以下のいずれかに該当する場合は労災保険給付が受けられません。
(1)特別加入申請時に労働局に届出した業務内容以外の業務に起因する傷病の場合
(2)事業主の立場において行なう事業主本来の業務に起因する傷病の場合
(3)一般労働者不在の所定労働時間外又は所定休日の業務中に起きた事故の場合
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浅草行政何でも相談所 人事労務・年金相談
開 催: 毎月 第4金曜日 次回 7月26日
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