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最低賃金の引き上げについて

 今朝の報道などによれば、厚生労働省の中央最低賃金審議会(厚労相の諮問機関)は31日早朝、2019年度の全国の最低賃金の目安を27円引き上げて時給901円とする方針を決めました。東京都(1013円)と神奈川県(1011円)は初めて千円を超えることになります。政府は、6月の19年度の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)で、より早期に全国平均で千円を目指す方針を明記しています。

 最低賃金が実態経済から少しでも外れて増額されると、経営者は人件費の高騰を嫌って人員削減に走る傾向を鮮明にします。従って、最低賃金の引き上げは、引き上げ幅と雇用に与える悪影響を事前に予測した上で判断されなければなりません。少なくとも、現状の景氣状況で他の前提条件が変わらなければ、最低賃金をこれだけ引き上げると地域別どのくらいの雇用減が予測されるかなどの数字が示されるべきだと考えます。そのあたりのことを解説しているのが以下の動画です。ちなみに米国は、最近7.5ドルから6年かけて15ドルに倍増する法案が民主党多数の下院で通っているようですが、上院では否決される見込みです。

派遣労働者の賃上げ指針

 日本経済新聞電子版18日夕刻の記事によれば、厚生労働省は派遣労働者に勤務年数や能力に応じた賃金を支払うよう人材派遣会社に義務づけることとし、同じ業務で3年の経験を積んで業務内容が変われば、初年度より賃金を3割上げるなど具体的な指針をまとめたとのことです。

 記事は、次のように伝えていますが、具体的にどのようなことになるのか詳細が必ずしも明確ではありません。 「1年勤めて担当業務が経験に応じて上がる場合は、働き始めたときに比べて16.0%増を目安とする。3年後は31.9%増、5年後は38.8%が基準になる。現在、派遣社員は同じ職場で3年までしか働けない。派遣先が変わった際には賃金が下がるケースがあり、勤務先によらず経験に応じた賃金を受け取れるようになる。厚労省はこのほど全国の労働局に指針を伝えた。改正労働者派遣法が施行される20年4月から適用する。同一労働同一賃金の違反に罰則はないが行政指導が入るため、法令順守の観点などから対応が必要になる。」

 派遣労働者にとっては朗報なのかもしれませんが、派遣先にとっては記事が指摘する通り派遣労働者を使うことの抑制要因となってくることも考えられます。さらに正社員の賃上げの抑制につながってくる可能性さえあります。本件については、引き続き行方を注視していきたいと思います。

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 第4金曜日は、主に人事労務と年金などに係る相談が中心になります。また、行政に関する一般的な相談、苦情なども受け付けています。生涯学習センターのアトリウムで見かけられたら、是非お氣軽にお立ち寄りください!!!

浅草行政何でも相談所 人事労務・年金相談
開 催: 毎月 第4金曜日 次回 7月26日
場 所: 台東区生涯学習センター1階
時 間: 13:00 ~ 16:00

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健康保険と労災のはざまの問題

1.健康保険と労災

 日本の医療保険制度は、世界に冠たる国民皆保険制度であるといわれています。病氣にかかったり、怪我をして病院等に行くと医療保険制度によって比較的安く、高度な医療を受けることができます。ここで、社労士などの専門家には常識なのですが、意外にわかりにくいのが、医療について健康保険と労災という2つの保険制度が用意されていることです。

 両者は目的が異なり、前者は「業務外の疾病、負傷等」、後者は「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」を守備範囲にしていることを明確に意識しておくことが必要です。また、労災保険は、法人事業主はもちろんのこと、一部農林水産業のごく限られた例外を除き個人事業主であっても、1人でも人を雇った場合には加入しなければなりません。健康保険の方も、法人事業主は必須です。そこで、実際に従業員が病氣や怪我で医師にかかったときどちらを使うかは、その病氣や怪我が業務上の事由によるものか否かで自動的に決められます。本来、会社や従業員自身に選択権はありません。

 そのことを知らずに、業務中に負傷したにもかかわらず、健康保険で医療機関に受診してしまい、後日健康保険組合などがレセプト(診療報酬明細書)を確認する過程で労災であることが発覚して、健康保険から労災に移管する手続きが必要になる場合が散見されます。今日、医療保険財政は決して余裕があるものではなくなってきていることもあり、このあたりは厳しくチェックされているようです。移管の手続きを無視して放置しておくと、「労災隠し」ということになってしまいます。


2.法人の代表者等に関する健康保険の適用

 さて、「業務外の疾病、負傷等」は健康保険、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」は労災と切れ間なく保険制度が適用されているように見えますが、ここで抜け落ちてくるのが法人の代表者等です。法人の代表者等が業務上の事由で負傷、疾病等になったときに、使える保険がないという問題です。個人事業主の場合、自身は健康保険に加入できないので、国民健康保険に加入します。国民健康保険は、個人事業主の疾病、負傷等を全般的に守備範囲としていますから、法人の代表者等のような問題は生じません。

 そこで救済措置として、法人の代表者等が業務に起因して生じた傷病に関する健康保険適用については、以下の平成15年7月1日付け行政通達(保発第0701001号)があります。

法人代表者等の業務上傷病に対する健康保険適用
1.健康保険が適用される法人代表者等の3要件
(1)社会保険の被保険者数5人未満の事業所に所属
(2)一般労働者と著しく異ならない労務に従事
(3)労災保険の適用が受けられない
2.支給されない健康保険給付
上記1の(1)~(3)を全て満たす場合であっても傷病手当金は不支給。
(これは、事業経営の責任を負う法人の代表者等は、自らの報酬を決定すべき立場にあり、業務上の傷病による休業に対して報酬の減額等を受けるべき立場にないためです。)

 それでは、5人以上の従業員を雇用する法人の代表者等はどうすればよいかという疑問は依然として残ります。この場合は、中小企業事業主の特別加入という制度があります。保険料は、保険料算定基礎日額1,277,500円から9,125,000にそれぞれの事業に定められた保険料率を乗じたものとなります。特別加入制度に加入できたとしても、次のような問題点が残るため、あえて民間の医療保険を選択する事業主もおられるようです。

以下のいずれかに該当する場合は労災保険給付が受けられません。
(1)特別加入申請時に労働局に届出した業務内容以外の業務に起因する傷病の場合
(2)事業主の立場において行なう事業主本来の業務に起因する傷病の場合
(3)一般労働者不在の所定労働時間外又は所定休日の業務中に起きた事故の場合

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 第4金曜日は、主に人事労務と年金などに係る相談が中心になります。また、行政に関する一般的な相談、苦情なども受け付けています。生涯学習センターのアトリウムで見かけられたら、是非お氣軽にお立ち寄りください!!!

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特例退職被保険者制度と健康保険組合

 医療保険の仕組みは社労士でも細かいところになると、結構知らないことも多いと思います。特に、自身が健康だと、そもそも医療ということになかなか関心が向きません。この特例退職被保険者制度というのも、一部の限られた健康保険組合が実施している制度のため、大企業に20年以上勤務された方などに該当者が限定されていることなどから、ほとんど知られていない制度の一つです。医療費の増加、経済成長の鈍化などの影響で、財政が厳しくなっている健康保険組合が増えている中、この制度がいつまで維持されてゆけるかという懸念も語られているようです。

 特例退職者被保険制度とは、「定年などで退職して厚生年金(老齢年金)などを受けている人が、後期高齢者医療制度に加入するまでの間(75歳に達するまでの期間)、国民健康保険の保険料と同程度の負担で、在職中の被保険者と同程度の保険給付(傷病手当金・出産手当金を除く)、ならびに健康診査等の保健事業を受けることができる制度」です。

 この制度には、次の3つのメリットがあるといわれています。

(1)一般被保険者(現役社員)と同程度の医療給付や人間ドック等の保健福祉事業が受けられる
(2)一般被保険者と同じように、扶養家族も対象になる
(3)保険料は保険組合が決めた金額となるが、扶養家族分も含まれるので安上がりになることが多い

 特例退職被保険者制度があるのはごく限られた組合ですが、そのような組合であっても制度に加入するためには厳しい制限があります。

(1)保険組合の被保険者であった期間が20年以上あること
(2)または、被保険者であった期間が40歳以降で10年から15年以上あること(保険組合によって年数が異なります)
(3)老齢厚生年金の受給資格者であること(年金の支給が始まっていること)

つまり、過去に保険組合に一定以上の貢献をしており、かつ、老齢厚生年金が支給されていることが求められています。

 この制度を実施しているのは、ほとんどが大企業の単一型健康保険組合でした。同業種の複数の企業が共同で設立する形式の健康保険組合で、この制度を実施しているところは見当たりません。健康保険組合の総数自体もここもと10年ほどでは減少傾向が続いています。

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