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厚労相、厚年基金の全廃見直しに言及

 今月26日発足したばかりの第2次安倍内閣は、様々な分野で民主党政権が打ち出した政策方針の見直しを行っています。社会保険の分野においても、田村憲久厚生労働相は27日記者会見し、民主党政権がまとめた厚生年金基金制度の廃止案(厚生年金基金制度の見直し厚労省試案)を見直す考えを示しました。田村厚労相は「不況下でも運用利回りを出している基金はある。国が勝手に(制度を廃止すれば)、何も悪くないところが約束した利回りを出せず、給付が下がる」と懸念を示し、厚労省は年明けに社会保障審議会の部会を開いて見直し作業に入ると報じられています。

 確かに長期不況下で運用難の状況が続いています(「31厚生年金基金 監視対象に」)。また、厚生年金基金制度自体に問題があるという議論もできるでしょう(「厚生年金基金は何が問題なのか」)。しかし、そのように厳しい投資環境の中で、とにもかくにも健全運営を続けてきた基金が存在するのに、これらも一括りに制度自体廃止にするというのは如何にも乱暴な議論だったといえるのでしょう。

厚労相、厚年基金の全廃を見直し 健全なら存続へ(12月28日 日本経済新聞)

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衆議院選挙と社会保障改革の行方

 さて、いよいよ衆議院選挙投票日の週末を迎えました。大手紙などの報道によれば、自民党の第1党への復帰と第二次安倍内閣の成立は、ほぼ確実なようです。問題は、地滑り的勝利といえるような勝ち方ができるか否かという点で、その理由は、予想される自公連立政権では参院において過半数に達することができず、衆院で圧倒的多数を占めることができない場合、参院第1党の民主党による妨害が政権運営に重大な支障をきたすおそれがあるからです。

 自民党が公表している今回の政権公約によれば、デフレ・円高対策として2%の物価目標、いわゆるインフレターゲットを設定するとしています。インフレターゲットを設定した場合には、(1)日銀は何時までにどれくらいの期間2%の物価目標を実現するのかについて明らかにし、(2)それが実現できない場合、日銀は政府及び国会に対する説明責任を負うことになります。このように強力な金融緩和政策を進めるために、日銀法の改正も視野に入れると政権公約は謳っています。これは、安倍総裁の発言などから推して、物価目標が達成できるまで無制限に日銀に長期国債を市場から買い取らせ、新たに通貨を発行させる、欧米の中央銀行が行っているような強力な金融緩和策を意味します。

 おりしも米国の中央銀行に相当するFRBのバーナンキ議長は、「失業率が6.5%以下になるまでは利上げはない。その後は徐々に金利が上がっていく。6.5%に達しても緩和的な政策が急速に縮小されることはない」とつい先日発表して、失業率の低下を直接の目標に据えて金融緩和を引き続き行っていくことを明言しています。

 自民党の経済政策に話を戻すと、速やかに本格的大型補正予算と新年度予算とを合わせて、切れ目のない経済政策を実行するとしていますが、その財源は大量の建設国債を発行して確保しつつ、防災対策・減災対策などに主眼を置いた国土強靭化のための公共事業を行うこと、即ち、当面はケインズ流の公共事業を中心とした財政出動を行って行くことを明確に述べています。

 自民党の経済政策の眼目は名目3%以上の経済成長の達成であり、デフレ・円高からの脱却を最優先にするということですから、政権公約の中では直接言及してはいないものの、デフレ脱却ができないうちに平成26年4月及び平成27年10月に予定される消費税引上げはしないということを意味します(附則18条 景気弾力条項)。

 しかし、本年8月10日の国会での消費税引上げ法案可決、成立に伴って成立した年金機能強化法の目玉である受給資格期間の大幅短縮は、消費税の引上げによる増収を財源にするというものです。即ち、平成27年10月施行の消費税10%引上げを前提条件に、受給資格をこれまでの25年から10年に短縮するとしているのです。また、平成24年度及び25年度について、国庫は基礎年金国庫負担割合2分の1を負担しますが、その際、2分の1と36.5%の差額の財源として、将来の消費税増税によって得られる収入を償還財源とする年金特例公債を発行することによって得られる財源を充当することとしています。これによって、平成24年度及び25年度の国民年金保険料の免除期間について、ようやく基礎年金国庫負担割合を2分の1として年金額を計算することができるようになったのですが、要は、平成24年度以降の基礎年金の国庫負担割合2分の1を維持するための恒久財源は、消費税引上げによって見込まれる税収を当てにしているということなのです。つまり、年金制度においては、予定通りの消費税の引上げがとっくに既成事実化されてしまっているのです。

 ところで、前回消費税を3%から5%に引上げ、財政政策も引締め気味に転じた平成9年(1997年)以来、我が国はデフレ経済に苦しめられてきました。新政権の施策によって、デフレから脱却し、名目で3%を超える持続的な経済成長が実現できたならば、税収の自然増が見込まれ、基礎年金の国庫負担割合の財源など楽に確保できるようになるはずです。また、「過去の物価下落時に年金減額を据え置いた結果、本来の支給額より2.5%高くなっている特例水準の解消」も法律をいじるまでもなく、自然に実現されてしまいます(年金額の特例水準引下げについて)。さらに、株式市場、債券市場などの金融市場が本来の運用市場としての役割を取り戻したならば、年金の資産運用に関する諸々の問題もある程度は解消に向かうのではないかと考えられます。国民の財産を守り、安全保障を実現することなども同じだと思いますが、健全な社会保障制度を維持するためには、何といってもデフレ経済を克服し、経済成長していくことが肝要なのです。
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時間外労働時間制限のまとめ

 労働基準法は、法定労働時間の原則として、週40時間又は1日8時間を超えて労働させてはならないと規定し(労働基準法32条)、例外として、36協定と称される労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出ることを条件に時間外労働を認めるという法律構成を採用しています。しかし、この場合でも無制限に時間外労働が認められるわけではなく、様々な上限が法律等で規定されています。これらの上限規制は、どれも似通ったものであるため、整理してまとめて記憶しておきたいと思います。


1.労働基準法

 労働基準法36条2項は、「厚生労働大臣は、労働時間の延長を適正なものとするため、前項の協定で定める労働時間の延長の限度、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して基準を定めることができる。」と規定しています。この規定に基づき、厚生労働大臣は、36協定に定める延長時間の限度を、1週間当たり15時間、1箇月45時間、3箇月120時間、1年間360時間と定めています。

 また、臨時的に限度時間を越えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合、特別条項付き労使協定を結べば、限度時間を越えて延長時間を定めることができます。

 特別条項付き労使協定を締結するとき、限度時間を超えて労働する一定期間(1日を超え3箇月以内の期間、1年間)を定めます。そして、仮に1箇月当たりの時間外労働時間が限度時間を超えるとすると、どのような事情で限度時間45時間を超えるのかを特定し、この限度時間超過の時間外労働については、法定割増賃金率を超える率の時間外割増賃金を支払うよう努めなければなりません。更に1箇月当たりの時間外労働時間が60時間を超える場合には、50%の法定割増賃金率が強制的に適用されます(37条)。


2.労働安全衛生法

  「過重労働による健康障害防止対策」として、長時間労働者に対する医師による面接指導の実施についての条文が新たに追加された平成18年(2006年)の改正労働安全衛生法についても、一種の時間外労働時間の制限規定と見ることができます。

 (面接指導等)
第66条の8 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。
2 労働者は、前項の規定により事業者が行う面接指導を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合において、他の医師の行う同項の規定による面接指導に相当する面接指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第1項及び前項ただし書の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
4 事業者は、第1項又は第2項ただし書の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
5 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。

 「厚生労働省令で定める要件に該当する労働者」とは、「1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその越えた時間が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者」(労働安全規則第53条の2)で、該当する労働者が医師の面接指導を申し出た場合、事業者は、医師による面接指導を実施しなければならないとされ、医師による面接指導の義務を事業者に課しています。

第66条の9 事業者は、前条第1項の規定により面接指導を行う労働者以外の労働者であつて健康への配慮が必要なものについては、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を講ずるように努めなければならない。

第66条の8が全ての事業者に課せられる義務であるのに対して、第66条の9は努力義務です。対象となる労働者とは、週40時間を超える労働が1月当たり80時間を超えた場合により疲労の蓄積が認められ、又は健康上の不安を有している者で、該当する労働者からの申出を受けて医師による面接指導を実施します。


3.労働者災害補償保険法

 うつ病などの精神障害で労災を適用する際の判断基準として厚生労働省は、「心理的負荷による精神障害の認定基準」(平成23年12月26日)を公表しています。認定基準の基本的な考え方は、まず、精神障害の発病の有無、発病の時期及び疾病名を明らかにし、その上で、当該精神障害発病に関与したと認められる業務による心理的負荷を、職種、職場における立場や経験等が類似する同種の労働者が一般的にはどう受け止めるかという客観的な基準によって評価し、これに、同じく客観的な基準で評価した業務外の心理的負荷及び個体側要因を加え、各事項と精神障害発病の関連性を総合的に判断するというものです。

 この認定基準の中で、当該精神障害発病に関与したと認められる業務による心理的負荷として、具体的な「時間外労働時間数」が次のように明示されています。

(1)極度の長時間労働に該当する場合として、それだけで心理的負荷の総合評価が「強」になるのは、発病直前の1箇月間に約160時間以上又は発病直前の3週間に約120時間以上の時間外労働を行っていたことを挙げています。

(2)原則的に心理的負荷が強程度と判断される出来事に該当する場合として、発病直前の連続した2箇月間に1箇月当たり約120時間以上又は発病直前の3箇月間に1箇月当たり約100時間以上の時間外労働を行っていたことを挙げています。

(3)原則的に心理的負荷が中程度と判断される出来事に該当する場合として、1箇月間に約80時間以上の時間外労働を行っていたことを挙げています。

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