フレックスタイム制改正の要点
1.フレックスタイム制の本質
平成31年4月1日施行の改正労働基準法の中には、フレックスタイム制の改正が含まれています。フレックスタイム制の本質は、「1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させたとき、割増賃金を支払うことという原則に対して、清算期間(1箇月が主流)を平均したところの1週間の労働時間が法定労働時間を越えない限り、割増賃金を支払わなくてよいことにする」という仕組みです。ここから、労使協定で予め定めておかなければならない清算期間における総労働時間の上限は、清算期間を1箇月と仮定すると、次の式になるわけです。
清算期間の暦日数÷7 × 1週当たりの法定労働時間
1月当たり30日:30 ÷ 7 × 40 = 171.43
1月当たり31日:31 ÷ 7 × 40 = 177.14
(フレックスタイム制の要件)
(1)就業規則等で、始業及び終業の時刻を従業員の決定に委ねる旨の規定を設けておく。
(2)労使協定で以下の点を決めておく。
① 対象者の範囲
② 1箇月以内の清算期間
③ 清算期間における総労働時間
④ 標準となる1日の労働時間
2.改正法の内容
新年度に施行された改正法の要点は、以下の点です。
(1)清算期間の上限が1箇月から3箇月に変更されました(第32条の3第1項)。
(2)1箇月超の清算期間の場合、1箇月毎に区切った期間について、1週間当たりの労働時間が50時間を超えないこととされました(第32条の3第2項)。
(3)完全週休2日の事業場において、労使協定で定めることを要件に法定労働時間を8時間×清算期間における所定労働日数までとすることができるようになりました(第32条の3第3項)。
(例)清算期間1箇月で30日の月、祝祭日なし、土日が8日となった場合
計算上の法定労働時間=40×30÷7≒171.43時間
所定労働日数22日×8=176時間
この矛盾を解決するため、この場合には、労使協定に定めることを要件に176時間を法定労働時間とみなす。
(4)1箇月超の清算期間の場合、労使協定の届出が義務化されました(第32条の3第4項)。
(5)1箇月超の清算期間の場合、労使協定の締結事項について、有効期間の定めが追加されました。
改正前の清算期間が1箇月の場合、清算期間における総労働時間を超えて労働したとき、総労働時間分の賃金のみを支払い、総労働時間を超えて働いた時間分については次の清算期間中の総労働時間の一部に充当する方法が許されるかといえば、当該清算期間内における労働の対価の一部が当該期間の賃金支払日に支払われないことになり、労働基準法24条違反と解釈されます。従って、超過勤務時間を翌月に繰り越して、翌月の所定労働時間を短くするという取り扱いはできなかったのです。一方、実際の労働時間が、清算期間における総労働時間未満だったとき、不足分(総労働時間-実労働時間)を次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、最初の清算期間内において実際の労働時間に対するより多い賃金を支払い、次の清算期間でその分の賃金の過払分を清算するものと解釈され、24条違反の問題は生じないと解釈されます。また、不足分については、年次有給休暇の申請を清算期間終了後の一定の期日までに行うという選択肢を就業規則等に盛り込んでおくことも一考に値します。
今回改正で、2箇月または3箇月単位で労働時間の長短を調整できるようになり、より柔軟な運用が可能になったとされています。しかし、清算期間が長くなる分、時間外労働時間および不足時間の管理がより複雑になります。また、過重労働を防止する観点から、1箇月毎に区分した期間について、平均して1週間当たり50時間を超えないことという規制が新たに設定されたことにも注意が必要です。
清算期間を2箇月または3箇月単位にしたときの時間外労働時間の計算は、具体的には次のようになります。4月から6月の3箇月を清算期間とする場合、
(1)総労働時間の上限= 91÷7×40 = 520時間
(2)4月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×30÷7 =214.2
5月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×31÷7 =221.4
6月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×30÷7 =214.2
(3)各月毎に支払われる時間外割増賃金
(4月の労働時間-214.2)=A (ただし、負数の場合0)
(5月の労働時間-221.4)=M (ただし、負数の場合0)
(6月の労働時間-214.2)=J (ただし、負数の場合0)
(註)60時間を超える場合、5割増
(4)清算期間終了時に支払われる割増賃金
520時間-実労働時間総計-(A+M+J)
冒頭でも触れた通り、フレックスタイム制は、「1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させたときは、割増賃金を支払うこと、という原則に対する例外」に過ぎません。上記の例で、(3)週平均50時間となる月間の労働時間の枠を超える時間外労働は行っていないが、(4)の清算期間終了時に初めて生じる時間外労働だけという場合があります。このような場合でも、法定割増賃金、深夜割増賃金は、フレックスタイム制の例外措置の対象にはならないので、原則通り、清算期間中であっても毎月支払われることになります。
平成31年4月1日施行の改正労働基準法の中には、フレックスタイム制の改正が含まれています。フレックスタイム制の本質は、「1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させたとき、割増賃金を支払うことという原則に対して、清算期間(1箇月が主流)を平均したところの1週間の労働時間が法定労働時間を越えない限り、割増賃金を支払わなくてよいことにする」という仕組みです。ここから、労使協定で予め定めておかなければならない清算期間における総労働時間の上限は、清算期間を1箇月と仮定すると、次の式になるわけです。
清算期間の暦日数÷7 × 1週当たりの法定労働時間
1月当たり30日:30 ÷ 7 × 40 = 171.43
1月当たり31日:31 ÷ 7 × 40 = 177.14
(フレックスタイム制の要件)
(1)就業規則等で、始業及び終業の時刻を従業員の決定に委ねる旨の規定を設けておく。
(2)労使協定で以下の点を決めておく。
① 対象者の範囲
② 1箇月以内の清算期間
③ 清算期間における総労働時間
④ 標準となる1日の労働時間
2.改正法の内容
新年度に施行された改正法の要点は、以下の点です。
(1)清算期間の上限が1箇月から3箇月に変更されました(第32条の3第1項)。
(2)1箇月超の清算期間の場合、1箇月毎に区切った期間について、1週間当たりの労働時間が50時間を超えないこととされました(第32条の3第2項)。
(3)完全週休2日の事業場において、労使協定で定めることを要件に法定労働時間を8時間×清算期間における所定労働日数までとすることができるようになりました(第32条の3第3項)。
(例)清算期間1箇月で30日の月、祝祭日なし、土日が8日となった場合
計算上の法定労働時間=40×30÷7≒171.43時間
所定労働日数22日×8=176時間
この矛盾を解決するため、この場合には、労使協定に定めることを要件に176時間を法定労働時間とみなす。
(4)1箇月超の清算期間の場合、労使協定の届出が義務化されました(第32条の3第4項)。
(5)1箇月超の清算期間の場合、労使協定の締結事項について、有効期間の定めが追加されました。
改正前の清算期間が1箇月の場合、清算期間における総労働時間を超えて労働したとき、総労働時間分の賃金のみを支払い、総労働時間を超えて働いた時間分については次の清算期間中の総労働時間の一部に充当する方法が許されるかといえば、当該清算期間内における労働の対価の一部が当該期間の賃金支払日に支払われないことになり、労働基準法24条違反と解釈されます。従って、超過勤務時間を翌月に繰り越して、翌月の所定労働時間を短くするという取り扱いはできなかったのです。一方、実際の労働時間が、清算期間における総労働時間未満だったとき、不足分(総労働時間-実労働時間)を次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、最初の清算期間内において実際の労働時間に対するより多い賃金を支払い、次の清算期間でその分の賃金の過払分を清算するものと解釈され、24条違反の問題は生じないと解釈されます。また、不足分については、年次有給休暇の申請を清算期間終了後の一定の期日までに行うという選択肢を就業規則等に盛り込んでおくことも一考に値します。
今回改正で、2箇月または3箇月単位で労働時間の長短を調整できるようになり、より柔軟な運用が可能になったとされています。しかし、清算期間が長くなる分、時間外労働時間および不足時間の管理がより複雑になります。また、過重労働を防止する観点から、1箇月毎に区分した期間について、平均して1週間当たり50時間を超えないことという規制が新たに設定されたことにも注意が必要です。
清算期間を2箇月または3箇月単位にしたときの時間外労働時間の計算は、具体的には次のようになります。4月から6月の3箇月を清算期間とする場合、
(1)総労働時間の上限= 91÷7×40 = 520時間
(2)4月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×30÷7 =214.2
5月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×31÷7 =221.4
6月の週平均50時間となる月間の労働時間の枠 = 50×30÷7 =214.2
(3)各月毎に支払われる時間外割増賃金
(4月の労働時間-214.2)=A (ただし、負数の場合0)
(5月の労働時間-221.4)=M (ただし、負数の場合0)
(6月の労働時間-214.2)=J (ただし、負数の場合0)
(註)60時間を超える場合、5割増
(4)清算期間終了時に支払われる割増賃金
520時間-実労働時間総計-(A+M+J)
冒頭でも触れた通り、フレックスタイム制は、「1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させたときは、割増賃金を支払うこと、という原則に対する例外」に過ぎません。上記の例で、(3)週平均50時間となる月間の労働時間の枠を超える時間外労働は行っていないが、(4)の清算期間終了時に初めて生じる時間外労働だけという場合があります。このような場合でも、法定割増賃金、深夜割増賃金は、フレックスタイム制の例外措置の対象にはならないので、原則通り、清算期間中であっても毎月支払われることになります。
2019年04月15日 17:00 | 人事労務