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国民年金及び厚生年金保険制度の薀蓄集6(支給繰下げ)

 言葉の使い方としてどうかと思うことがありますが、「年金の繰下げ」という制度があります。要は、65歳から受給する本来の老齢年金について、支給開始日を繰り延べることによって年金額を増額する仕組みのことです。繰下げの制度は、60歳代前半から支給される「特別支給の老齢厚生年金」には存在しません。従って、繰下げ可能な時期は、66歳に達した日から70歳到達の日までの期間ですが、66歳に到達する日(65歳到達日以後に年金資格を満たした老齢基礎年金の受給権者は、受給資格を満たした日から1年経過した日)までの間に、遺族基礎年金、障害基礎年金又は厚生年金保険若しくは共済組合など被用者年金各法による年金(老齢又は退職による給付を除き、昭和61年改正法前の旧法による年金を含む。)を受ける権利がある場合には、繰下げ請求はできないことになります。

 また、66歳に達した日より後に他の年金を受給する権利が発生した場合、上記の考え方の延長として、その年金を受給する権利が発生した時点で増額率が固定されることになります。この場合の受給権者が有する選択肢としては、
(1)65歳からの本来支給の老齢基礎年金及び老齢厚生年金を遡って請求する
(2)増額された繰下げ支給の老齢基礎年金及び老齢厚生年金の請求をする
の2つがあります。ただし、平成17年3月31日以前に他の年金を受給する権利がある場合、老齢基礎年金の繰下げ請求はできません。

 65歳以降の本来の年金の場合、その中身は1階部分の老齢基礎年金及び2階部分の老齢厚生年金などに分かれていますが、昭和17年4月2日以降生まれ(平成19年4月1日以降に65歳到達)は、老齢基礎年金と老齢厚生年金をそれぞれ別個の希望月で繰り下げることができます。ここでの注意点は、老齢厚生年金を繰り下げると、繰下げ待機期間中の加給年金が支給されないことになりますが、この場合でも加給年金の増額は行われないということです。また、振替加算も、繰下げに関連して増額されることはありません。

 繰り下げられた年金が請求されると、繰下げ請求された月の翌月分からの支払いとなります。平成26年4月施行の改正法により、老齢年金の受給権発生の日から5年を経過した後に繰り下げを行った場合(通常は70歳到達日を過ぎてから数年後に請求をしたような場合)、受給権発生の日から5年を経過した日に遡って申出があったものとみなし、その翌月分から増額された年金が支給されることになります。従って、平成26年3月31日までの70歳到達者が繰下げ請求を行ったときには、平成26年4月1日に繰下げ請求があったものとみなして、同年5月分から増額された年金が支給されることになります。

 繰下げ待機期間中に本人が亡くなった場合で、未支給請求権者がいるとき、繰下げの請求は遺族が代わって行うことはできませんが、65歳時の本来請求はできますので、未支給年金として65歳時の本来の年金が未支給請求権者に支給されることになります。また、繰下げ待機期間中に厚生年金保険の被保険者になった場合は、65歳時の本来請求による老齢厚生年金額から支給停止額を差し引いた額が、繰下げによる増額の対象となってきます。

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いわゆる「残業代ゼロ制度」に関する報道2

 8月18日付け日本経済新聞電子版に掲載された「伊藤忠など導入検討 労働時間規制の緩和制度」の記事は、この件に関する同紙の立場がくっきりと現れている点でも注目しました。政府が敢えて使用を控えていた「ホワイトカラー・エグゼンプション」という用語を明確に使っていることからして、この制度を肯定し、推進していこうとする立場が明確に読み取れます。

 記事の内容は、政府がホワイトカラー層の生産性向上のために、制度の導入に向けて平成27年(2015年)の法改正を目指しているいわゆる「残業代ゼロ制度」について、企業の側でも国が制度の詳細を詰めるのに合わせて準備を進めていることを伝えるものです。制度の導入については、賛否の議論が続き、制度導入に反対する識者もおられるのが現状ですが、大企業を中心とした経済界は既に導入の方向で動き出しています。記事の要点は以下の通りです。

1.「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、政府の発表した成長戦略の目玉の一つであり、年収1千万円以上の高度な専門職を対象に、労働基準法で定められた1日8時間、週40時間の労働時間規制を外す制度です。厚生労働省の審議会で具体的な制度設計を議論しており、2015年の通常国会で労基法の改正案を提出し、16年春の施行を目指しています。

2.大企業の一部は、国の制度設計の完成を待たずに検討を始めています。早い段階で準備を進めることで、経団連などを通じて要望を制度設計に反映してもらう狙いがあるようです。

3.伊藤忠商事は、年収1千万円以上の総合職の大半をホワイトカラー・エグゼンプションの対象とすることを念頭に、導入を検討しています。商社の総合職の業務は新規ビジネスの発掘など高度な専門知識やスキルが求められる企画型の業務が中心であるとされています。

4.伊藤忠商事のほか、富士フイルムが幅広い職種について早期の導入を検討、HOYAが営業、企画、研究開発部門などの部門で、東芝及び日立製作所の重電2社も導入を検討中として、企業名が挙がっています。

5.タカラトミーのように、労働時間の長さよりもヒット商品の多さで評価できるため、おもちゃ開発担当に適した制度とみている企業もあります。時間によらない働き方になれば、勤務後に「映画鑑賞や流行の店を訪れるなど、顧客の動向を意識した仕事のやり方に変わる」と期待できるということです。

6.経団連の榊原定征会長は「幅広い人が対象になるよう今後も求めていく」方針。一方、労組側は、年2千時間を超える正社員の長時間労働が続く中で「規制を外すのはおかしい」(古賀伸明連合会長)と反発しており、制度の導入に反対の立場です。

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企業年金の資産運用状況に変化?

 昨日、内閣府は4-6月期のGDP速報値を発表しました。結果は、1-3月期より1.7%減、2四半期ぶりのマイナス成長でした。年率換算した場合の数値は、-6.8%という惨憺たる数字です。原因は、全体の約6割を占める個人消費が5.0%減と前期から急減したことからみても、間違いなく消費税増税です。その他、設備投資は2.5%減、公共投資は0.5%減、外需の寄与度は輸入の減少が輸出の減少を大きく上回ったことで1.1%増となった模様です(4-6月GDPマイナス6.8%、駆け込み反動-予想やや上回る)。

 このような景気の落込みを予測していたかのように、企業年金は、国内株の売却を加速させていたという記事が13日の日本経済新聞電子版に掲載されておりました。記事も指摘するように、これから国内株式の運用比率を高めようとしている公的年金及びGPIFとは全く逆の動きとして注目されます。記事の要点は以下の通りです。

1.企業年金連合会が主な企業年金の3月末実績をまとめたところによると、企業年金のうち将来の支給額を約束している確定給付企業年金と厚生年金基金の合計資産規模は2014年3月末で73兆円でした。

2.これらの企業年金は、2014年3月末の国内株式に運用資産の14.9%を投資していました。この数値は、前年同期に比べ0.9ポイント減少していす。株価上昇で評価額は高まったものの、売却のペースがそれを上回った模様です。

3.企業年金資産に占める国内株式の運用比率が減るのは4年連続で、直近のピークだった2006年3月末の30.8%から半減していることがわかります。株価変動の影響を除いて考えれば、比率が1%下がるとおよそ7000億円の資金が株式市場から流出することを意味しています。一方、国内債券の割合は2014年3月末に27.6%と、同期間に6.7ポイント上昇しています。

4.企業年金が株式を減らしているのは、バブル崩壊後の株価下落が運用の足を引っ張ってきたことがあげられます。確定給付企業年金では、運用利回りが加入者に約束した水準(予定利率)に届かなければ、企業に差額を穴埋めする義務が生じるため、企業は将来の年金原資不足による追加負担に神経質にならざるをえず、このような運用行動になったと分析されます。

 確定給付年金を運営する企業年金の運用行動は、どうやら目先の景気動向ではなく、より長期的な視点及び企業年金の特性によるものだったとの分析です。とはいえ、公的年金の運用とは実に対照的な運用方針について、今後どちらが正解となるのか、興味を持って追ってゆきたい問題です。

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GPIFが株式運用割合の上限を撤廃

 以前の記事でも言及した年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による年金資産の基本ポートフォリオ見直し(6月6日)について、8月11日の日本経済新聞電子版に記事が掲載されておりました。5日に開かれたGPIFの運用委員会で国内株式保有の上限撤廃を決定し、約130兆円ある全資産の18%までと定められていた上限を超えて買い増せることになりました。9月に新たな資産割合を決めるまでの暫定措置で、9月以降は国内株式の割合を20%台に増やす見込みです。総額130兆円という巨大基金の1%だけでも1.3兆円ですから、5%割合を増やせば、6.5兆円の新たな購入資金が株式市場に流入するということを意味しています。

 同記事によれば、GPIFによる運用割合の仕組み及び今回の決定の要点は、次の通りです。

1.GPIFはあらかじめ「資産構成割合の目安」を決めて、運用しています。ただし、相場の急変などに備え、一定の幅の範囲内で、目安から離れることも認めています。

2.国内株式の場合、目安は12%、上下に6%分の幅を認め、保有割合が6~18%ならば許容していました。従って、18%を超えて買い増すことはできなかったわけです。

3.5日の運用委員会では海外株式や国内・海外債券のいずれについても上限と下限を9月まで取り払うことを決め、国内債券については現在の60%から40%台(今の仕組みでは最低でも52%)に落とす方針です。

 この変更については、賛否両論がありました。浅草社労士としては、首相自身がデフレからの脱却を経済政策の第一の目標と明言し、日本銀行の総裁が2%の物価目標を掲げる中、国内債の大量保有は金利上昇で評価損を被る恐れのあることから、その比率引下げること、その引下げた分で収益向上のためのリスク資産買い増しを検討することは、我が国の経済政策と方向性の合致をみる筋の通った議論ということで、原則支持したいと考えます。とはいえ、買い増す株式の選定については年金資産の性格から自ずと制限がかかってくることでしょう。また、株式市場に上場されているものの中で、不動産投資信託(REIT)も投資対象として、検討されるべきなのではないかと考えます。

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すき家問題の顛末

 ブラック企業(黒企業重点調査結果)ではないかという悪評が立ってしまった、牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーHDが、遂に創業以来の最終赤字に転落する見通しとなりました。牛丼チェーン「すき家」は、今年2月に「牛すき鍋定食」(註1)の発売をきっかけにアルバイト従業員の大量退職問題が発生し、人手不足で営業休止になる店舗が相次ぐ(最大123店舗が休業)などの深刻な事態に陥っていました。その過程で同社の労働環境に関する問題が指摘されるようになり、第三者委員会(委員長 久保利英明弁護士)が設置され、実態調査が行われてきました。

 件の第三者委員会は、7月31日に報告書を公表しています。委員会を設置したのはゼンショーHD自身ですが、報告書は、「法令違反状況に至っていた」などと結論付け、会社側に改善を求める内容です。新聞報道等によれば、報告書の要旨は、以下の通りです。

1.店舗勤務歴のある社員の大半が24時間連続勤務を経験、バイトを含めて恒常的に月500時間以上働いている人もいた。(500 - 160 = 残業時間 340!)

2.サービス残業に加え、6時間以上勤務しても休憩を取れないといった法令違反も慢性化し、平成24年度には社員の居眠り運転による交通事故が7件起きていた。

3.本社の正社員で非管理職418人の今年4月の平均残業時間は109時間(時間外労働時間制限のまとめ)に上った。

 すき家は他の牛丼チェーンに比べ、少ない従業員で店舗を運営する手法(註2)により利益率を高め、年間最大200箇所超の出店で事業を急拡大して来ました。国内外食チェーンとしては「マクドナルド」に次ぐ2000店達成を射程に収めていましたが、今回、一連の労働環境に関する問題が顕在化したことで、成長モデルの転換を余儀なくされることになります。

(註1)1食分ずつ小分けして保管する「牛すき鍋定食」は、大鍋で煮込む牛丼に比べ作業の負担が大きく、バイトの一斉退職を引き起こすきっかけになったとされる。
(註2)他の牛丼チェーンでは、1店舗に社員を含む2人以上の配置する。これに対しすき家は、アルバイト1人だけで1店舗を切り盛りする独自の運営手法「ワンオペレーション(ワンオペ)」を導入していた。

=== 産経新聞電子版 平成26年8月6日 ===

 牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)は6日、平成27年3月期の連結業績予想を下方修正すると発表した。深夜時間帯でのすき家での1人勤務である「ワンオペ」について、9月末までに解消することを同日決定。店舗閉鎖などを伴うため、特別損失を計上する。このため最終損益では、当初41億円の黒字と見込んでいたが、13億円の赤字に転落する。昭和57年の創業以来初の赤字となる。

 当初の予想では5379億円としてきた売上高を、5250億円に、本業のもうけを示す営業利益も159億円から80億円に下方修正した。労働環境改善以外にも、一時的な店舗休止によって売上高が減少するほか、食材価格や人材採用コストの上昇が予想されることが要因。また、1株当たり中間期8円、期末8円としていた配当も、それぞれ4円に引き下げる。26年9月中間期についても下方修正している。

 同社は先月末、同社の労働環境を調べてきた第三者委員会の報告を受けた。この中で特に問題視されてきた「ワンオペ」については、9月末までに解消することを今回決定した。ワンオペを解消できない店舗については閉鎖する考えだ。

=== 転載 終わり ===

 この問題が顕在化した背景には、一昨年末に自民党政権が誕生し、デフレを終わらせるための政策が実施されるようになってから一年半余りが過ぎ、建設業、運送業など一部の業種で人出不足が顕著に見られるようになってくるなど経済情勢の変化が上げられます。人手不足の波は外食産業にも徐々に及んできているようで、デフレ真っ只中のときのようにひたすらコスト削減に走る経営では、肝心の人の確保が、もはやおぼつかなくなっているのだと思われます。

 こうした経済情勢の変化の影響は、すき家以外の外食産業にも及んでいるようです。居酒屋チェーンなどを運営するワタミの場合、正社員やアルバイトの確保が難しくなったとして、26年度中に60店舗を閉鎖して1店舗当たりの従業員数を増やす施策を発表しました。しかし、今年4月に入社した社員は120人と目標の半分にとどまり、経営のあり方の見直しを迫られているということです。また、うどんチェーンのグルメ杵屋は、パートやアルバイトの5%に当たる約440人を今夏から正社員に切り替え、スターバックスコーヒー・ジャパンは、約800人の契約社員をすべて正社員にするとしています。

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