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休日の振替が月またぎになるときの対応

1.振替休日の定義

 休日の振替とは、本来の休日を事前に労働日として設定しておいて代わりに他の労働日を休日とすることです。この代わりに休日とされた日を振替休日と呼びます。これを事前に行わないで休日に労働すると休日出勤または休日労働ということになります。休日の振替を行うと、本来休みであった日に従業員が働くことになっても、休日出勤とはならず、勤務日に労働したとみなされます。休日の振替が特に重要になるのは、休日が法定休日に当たる場合で、休日の振替を行っておけば法定休日の割増賃金は発生しません。ただし、この場合でも、該当週の1週間で法定労働時間の40時間を超えているときは、時間外の割増率で割増賃金を支給することは必要です。

 会社が従業員に対して休日の振替を命じるためには、振替休日に関する規定を就業規則として設ける必要があります。


2.月またぎで振替休日の考え方

 月をまたいで振替を行うときに問題になるのは、給与の算定期間をまたいで休日の振替を行った場合です。すなわち、振替を行って労働日とした日の属する月の給与締め日よりも後に振替休日を取る場合です。

 ここで、意識されないとならないことは、休日の振替がどの程度後の日付まで許容されているのかということです。特別に具体的な期間が法定されているわけではないので、労働基準法第115条に従い2年の時効ということだけを意識すれば、振替休日が本来の休日であった日より前の日であったとしても、または後ろの月をまたいだ日であっても違法にはならないということです。

 ただし、厚生労働省の通達によると「振替休日の取得は勤務日以降、できる限りの近接日が望ましい」とされており、賃金の管理および従業員の健康という観点からも、常識的な範囲での振替休日の設定が良いことは言うまでもありません。


3.月またぎで振替休日をしたときの給与計算

  従業員が本来の休日を振り替えて労働した場合、振替休日が同じ給与算定期間内にあるならば、本来の休日と振替休日の給与が相殺されて(ただし、1週間の労働時間が40時間超になった際の時間外割増賃金の支給は必要)通常の給与計算で対応できます。

 一方、同一の給与算定期間にない日を振替休日とする場合、本来の休日が属する給与算定期間中に労働日が1日分増えて実際に労働していることから、その日の労働分に相当する賃金は一旦全額支払われる必要があります。本来法定休日に当たる日を通常の労働日に振り替えている場合でも、通常の労働日が1日増えたものとみなして算定した給与が支給されなけれなりません(労働基準法第24条第1項)。

 次に、翌給与算定期間以降で振替休日が付与されていていれば、当該給与算定期間を締めたときに本来の法定休日が属する給与算定期間に支給された給与を調整して当該給与算定期間の給与計算を行います。例えば、月末締めの会社で、令和6年8月11日(日)を翌月9月11日(水)に振り替えたとすると、8月分の給与は8月11日の労働分を加えた金額を支給し、9月分の給与から9月11日振替休日分(8月11日勤務相当額)を控除します。

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台風シーズンと休業手当

 台風が地震と異なるところは、氣象予測の技術が進歩したことで事前に台風の発生、勢力および進路が事前に予測できることです。近年は、台風が到来を警戒して鉄道などの公共交通機関が止められることが前日に予告されることもしばしば見られるようになりました。このような情勢変化に伴い、休業手当の支払い義務が生じる場合、生じない場合の判断も一昔前に比べて難しくなったと感じられます。一方で、在宅勤務が普及してきていることを踏まえると、在宅勤務ができる業種または職種については、一律の休業命令を発することはせず、適宜在宅勤務に切り替えることができる体制を整えておくことが推奨されます。


1.公共交通機関が止まっている状況

 台風などが原因で交通機関が運休しており、従業員が出社することができない、このような場合でも会社が休業していない限り、欠勤となります。欠勤で不就労となった場合、休んだ日(時間)について賃金を支払う必要は生じません。休業手当の支給も不要です。


2.不可抗力で休業する場合とは

 台風等の影響により、休業を命じることが不可抗力であると認められる場合には、賃金および休業手当の支払いは不要です。ただし、不可抗力と認められるのは極めて限定的です。具体例としては、次のような場合が挙げられます。

(1)天災によって会社の事業場の施設・設備が直接被害を受け、従業員を就労させることができない場合
(2)天災によって会社の事業場の施設・設備が直接被害を受けてはいないが、取引先または鉄道、道路が被害を受け原材料の仕入れまたは製品の納入等ができなくなっている場合
(3)天災による停電で業務ができない場合


3.台風の接近などが予想されるときの具体的な対応

 前述の通り休業が不可抗力によると認められるのは極めて限定的なので、台風の接近が予測されている前日に翌日の休業を決めても、たとい鉄道の運休が決まっていたとしても不可抗力によるとは認められないことが想定されます。したがって、会社の判断による休業は行いません。かといって何も手立てを講じないのは、安全配慮義務の趣旨に反することにもなりかねません。次のような点をメール等を使って伝達しておきます。

(1)会社は休業しないが、各人が安全を配慮して出社の可否および出社する場合の方法を判断すること
(2)欠勤した場合は無給となること
(3)天災による交通事情等が原因で欠勤または遅刻等があっても人事上の懲戒(ペナルティー)は一切ないこと
(4)年次有給休暇を取得することは各人の判断に委ねること

 一方、費用の面で余裕のある会社は、次のような措置をとることも可能です。この場合、不可抗力による休業と認められなければ、最低でも平均賃金の6割の休業手当を支給することになります(労働基準法第26条)。

(1)休業を命じるので、出社にはおよばないこと
(2)休業期間中は、賃金または休業手当を支給すること

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就業規則および36協定の一括届出制度

 中小企業であっても、本社の他に複数の事業所が他都府県に存在することはよくあることです。労働保険の継続事業の一括や雇用保険の事業所非該当届が提出されていたとしても、10人以上の従業員を擁する事業所の場合、本社とは別に管轄の労働基準監督署に就業規則を届け出る義務があります。また、36協定は従業員の人数にかかわりなく提出の義務があります。営業所2、3箇所くらいまでならば個別に提出すればこと足りますが、多数の事業所を有する場合には届出の手続きが面倒なことになります。このとき、多少なりとも事務作業を軽減できる一括届出制度というものがあるので、手続きを解説します。

1.就業規則

 一括届出制度は、本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が同じ内容である場合に限り利用することができます。具体的な手続きは、次の通りです。

(1)用意する書類
(イ)本社の就業規則届出書、意見書および就業規則本体 各2部ずつ(正本および控え)
(ロ)一括届出の対象事業場一覧表 2部(正本および就業規則配送作業室提出用)
(ハ)一括届出の対象事業場の意見書 (正本 事業場ごとに1部ずつ)
(ニ)一括届出の対象事業場の就業規則本体(正本 事業場を管轄する事業場ごとに1部ずつ)

(2)本社の所在地を管轄する労基署に就業規則の一括届出制度を利用する旨を申し出て、(1)(イ)、(ロ)、(ハ)を提出します。一括届出の要件を満たしていれば、(イ)の受理印が押印された控えと(ロ)1部と(ハ)が返却されます。

(3)(ロ)、(ハ)および(ニ)を本社を管轄する労働局の就業規則配送作業室に送付します。東京都の場合は以下の通りですが、この際、就業規則配送作業室は対象事業場分の控え等に受付印の押印するなどは行っておりませんので、控え用就業規則を送付しても受付印を押印してもらうことはできません。
〒102-8306 東京都千代田区九段南1-2-1
東京労働局 労働基準部 監督課内
○○労働基準監督署 就業規則配送作業室

(4)電子申請で本社一括制度を利用することもできます。e-Govで就業規則(変更)届 (本社一括届出)の画面から指示にしたがって入力することにより申請できます。


2.36協定

 36協定の一括届出制度は、本社の36協定と本社以外の事業場の36協定が同じ内容である場合に限り利用することができます。同じ内容というのは、協定事項のうち「事業の種類」、「事業の名称」、「事業の所在地・電話番号」、「労働者数」以外の事項が同一であることを意味しています。したがって、一括届出制度を利用することができるのは各事業場の労働者の過半数以上が加入する労働組合の代表者がいる会社に限定されてきます。

 本社から本社を管轄する労働基準監督署に、本社を含む事業場の数に対応した必要部数の36協定を届け出ます。この際、各事業場の名称、所在地、所轄労働基準監督署名を明確にした届出事業場一覧表を作成して添付します。

 電子申請で本社一括制度を利用することもできます。電子申請をする場合に限って労働組合の存在しない会社であっても本社一括の仕組みを利用することが可能になります。e-Govで時間外労働・休日労働に関する協定届(本社一括届)の画面を見ると明らかなように、必須画面の様式には人数を入力することが不可になっています。ここは、最新の一括届出事業場一覧作成ツールをダウンロードして、ツール上で編集した書類を添付することで届出書を完成させます。

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相互無関心が早期離職者を生む要因か

 社労士TOKYOの5月号には、入社1年目の「転職活動中・検討中」が43%の記事が掲載されております。この記事から、会社がせっかく採用した従業員に氣持ちよく働いもらって離職者を少しでも減らすにはどうすべきかを考えてみたいと思います。


1.新卒者の離職率など

 2023年10月に公表された新規大卒者(2020年3月の卒業者)の入社3年以内の離職率は32.3%、すなわち、およそ3人に1人は3年以内に会社を辞めてしまうということがいえますが、慢性的な人出不足が続きそうな昨今これは深刻な問題です。この傾向は、千人以上の大企業でも26.1%と比較的高い数字を示しています。ディスコキャリタスリサーチ社が2023年4月入社の社員を対象に実施した調査によれば、転職は考えていないが57.0%に対して、転職検討中および現在転職活動中が43%となっています。

 せっかく入社した会社に対して不満に感じている点を挙げてもらうと、次のような結果になります。
(1)キャリアパス  48.6%
(2)給与・待遇  42.8%
(3)仕事内容  39.9%
(4)残業時間  38.5%


2.上司に対する不満

 ラーニングイノベーション総合研究所の調査によれば、上司に対する不満など人間関係の不満が離職への引き金になりやすいと推測されます。上司に対する主な不満として挙げられるのは以下の通りです。

(1)上司から仕事の助言を全くもらえていない 32.6%
 → 会社を辞めたくなった 26.8%
(2)上司とのコミュニケーションがとりずらい  30.3%
 → 会社を辞めたくなった 23.9%
(3)上司からのスキルアップの支援がもらえていない 37.7%
 → 会社を辞めたくなった 23.9%


3.上司側の意識

 部下の教育・育成は管理職の仕事の主要部分を占めるといっても過言ではありません。しかし、前述のラーニングイノベーション総合研究所による管理職の意識調査によれば、部下の育成に悩む管理職は54.3%に達しています。7割を超える管理職が部下に成長してもらいたいと願っている反面、部下への支援または助言などのコミュニケーションが遠慮がちになっている理由の主なものは次のとおりです。

(1)部下の反応に対して不安があるから  39.9%
(2)適切な伝え方が分からなかったから  37.0%
(3)自分が本当に正しいかに自身がなかったから 29.0%

 セクシャル・ハラスメントだ、パワー・ハラスメントだとマスメディアが世間を賑わす昨今、指導のために叱ってもパワハラだと言われかねないと管理職が過度に委縮してしまっているという現象もあるのかもしれません。


4.過度な減点主義をやめることから

 現代の我が国の会社組織などは、概して他人の失敗を許さない風潮があまりに強くなっているのではないかと危惧されます。他人に対してはもちろん、自分に対しても失敗を容赦しない風潮は、極端な安全策に走りがちになります。つまりは、何もしない事なかれ主義です。一般的な部下であれば上司からの適切な助言や支援を欲していますし、少しまともな上司ならば適度なコミュニケーションを取りつつ、部下に成長してもらいたいと願っていることは、調査から明らかになっているのです。そこで、多少の失敗を恐れずに、言いたいことが言い合える会社の風土を醸成していくことが求められます。また、多少の言い過ぎやきつい言い方で叱責して問題が起きたとしても、その叱責のやり方はまずかった、言い方をこう変えてみようと一つ段階を登る糧にできれば上々と考えてとにかくコミュニケーションしてみることが離職者の減少につながりそうだと言えるのではないでしょうか。

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最寄り駅までの自転車使用と通勤手当の考え方

 東京などの大都市では、通勤に公共交通機関を使うことが一般で、実際に支払う定期代などを通勤手当として支給したとき、通勤手当は所得税等が課せられない非課税枠があります。一方、郊外に事業所のある会社などでは自動車通勤、オートバイ通勤、および自転車使用の通勤なども相当数の方々が利用されています。これらと通勤手当の支給は、どのように考えたらよいのか管見を述べたいと思います。

1.所得税課税の面から見た原則

(1)公共交通機関の利用
 公共交通機関を利用して通勤している場合の非課税となる限度額は、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額です。新幹線や特急列車を利用した場合の運賃等の額も、その通勤方法や経路が「最も経済的かつ合理的な経路および方法」に該当する場合には非課税の通勤手当に含まれますが、グリーン料金は最も経済的かつ合理的な通勤経路および方法のための料金とは認められないため含まれません。

 最も経済的かつ合理的な経路および方法による通勤手当や通勤定期券などの金額が、1箇月当たり15万円を超える場合には、15万円が非課税となる限度額となります。

(2)自家用車等の利用
 自家用車、オートバイ、または自転車(註)などを使用して通勤している人の非課税となる1箇月当たりの限度額は、片道の通勤距離(通勤経路に沿った長さ)に応じて、次のように定められています。
(註)所得税法上、自転車は自動車やオートバイと同じく「交通用具」に分類されています。

20140401_通勤手当非課税枠

(3)最寄り駅まで自転車使用のような併用の場合
 最寄り駅まで自転車等を使用し、駅から事業所までは公共交通機関を使って通勤するような場合の非課税となる限度額は、次の(イ)と(ロ)を合計した金額が、1箇月当たり15万円までというの考え方になります。

(イ)電車やバスなどの交通機関を利用する場合の1箇月間の通勤定期券などの金額
(ロ)自家用車や自転車などを使って通勤する片道の距離で決まっている1箇月当たりの非課税となる限度額

 1箇月当たりの非課税となる限度額を超えて通勤手当や通勤定期券などを支給する場合には、超える部分の金額が給与として課税されます。


2.通勤手当を支給する際の考え方

(1)自家用車やオートバイによる通勤にかかる燃料代および駐車場代、自転車利用にかかる駐輪場料金などを通勤手当として支給することが考えられます。自転車利用は最寄りの駅までという場合が多いと考えられますが、2.0kmに満たない距離の自転車利用に関しては、課税対象になることを理由に通勤手当として費用の支給は行わないということでよいと思います。駐輪場使用料など費用を負担は、原則として会社は補助せず個人で負担してもらうということです。

(2)最寄り駅まで1.0㎞までは、徒歩で通勤すべしが原則で構わないように思えます。ただし、障害があるなどの特別な事情をかかえる従業員には例外的に特別な配慮が必要なことは言うまでもありません。

(3)自家用車、オートバイ、および自転車等の交通用具の利用を正式に認める場合には、会社に申請して許可する仕組み、強制保険・任意保険の加入、ヘルメットの着用、その他の利用者の義務を社内規程で定めて励行させることが必要条件になってきます。

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