第169回通常国会の最重要法案と位置付けられていた
働き方改革関連法は、本年6月29日午前の参院本会議で可決、成立しました。現在は、法律が施行される来年4月に向けて、準備が進められています。社会保険労務士会の会報でも、今月号から働き方改革関連法の課題の整理を行うシリーズの論稿が掲載されたおりましたので、これを材料にまとめ記事を作っておきたいと思いたちました。
働き方改革関連法の中で特に重要なのは、次の3点に絞られてきます。
1.労働基準法:時間外労働の上限規制の改正
2019年4月1日施行、中小企業は1年遅れ(註)2.労働安全衛生法の改正
3.短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(「パート労働法」)・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(「労働者派遣法」)の改正による正規社員と非正規社員都の公正な待遇の確保
2020年4月1日施行、中小企業は1年遅れ(註)ただし、月60時間超の時間外労働に50%の割増賃金の中小企業に対してとられていた猶予措置は
2023年3月末で廃止される。
1.労働基準法:時間外労働の上限規制の改正 これまで、時間外労働の上限規制および36協定の特別条項は、労働基準法自体に直接の規定はなく、36条2項に基づき制定された告示によるものでしたが、今回36条が改正されて、36協定による時間外労働の上限について、条文の中に明記されることになりました(2項から6項、10項、11項が新たに追加され、現2項から4項は7項から9項に移動)。
(1)2項:36協定で定めるべき事項の列記
(2)3項:通常予見される時間外労働の範囲内において限度時間を超えない時間が時間外労働の上限
(3)4項:限度時間の上限1箇月45時間、1年間360時間(1年単位変形労働時間制1箇月42時間、320時間)
(4)5項:特別条項 3項の例外として1箇月100時間未満(休日労働を含む)、1年720時間(休日労働を含まない) 1箇月の限度時間を超える月数を6箇月以内とする。
(5)6項:時間外労働の絶対的上限:1箇月100時間未満(休日労働を含む)、2から6箇月の複数月の平均で80時間以下(休日労働を含む)
(6)
新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務には、3項、4項、5項ならびに6項2号および3号を適用しない。
医師、建設、運輸関連業務で、2024年3月まで適用猶予、運輸は適用後も960時間
(7)32条の3 1項2号フレックスタイムの清算期間を3箇月に拡大
3.高度プロフェッショナル制度 従来型の労働時間規制に上手く当てはまらない業務に対応した現行制度は、裁量労働制など労働時間のみなし制度でした。これに対して、労働時間に対する規制そのものを取り払うのが高度プロフェッショナル制度です。
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者には、その効果として労働基準法第4章で規定される労働時間、休憩、休日および深夜割増に関する規定が適用除外となります。年休に関する規定は適用されますが、深夜割増の規定が適用されない点は、管理監督者以上に時間に依存した規制が緩和されていることを意味します。
高度プロフェッショナル制度の対象業務は、「高度の専門知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」です(労働基準法41条の2第1項1号)。具体的には、(1)金融商品の開発業務、(2)金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務などが挙げられています。
導入の要件は、適用対象が恣意的に拡げられることを防止する観点から、以下の通り非常に制限的になっています。
(1)労使委員会(賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会)の5分の4以上の多数の議決により法所定の事項について決議し、当該決議を労働基準監督署長に届け出ること。
(2)対象労働者から、職務記述書等に署名する形で職務の内容および制度適用について同意を得ること。
(3)年間給与額が1075万円以上の金額であること。
(4)対象労働者が事業場にいた時間と事業場外において労働した時間を把握する措置を、決議で定めるところにより使用者が講じること。
(5)1年間を通じて104日以上、かつ、4週間を通じて4日以上の休日を当該決議および就業規則等で定めるところにより与えること。
(6)勤務間インターバル措置かつ深夜労働の回数制限、1年に1度以上の2週間連続休日の確保措置、臨時の健康診断などの中からいずれかを講じること。
4.同一労働同一賃金 少々わかりにくい点ですが、「同一労働同一賃金」とは、同一労働に対して同一の賃金を支払うという意味ではなく、同一の事業主に雇用されている正社員と非正規社員(短時間労働者及び有期雇用労働者)との間に労働条件の不合理な格差を設けてはならないという意味に定義しています。この「同一労働同一賃金」に関連して、以下の点が改正されます。
(1)パート労働法が、パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)に改変されました。
(2)労働契約法20条(有期雇用労働者の処遇)が削除され、正社員と同視すべきパートタイム労働者に適用されていた「均等待遇規定」は、有期雇用労働者にも適用されるようになりました(大企業2020年4月1日施行、中小企業は1年遅れ施行)。
今回の「同一労働同一賃金」関連の法改正にいたる非正規社員の雇用安定および処遇の改善に関する立法措置を歴史的に振り返ると以下のようになります。
(1)2007年 パート労働法改正
正社員と同視すべきパート労働者を、パート労働者であることを理由として差別してはならないという趣旨の「均等待遇規定」が導入されました。また、賃金の決定や教育訓練等において、就業実態に応じて正社員と均衡のとれた待遇を確保するよう努める「均衡待遇規定」努力義務ですが、導入されました。
(2)2012年 労働契約法20条
有期雇用労働者と無期雇用契約者との間の待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならないという規定が導入されました。
(3)パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)8条
「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の
業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該
職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」と条文で定められました。
(4)説明義務
パート・有期労働法には、正規・非正規の格差が不合理であれば労働条件は無効になるという強い法的効果があります。そして、事業主は、格差が無効であるかどうかにかかわりなく、労働者の求めに応じて、格差の内容及び理由の説明義務が課されることになりました。事業主は、非正規社員が納得して不満を抱かずに働いてもらうという見地、また、万が一紛争になったときの予防策としての見地から、労働者の求めがある前に、事前に格差の生じる合理的な理由を
職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情という形で、わかりやすく説明しておくことが理想的です。
(5)派遣労働者
派遣労働者の待遇に関しては、パートタイム労働者及び有期雇用労働者と共通の規制に沿った規定に再編されました。また、派遣元事業主は、派遣労働者からの求めがあった場合には、比較対象労働者との間の待遇相違の内容及び理由などを説明する義務を負います。