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遺族年金と重婚的内縁関係

 遺族年金の受給権者は、本人の死亡当時、本人によって生計を維持されていた配偶者であることが多いです。その場合の配偶者には、戸籍上婚姻はしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁関係)が含まれます。事実上の婚姻関係があれば、事実上の離婚が当然存在します。ここで、問題になるのは、遺族年金の受給権者と推定される者として、戸籍上婚姻関係にある者がいて、その他に内縁の関係にある者がいる場合です。このような内縁関係を、重婚的内縁関係というそうですが、月間社労士11月号では、このような場合の遺族厚生年金の帰属先について、事例解説が掲載されておりました。

 事例解説によれば、このような場合、届出による婚姻関係が優先さるのが原則です。しかし、内縁関係が例外的に優先される場合も存在します。それは、内縁関係にある者が受給権者によって生計を維持していた事実に加えて、戸籍上の婚姻関係にある者との婚姻関係が、その実態を全く失ったものとなっているときです(「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(平成23年3月23日年発年金局長通知)。

 「婚姻関係が、その実態を全く失ったものとなっているとき」とは、具体的にはどういうときなのでしょう。

1.当事者が離婚の合意に基づいて夫婦としての共同生活を廃止していると認められるが戸籍上の離婚の届出をしていないとき

または、

2.一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない場合であって、その状態がおおむね10年程度以上継続し、当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められるとき

また、2の「夫婦としての共同生活が行われていない場合」とは、
(1)当事者が住居を異にすること、かつ
(2)当事者の経済的な依存関係が反復して存在しないこと、かつ
(3)当事者の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在しないこと

というわけで、内縁関係にある者にとっては、かなり厳しい要件が課されています。

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「SSSS GRIDMAN」はいいぞ!

 あくまでも個人的な見解ですが、ここ数年の間、これはという新作ロボットアニメが見られなかったのですが、遂に現れたという感じで注目している作品があります。今季放映中の「SSSS GRIDMAN」です。1993年から1994年にかけて放送された円谷プロの特撮ドラマ「電光超人グリッドマン」を原作とするアニメで、TRIGGERというアニメ制作会社が、円谷プロの協力を得て制作に当たっています。特撮版の原作は、電脳空間に現れ、現実世界にも悪い干渉を及ぼす怪獣と電脳世界で戦うという、当時としては斬新な内容を含んでいました。IoTなど夢物語だった時代、何しろWindows95がまだ発売されていないくらいです。話が時代を先取りしすぎていて、コアなファンを獲得したものの、知名度は今一つだったようです。

 浅草社労士自身は、ウルトラマン、セブン世代であり、原作の電光超人の名前はこのアニメで初めて知りました。ですが、アニメGRIDMANの登場シーンがウルトラマンのそれを想起させるものでしたので、「どうせ、特撮版の原作を見た世代を中心に円谷作品好きの大人に迎合した色物だろう」程度の乗りではありましたが、見始めたものでした。GRIDMANがさっそうと登場して、怪獣を倒すのは、まさに期待通りでしたが、8話まで見てきて、アニメの出来は期待を素晴らしく上回るものだと徐々に認識が変化して参りました。

 ロックグループOxTが歌うオープニングの出だしが「目を覚ませ、僕らの世界が侵略されてるぞー」というもので、なかなか恰好良いのです。加えて、歌詞にも何やら寓意が含まれているようにも読めます。物語は、響裕太(エネルギー体と合体してGRIDMANを具現させる主人公)、その親友内海将、宝多六花の3人を中心に、その日常に頻繁に出現する怪獣との戦いと怪獣が出現するこの世界の謎に迫るという展開です。上記のGRIDMAN同盟の3人以外の人々は、なぜか怪獣が出現した記憶が消されてしまうという現象が起こっており、ここから洗脳も主題の一つなのかもしれないなどと、おじさんは想像をめぐらすことができます。また、出現した怪獣たちは一人の少女の歪んだ心から生み出されているということが6話で確認され、その新条茜は「外から来た危険な侵入者」に利用されているということも分かってきています。円谷作品には、昔から社会に対する寓意が含まれていたような感じを大人になってから持つようになりました。このアニメも、その辺りを上手に含んだつくりになっているようです。視聴する子供たちにも、できればそこまで考えて見てもらいたいものです。

 もちろん、原作に対するオマージュは、ジャンク屋を営む六花の実家に置かれたジャンクPCなど言うに及ばず、特撮版のオープニング曲(ピアノ版)を上手く劇中で流すなど、原作を見ているオールドファンにはたまらない演出が施されていて、原作への並々ならぬ敬意が払われています。ロボットアニメの観点からも、機動戦士ガンダムなどが開拓したリアルロボットアニメとも、新世紀エヴァンゲリオンが先鞭をつけた世界観ロボットアニメとも一味違う、面白い作品分野を切り開いたと評価できると思います。SSSS GRIDMAN、現実社会にも警告を鳴らすのかもしれない、これからの展開も楽しみです。

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人類学と大相撲と移民政策

 東京都社労士会の平成30年度前期必須研修、中央統括支部は、ほとんどしんがりといっていい11月14日の開催でした。お題は、「多様な人材が活躍できる環境整備」ということで、武蔵野大学、東京家政大学などで非常勤講師をなさっておられる、笹川あゆみ先生による講義を拝聴いたしました。講義に先立って、先生と少し話をする機会があり、先生の専門が人類学となっていたので、そのことをお尋ねいたしました。そこで、人類学は、英米などが植民地を広げていく中で、その経営を進めて行くに当たり、現地の人々の歴史、文化、風習などを研究する必要が生じたことをそもそもの契機として発展してきた学問であるという趣旨のお話がありました。

 そのような下地があったので、先の大戦の際にも、米国は敵国である日本の研究を十分すぎるほどに行っていた一方で、我が国は、野球をするのにもストライクやボールまで敵性外国語として日常生活から排除しようとしたのが象徴的ですが、敵の研究を禁忌にしてしまったというような話をされておいででした。戦前の日本は、支那大陸、朝鮮半島、台湾、または、信託統治となっていた南洋諸島などについて、その歴史、文化、風習などの研究をかなりしっかりと進めていたはずで、そのような真っ当な姿勢が、昭和初期の世界経済の混乱に巻き込まれたことと外交政策でこれでもかというほど失敗を重ねたことで、いつのまにか国際社会を敵にまわした戦争を始めてしまい、英語を敵性言語として排除するといった常軌を逸した状況に至ったことは、どうにも理解できかねる点でした。

 とはいえ、理性よりは感情に支配されるのが、そもそも人間の本性であるようです。その上、日本人や英国人のような島国に暮らす民族には、独特の島国根性といい得る何かがDNAに刻まれているようで、ときとして、それが良い方に出ることもあり、逆に悪い方に出たりすることがあるものです。

 昨年は、元横綱日馬富士による貴ノ岩関への暴行事件などが勃発した大相撲界でしたが、今年に入ってからも混乱は止まるところを知らず、貴乃花親方が遂に相撲界を去ることに至ってからまだ2箇月ほどしかたっておりません。そんなこんなで、モンゴル出身の2横綱が休場する中で迎えたのが、本年最後の場所となる九州場所です。横綱としての進退をかけた先場所で辛うじて10勝を挙げ、九州場所が本格的な再起の場所と期待された日本人横綱でしたが、初日からまさかの4連敗でまたもや休場となってしまいました。しかし、横綱審議会その他からは、引退勧告の声は今のところ一切聞こえてきません。大相撲は、国技ですから、日本人横綱を応援する人が多くて当たり前、あらゆる場面で多少の贔屓が出てしまうことは仕方のないことだと思います。しかし、一連の稀勢の里関に対する角界関係者の処遇は、過ぎたる優遇措置であり、二重基準と映ってしまいます。長い年月をかけて先達たちが築き上げてきた横綱の権威を、この時代に崩してしまうことは、長期的視点からは、やはり間違っているのではないかと思えてならないのです。

 こじつけといわれるかもしれませんが、大リーグでは、今季の新人王に大谷翔平選手が選出されていますが、大相撲とは対照的な印象を受けます。通常の年であれば、新人王間違いなしであろうといわれ、打率.297、27本塁打、92打点の成績を残したヤンキースのアンドゥハー内野手がいたのにもかかわらず、大谷という外国人選手の試みた二刀流を歴史的偉業と評価して新人王を与えた巨大な島国アメリカに、その懐の深さを感じないわけにはいきませんでした。

 相撲は、日本人にとって単なるスポーツにおさまらない、神事という性格を宿しているものです。相撲界がここまで乱れてくるのには、何か理由があるのかもしれません。外国人力士の人口が増えるにしたがって、日本人横綱が絶えてしまい、大相撲への関心が薄らぐことを恐れた協会があたふたとおかしなことをやっているという解釈もできそうです。今臨時国会において移民政策に揺れる日本ですが、国内に力士のなり手が少ないからと大量に外国人を受け入れた結果がいまの角界の有様です。よほどの覚悟も持たず移民政策を採用すれば、早晩取り返しのつかないことになることを、今日の角界の現状が証明してくれているのかもしれません。

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働き方改革関連法の要点整理

 第169回通常国会の最重要法案と位置付けられていた働き方改革関連法は、本年6月29日午前の参院本会議で可決、成立しました。現在は、法律が施行される来年4月に向けて、準備が進められています。社会保険労務士会の会報でも、今月号から働き方改革関連法の課題の整理を行うシリーズの論稿が掲載されたおりましたので、これを材料にまとめ記事を作っておきたいと思いたちました。

 働き方改革関連法の中で特に重要なのは、次の3点に絞られてきます。
1.労働基準法:時間外労働の上限規制の改正 2019年4月1日施行、中小企業は1年遅れ(註)
2.労働安全衛生法の改正
3.短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(「パート労働法」)・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(「労働者派遣法」)の改正による正規社員と非正規社員都の公正な待遇の確保 2020年4月1日施行、中小企業は1年遅れ
(註)ただし、月60時間超の時間外労働に50%の割増賃金の中小企業に対してとられていた猶予措置は2023年3月末で廃止される。

1.労働基準法:時間外労働の上限規制の改正

 これまで、時間外労働の上限規制および36協定の特別条項は、労働基準法自体に直接の規定はなく、36条2項に基づき制定された告示によるものでしたが、今回36条が改正されて、36協定による時間外労働の上限について、条文の中に明記されることになりました(2項から6項、10項、11項が新たに追加され、現2項から4項は7項から9項に移動)。

(1)2項:36協定で定めるべき事項の列記
(2)3項:通常予見される時間外労働の範囲内において限度時間を超えない時間が時間外労働の上限
(3)4項:限度時間の上限1箇月45時間、1年間360時間(1年単位変形労働時間制1箇月42時間、320時間)
(4)5項:特別条項 3項の例外として1箇月100時間未満(休日労働を含む)、1年720時間(休日労働を含まない) 1箇月の限度時間を超える月数を6箇月以内とする。
(5)6項:時間外労働の絶対的上限:1箇月100時間未満(休日労働を含む)、2から6箇月の複数月の平均で80時間以下(休日労働を含む)

(6)新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務には、3項、4項、5項ならびに6項2号および3号を適用しない。医師、建設、運輸関連業務で、2024年3月まで適用猶予、運輸は適用後も960時間

(7)32条の3 1項2号フレックスタイムの清算期間を3箇月に拡大

3.高度プロフェッショナル制度

 従来型の労働時間規制に上手く当てはまらない業務に対応した現行制度は、裁量労働制など労働時間のみなし制度でした。これに対して、労働時間に対する規制そのものを取り払うのが高度プロフェッショナル制度です。

 高度プロフェッショナル制度が適用される労働者には、その効果として労働基準法第4章で規定される労働時間、休憩、休日および深夜割増に関する規定が適用除外となります。年休に関する規定は適用されますが、深夜割増の規定が適用されない点は、管理監督者以上に時間に依存した規制が緩和されていることを意味します。

 高度プロフェッショナル制度の対象業務は、「高度の専門知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」です(労働基準法41条の2第1項1号)。具体的には、(1)金融商品の開発業務、(2)金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務などが挙げられています。

 導入の要件は、適用対象が恣意的に拡げられることを防止する観点から、以下の通り非常に制限的になっています。
(1)労使委員会(賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会)の5分の4以上の多数の議決により法所定の事項について決議し、当該決議を労働基準監督署長に届け出ること。
(2)対象労働者から、職務記述書等に署名する形で職務の内容および制度適用について同意を得ること。
(3)年間給与額が1075万円以上の金額であること。
(4)対象労働者が事業場にいた時間と事業場外において労働した時間を把握する措置を、決議で定めるところにより使用者が講じること。
(5)1年間を通じて104日以上、かつ、4週間を通じて4日以上の休日を当該決議および就業規則等で定めるところにより与えること。
(6)勤務間インターバル措置かつ深夜労働の回数制限、1年に1度以上の2週間連続休日の確保措置、臨時の健康診断などの中からいずれかを講じること。

4.同一労働同一賃金

 少々わかりにくい点ですが、「同一労働同一賃金」とは、同一労働に対して同一の賃金を支払うという意味ではなく、同一の事業主に雇用されている正社員と非正規社員(短時間労働者及び有期雇用労働者)との間に労働条件の不合理な格差を設けてはならないという意味に定義しています。この「同一労働同一賃金」に関連して、以下の点が改正されます。

(1)パート労働法が、パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)に改変されました。
(2)労働契約法20条(有期雇用労働者の処遇)が削除され、正社員と同視すべきパートタイム労働者に適用されていた「均等待遇規定」は、有期雇用労働者にも適用されるようになりました(大企業2020年4月1日施行、中小企業は1年遅れ施行)。

 今回の「同一労働同一賃金」関連の法改正にいたる非正規社員の雇用安定および処遇の改善に関する立法措置を歴史的に振り返ると以下のようになります。

(1)2007年 パート労働法改正
 正社員と同視すべきパート労働者を、パート労働者であることを理由として差別してはならないという趣旨の「均等待遇規定」が導入されました。また、賃金の決定や教育訓練等において、就業実態に応じて正社員と均衡のとれた待遇を確保するよう努める「均衡待遇規定」努力義務ですが、導入されました。

(2)2012年 労働契約法20条
 有期雇用労働者と無期雇用契約者との間の待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならないという規定が導入されました。

(3)パート・有期労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)8条
 「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」と条文で定められました。

(4)説明義務
 パート・有期労働法には、正規・非正規の格差が不合理であれば労働条件は無効になるという強い法的効果があります。そして、事業主は、格差が無効であるかどうかにかかわりなく、労働者の求めに応じて、格差の内容及び理由の説明義務が課されることになりました。事業主は、非正規社員が納得して不満を抱かずに働いてもらうという見地、また、万が一紛争になったときの予防策としての見地から、労働者の求めがある前に、事前に格差の生じる合理的な理由を職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情という形で、わかりやすく説明しておくことが理想的です。 

(5)派遣労働者
 派遣労働者の待遇に関しては、パートタイム労働者及び有期雇用労働者と共通の規制に沿った規定に再編されました。また、派遣元事業主は、派遣労働者からの求めがあった場合には、比較対象労働者との間の待遇相違の内容及び理由などを説明する義務を負います。

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