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有期労働契約と育児休業

1.契約社員と育児休業

 契約社員とは、「専門的職種に従事させることを目的に契約に基づき雇用し、雇用期間の定めのある者」と定義されています。しかし、一般的には、雇用期間に重点が置かれる場合と業務遂行目的に重点が置かれている場合に分かれるようです。いずれにしても、契約社員と呼ばれる者は、有期労働契約で雇用されている被用者と考えられます。

 従って、「契約社員と育児休業」の問題は、有期労働契約社員が育児休業を取れるのかという問題を意味しています。


2.契約社員が育児休業を取るための要件

 「育児休業」は原則として1歳に満たない子を養育するための休業であり、労働者の申出を要件としています。平成17年4月より、これまで対象外とされていた有期契約労働者も、一定の要件を満たす場合には、育児休業及び介護休業を取得できること等が法律上認められています(育児・介護休業法第5条、第11条)。

 有期労働契約社員が育児休業を取得するための要件は、次のとおりです。

(1)同一の事業主に引続き1年以上雇用されていること

 育児休業申出の直前の1年間について、勤務の実態に即し雇用関係が実質的に継続していることをいいます。契約期間が形式的に連続しているか否かにより判断するものではありません。例えば、年末年始や週休日を空けて労働契約が結ばれている場合や、前の契約終了時にすでに次の契約が結ばれている場合は、雇用関係は「実質的に継続している」と判断されます。

(2)子の1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること

 育児休業の申出があった時点で明らかになっている事情に基づき判断します。「引き続き雇用されることが見込まれる」かどうかは、労働契約が更新される可能性について、書面または口頭で示されていることから判断されますが、労働契約の更新可能性については、①雇用の継続の見込みに関する事業主の言動、②同様の地位にある他の労働者の状況、③当該労働者の過去の契約の更新状況などの実態を見て判断されます。

(3)子の2歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでないこと

 これは、育児・介護休業法5条1項()書きの中にある「当該子の1歳到達日から1年を経過する日までの間に、その労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことが明らかである者を除く。」という文言から導かれる要件です。

例えば、

①書面又は口頭で労働契約の更新回数の上限が明示されており、その上限まで契約が更新された場合の労働契約の期間の末日が、子の1歳の誕生日の前日から2歳の誕生日の前々日までの間である場合、

②書面又は口頭で労働契約の更新をしない旨が明示されており、申出時点で締結している労働契約の期間の末日が、子の1歳の誕生日の前日から2歳の誕生日の前々日までの間である場合、

などは、この要件を充たさないとされています。


3.改正労働契約法との関係など

 具体例でみていくと、例えば、1年更新の契約社員で2年目が6月経過したところで妊娠6箇月と判明、それから5箇月ほど経ったところで出産、産休から育児休業に入るとすると、育児休業終了は3年目の11月経過した時点となります。問題になるのは、この労働契約の更新回数の上限が2回までとあらかじめ明示されていた場合です。この場合には、要件2.(1)及び(2)は充たしていますが、(3)を充たしているとはいえず、育児休業を申し出ることができません。

 しかし、実務上の取扱いはなかなか困難な問題が生じる可能性があります。まず、業務遂行目的に重点が置かれている場合ですが、この場合には、当該契約社員の専門的業務遂行能力に依存して3年で一定の成果をあげることがそもそもの契約の目的ですから、育児休業を与えなくてよいとしても事業主側の当初の思惑が大幅に狂うことは必至です。また、雇用期間に重点が置かれている場合も、事業主側にこの契約社員に産休明け後の育児休業を与える義務は生じませんが、実際問題として当該契約社員が産休明け後ただちに業務遂行可能な状態になれるのか問題になってくることでしょう。

 諸事情を勘案して、契約更新を繰り返して育児休業を与えると、本年4月から施行される改正労働契約法18条無期転換権の問題が絡んできます。即ち、本年4月以降に開始又は更新される有期労働契約が更新を繰り返して5年を超える段階に入ると当該契約社員は無期転換の申込みができるようになる点に注意が必要です。

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障害者雇用促進法における法定雇用率引上げ等

1.障害者雇用率制度

 障害者雇用促進法(「障害者の雇用の促進等に関する法律」)では、事業主に対して、その雇用する労働者に占める身体障害者及び知的障害者の割合が一定率(法定雇用率)以上になるよう義務づけています(精神障害者については雇用義務はありませんが、雇用した場合は身体障害者又は知的障害者を雇用したものとみなされます)。この法律では、法定雇用率は「労働者の総数に占める身体障害者及び知的障害者である労働者の総数の割合」を基準として設定し、少なくとも5年ごとにこの割合の推移を考慮して政令で定めるとしています。

 この法定雇用率が、平成25年4月1日から民間企業の場合で現行の1.8%から2.0%に引上げられます(「障害者の法定雇用率引上げ」)。これにより、現行の雇用率では従業員56人以上の全ての企業が最低1人の身体障害者又は知的障害者を雇用しなければならないとなっていたのが、改正後は従業員50人以上の全ての企業となります。

 50人×0.02=1人 (56人×0.018=1.008人)


2.障害者雇用納付金の取扱い

 障害者雇用納付金制度とは、法定雇用率を下回っている事業主(従業員200人超)から、法定雇用障害者数に不足する人数に応じて納付金を徴収し、それを財源に法定雇用率を上回っている事業主に対して障害者雇用調整金、報奨金、各種の助成金を支給する制度です。

 障害者を雇用するには、作業施設及び設備の改善や職場環境の整備など、経済的負担が伴います。この納付金制度は、障害者を多く雇用している事業主の経済的負担を軽減し、事業主間の負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めることを目的としています。

 障害者雇用の企業担当者がおそれる社名公表 納付金は月5万円


3.精神障害者の雇用義務付けの動き

 また、法定雇用率引上げとは別に、精神障害者の雇用義務付けの動きが出てきています。大手紙の報道によれば、「厚生労働省の労働政策審議会の分科会は14日、障害者雇用促進法で精神障害者の雇用を義務付ける必要があるとする意見書をまとめた。これを受け、同省は改正法案を作成し、21日に開かれる分科会で議論する。分科会で合意が得られれば改正法案を今国会に提出し、5年後の2018年4月の施行を目指す。」(精神障害者「雇用義務化を」 厚労省審議会(日本経済新聞電子版))と伝えられています。

改正高年齢者雇用安定法と同日得喪

1.継続雇用と同日得喪の問題

 新年度を迎える平成25年4月1日から、特別支給の厚生年金等の支給開始年齢が61歳に引上げられます。正確には、昭和28年(1953年)4月2日以降生まれの男性(厚生年金の場合女性は5年遅れ)から、支給開始年齢が現状の60歳から61歳に引上げられ、その後、昭和30年4月2日以降生まれ62歳、昭和32年4月2日以降生まれ63歳、昭和34年4月2日生まれ以降64歳、昭和36年4月2日生まれ以降65歳と段階的に引上げられることが決まっています(「改正高齢者雇用安定法_65歳まで雇用義務付け」)。

 これに対応して、国は高年齢者雇用安定法を改正して、徐々に拡がる無年金期間を埋めるために企業に対して65歳までの雇用延長を義務付ける高年齢者雇用安定法を整備強化します。すなわち、平成16年改正法では、労使協定で基準を設ければ、その基準に従って継続雇用の対象となる者を絞り込むことが認められていましたが、このような労使協定による絞込みが原則として許されなくなります。

 そこで、1つ非常に技術的な話なのですが、社労士などの専門家の間で話題になっていた問題がありました。それがいわゆる「同日得喪」の問題です。ところで、65歳までの雇用延長の義務付けは、国が年金支給の引上げを断行したことによって生じる無年金期間を国が企業にお願いして穴埋めしてもらうという側面があります。そこで、企業としてもない袖は触れないので、定年延長や定年制度そのものの廃止といった手段は通常採用せず、これまで通り一旦60歳で定年退職とし、継続雇用制度(勤務延長制度及び再雇用制度)、特に嘱託社員などとして再雇用する制度を採用して賃金その他待遇面の調整を行うという制度が全体の8割以上(「平成24年「高年齢者の雇用状況」集計結果」)を占めています。こういった事業所の大部分は、年金の支給及び高年齢雇用継続給付の利用も考慮して再雇用後の賃金を相当程度減額します。その場合、厚生年金保険及び健康保険の社会保険料の金額ですが、通常ならば標準報酬月額は再雇用後4箇月目に変更される随時改定制度によらなければならないところ、再雇用後の初月に改定される特別措置が設けられていました。この制度は、「特別支給の老齢厚生年金の受給権者である被保険者であって、退職後継続して再雇用される者については、使用関係が一旦中断したものと見なし、事業主から被保険者資格喪失届及被保険者資格取得届を提出させる取扱いをして差し支えない」とするものです。

 この「事業主から被保険者資格喪失届及被保険者資格取得届を提出させる取扱い」を称して「同日得喪」と呼ばれる制度は、これまで「特別支給の老齢厚生年金の受給権者である被保険者であって、退職後継続して再雇用される者については、...」となっていたため、それでは、60歳時で無年金の昭和28年(1953年)4月2日以降生まれの男性には適用されず、60歳到達で再雇用されても引下げられる以前の賃金を基に計算された標準報酬月額が再雇用後の3箇月についても適用されるのではないかという問題が指摘されていたのです。


2.同日得喪規定の微調整

 このような問題点が指摘されていたことを踏まえて、4月1日から「60歳以上の者で、退職後継続して再雇用されるものについては、使用関係が一旦中断したものと見なし、事業主から被保険者資格喪失届及被保険者資格取得届を提出させる取扱いをして差し支えない」と改正されることになりました。これで、60歳時で無年金の昭和28年(1953年)4月2日以降生まれの者にも無事「同日得喪」が認められるようになります。さらに、65歳を過ぎてから継続雇用制度が始めて適用になるような者にも制度の適用が拡げられると考えられます。

 さて、この「同日得喪」ですが、年金機構のチラシでは3月31日に退職、4月1日喪失及び取得の事例が挙げられています。それでは、月中で定年退職及び再雇用だとどうなるのか。この答えは、この記事を書いていてわかりました。同日得喪とは資格喪失届と資格取得届を同時に出すことであって、なぜそのようなことをするのかということをよくよく考えて見ることです。原則的な、A社を3月15日に退職し、全く別会社のB社に翌16日に転職した場合を考えてみると、3月の厚生年金等の被保険者資格は当然B社によるものとなり、標準報酬月額はB社での資格取得時決定により定められます。この考え方を月中の「同日得喪」にもそのまま当てはめれば、再雇用後の資格取得月から新しい(従来より低い水準の)標準報酬月額に対して保険料が課せられることになります。

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継続事業の一括

1.制度の概要

 さて、昨日の「社会保険の一括適用」に引続き、今日は労働保険の「継続事業の一括」についてまとめてみます。労働保険の保険関係についても個々の適用事業単位に成立するのが原則ですから、一つの会社でも支店や営業所等ごとに数個の保険関係が成立することになります。

 しかし、事業経営の合理化、とりわけコンピュータの導入による事務処理の普及等により、賃金計算等の事務を集中管理する事業所が増加していることから、事業主及び政府の事務処理の便宜と簡素化を図るため、一定の要件を満たす継続事業については、政府が指定した一つの事業(指定事業といいます)で、支店や営業所等をまとめて労働保険料の申告納付ができることを「継続事業の一括」と呼んでいます(徴収法9条)。この、継続事業の一括を受けるためには、都道府県労働基準局長を経由して厚生労働大臣の認可が必要です。

 ただし、「継続事業の一括」取扱いは、労働保険料の申告納付の便宜と簡素化を図るための手続ですから、認可を受けた場合であっても、被一括事業の労災保険給付の事務や雇用保険の被保険者の資格に関する事務等は、その労働者の属する事業所の労働基準監督署長又は公共職業安定所長が行うことになります。とりわけ労災の給付申請については一括の効果は一切及びませんが、雇用保険については、被一括事業に総務機能がない場合にそこを管轄する公共職業安定所に非該当承認申請書を提出することによって、指定事業がその指定事業を管轄する公共職業安定所で雇用保険の手続事務を行うことができるようになります。


2.「継続事業の一括」の要件及び効果

 「継続事業の一括」の要件は、次に掲げるとおりです。

(1)本社等と支店、営業所などの出先事業場の事業主が同一であること。また「事業の種類」が同じであること。
(2)それぞれの事業が、継続事業で保険関係が成立していること。
(3)それぞれの事業の保険関係区分(労災・雇用保険の一元適用事業等の区分)が同一であること(註)。
(4)本社等において、支店、営業所など出先事業場の労働者数・賃金の明細の把握ができること。

 「継続事業の一括」が認可されると、全ての労働者は指定事業に使用される労働者とみなされます。従って、指定事業以外の事業の保険関係は消滅します。そこで、指定事業以外の事業の保険関係消滅に伴う労働保険料確定精算の手続を行います。一方、指定事業は被一括事業の分の事業規模が拡大することになります。これによって増加概算保険料の納付要件に該当することになる場合には、増加概算保険料を納付する手続を行います。

(註)一元適用事業であって労災保険に係る保険関係のみが成立している場合は一括できません。


3.「継続事業の一括」の申請手続き等

 支店又は営業所等の新設又は追加の場合の手続は以下のとおりです。

(1)支店又は営業所等を管轄する労働基準監督署に労働保険の保険関係成立届「様式第1号」(第4条関係)を提出し、窓口で徴収法9条に基づく継続事業一括申請する予定である旨申し出ます。 そのうち1部は、事業主控として、労働保険番号を付与して返されます。
(2)つぎに(1)の内容を記入した継続事業一括申請書「様式第5号」(第10条関係)を指定事業(本社等)を管轄する労働基準監督署に提出します。そのうち1部は、事業主控として返されます。なお、新規が2件以上の場合は、継続事業一括申請書の続紙「適用事務様式34」を使用することになります。

 支店又は営業所等の名称、所在地が変更になった場合、継続事業一括事業名称、所在地変更届「様式第5号」(新規の申請(2)の継続事業一括申請書と共通様式)を指定事業(本社等)を管轄する労働基準監督署に提出します。


4.36協定の本社一括届出手続き等

 36協定の本社一括届出手続きは、これまで全ての事業場について1つの過半数労働組合と36協定を締結している場合のみ、本社一括届出が可能でした。令和3年4月から本社一括届出の要件が緩和され、事業場ごとに労働者代表が異なる場合であっても、電子申請に限り36協定の本社一括届出が可能となります。

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社会保険の一括適用と本社管理

 全国に支店又は営業所を有する大企業、事業所を本社と工場を複数の県にまたがって置いている企業など、事業所が1箇所ではない企業は世の中にいくらでも存在します。しかし、社会保険の適用は事業所ごとが原則ですので、複数の事業所をまたがる転勤など異動が行われるたびに届出が必要になってきます。そのような面倒を回避する手段として、一括適用制度が存在します。実務的にはかなり重宝する制度ではないかと思い、採り上げることにしました。


1.制度の概要

 一括適用とは、船舶を除く適用事業所について、本社で人事、給与等が集中的に管理されており、事業主が同一である等、一定の基準を満たす場合には、本社について支社等を含めた一つの適用事業所とすることの申請を行うことができる制度です。申請が承認されると、本社・支社等間の人事異動の際必要である被保険者の資格取得及び喪失届の提出が不要となり、手続の効率化を図ることができます。一括適用制度は、厚生年金保険法8条の2及び健康保険法34条に定められています。


2.一括適用の基準及び申請手続き

 一括適用の承認を受けるためには、厚生年金保険及び協会けんぽ管掌の健康保険について、次のすべての基準を満たす必要があります。

(1)1つの適用事業所にしようとする複数の事業所に使用されるすべての者の人事、労務及び給与に関する事務が電子計算組織により集中的に管理されており、適用事業所の事業主が行うべき事務が所定の期間内に適正に行われること。
(2)一括適用の承認により指定を受けようとする事業所において、上記(1)の管理が行われており、かつ、当該事業所が一括適用の承認申請を行う事業主の主たる事業所であること。
(3)承認申請にかかる適用事業所について健康保険の保険者が同一であること。
(4)協会けんぽ管掌の健康保険の適用となる場合は、健康保険の一括適用の承認申請も合わせて行うこと。
(5)一括適用の承認によって厚生年金保険事業及び健康保険事業の運営が著しく阻害されないこと。

 一括適用の承認申請の具体的な手続は、指定様式の申請書を作成した上、一つの適用事業所とみなされる事業所について次の内容を説明した文書の提出が必要です。

(1)人事、労務及び給与に関する事務の範囲及びその方法
(2)各種届書の作成過程及び被保険者への作成過程又は届出の処理過程
(3)被保険者の資格取得及び喪失の確認、標準報酬の決定等の内容を被保険者へ通知する方法及び健康保険被保険者証(協会けんぽ管掌の健康保険の場合)を被保険者へ交付する方法

 一括適用の承認申請は、1つの適用事業所(通常、本社)とみなされる適用事業所の所在地を管轄する年金事務所において行います。承認までに要する期間については、申請から約3箇月とされていますが、承認は算定基礎届の事務処理期間である5月から8月を除く月の末日となり、承認日から1つの適用事業所とみなされることになります(承認日が属する月の厚生年金保険等の保険料から、1つの適用事業所とみなされた適用事業所で社会保険料の支払いを行います。)。

一括適用の基準及び申請手続き

3.一括適用の承認基準を満たさない事業所

 さて、ここまで説明してきた一括適用制度は、その承認要件として、全ての被保険者について電子計算組織により集中的に管理されていること、届出を電子媒体、電子申請で行うことができること、が挙げられていました。それでは、そうではない事業所については、一括適用の便宜を受ける余地はないのかというとそうでもないようです。一括適用事業所の承認要件を満たさない、又は満たしていても「一括適用」の申請を希望しない事業所についても、支社等の被保険者の人事管理を本社で一括して行っている場合に当該被保険者の社会保険の手続を本社で一括して行える「本社管理」の取扱いという仕組みが利用できます。

 「本社管理」の取扱いという仕組みとは、一括適用事業所の承認を受けられない事業所であっても、人事や給与等を一括管理している一部の方について本社の被保険者とするというものです。「本社管理」の取扱いの仕組み等については、旧社会保険庁時代に次のような資料が配布されています。

本社管理による社会保険事務の実施について