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兼業・副業と社会保険など

 厚生労働省が公表しているモデル就業規則で兼業・副業に肯定的な条文が書き加えられ、経済産業省などが兼業・副業を奨励する立場をとっていることから、今後兼業・副業に係る労働問題が増えてくることが予想されています。狭義の社会保険における特定適用事業所も念頭において短時間労働の兼業・副業をした場合の社会保険の適用についてまとめてみます。


1.労働保険

 労災保険については、労働基準法が適用されるすべての労働者が対象ですから、兼業・副業が特に問題になることはないでしょう。論点になりそうなのは、休業補償、障害補償、遺族補償等のベースになる賃金額です。これは、災害が発生した勤務先での賃金額のみに基づき算定されます。また、勤務先Aから勤務先Bへ向かう途中の移動時に起こった災害は、通勤災害として移動の終点たる事業所、つまり勤務先Bの保険関係に基づき処理されるということになります。

 次に、雇用保険ですが、適用事業所においては、週20時間以上の労働時間働き、かつ、31日以上雇用が見込まれる者については、事業主に雇用保険に加入させる義務があります。各事業所ごとに個別で判定されますので、A社で20時間未満、B社でも20時間未満ならば、雇用保険関係は成立しないことになってしまいます。逆に、両社で雇用保険関係が成立している場合には、労働者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係のある事業所で被保険者となります。


2.社会保険

 厚生年金保険および健康保険の社会保険への加入義務の有無は、次のようなフローで確認されます。ただし、※の項目は、特定適用事業所のみ適用されますので、それ以外の事業所は無視して良い項目です。

(1)1週間の所定労働時間が20時間以上か※
 1週間の所定労働時間が20時間未満であれば、事業所で社会保険に加入させる義務はありません。所定労働時間が1箇月単位で定められている場合、52分の12を掛け、1年単位の場合は、52分の1を掛けて1週間の所定労働時間を求めます。

 所定労働時間が20時間未満であっても、実際の労働時間が直前の2箇月をみて週20時間以上で、今後も同様の状態が見込まれる場合、週20時間以上となります。

 一般の適用事業所および特定適用事業所で(1)20時間以上は、(2)を確認します。

(2)1日の所定労働時間が、正規労働者に比べて概ね4分の3以上、かつ、1箇月の所定労働時間が、正規労働者に比べて概ね4分の3以上か

 一般の事業所については、1日の所定労働時間が、正規労働者に比べて概ね4分の3未満、または、1箇月の所定労働時間が、正規労働者に比べて概ね4分の3未満ならば、事業所で社会保険に加入させる義務はありません。ただし、所定労働時間がそうであっても、実際の労働時間が直前の2箇月をみて4分の3以上であり、今後も同様の状態が見込まれる場合、4分の3とみなされます。つまり、あくまで実質を見るということです。

 特定適用事業所は、1日の所定労働時間が、正規労働者に比べて概ね4分の3未満、または、1箇月の所定労働時間が、正規労働者に比べて概ね4分の3未満ならば、(3)、(4)、(5)の要件を確認してゆきます。

(3)継続して1年以上使用される見込みがあるか※
 継続して1年以上使用される見込みがなければ、事業所で社会保険に加入させる義務はありません。ただし、労働条件通知書、雇用契約書などで1年未満になっていても、契約が更新される旨が記載されている場合や同様の契約が更新により1年以上になっている実績がある場合、継続して1年以上使用される見込みがあるとみなされます。

 継続して1年以上使用される見込みならば、(4)を確認します。

(4)報酬は月額換算で88000円以上か※
 報酬は月額換算で88000円未満ならば、事業所で社会保険に加入させる義務はありません。

 臨時に支払われる賃金、1箇月を超える期間ごとに支払われる賞与等、時間外労働・休日労働・深夜労働に対して支払われる割増賃金等、精勤手当・皆勤手当て、通勤手当、家族手当等は含まれません。
 
 報酬は月額換算で88000円以上ならば、(5)を確認します。

(5)学生ではないか※
 学生は、事業所で社会保険に加入させる義務はありません。ただし、大学の夜間部、高等学校の夜間定時制課程の者、卒業見込みで卒業前に卒業後勤務予定の事業所で就業している者、休学中の者などは、学生の適用除外には含まれません。

 特定適用事業所で、要件をすべて満たす者については、所定労働時間が常勤者の4分の3であっても事業所で社会保険に加入させる義務が生じます。

 特定適用事業所以外の一般の適用事業所については、兼業・副業の場合でも、事業所ごとに(2)の4分の3ルールを当てはめて判断するということになります。しかし、そもそも兼業・副業をするということは、賃金を増やすことが目的ですので、現行130万円未満に抑えて国民年金の3号被保険者、健康保険の被扶養者となっている場合、複数の事業所から受ける賃金の合計が年収130万円以上となれば、各事業所で所定労働時間が4分の3未満であっても、3号被保険者には非該当となり、被扶養配偶者からも外れることになります。

 ちなみに複数の事業所でそれぞれ社会保険に加入する要件を満たした場合には、複数の社会保険に加入することになります。この場合には、被保険者本人が「健康保険厚生年金保険被保険者所属選択二以上事業所勤務届」(略称「二以上事業所勤務届」)を日本年金機構(および健康保険組合)に届け出る必要があります。二以上事業所勤務届が提出されると、複数の事業所で受け取る報酬を合算して標準報酬月額が決定され、2つの適用事業所で受けている報酬を合算して社会保険料が計算され、それぞれの報酬に応じて按分された社会保険料を各事業所で支払うことになります。

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コメント

約半数は兼業認めず

令和元年日経連の労働時間等実態調査、回答企業数276社によれば、フレックスタイム制の導入企業がほぼ5割、固定残業手当制が2割程度でした。副業・兼業を認める予定はないとする企業は、50%強でした。導入しない理由として安全配慮義務に対する懸念を上げる企業がかなりあったのは、健全といえます。

2019年11月25日 18:11 from ヨコテ URL

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