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遺族補償年金の男女差に違憲判決

 地方裁判所の段階でしたが、過般公務員の遺族補償年金について「受給資格の男女格差には合理的な根拠がなく、法の下の平等を定めた憲法14条に反する」という判決が下されました。

 この事案は、堺市に住む女性教諭の遺族である夫が原告となり、地方公務員災害補償基金にその処分の取消しを求めたものです。亡くなった女性教諭は、勤務先の中学校での校内暴力などで1997年にうつ病を発症し、夫が51歳だった98年に自殺。2010年に労災にあたる「公務災害」と認められ、夫は遺族補償年金の支給を求めました。しかし、地方公務員災害補償基金は11年、支給対象は夫を亡くした妻か、妻の死亡時に55歳以上の夫とする地法公務員災害補償法の規定を理由に不支給としたものです。

 判決は、この規定について、1967年の制定時とは異なり、90年代には女性の社会進出が進んで共働き世帯が専業主婦世帯を上回ったことや、男性の非正規雇用が増加しているという社会情勢の変化に言及し、「配偶者の性別により、受給権の有無が異なる取り扱いはもはや合理性がない」と認め、「規定は差別的で違憲だ」と結論付けました(地方公務員の遺族補償年金受給、男女差は違憲 大阪地裁)。

 「法の下の平等」を杓子定規に当てはめれば確かにその通りなのですが、何よりも「男子たる者の矜持」を死語にして穴に埋めて葬ってしまって良いのか、と感傷に耽ることぐらいは許されるのでしょう。とはいえ、この大阪地裁判決が確定してしまうと、労災保険又は社会保険などにも波及するおそれがありますので、これらの遺族年金の受給資格についてどのように定められているのか、もう一度見直しておきたいと思います。

 まず、民間企業の業務上の事由又は通勤による死亡ということですと、労働者災害補償保険法が適用されます。この法律が適用された場合の遺族補償年金又は通勤による遺族年金の受給資格者は、労働者の死亡の当時、その収入によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹です。ただし、妻以外のものについては、労働者の死亡の当時を基準に、一定の年齢条件又は障害の状態にあることの条件が付されます。「夫」、父母、祖父母は、55歳以上又は障害等級5級以上とされています。また、配偶者の死亡当時55歳以上60歳未満で障害の状態ではなかった「夫」、父母、祖父母への支給の開始は、60歳到達からとなります。これは、55歳から60歳到達までの期間が遺族補償年金又は遺族年金の額の計算基礎とはならないという考えからです。なお、年金額は、受給権者及びその受給権者と生活を同じくする受給資格者の合計数によって、給付基礎日額の153日から245日分とされています。

労災遺族補償年金

 次に、国民年金の遺族基礎年金です。これは、現行被保険者等が死亡の当時、その者によって生計を維持していた「子のある妻又は子」のみが受給資格者であり、子の要件は18歳到達後に訪れる最初の3月31日まで(障害等級1級又は2級に該当する子の場合は20歳まで)です。しかし、この制度は平成26年4月から改正法が施行されると、「子のある配偶者又は子」に受給資格が拡大されることが決まっています。要するに、「夫」も妻と同様に遺族年金の受給資格者となるということです。従って、遺族基礎年金に関しては、今回の判決の影響は及ばないものと思われます。

 第三に、遺族厚生年金です。被保険者等の死亡の当時、その者によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫、又は祖父母です。ただし、妻以外の者については、被保険者等の死亡の当時を基準に、一定の年齢条件又は障害の状態にあることの条件(註)が付されます。「夫」、父母、祖父母は、55歳以上(又は障害等級1級又は2級)とされています。また、配偶者の死亡当時55歳以上60歳未満の「夫」、父母、祖父母への支給の開始は、60歳到達からとなります。つまり、55歳から60歳到達までは、遺族厚生年金の支給が停止された状態になるということです。

 最後に、業務上の事由又は通勤による死亡の場合で、労災による遺族補償年金又は遺族年金と国民年金又は厚生年金保険制度からの遺族年金の両方が支給されるとき、それらの調整についてですが、遺族基礎年金又は遺族厚生年金は全額支給され、労災による遺族補償年金又は遺族年金の方が一定の調整を受けて併給されることになります(年金の併給について(遺族年金2)_8月2日)。

(註)1級又は2級の障害の状態にあることという条件の適用は、平成8年4月1日前までに被保険者等が死亡した場合に限られます。従って、現在は55歳以上の年齢条件のみで年金の受給資格が判定されます。

1票の格差

1.「1票の格差」最高裁判決

 本日15時頃に、昨年12月に実施された衆院選挙に関するいわゆる「1票の格差」についての最高裁による憲法判断が示されることになっています。

 「1票の格差」訴訟とは、衆議院小選挙区制などで選出される議員1人当たりの人口(有権者数)が選挙区によって違うため、人口(有権者数)が少ない選挙区ほど有権者1人の投じる1票の価値は大きくなり、逆に、人口(有権者数)が多い選挙区ほど1票の価値は小さくなっていると考え、憲法第14条に規定された法の下の平等に反するとして提起されている訴訟のことです。

 最高裁判所は、これまで2倍を超えても合憲判決が出されることが多く、著しい格差のみ違憲ないしは違憲状態との判決が出されています。投票価値の不平等が一般的に合理性を欠く状態が「違憲状態」であり、これが合理的な期間内に是正されない場合に違憲とされます。ただし、定数配分を違憲ないし違憲状態とする判決においても、事情判決の法理によって選挙そのものは有効とされているようです。すなわち、「今回は大目に見ますが早く是正措置を取りなさいよ」という警告が「違憲状態」判決であり、明確に憲法に反し、本来は選挙無効やり直しとなるはずなのが「違憲」判決ですが、その間に「違憲だが、当該選挙に限って有効性を認めます」というのがあり、その根拠として使われるのが「事情判決の法理」(註)というものです。

(註)事情判決とは、行政処分や裁決が違法だった時、裁判所はこれを取り消すのが原則だが、「取り消すと著しく公益を害する(公共の福祉に適合しない)事情がある場合」には請求を棄却できるという行政事件訴訟法上の制度のことです。「1票の格差」訴訟においては、事情判決の規定の適用ではなく、事情判決の法理を用いるという形で「違憲であるが、選挙自体は有効」と判断することが行われています(最高裁判所昭和51年4月14日大法廷判決など)


2.1票の格差問題をどう考えるか

 1票の格差を判断する基準が、およそ2倍とされています。そもそも、格差の計算で、(1)選挙権のない未成年者も含めた全人口で計算するのか、(2)有権者のみで計算するのか、(3)有権者の中で投票所に出かけて権利を行使した票数で計算するのか、国により考え方が分かれます。それはさておき、平等原則を突き詰めていくと格差をなくすことを目指してひたすら区割りを見直すか、国会議員の選出は大選挙区完全比例代表制にするという極論に行き着きます。しかし、前者については、実務的に非常に困難が伴うことが予測されます。つまり、人口動態に合わせて選挙区を見直すたびに国会議員本人は言うに及ばす、地域住民の利害関係がその都度ぶつかり合うことになり、そもそも必要のない対立の種を蒔いて歩くような結果になりかねません。また、後者の大選挙区完全比例代表制というのは、国会議員は地域の代表ではなく、国政を議論するのが本来の仕事であるのだから、それでよいのだという主張は論理的には成り立ちうるとは思います。しかし、国会が1億人を超える日本国民の様々な利害対立を調整する議論の場であることを勘案すると、大選挙区比例代表制はあまりに雑で、伝統を無視した机上の空論のように思えてなりません。

 1票の格差は、国の代表であると同時に地域代表を選出するという性格を併せ持つ小選挙区制及び中選挙区制を取る限り、必ず生じてきます。しかも、一般的には、東京や大阪のような人口を引き寄せる大都市の1票の価値は、人口減少傾向の強い過疎地に比べ、年月を経過するに従い相対的に薄まるという現象です。そこで、ただでさえ、経済力で大都市に太刀打ちできない地方都市、さらには過疎の村の住民が、それを補う意味で相対的に高い価値の1票をもっていたとしても、あまりに非常識な格差でない限り、目くじらを立てるなという議論も成り立ちます。

 かつて、大都市住民から徴収した税金を地方にばら撒いて票を買うという行為が象徴的に視覚化されて、公共投資無駄論と併せ世間の批判を受けたこともありました。しかし、国土全体を見渡して、どんな過疎地域も見捨てずに国土の均衡的な繁栄に留意していくことは、第一義的に重要なことです。無駄を省くと称して、地方を切り捨ててしまうことは、地方自治の理念からも到底許容されるものではありませんし、そもそも国土の保全が徐々にできなくなっていくおそれが高まります。

 論点からずれましたが、区割制の下で「1票の格差」問題を突き詰めて行くと、論理的にも実務上も様々な問題が生じる可能性が高く、誰もが非常識と思えるような大きな格差が生じていない限り、許容して行くという結論にならざるを得ないと思います。問題は、「誰もが非常識と思えるような大きな格差」に結構な幅があるということです。個人的には、曲がりなりにも選挙で選ばれた立法府に対する司法府の介入は最小限度にすべきと思量します。また、過疎地の選挙区の1票の価値が東京の3倍~4倍くらいであったとしても問題にならないかもしれませんが、逆に東京の価値が過疎村の1票より価値が高かったら、2倍であっても非常識と判定すべきかもしれません。


(補足)2013年7月14日参院選 無効判決
参院選 初の無効判決 今年7月 一票格差、違憲 高裁岡山支部

東京国立博物館

リコー出向命令事件

 新聞報道などによれば、技術職から物流子会社への出向は自主退職を促すためだなどとして、リコー(東京)の社員2人が同社を相手取り、出向義務がないことの確認や損害賠償などを求めた訴訟の判決が12日、東京地裁であり、篠原絵理裁判官は「人事権の乱用」と認定し、出向命令の無効を言い渡したとのことです。なお、会社側は、判決を不服として、直ちに控訴した模様です。

 リコーの出向命令は無効=退職拒否社員に「人事権乱用」-東京地裁

 単に「出向」という場合、在籍出向と転籍出向という2種類の出向が含まれています。在籍出向とは、出向元の会社に席を置きながら、関連会社などに出向することです。これに対して転籍出向とは、出向元の会社を一旦退職して出向先の会社に再就職するようなものですから、出向元の会社に戻ることができる特約でもない限り、原則として当事者の同意が必要です(民法第625条第1項)。

 在籍出向については、従業員からの個別の同意が必要とする個別同意説と包括的な同意で足りるとする包括同意説がありますが、就業規則又は労働協約等の一定の根拠が存在する場合、個別具体的な従業員の同意が得られなくとも出向が有効であるとした判決があります(出向命令_新日鐵事件)。 

 ただし、、平成20年3月1日施行の労働契約法は、第14条で出向命令と権利の濫用法理について規定を設けており、「その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、」権利の濫用と認められた場合、その出向命令は無効になるとしています。今回の東京地裁判決の根拠は、この条文によるものかと推察されます。

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団体交渉における社労士業務と役割

 11月7日木曜日に開催された東京都社労士会の2013年前期必須研修において、「団体交渉における社労士業務とその役割」についてと題して寺田晃統括支部長が講師をされた講義は、大変興味深いものとなりました。講義の内容は、今後の業務を考える上で大いに参考になるものでしたので、要点をまとめておきたいと思います。


1.社労士業務

 まず、社会保険労務士法から社労士業務をまとめておきます。社労士業務は同法2条1項に挙げられています。

(1)手続業務:労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、異議申立書、再審査請求書その他の書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)をいう。以下同じ。)を作成すること。

(1)-2 申請書等について、その提出に関する手続を代わつてすること。
労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、異議申立て、再審査請求その他の事項について、又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述(厚生労働省令で定めるものを除く。)について、代理すること(「事務代理」という。)。

(2)帳簿書類作成:労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含み、申請書等を除く。)を作成すること。

(3)事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること。

 (3)には、かつて「労働争議に介入することとなるものを除く。」という括弧書きが付され、また、23条には、「労働争議に介入してはならない。」旨規定されていましたが、平成17年第7次改正で削除されました。

 社会保険労務士法が制定された昭和43年当時、法が想定した労働争議「介入」とは、次のような場合であるとされています。

(A)労使紛争の当事者双方の中に割って入り、交渉妥結のために斡旋又は調整といった機能を果たす場合。
(B)一方の当事者の代理人として、その当事者のために相手方と折衝等の任に当たる場合。
(C)表面には出てこないで、法律解釈又は争議対策の検討等、相談・指導に応じる場合。


2.第7次改正後の社労士業務

 そこで重要なことは、3号業務に付されていた「労働争議に介入することとなるものを除く。」という括弧書き、及び、23条「労働争議に介入してはならない。」旨の規定が削除された結果、どのような効果が生まれたかということです。

 これについて言及した、平成18年3月1日 厚生労働省基発第0301002号庁文発第0301001号の骨子は、「社労士は、業として当事者の一方が行う争議行為の対策の検討、決定等に参与することができることとなる。しかし、労働争議時の団体交渉において、一方の代理人となることは、法第2条第2項の業務には含まれない」ということです。

 また、平成18年6月30日付け連合会見解は、「(労働協約締結時の)団体交渉の場に、当事者の一方とともに出席し、交渉することは法第2条1項3号の業務に含まれ、弁護士法第72条に反しない限り、当然社会保険労務士の業務であり、法改正後は、労働争議時における団体交渉についても、(労働協約締結時の解釈)と同様と解釈する」と述べています。

 ただし、ここで注意が必要なことは、(A)労使紛争の当事者双方の中に割って入り、交渉妥結のために斡旋又は調整といった機能を果たすことは、依然できない業務であり、また、(B)一方の当事者の代理人として、その当事者のために相手方と折衝等の任に当たる場合でも、当事者の一方を代表して相手方と折衝に当たるような行為は、不適当と解釈されていることです。


3.団体交渉事始

 社会保険労務士法は、第1条で「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。」と社会保険労務士制度を制定した理念について語っています。社労士が団体交渉にかかわる理由も根底はそこにあるということを肝に銘じておかねばなりません。

 そして、当事者から委任を受けているという点を明らかにするために、「委任状」を書面にしておくことが望まれます。「○○側から委任を受けて交渉委員として出席している社会保険労務士の○×です。どうぞ宜しく。」という感じでしょうか。

 また、交渉にかける時間及び時間帯、出席する人数、議事録の作成など事前に十分検討しておくべき点です。その上で、できる限り丁寧な対応を心がけ、交渉を進めてゆくことが肝要です。

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改正労働契約法の認知度

 本年4月に改正労働契約法が施行されましたが、今回の改正は「有期労働契約の無期転換」など非常に重要な改正点を含むものでした。先月末、連合が行った改正労働契約法に関する電話アンケートの集計結果が発表されています。

 このアンケートは、「有期契約労働者に関する調査」と称して、携帯電話によるインターネットリサーチにより、2013年9月14日~9月23日の10日間において連合が実施したもので、1,000人(調査対象者:週20時間以上労働する民間企業の有期契約労働者)の有効サンプルを集計した結果であるとのことです(調査協力機関:ネットエイジア株式会社)。


1.改正労働契約法の認知状況や施行状況

 今回の改正の内容を知っているかという設問では、「無期労働契約への転換」については、「ルールの内容まで知っていた」が12.2%、「ルールができたことは知っているが、内容までは知らなかった」が24.4%で、それらを合わせた「認知率(計)」は36.6%となりました。6割以上の回答者は「ルールができたことを知らなかった」(63.4%)と回答しています。

 また、「不合理な労働条件の禁止」(註)については、「ルールの内容まで知っていた」方は1割に満たず(6.3%)、7割の回答者は「ルールができたことを知らなかった」(69.9%)と回答しています。新しいルールが定められてから半年が経ちますが、十分に周知されているとはいえない状況のようです。

 これらの認知率は、雇用形態別にみると、パート・アルバイト(それぞれ30.7%、26.0%)は契約社員(それぞれ47.5%、37.8%)よりかなり低い結果になっています。

 次に、最近の労働契約の条件変更の状況について聞いたところ、「これまでに契約期間に上限がなかったが、新しい契約では期間に上限が設けられた」は11.9%、「これまでよりも短い期間での契約を求められた」は6.2%となりました。大学の非常勤講師の契約期間の問題が採り上げられたことなどを考慮すると意外に低い結果です。しかし、30代及び40代男性に限ってみると「これまでよりも短い期間での契約を求められた」割合は、1割超になり、他の性別年代層に比べ高い数字になっています。

 また、改正労働契約法では、「不合理な労働条件の禁止」がルールとして定められ、通勤手当や食堂の利用などについて、「正社員のみ通勤手当支給の対象とする(契約社員は対象外)」、「正社員のみ社員食堂利用の対象とする(パートタイマーは対象外)」といったことは、特段の理由がない限り合理的とは認められないことと解されています。

 そこで、通勤手当の支給や食堂の利用などについて、職場で対象となっているか聞いたところ、制度が存在するのに「対象になっていない」との回答が調査項目中多かったのは、ボーナスと退職金で、「ボーナスの支給」では57.0%、「退職金の支給」では81.7%となりました。「ボーナスの支給」について、職場の労働組合有無の視点からみると、労働組合がある層(379名)では「対象になっていない」は42.7%であるのに対し、労働組合がない層(268名)では61.2%と6割を超えていました。

 また、「通勤手当の支給」では19.7%と5人に1人、「慶弔休暇の取得」では26.0%と4人に1人の割合で「対象になっていない」としました。休憩室や食堂の利用についてもみると、「休憩室の利用」は4.3%にとどまるものの、「食堂の利用」では11.9%と1割となっており、ボーナスや交通費などの賃金、休暇制度や食堂の利用などの福利厚生で正社員との格差があることが明らかになりました。

 有期契約労働者の「無期労働契約への転換」についての考えや気持ちを聞いたところ、「無期契約に転換できる可能性があるのでモチベーションアップにつながる」では、同意率(「非常にそう思う」と「ややそう思う」の合計)は51.6%と半数を超えたものの、「無期契約に転換できると、待遇もあがる可能性がある」は18.3%にとどまったほか、「契約期間が無期になるだけで待遇が正社員と同等になるわけではないから意味が無い」では68.7%となり、待遇改善につながるか不信感を持つ労働者が多いことがわかりました。

(註)有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとしています。


2.有期契約労働者の有給休暇や育児休業について

 「年次有給休暇の取得」及び「育児休業の取得」、「妊娠や出産を理由とした雇止め等の不利益な取り扱いの禁止」についても聞いたところ、「有期雇用契約者でも一定の条件を満たせば、年次有給休暇を取得できること」の認知率は77.0%、「有期雇用契約者でも一定の条件を満たせば、育児休業を取得できること」では39.7%、「有期雇用契約者であっても妊娠したことや出産したこと等を理由として雇止め等の不利益な取り扱いをしてはいけないこと」では57.5%でした。

 男女別にみると、「年次有給休暇の取得」や「妊娠・出産による不利益な取り扱いの禁止」の認知率は男性の方が低く、それぞれの認知率は、「年次有給休暇の取得」が女性の79.6%に対し男性では69.2%、「妊娠・出産による不利益な取り扱いの禁止」は女性の59.7%に対し、男性では50.8%となり、開きがみられました。

 年次有給休暇の取得に比べ、育児休業の取得や妊娠・出産による不利益な取り扱いの禁止は、あまり認知されていない様子が窺えました。

 有期契約労働者でも一定の条件を満たせば、年次有給休暇の取得が可能であることを知っていた回答者の割合は4人に3人の割合と、比較的高くなりました。実際に取得したことがある回答者の割合は、年次有給休暇の取得が可能であることを知っていた770名に、現在の勤務先で、年次有給休暇を取得したことがあるか聞いたところ、「取得したことがある」としたのは70.0%、一方、「取得したことはない」は30.0%となりました。

 取得したことがない回答者が年次有給休暇を取得していない理由は、「まだ条件を満たしていないから」が最も多く37.2%となりました。「6箇月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤」という条件を満たしていないことが最多の理由であったものの、「アルバイト・パートや契約社員なのにと思われそうで取りづらい」(18.6%)、「正社員が有給休暇を取っていないから取りづらい」(9.5%)といった「取りづらい雰囲気」や「休暇を取ると業務に支障が生じるから」(13.4%)、「仕事量が多く取れない」(8.7%)といった「取れない環境」も年次有給休暇取得の妨げになっていることがわかりました。また、「申請したが、ダメと言われた」(9.5%)や「契約更新に影響がありそうだから」(7.4%)との回答も1割弱ありました。


3.有期契約労働者の意識

 業務内容について、正社員と同じか異なるかを聞いたところ、「正社員と同じ」は48.0%、「正社員と異なる」は41.3%となり、半数近くの有期契約労働者の回答者が、正社員と同じ業務内容であると回答していました。

 また、仕事上の責任では「正社員より軽い」(54.4%)が半数以上、残業時間では「正社員より少ない」(59.5%)が半数以上となりましたが、仕事上の責任を「正社員より重い」(11.7%)とした回答者や、残業時間を「正社員より多い」(9.8%)とした回答者が1割前後みられました。また、仕事への姿勢では「正社員より真面目」(48.7%)が半数近く、仕事を遂行する能力では「正社員より高い」(21.2%)が2割となりました。

 有期契約で働くことになった状況を聞いたところ、「自ら進んで」は51.0%、「正社員になれなくて」は35.1%となり、半数は自らの希望で有期契約になったものの、有期契約労働者の3人に1人は正社員になれずに、有期契約で働いていることがわかりました。雇用形態別にみると、正社員になれず、有期契約で働いているのは、契約社員でその割合が高くなり、47.6%と半数近くになりました。そして、今後の働き方の希望を聞いたところ、「このままでよい」が37.5%であるのに対し、「正社員になりたい」は40.7%と、正社員への転換希望を持っている回答者の方が高くなりました。特に、正社員になれずに有期契約で働いている回答者では、当然のことながら正社員への転換希望を持っている割合は高く、73.5%占めています。

 有期契約労働者は、どの程度現在の仕事にやりがいを感じていたり、現在の職場に満足しているのか、回答者に聞いたところ、現在の仕事のやりがいでは、「感じる」が49.3%、「感じない」が24.3%、現在の職場についての満足度では、「満足」が42.0%、「不満」が32.5%となり、やりがいを感じているや現在の職場に満足している回答者が多数派であることがわかりました。

 しかし、有期契約で働くことになった状況によっては傾向が異なり、正社員になれずに有期契約で働いている回答者では、「現在の仕事のやりがいを感じない」割合が、自ら進んでなった回答者よりも10ポイント以上高くなり、現在の職場についての満足度では、不満を感じている方が42.2%で多数派となりました。希望通りの雇用形態か否かが、仕事のやりがいや職場に対する満足度に影響を及ぼしている様子が窺えました。

 また、有期契約労働者の職場に対して抱く不満については、全回答者に聞いたところ、「給料が上がらない」(52.0%)が最も多く、次いで、「給料が安い」(50.7%)が続き、給料に対する不満を持っている回答者の割合が高いことがわかりました。また、給料以外にも「働きぶりが評価されない」(30.1%)や「自分たちの意見を聞いてくれない」(18.7%)という「認めてもらえていないこと」が不満の理由になっている実態が明らかになりました。さらに、「正社員がちゃんと働いていない」(22.0%)も2割以上ありました。

 そして、パワハラやセクハラがあるとの回答もみられ、「パワハラがある」は11.5%、「セクハラがある」は2.3%となりました。

「有期契約労働者に関する調査」(連合)