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20歳前障害による障害基礎年金の請求における取扱い改善措置

 12月16日、厚労省年金局事業管理課長から「20歳前障害による障害基礎年金の請求において初診日が確認できる書類が添付できない場合の取扱いについて」(年管管発1916第3号)が通達されております。

 通達によれば、障害基礎年金の請求に当たり、国民年金法施行規則第31条第2項第6号において、「障害の原因となった疾病又は負傷に係る初診日を明らかにすることが出来る書類を添付すること」としていますが、初診日を明らかにすることが出来る書類を添付することが不可能な場合があることから、初診日の証明について弾力的な運用を行う要請があったとしています。

 今回は、初診日の証明について弾力的な運用として、20歳前障害による障害基礎年金の請求に限り、初診日の証明が取れない場合であっても明らかに20歳以前に発病し、医療機関で診療を受けていたことを複数の第三者が証明したものを添付できるときは、初診日を明らかにした書類を添付したものとみなすことにしたものであり、この措置を平成24年1月4日から実施するとしています。

 ここでいう「第三者が証明したもの」とは、民生委員、病院長、施設長、事業主、隣人等(請求者、生計維持認定対象者、及び生計同一認定対象者の民法上の三親等内の親族は含まれない)が氏名、住所、請求者との関係、請求者の傷病に関して知りうること(発病、事故、症状、初診年月、医療機関名、医療機関所在地、診療担当科名等)が具体的に記入された文書のことで、特段の定型様式があるわけではありません。

 実務的には、年金事務所の窓口などで、「受診状況等証明書」など初診日を証明する書類が添付できない場合、「受診状況等証明書が添付できない理由書」を提出すると共に、身体障害者手帳等の初診日を確認するための参考書類を提出し、その初診日頃の状況を証明できる「複数の第三者証明」を併せて提出します。

註)これまでは、「受診状況等証明書」など初診日を証明する書類が添付できない場合、「受診状況等証明書が添付できない理由書」を提出すると共に、それ以後の一番古い受診受診医療機関から初診日が認定できる書類(受診状況等証明書など)を添付し、併せて身体障害者手帳等の参考書類を提出して、書類及び傷病の性質等を総合的に勘案して初診日の判断を行うことになっていました。
2011_@東京上野浅草周辺+020A

31厚生年金基金 監視対象に

 厚生年金基金は、企業年金の一つです。話を分かり易くするために、我が国の広義の公的年金は3階建ての基本構造になっていると説明しています。すなわち、1階部分の基礎年金、2階部分の厚生年金及び共済年金などの被用者年金、そして3階部分の企業が独自に支給している企業年金です。かつて、企業年金といえば、厚生年金基金のことを指していた時代があるほど、厚生年金基金は一般的な企業年金制度でした。

 しかし、厚生年金基金は、国が支給する厚生年金の一部を基金が国に代わって管理又は運用し、企業独自に支給する本来の企業年金部分と組み合わせて支給するという極めて訳の分からない制度です。その上、厚生年金の代行部分があるために、厚生年金に引きずられて規制が厳しく(厚労省年金局国民年金基金・企業年金課の管轄下にあります)、柔軟に運営しづらいという欠点も目立つようになって来ました。そのため、確定給付企業年金(2002年4月施行)及び確定拠出年金(2001年10月施行)の登場によって、主な大企業においては、厚生年金基金の代行返上が既に遂行されてきており、現在も厚生年金基金を実施しているのは、中小企業が多いと言われています。

 12月24日付日本経済新聞朝刊は、「31基金監視対象に 厚労省、財政健全化を促す」という記事を掲載しています。記事によれば、厚生労働省は、運用の失敗などで積立金が必要額の9割を下回って財政状況が悪化した31厚生年金基金を新たに指定基金として監視対象に加え、基金財政の健全化を促していくとのことです。指定基金になると、掛け金の引上げ及び給付水準の引下げなどを含む5年間の財政健全化計画の作成が義務付けられます。

 2011年度に指定基金となった31基金にそれ以前に指定基金となったものを加えると、指定基金の総数は81基金にのぼり、タクシー、運送業及び建設業などの業界ごとや都道府県単位の中小規模の基金を中心とした厚生年金基金が含まれています。厚生年金基金は、12月1日現在、全体で582基金ありますが、低金利が続いて資産運用が困難になっていることに加え、加入員(つまり現役社員)が合理化や採用抑制で減少している一方、退職者が増えて給付が増加するという構造的な問題を抱えています。

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労災保険料率の引き下げ及びメリット制適用対象の拡大(平成24年度改正案)

 小宮山厚生労働大臣は、12月5日、労働政策審議会に対して、労災保険率を平均で1000分の0.6引き下げることなどを盛り込んだ「労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱」を諮問しました。労災保険料を算定するための労災保険率は、厚生労働大臣が55の業種ごとに定め、過去3年間の災害発生率などを基に、原則3年ごとに改定しています。

 改正案が了承されると、平成24年4月1日から施行となります。


 改正の要点

1.労災保険率の引下げ

 労災保険率を、平均で現行1000分の5.4から1000分の4.8に引き下げます。内訳は、引下げ業種が35業種、据置き12業種、引上げ8業種で、最低水準の金融業・保険業の1000分の2.5から最高はトンネル新設事業などの1000分の89までとなります。

2.メリット制適用対象の拡大

 建設業及び林業で、メリット制適用要件である確定保険料の額を、現行の「100万円以上」から「40万円以上」に緩和し、適用対象を拡大します。これにより、事業主の災害防止努力により労災保険料が割引になる事業場が増加することが期待されます。

2011_@成田山 007A

非伝統的な金融政策「量的緩和」について

1.量的緩和政策の位置付け

 我が国の経済の現状は、ここ数年、特に2008年秋のリーマン・ショック以降、デフレ経済に陥っていることに異論のある人は少ないと思います。デフレは、需要が供給を大幅に下回っている需要不足の状態と言う理解で良いと考えますが、この状態を脱するためには、政府が公共投資を増やし、中央銀行は金融を緩和する政策が不可欠です。

 中央銀行がなし得る金融緩和政策は、通常「政策金利」と呼ばれる短期金融市場金利を調整するもので、金利政策と同義でした。しかし、リーマン・ショック後ほとんどの先進国にあっては、政策金利は実質ゼロにまで引き下げられており、我が国の場合には、リーマン・ショックに先行してバブル崩壊後に採用されたゼロ金利政策が、常態と化している現実があります。

 ゼロ金利政策が実施されている状況下で、なお一層の金融緩和効果を促す政策を非伝統的(unconventional)な金融政策と呼ぶのだそうです。「非正規(irregular)」のと呼んだ方が良いのではということはさておき、この非伝統的な金融政策の本質は、池尾和人慶応大学経済学部教授によれば、「中央銀行のバランスシート自体を活用する方法である。その意味では、非伝統的な金融政策は『バランスシート政策』だと言え、一律に『量的緩和(Quantitative Easing)』と呼ばれることが少なくない」というものです。「証券アナリストジャーナル 2011年12月号」に池尾教授がこれまでに行われてきた主な量的緩和政策について書いておられるものを、覚書程度にまとめてみました。


2.日本銀行の量的緩和政策

 日銀は、2001年3月19日から06年3月9日まで実施した「純粋量的緩和」と呼べるものがあります。これは、金融政策の目標を政策金利から「準備預金残高」に変更する内容を含むものであり、準備預金残高の増加を図る際の買いオペの対象は、伝統的な金融政策と同一の短期の安全資産とするというものでした。

 日銀の量的緩和政策について、池尾教授は、「短期の安全資産(短期国債)と交換に準備預金を供給するといった措置、即ち純粋の量的緩和を行ったとしても、全くの『似た者同士』を交換しているだけに過ぎず、特段の効果は見込めないということになる。・・・日本銀行の実際の量的緩和に多少の効果があった分は、人々の期待に与えた影響(時間軸効果を補強した)と、準備預金残高の目標を引き上げる過程で、その実現のためには買いオペの対象資産を広げざるを得なかったことから来ているとみられる」と述べておられます。


3.米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和政策

 米連邦準備理事会(FRB)は、2008年11月から10年3月まで、FRB自身が「信用緩和(Credit Easing)」と呼ぶ、量的緩和政策を実施しました。この政策は、買いオペの対象を短期の安全資産から証券化商品を始めとしたリスク資産に変更するもので、世間では一般にQE1と称されています。この信用緩和を実施するに際して、FRBはリスク資産を購入する一方で、短期国債の売却も行ってはいましたが、リスク資産の購入額の方がはるかに大きく、その結果として準備預金残高の増加を伴っていたので、この政策は「信用緩和」政策であると同時に「量的緩和」政策であったとされています。

 さらに、FRBは、2010年8月から11年6月にかけて長期国債大量買取りを実施しています。これが、「量的緩和第2弾(QE2)」と呼ばれるものです。

 FRBが採った金融政策は、量的拡大自体をその第一義の目標とするものではなく、QE1の目標は、リスク資産の利回りの引き下げであり、QE2の際のそれは、長期金利の引き下げでした。

 政策金利が実質ゼロになっていても、リスク資産の利回りや長期金利までもがゼロになっているのでない限り、そこに金融緩和余地があるという考え方です。

 QE1は、リーマン・ショック後の金融危機で米国の信用市場が機能不全に陥っていた状況下において実施されました。この時期は、投資家が一斉に危険回避に走る中、多くの金融機関が流動性確保のために資産の大量処分の必要性に迫られ、資産価格が実態と思われる水準を超えて下落(利回りは高騰)する負の螺旋階段状態だったため、リスク資産の利回りの引き下げを第一義に置いた措置は、適切な措置であったと評価できます。

 一方、QE2は、長期金利の低下とそれに伴う株価の上昇及び自国通貨安を促すことを主眼とした措置であり、ゼロ金利下で短期国債と準備預金が完全代替物になっている状況下では、発行済み短期国債の満期構造を変更するに過ぎず、効果は極めて限定的だったと池尾教授は総括されています。しかし、その後の現象としての米国株の上昇及びドル安円高を見る限り、ここまで一定の効果はあったと思われます。

2011_@成田山 002A

休日の振替と割増賃金

1.休日の振替の周辺知識

 就業規則について規定している労働基準法89条では、

 第1号「始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項」
 第2号「賃金(臨時の賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」
 第3号「退職に関する事項(解雇事由を含む。)」

の3項目について必ず就業規則に記載されなければならない事項とされています。休日については、第1号に含まれる絶対的記載事項であることが分かります。

 また、休日の振替とは、予め就業規則等で休日と定められた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とすることです。休日の振替をすることについて就業規則等に休日の振替ができる旨の規定を設けることが必要で、これによって休日を振替えた場合、当該休日は労働日となり、休日に労働させたことにはならなくなるのです。この規定を置くことによって、土日休日の週休2日制を採用している事業所が、仮にある週の土日を労働日として、翌週の月火に振替えることは可能になるし、同じ起算日からの4週間以内であれば、やむを得ず翌々週の月火に振替えることもできることになります。つまり、週休制の会社が必ず週1回の法定休日を従業員に与えなければならないことの例外になるわけです。


2.休日の振替を行う場合の注意点

 ところで、就業規則について書かれた一般的な教科書などを見ると、「始業及び終業の時刻」及び「休日」については、条文の見本付きで丁寧に説明されているのが通常です。「始業及び終業の時刻」に休憩時間について書かれた条文が加われば、必然的に1日の所定労働時間が定まり、さらに「休日」が分かれば、1日の所定労働時間×1週間の所定労働日数 = 1週間の所定労働時間も求められます。

 また、法定「休日」については、休日を毎週1回又は4週間を通じて4日以上と労基法で定められていますが、休日をどのように特定するかまでは特に決められているわけではありません。さらに、週休制を採用している大部分の事業所の場合、1週間の起算日を特に意識して決めている場合の方がむしろ少数派なのではないかと思われます。

 これで通常は、特段問題はなさそうに思われますが、休日の振替を行ったとき、次のようなことを意識しなければならないことがあります。例えば、土日が休日の週休2日制を採用する企業で、始業時刻9時、終業時刻18時、途中昼休みが1時間の事業所があったとします。この会社の従業員Aが、毎日8時間労働、残業なしで来たある週末、突発的な注文への対応が必要になって、土曜日に休日労働しなければならなくなった場合です。前日の金曜日に翌週水曜日との振替を人事・総務などに届出ていたとしても、この会社の1週間が日曜日から起算される1週間であるとすると、当該土曜日の労働は、週40時間の法定労働時間を超える時間外労働として取り扱うことになります。

 これを避けるためには、1週間の起算日を敢えて土曜日と決めておくことです。これによって、振替えられて労働日となった土曜日と翌週の水曜日は、1週間の時間外の算定においても完全に振替えられたことになります。つまり、「休日を振替える場合には、原則として被振替日から1週間以内の特定日を予め振替休日と指定した上で、これを行う」などと就業規則に定めることが多いと思いますが、可能な限り、起算日を同じくする週の中で振替えることが割増賃金の支払いを回避するという意味で最も効果的な方法でもある訳です。

2011_@成田山 011A