正社員の副業後押し 政府指針
安倍内閣は平成28年9月27日、第1回「働き方改革実現会議」を開催し、働き方改革の中身を示す課題として働き方改革会議の9項目を提示しました。その中で、第5番目に掲げられているのが、「テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方」についてです。ちなみに、「同一労働・同一賃金など非正規雇用の処遇改善」が第1番目の項目です。安倍総理は、10月24日に開催された第2回の「働き方改革実現会議」において、副業・兼業を「オープンイノベーションや企業の手段として有効」であり、企業にこれを認めるよう促すと述べたそうです。
今朝の日本経済新聞電子版に「正社員の副業後押し」という記事が掲載されておりました。記事からは「働き方改革実現会議」において述べられたことを着実に実行に移そうという動きが読み取れます。これには少々驚いた浅草社労士です。
浅草社労士は、正社員が在籍したまま他社などに雇用される副業・兼業には否定的です。一方、自営など他社に雇用されない副業ならば、本人が進んでやっていることである限り、原則として会社がとやかく言えることではないだろうと考えています。それは、記事にもありますが、以下のような理由からです
(1)週40時間程度働く一般の正社員を想定すると、必然的に働き方の課題9項目の第3項目、「時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正」の達成とは相反することになる可能性が高いと考えるのが自然です。
(2)労働者の保護を重要な目的の一つにしている労働法体系では、労働者の労働時間管理が非常に重要なはずです。ところが、2以上の事業所で勤務することになると、肝心の労働時間管理がおろそかになることが懸念されます。これは、現行の労働法体系の根幹にかかわる深刻な問題を引き起こすことが懸念されます。
(3)従業員の愛社精神や共同体意識といった従来の日本的経営の強みだった要素が根こそぎ奪われ、日本の会社の特長が失われていくことが懸念されます。
(4)とはいえ、デフレ経済がほぼ20年も続いた結果、2以上の複数事業所で働かざるを得ない労働者は現在でも相当数おられると推定され、マクロ経済的には一刻も早いデフレからの脱却と実質賃金の引き上げが課題なのに、むしろ時間当たりの賃金単価を引き下げる方向に作用することが懸念されます。
=== 日本経済新聞電子版 平成28年12月26日 ===
政府は「働き方改革」として正社員の副業や兼業を後押しする。企業が就業規則を定める際に参考にする厚生労働省の「モデル就業規則」から副業・兼業禁止規定を年度内にもなくし「原則禁止」から「原則容認」に転換する。複数の企業に勤める場合の社会保険料や残業代などの指針もつくる。働く人の収入を増やし、新たな技能の習得も促す。
安倍晋三首相は副業や兼業について「普及は極めて重要だ」との認識を示している。少子高齢化による労働力不足を補い、職業能力の向上で成長産業への雇用の流動化も促すためだ。政府の働き方改革実現会議は年度末にまとめる実行計画に普及の方針を盛り込む。中小企業庁の委託調査によると副業の希望者は370万人に達する。IT(情報技術)関連企業では「会社の資産を毀損しない限り報告も不要」(サイボウズ)にし柔軟な働き方を認めている。自家用車で人を運んで対価を得るライドシェアの米ウーバーテクノロジーズや民泊のようなシェア経済も副業が支える。
副業・兼業の拡大は大きく3段階で進める。まず厚労省が「モデル就業規則」を年度内にも改定する。現行規則では、許可なく兼業・副業をした場合は懲戒処分の対象として罰してきた。新たに改定する規則では、原則的に副業や兼業を認める規定を盛り込む。「同業他社に企業秘密が漏洩する恐れがある」「長時間労働につながる」など例外的に副業が認められないケースも併記し、企業や社員が判断しやすいようにする。モデル就業規則は企業への強制力はないが、中小企業ではそのまま転用する例も多いため、波及効果に期待している。
第2段階として、社会保険料負担のあり方などを示した政府指針(ガイドライン)を来年度以降につくる方向だ。現行の労働法制では、複数の企業で働いた場合「社会保険料や残業代をどの企業が支払うか」「労働災害の原因はどの企業か」の基準がなく、副業・兼業解禁をためらう企業も多いためだ。
第3段階では人材育成のあり方を改革し、来年まとめる成長戦略に明記する。正社員の実践的な人材育成に特化した大学のコースを新設する。失業率の低下を踏まえ、厚労省の職業訓練も失業対策から実践的な訓練に重点を置く。2030年に約79万人の労働力不足が予想されるIT分野では望ましい技術目標を定めて、訓練水準を高める。
今後、正社員の兼業になお慎重な産業界との調整や、過重労働への歯止め策などが課題となる。
=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===
今朝の日本経済新聞電子版に「正社員の副業後押し」という記事が掲載されておりました。記事からは「働き方改革実現会議」において述べられたことを着実に実行に移そうという動きが読み取れます。これには少々驚いた浅草社労士です。
浅草社労士は、正社員が在籍したまま他社などに雇用される副業・兼業には否定的です。一方、自営など他社に雇用されない副業ならば、本人が進んでやっていることである限り、原則として会社がとやかく言えることではないだろうと考えています。それは、記事にもありますが、以下のような理由からです
(1)週40時間程度働く一般の正社員を想定すると、必然的に働き方の課題9項目の第3項目、「時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正」の達成とは相反することになる可能性が高いと考えるのが自然です。
(2)労働者の保護を重要な目的の一つにしている労働法体系では、労働者の労働時間管理が非常に重要なはずです。ところが、2以上の事業所で勤務することになると、肝心の労働時間管理がおろそかになることが懸念されます。これは、現行の労働法体系の根幹にかかわる深刻な問題を引き起こすことが懸念されます。
(3)従業員の愛社精神や共同体意識といった従来の日本的経営の強みだった要素が根こそぎ奪われ、日本の会社の特長が失われていくことが懸念されます。
(4)とはいえ、デフレ経済がほぼ20年も続いた結果、2以上の複数事業所で働かざるを得ない労働者は現在でも相当数おられると推定され、マクロ経済的には一刻も早いデフレからの脱却と実質賃金の引き上げが課題なのに、むしろ時間当たりの賃金単価を引き下げる方向に作用することが懸念されます。
=== 日本経済新聞電子版 平成28年12月26日 ===
政府は「働き方改革」として正社員の副業や兼業を後押しする。企業が就業規則を定める際に参考にする厚生労働省の「モデル就業規則」から副業・兼業禁止規定を年度内にもなくし「原則禁止」から「原則容認」に転換する。複数の企業に勤める場合の社会保険料や残業代などの指針もつくる。働く人の収入を増やし、新たな技能の習得も促す。
安倍晋三首相は副業や兼業について「普及は極めて重要だ」との認識を示している。少子高齢化による労働力不足を補い、職業能力の向上で成長産業への雇用の流動化も促すためだ。政府の働き方改革実現会議は年度末にまとめる実行計画に普及の方針を盛り込む。中小企業庁の委託調査によると副業の希望者は370万人に達する。IT(情報技術)関連企業では「会社の資産を毀損しない限り報告も不要」(サイボウズ)にし柔軟な働き方を認めている。自家用車で人を運んで対価を得るライドシェアの米ウーバーテクノロジーズや民泊のようなシェア経済も副業が支える。
副業・兼業の拡大は大きく3段階で進める。まず厚労省が「モデル就業規則」を年度内にも改定する。現行規則では、許可なく兼業・副業をした場合は懲戒処分の対象として罰してきた。新たに改定する規則では、原則的に副業や兼業を認める規定を盛り込む。「同業他社に企業秘密が漏洩する恐れがある」「長時間労働につながる」など例外的に副業が認められないケースも併記し、企業や社員が判断しやすいようにする。モデル就業規則は企業への強制力はないが、中小企業ではそのまま転用する例も多いため、波及効果に期待している。
第2段階として、社会保険料負担のあり方などを示した政府指針(ガイドライン)を来年度以降につくる方向だ。現行の労働法制では、複数の企業で働いた場合「社会保険料や残業代をどの企業が支払うか」「労働災害の原因はどの企業か」の基準がなく、副業・兼業解禁をためらう企業も多いためだ。
第3段階では人材育成のあり方を改革し、来年まとめる成長戦略に明記する。正社員の実践的な人材育成に特化した大学のコースを新設する。失業率の低下を踏まえ、厚労省の職業訓練も失業対策から実践的な訓練に重点を置く。2030年に約79万人の労働力不足が予想されるIT分野では望ましい技術目標を定めて、訓練水準を高める。
今後、正社員の兼業になお慎重な産業界との調整や、過重労働への歯止め策などが課題となる。
=== 転載終わり (下線は浅草社労士) ===
2016年12月26日 18:00 | 人事労務