アーティストさんからの手紙㊳ 御宿 至
私が出会ったアーティストたち3
御宿 至(みしく いたる) 彫刻家
静岡県富士宮市生まれ
非常に誠実で丁寧な方。
芸術・美術の世界の方々はどなたもそうでしたが、
特に御宿氏は際立っていました。
取材から10年ほどたってのちも、賀状を欠かさず頂戴して、
世界的に著名な彫刻家さんなのにと、私は恐縮しておりました。
「イタリアに渡って25年(取材した1999年時点で)になります。
4年前、父の看病もあって富士宮市にもアトリエを持ち、
ローマと行ったり来たり…。
少しずつ日本での発表の機会を増やしていって、
将来は日本から海外に発信できたらと思っています」
「中学生のとき、教科書でグレコの作品を見て
彫刻っていいなあって思ったんです。
その後、浪人中、東京・新宿のデパートでグレコの彫刻展を見て、
イタリアへ渡ろう、と」
いただいた賀状から、中央は「Rondo acciaaio inox」2006
AIbornoz Palace HoteI
「当時、ローマの国立美術アカデミーの彫刻科には、グレコ先生を始め
クロチェッティー、マストリィアニ、ファティーニといった世界的な彫刻家が
4人それぞれ教室を持っていて…。
彫刻科に関してはこの学校の黄金時代でしたね」
御宿氏は25歳のとき、同彫刻科の「エミリオ・グレコ」教室に入り、
卒業後はローマにアトリエを構え、創作活動に入った。
「記憶のカタチ(波)」 1994 鉄 400×140×150㎝
同上
「今手掛けているのは、
正方形と管(筒)からの展開による二つのシリーズです。
ぼくはもともと具象だったんですが、具象、半具象から抽象に移るあたりで、
世界的なデザイナーのムナーリが書いた本と出合ったんです。
正方形は世界共通にモノを作るときの基本として、
どのように使われてきたかという正方形について書かれたもので、
それに影響を受けました」
「最近の『記憶の風景-Giro Giro Tondo(か~ごめかごめ)』
という作品、これは20の正方形からできている鉄の作品12個を
直径4mの輪に並べたものですが、これ、形はそれぞれ違うけれど、
表面積はみんな一緒なんですよ。
工業用に生産されている無機質の代表選手みたいな鉄を、
20の正方形に構成して有機的な空間にしたものですが、
それに子どもたちが輪になって遊ぶという世界各国にある遊戯を
重ね合わせました」
「記憶の風景‐Giro Giro Tonde(か~ごめかごめ)」
1990 鉄 各約70×35×25㎝ 直径4m
「御宿至彫刻展」 ㈶川村文化振興財団より
「素材としては鉄が好きなんです。
鉄は錆びて朽ちてゆき、やがて土に戻る。
錆は鉄の呼吸だと思うんです。
鉄には素材の中に埋もれている太古からの記憶がある。
正方形には、例えば子どものころの折り紙の記憶がある。
そういう記憶を重ね合わせてカタチにして空間に置きます。
その空間に関わった人の内面にその人自身の周りにあった当時の風や光、
懐かしい風景や暮らしなどが喚起される。
私の作品がそうした呼び水となればいいなあと思っています」
二コラ・カリーノ、テオドシオ・マンニューニと共にバルザシーニ宮にて。
「秘密の場所」より 上下が御宿氏の作品 ローマ 撮影 Corinto
富士市文化会館による「風の記憶・御宿至彫刻展」より
このことについて、文化人類学者の山口昌男氏は、こう評した。
「御宿さんは鉄を正反対の折り紙のごとき軽やかなものに変えてしまった」
左は「記憶の風景」1995 鉄 90×90×340㎝ アクトシティ浜松
撮影 Yasuo Ogawa
右は「風の扉」1997 196×110×310㎝ サウスポットビル(静岡市)
撮影 Takashi Matsuno
もう一つの「風の扉」は1995年、徳間書店本社(東新橋)に設置されたが、
その後、本社移転で資生堂へ売却されたため、
元の所有者の徳間書店へ問い合わせたところ、
「現在は保有しておらず、所在も不明」と。今も元の場所にあるんだろうか。
「御宿至彫刻展」㈶川村文化振興財団より
「9年前、マリーノ市で市主催の『石彫シンポジウム』があって、
選ばれた六か国の作家、日本からは私一人でしたが、
15日間、広場で公開制作をしたんです。
最終日のパーティーのとき、正面の席に各国からの来賓が座ったのですが、
日本の席には誰もいなくて…」
「対話」1990 ペペリーノ石 高さ250㎝ マリーノ市立公園
同上 撮影 Sinji Sakurai
「文化は二の次という日本の姿を見せられて、
こんなにも美術を取り巻く環境が違うものかと思い知らされました。
日本は先進国の中で文化省・芸術省のない唯一の国なんですね。
心にゆとりの持てる街(社会)づくりの第一歩として、
今、社会の仕組みをもう一度見直す時期ではないでしょうか」
しかし日本の芸術文化の世界は、さらに遠のいたのではないでしょうか。
鉄という硬い素材を使ってスケールの大きな作品を制作されていますが、
不思議と、どの作品にも優しさ、柔らかさ、あたたかさが感じられます。
下記は御宿氏のサイトです。どうぞご覧ください。
「御宿至オフィシャルサイト」
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静岡県富士宮市生まれ
非常に誠実で丁寧な方。
芸術・美術の世界の方々はどなたもそうでしたが、
特に御宿氏は際立っていました。
取材から10年ほどたってのちも、賀状を欠かさず頂戴して、
世界的に著名な彫刻家さんなのにと、私は恐縮しておりました。
「イタリアに渡って25年(取材した1999年時点で)になります。
4年前、父の看病もあって富士宮市にもアトリエを持ち、
ローマと行ったり来たり…。
少しずつ日本での発表の機会を増やしていって、
将来は日本から海外に発信できたらと思っています」
「中学生のとき、教科書でグレコの作品を見て
彫刻っていいなあって思ったんです。
その後、浪人中、東京・新宿のデパートでグレコの彫刻展を見て、
イタリアへ渡ろう、と」
いただいた賀状から、中央は「Rondo acciaaio inox」2006
AIbornoz Palace HoteI
「当時、ローマの国立美術アカデミーの彫刻科には、グレコ先生を始め
クロチェッティー、マストリィアニ、ファティーニといった世界的な彫刻家が
4人それぞれ教室を持っていて…。
彫刻科に関してはこの学校の黄金時代でしたね」
御宿氏は25歳のとき、同彫刻科の「エミリオ・グレコ」教室に入り、
卒業後はローマにアトリエを構え、創作活動に入った。
「記憶のカタチ(波)」 1994 鉄 400×140×150㎝
同上
「今手掛けているのは、
正方形と管(筒)からの展開による二つのシリーズです。
ぼくはもともと具象だったんですが、具象、半具象から抽象に移るあたりで、
世界的なデザイナーのムナーリが書いた本と出合ったんです。
正方形は世界共通にモノを作るときの基本として、
どのように使われてきたかという正方形について書かれたもので、
それに影響を受けました」
「最近の『記憶の風景-Giro Giro Tondo(か~ごめかごめ)』
という作品、これは20の正方形からできている鉄の作品12個を
直径4mの輪に並べたものですが、これ、形はそれぞれ違うけれど、
表面積はみんな一緒なんですよ。
工業用に生産されている無機質の代表選手みたいな鉄を、
20の正方形に構成して有機的な空間にしたものですが、
それに子どもたちが輪になって遊ぶという世界各国にある遊戯を
重ね合わせました」
「記憶の風景‐Giro Giro Tonde(か~ごめかごめ)」
1990 鉄 各約70×35×25㎝ 直径4m
「御宿至彫刻展」 ㈶川村文化振興財団より
「素材としては鉄が好きなんです。
鉄は錆びて朽ちてゆき、やがて土に戻る。
錆は鉄の呼吸だと思うんです。
鉄には素材の中に埋もれている太古からの記憶がある。
正方形には、例えば子どものころの折り紙の記憶がある。
そういう記憶を重ね合わせてカタチにして空間に置きます。
その空間に関わった人の内面にその人自身の周りにあった当時の風や光、
懐かしい風景や暮らしなどが喚起される。
私の作品がそうした呼び水となればいいなあと思っています」
二コラ・カリーノ、テオドシオ・マンニューニと共にバルザシーニ宮にて。
「秘密の場所」より 上下が御宿氏の作品 ローマ 撮影 Corinto
富士市文化会館による「風の記憶・御宿至彫刻展」より
このことについて、文化人類学者の山口昌男氏は、こう評した。
「御宿さんは鉄を正反対の折り紙のごとき軽やかなものに変えてしまった」
左は「記憶の風景」1995 鉄 90×90×340㎝ アクトシティ浜松
撮影 Yasuo Ogawa
右は「風の扉」1997 196×110×310㎝ サウスポットビル(静岡市)
撮影 Takashi Matsuno
もう一つの「風の扉」は1995年、徳間書店本社(東新橋)に設置されたが、
その後、本社移転で資生堂へ売却されたため、
元の所有者の徳間書店へ問い合わせたところ、
「現在は保有しておらず、所在も不明」と。今も元の場所にあるんだろうか。
「御宿至彫刻展」㈶川村文化振興財団より
「9年前、マリーノ市で市主催の『石彫シンポジウム』があって、
選ばれた六か国の作家、日本からは私一人でしたが、
15日間、広場で公開制作をしたんです。
最終日のパーティーのとき、正面の席に各国からの来賓が座ったのですが、
日本の席には誰もいなくて…」
「対話」1990 ペペリーノ石 高さ250㎝ マリーノ市立公園
同上 撮影 Sinji Sakurai
「文化は二の次という日本の姿を見せられて、
こんなにも美術を取り巻く環境が違うものかと思い知らされました。
日本は先進国の中で文化省・芸術省のない唯一の国なんですね。
心にゆとりの持てる街(社会)づくりの第一歩として、
今、社会の仕組みをもう一度見直す時期ではないでしょうか」
しかし日本の芸術文化の世界は、さらに遠のいたのではないでしょうか。
鉄という硬い素材を使ってスケールの大きな作品を制作されていますが、
不思議と、どの作品にも優しさ、柔らかさ、あたたかさが感じられます。
下記は御宿氏のサイトです。どうぞご覧ください。
「御宿至オフィシャルサイト」
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