メルクマール

化物語を見て（読んで）、人々はどういうイメージを持ったでしょうか。　軽妙な会話劇が特徴なので、コメディ作品と受け取られている気がしますが、基調は怪異をテーマにしたホラーであり、しかもかなり不幸な結末の物語です。

阿良々木君はヒロインたちを確かに助けましたが、 実際のところ、怪異に遭う原因となった不幸の根本は解決していません。　ひたぎや翼の壊れた家庭環境はそのままだし、駿河は怪異のせいでバスケを諦めたままだし、真宵は母親に会えなかった幽霊のままだし、 撫子は呪い騒動の温床となった友達関係は変わっていません。　当面の問題に対処しただけで、基本的にはみな不幸なままなのです。

でもヒロインたちは、阿良々木君と話しているときは楽しそうで、それがこの作品の楽しげな雰囲気を作っています。　実際彼女たちは、阿良々木君と話している時は幸せなのでしょう。　阿良々木君に恩義を感じていて、でも不幸なままで、阿良々木君と一緒ならば幸せという、どうしようもない依存状態であり、つまり究極のハーレムがここにあるのです。　この後ろ暗いハーレム設定が、この作品の魅力だと思っています。

そしてこの新シリーズからは、阿良々木の妹、火憐（かれん）と月火（つきひ）が登場します。　この2人、化物語の小説では地の文で言及されるだけなのですが（アニメでは何回か映っていました）、妹のことは興味無いとか鬱陶しいというクールなポーズでした。　実際、僕も妹がいますが、兄妹って小学生くらいまではべったり一緒に遊ぶけれど、高校生くらいになると互いにあまり話さなくなるものです。

でも今回の阿良々木君と月火の会話シーンでは、互いに微妙な距離を置きつつ、でも相手のことを心配しているし、構って欲しいと思っているという、そんな空気感が伝わってきます。　原作でも好きなシーンでしたが、映像が入るとさらにいいですね。　僕は月火とのシーンは全部好きなので、今後も楽しみにしています。　井口裕香さんの声もとても合っていて、月火は何気にキャラの幅が広いのですが、彼女ならば完璧でしょう。

全体に、えらく早口な巻き進行でしたが、どうしても第1話に、阿良々木君と真宵とのしんみりした会話シーンを入れたかったのでしょう。　実際これがあるおかげで、コメディだけではないこの作品の本質が見える、まとまった第1話になりました。

「助けるよ。当たり前だろう。ほかのやつにお前を助ける暇なんて与えない」
という阿良々木君の言葉はかっこいいけれど、真宵がトラブルに陥るとしたら怪異がらみのはずで、それでも絶対助けると請け合うのは、ある種自暴自棄にも見えます。　彼自身も不幸な境遇であって、それも物語の底流にあるのです。　いよいよ始まった新しい物語ですが、コメディだけでなく”不幸”にも着目することで、この物語がより理解できるのではないでしょうか。

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