まさに圧巻。拍手喝采の最終回。刀語 第12話 『炎刀・銃』 の感想です。
三島由紀夫だったと思うのですが、「破滅に向かう姿こそがドラマだ」と書いていました。この物語は、まさに破滅に向かうドラマを描いていて、ほとんどの登場人物が破滅します。それなのに、後味が清々しいのは何故でしょうか。
とがめは、復讐のため生きていました。父親が殺されたところを目の前で見てしまったのだから、無理もありません。復讐の対象は、父親を殺させた尾張幕府と、実際に殺した無刀流の現当主、七花です。
変体刀を集めていたのは、将軍に目通りして、殺害するためでしょう。でもそれはまさに、四季崎記紀の思惑通りでした。とがめの父親は、四季崎記紀によって改変された歴史を戻すために謀反を起こしたのだから、四季崎記紀もまた、とがめの仇のはずです。それなのに、実は彼女も四季崎記紀の手のひらの上で踊っていたという、皮肉な話でした。
心象シーンの蛇が、復讐にとらわれた彼女を表しています。彼女の目が青くなるのは、『復讐モード』を表しているのでしょう。復讐のために冷徹になり、自分の心さえも駒として利用出来るモードです。でも、普段の彼女は普通の女の子で、七花に恋していました。それもまた、嘘では無かったのです。
尾張城で、これまで登場した変体刀が再登場するのは熱いですね。ゲームの終盤近くで、それまでの中ボスが一斉に登場する、いわゆるボスオンパレードを思わせます。そこで七花は、これまで散々苦労してきた変体刀を、苦も無く瞬殺します。
『ロボット三原則』みたいな話でした。七花はとがめから、「刀を守れ。私を守れ。自分を守れ」という3つの命令を受けていて、それが彼の力の足かせになっていた。とがめが死んで、その命令から自由になったことで、初めて彼のフルパワーが発揮されたのです。クライマックスで「真の力が覚醒する」というのはありがちで、ご都合主義だったりしますが、これはなんとも説得力のある、綺麗な展開じゃないですか。
否定姫の目的は、四季崎記紀の悲願を達成することですが、彼女もそれに囚われていたのでしょう。そのために部下を失い、友を失い、地位を失って、破滅したのでした。
四季崎記紀の思惑も外れて、尾張幕府は存続しています。結局、何もうまくいっていません。でもそんなことは、きっとどうでもいいのです。大事なのは結果じゃないから。
人生で、うまくいくことなんて滅多に無いじゃないですか。失敗の連続が人生だと言えます。それに、たとえ上手くやったところで、最後はみんな死ぬのだから、最終結果だけ見れば全員が敗者ではないですか。
この物語では、誰の思惑も成就せず、登場人物たちはほとんどが破滅します。でも、みんな一生懸命生きて、輝いていました。刀集めの過程で、とがめは無邪気に楽しんだし、七花は喜怒哀楽を知ったし、右衛門左衛門は姫のために尽くしました。それが全てであって、結果として目的が遂げられなかったとか、努力が実を結ばなかったとか、そんなことはどうでもいいのです。
四季崎記紀は、予知能力を持っていたので、全てを手のひらの上で動かしているつもりでしたが、やはり、歴史はそんな単純なものではありませんでした。その時その時の人々が、いかに生きたかが歴史なのだから、歴史もまた、結果ではなく過程なのです。
「人生において結果なんて意味はない」。そう考えると、「あのときああしていれば」なんてクヨクヨする必要も無いですね。輝いた一時があれば、それだけでいい。生きるってそういうことだ。そんな前向きなメッセージが込められた、破滅のドラマ。それが刀語でした。
いや、原作既読者から見ても文句のつけようもない素晴らしいアニメでした。
感想お疲れさまでした。
とがめは、表の目的は成就間近でついえたので、やはり無念はあると思いますね。でも一方で、七花を殺さずに済んだのは良かったので、裏の目的は叶ったと言えるかもしれません。それにしても、七花とずっと一緒にいるという約束は果たせませんでしたが。
衛門左衛門は、否定姫を守れずに先に死んだのは、やはり無念だったと思えます。差し違えたなら満足だったでしょうけれど。
いずれにしても、人生の最後がどうだったかは、あまり関係ないといのがメッセージでしょう。
時間ができたら原作を読んでみようと思います。西尾維新はかなり読んでるのですが、たまたまこれは読んでないのですよね。
好いた者を殺そうとした容赦姫と彼女を殺させてしまった否定姫は、似た者同士といえるのでしょう。 四季崎記紀の思惑通りに行動した結果、全てを失った否定姫と七花が行動を共にするのは必然にも思え、姫は疎まれているようですが、ある意味ツンツン男とデレデレ女のツンデレカップルが完成したのではないでしょうか。
否定姫は、とがめという安全装置を失くした鑢七花という刀の鞘になったのだと思えば、この二人はこの後お互いを死なせない為のバランスの取れた連れ合いとして、偶発的に完成された一振りの刀であるようです。
そしてそれは「生き永らえて欲しい」という、とがめと右衛門左衛門の願いに叶うものとして、ささやかながらも報われた思いがするのでしょう。
長文失礼しました。 これからもメルクマールさんの考察記事を楽しみにしています。
全てが終わって、四季崎記紀の呪縛から解かれたおとで、否定姫が憑き物が落ちたようになったのが印象的でした。あの特徴的なしゃべりが普通になりましたし。これまでずっと、自分の運命を否定し続けてきたのでしょうね。
安全装置というのは、面白いですね。たしかに、七花はもう死んでもいいと思っていたのだし。否定姫を守るために、お互いのために生きるという目的は、必要なのでしょう。
1年間お付き合いいただいてありがとうございました。今後もよろしくおねがいします!